例えばマイナーなキャラクターや動物、絶対に商品化されないような飛行機や戦車、もしくは1から自分で考えたメカやキャラクター……。千差万別、どのディーラーから何が出てくるかわからない。そのような混沌こそが、ワンフェスの醍醐味である。
日本に「フィギュア」という文化が定着するにつれて、近年のワンフェスは大手メーカーの新製品発表の場としても機能している。しかし、その本質は会場にひしめくアマチュアディーラーの卓の上にある。
そして、その本質を受けついだと言えるイベントが、先日開催された「ワンダーフェスティバル2019上海」(以下ワンフェス上海)である。昨年に続き2回目の開催となった今回、運良くおれも取材に行くことができた。
曰く、中国にはそもそも「素人がつくったフィギュアを持ってきて売る」という場所やイベントがない。なので誰もが手探り状態で参加した結果、日本人からは思いもつかないような展示物がゴロゴロと並ぶ闇鍋状態になったという。それを聞いては見ないわけにはいかないだろう。
執筆・撮影:しげる
デカい、安い! 肌で感じたワンフェス上海
会場である上海新国際博覧センターは、とにかく広大な展示場である。端から端まで視界に全てを収めることができないほどの巨大なホールが延々と続き、資材を乗せたEV車や高所作業車がホールの間を走り回る。会場に詰めかけている来場者の年齢は総じて若い。そして中国人のモデラーに話を聞いたところ、想像以上に様々な地域からお客さんが来ているという。生粋の上海っ子であるそのモデラー氏からすれば、まったく聞いたことがない方言が飛び交っているというのだ。彼曰く、すでにワンフェス上海は全中国的なイベントになっているという。
広い会場を一周して目につくのは、巨大なスタチューを展示しているメーカーである。とにかく販売されているフィギュアひとつひとつが恐ろしく大きい。
チマチマと小さなフィギュアを塗装しても、一個あたりの単価は高が知れている。もちろんフィギュアが大きければ大きいほど原価はかかるだろうが、同じ手間(塗装に使う道具と人件費はフィギュアのサイズの大小とは関係がない)でより付加価値が高く需要もある大型フィギュアに注力するのは、企業としては当然のことだろう。
例外は多々あれど、総体として日本のフィギュアは小さい。固定式の彫像に近いものでもテーブルに乗るサイズだし、figmaのようなアクションフィギュアに至っては1/12程度のスケールだ。それに対して中国産の大型スタチューは1/4や1/6程度の大きさがスタンダードである。
現地のモデラーに聞いたところ、やはり中国でこのような大型のフィギュアを購入するのは富裕層だそうだ。そもそもリソースには限りがある以上、国内の大口の顧客を優先して日本向けの小さいフィギュアをは後回しにするのは当然だと思う。なるほど、そりゃ国内メーカーのフィギュアが高くなるわけだ……と、納得してしまった。
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腕の限りに彫刻を入れまくる! 異様なチキンレース
もう一つ、中国のフィギュアの大きな特徴が細部に施された彫刻の緻密さ