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ハハノシキュウのMCバトルコラム Vol.2 バトルMCは曲がダサい

「計算高さじゃ感覚に勝てない」 Sick Team/Street Wars(2011)

ラッパー・ハハノシキュウによるMCバトルコラム連載の第2回である。ルールは先攻後攻2回ずつ。ハハノシキュウ本人とそれを1歩引いて俯瞰している立場の母野宮子という2人が交互にコラムを執筆していく。

先攻1本目 ハハノシキュウ

ある日、この連載の担当編集をしている藤木さんからこんな依頼を受けた。「今回はバトルMCの音源制作について原稿を書いて欲しいんです」

なぜかMCバトルに詳しくない「女子高生」の藤木さんですら「バトルMCは曲がダサい」と言われがちなことは知っていた。バトルMCの僕としては、非常に筆を入れづらい題材である。

※このコラムではヒップホップやラップに詳しくない人のことを「女子高生」と呼んでいます。詳しくは連載を第0回から読んでほしい。
MC松島 - B.M.K.D.(バトルMCは曲がださい)Prod. by Jazadocument
ここ1、2年でMCバトルを認知する人が異常なほどに増加した。主に「高校生RAP選手権」と「フリースタイルダンジョン」の影響だと思う。

一方で、MCバトルで名前が知れ渡ってもCDの売り上げやライブの動員はさっぱりで「その先に繋がったぜ!」っていう実感のあるMCは脱力してしまうくらい少ない。

僕だってそうだ。

人に比べて欲深くない僕ですらも、MCバトルファンのバトル以外への反応の希薄さに寂寥を抱いてしまうのが正直な所だ。

僕なんか今やMCバトル界の大スターであるDOTAMAと一緒にアルバムを出してるんだぞ。それでもこの現状だ。色んな意味で食えない状況だ。
【MV】DOTAMA×ハハノシキュウ 『2012年にクリスマスが終わる』
それでも僕の場合はMCバトルで得たものを利用して、わりと上手くやってる方だとは思う。

ただ、上手くやってると言ってもラッパーとしてではなく、ライターや作詞家としてと言った方がいいような状況だし「自分の作品に打ち込むのが本来の姿勢でしょ」と言われてもおかしくない。

後攻1本目 母野宮子

MCバトルのおかげで知名度だけは一丁前に得たハハノシキュウは、そこで知り合った人たちに促されながら早々に1stアルバムをリリースした。

それが2012年の『リップクリームを絶対になくさない方法』である。
リップクリームを絶対になくさない方法

『リップクリームを絶対になくさない方法』

ハハノシキュウは音楽に対して理解が浅く、いわば水たまりと湖の深さの違いも見分けられないような男だった。

それを自覚した上で「細かいことは一切考えないで衝動だけでやってみよう。宝くじが当たるみたいに偶然それが格好いいって言われるかもしれない。そして人生が変わるかもしれない」と、1stアルバムに対する姿勢を決め込んでいた。

とりあえず歌詞を書いていって、レコーディングの時に楽譜割りをフリースタイル気味にセンスで合わせて録るという方法で挑んだわけだ。本当に初期衝動だけでつくったが、もし当たれば「たまたま天才だったんだな」と喜べる。

期待と不安を孕ませた初めてのアルバムは「人生が大きく変わってしまうかもしれない」という一生物の高揚感とともに世の中に発表された。ハハノシキュウに限らず、誰だって処女作はそういう風に思って発表するはずだ。
【PV】ハハノシキュウ「自殺幇助ソングと自殺撲滅ソングを同時に」
結果から言えば世の中そんなに甘いわけがない

これをきっかけにハハノシキュウは、自分に音楽的な才能がないことと、「たまたま天才じゃなかった」ことを学んだ。だが、同時に「アルバムを出せば人生が変わるかも」という高揚感も失ってしまった。

そこからもコツコツと曲をつくってはいるようだが、ソロでの2ndアルバムの完成には辿り着けていない。

そのくせ、MCバトルに出ればそれなりに注目されて「これで人生が変わるかもしれない」という気持ちになっている。実際には名前が広まっていくだけで、生活になんの変化も与えないのに。

そんな状況下だった2015年。ハハノシキュウは、新曲を1曲だけ発表した。「さっき初めて会った人の結婚式の祝辞」という曲である。

先攻2本目 ハハノシキュウ

「さっき初めて会った人の結婚式の祝辞」をディレクションしてくれたclimenoteはジャズドラマーであり、バンドマンである。

そして、遅ればせながら制作中の僕の2枚目のソロアルバムをプロデュースしてくれているトラックメイカーだ。

トラックに打ち込みやサンプリングを一切使用せず、楽器ごとに生演奏をして素材にしているので、最近のヒップホップのトラックメイカーとは毛色が違う。 「たまたま天才じゃなかった」僕は自分がどういうラッパーで、どうすることが最も「宝クジの当たりやすい方法」なのかよくわからないでいた。

正直、今でもよくわからない。 だから、とりあえず頼まれたことを頼まれたようにやることにしている。

climenoteが僕に求めたのは非常に音楽的なラップだった。

だから「さっき初めて会った人の結婚式の祝辞」は、音楽的な要素に重点を置き、音符の置き場でカッコつける曲になった。音符の置き場はclimenoteと相談して決めたが、主導権は彼に握ってもらった。

いわゆる曲先行でラップの歌詞を書くのは初めてだったため、この作業は難航を極めた。さらにclimenoteの指定する楽譜割りに僕のスキルが追いつかないという事態がその難易度をさらに高めた。

ときおりメトロノームに合わせてポイントを確認しながらフレーズをつくっていく。これが正解なのかもわからない。そんな出口の見えない制作が2年近く続いた。わずか3分の曲にアルバム1枚分くらいの時間を投資したわけだ。

こうして多大な時間を費やして完成し、機会があって「戦極MCBATTLE」のチャンネルから発表された。
ハハノシキュウ/『さっき初めて会った人の結婚式の祝辞』
この時の僕は「この一曲で人生が変わる」なんて全く思えなかった。もちろん、気に入っていたから世の中に出した曲だ。

だけど、この曲は「ヒップホップ」的じゃないし、「ラップミュージック」として捉えるとラップがまだ音楽に辿り着けていないと感じていた。

というか、いまだに自分のラップが音楽に辿り着くのは無理なんじゃないか? とか、逆に音楽を目指す必要があるのか? って自問自答させられる。悔しいけれどリスナーからすれば数ある流れ星の1つとして、表現過多な楽曲の海に消えていくのかもしれない。

「さっき初めて会った人の結婚式の祝辞」にこんな歌詞がある。

たかだか一回聞いたぐらいで意味がわかる結婚式の祝辞をする気なんて僕には最初からないんだよ 「さっき初めて会った人の結婚式の祝辞」より

この曲は、その日初めて会った人とぶっつけ本番でライブをした時の心境や、その日初めて会った人が対戦相手だった時のMCバトルの心境を歌詞にしている。一発勝負なのに一発で理解されたくない、そんな面倒な自尊心が言い訳のように僕を支えているのである。

後攻2本目 母野宮子

ハハノシキュウは「自分の見せ方が上手い」なんてことをよく言われている。だが、ハハノシキュウほど「自分の見せ方が下手」なラッパーはいない。

ヒップホップには、時に「成長しない美学」や「努力しない美学」がある。そんな美学がほかのジャンルにはない格好良さであり、憧れの対象でもあったりする。極論を言えば、ヒップホップのために音楽を学ぶ必要はないし、もっと言えばラップの練習も必要ない。

時にMCバトルやフリースタイルの練習をするなんておかしいだろ? と揶揄されることだってある。

ヒップホップは音楽のジャンルというよりは「ライフスタイル」に近い。だから「ライフスタイル」の練習をするなんておかしいだろ? って話になるわけである。

そういう意味合いで言うと、やはりハハノシキュウは「自分の見せ方が誰よりも下手」なラッパーだという事実に行き着く。

本来ならハハノシキュウは、素直にヒップホップをやるべきなのだ。だが、バトルに出る前から「ヒップホップは好きだけど、自分がヒップホップをやる必要はない」と決め込んでいた。

具体的には「スラングを使わない」「自分の名前をラップしない」「自分を褒めない」「私生活に触れない」「英語を使わない」といった類だ。フリースタイルにおいては時々、口から溢れてしまっているが、音源ではこのルールを決して破らない。

音楽面において「たまたま天才じゃなかった」ハハノシキュウだけれど、それでも感覚を信じたいと足掻き、ヒップホップマナーを守らないように努め続けているのである。

MCバトルに出ていて、フリースタイルやインプロ(即興演奏)が好きなハハノシキュウらしい考えだとは思うが、その即興の壁を越えないとフリースタイルのダンジョンは抜けられない。 S__8937489 バトルに出ずに音源で人気を博しているラッパーは、そのほとんどが「たまたま天才」だ。 バトルで名前を馳せている人も、そのフィールドでの「たまたま天才」だ。

そんな異なった2種類の「たまたま天才」の最大公約数に辿り着くのは本当に至難の技である。

さて、MCバトルには、後攻2本目の最後にいきなり新しい話題を持ち出して勝ち逃げに持っていく戦法がある。それにならって、このバースは違う話で締めたいと思う。

バトルMCの曲が売れない

じつはアイドル業界にも似たような現象がある。CDが売れているアイドルのプロデュースをしている作曲家本人のCDは全く売れないという現象だ。

最近勢いをつけているおやすみホログラムというアイドルのプロデューサーをしているオガワコウイチというバンドマンがいる。この人がアイドルプロデュースを始める前に出したソロアルバムは全然売れなかったそうだ。

「アイドルプロデュースをした作曲家のCDが売れない」「MCバトルで名前が売れたラッパーのCDが売れない」

そんな定説を1枚のアルバムで一度にひっくり返してやると意気込んでいる2人がいる。それがオガワコウイチ×ハハノシキュウだ。
ハハノシキュウ×オガワコウイチ/フリースタイルセッション @韻果MATSURI Vol.10
このかけ算がどんな答えを出すのか次第で、ハハノシキュウのMCバトルに対する虚無感は大きく変わってくるに違いない。

「バトルMCは曲がダサい」なんて言われているが、MCバトルが一般に浸透し、ポップになったこのタイミングで、今一度CDを出してみないことには正直何もわからないのである。

そして、もしもこの試合が延長になったらハハノシキュウはこうやって、揚げ足を取ってくるだろう。

ハハノシキュウのソロの2ndアルバムの話は何処へ行ったんだ?」って。

終了

MCバトル必勝講座『経験として1枚でいいから全国流通でCDをリリースをした方がいい』

ハハノシキュウ // ははのしきゅう

ラッパー

青森県弘前市出身のラッパーであり、作詞家、コラムニストなどの顔も持つ。MCBATTLEにおける性格の悪さには定評があり、優勝経験の少なさの割には高い知名度を誇っている。2015年にはおやすみホログラムとのコラボをはじめ、8mm(八月ちゃんfromおやすみホログラム×MC MIRI fromライムベリー)の作詞を手掛け、アイドル界隈でもその知名度を上げている。また、KAI-YOUにてMCBATTLEを題材にしたコラムの連載を開始、文筆の世界においても実力に伴わない知名度を上げようとしている。現在、処女作『リップクリームを絶対になくさない方法』、DOTAMAとのコラボアルバム『13月』に続き、おやすみホログラムのプロデューサーであるオガワコウイチとのコラボアルバムを製作中。

ハハノシキュウ

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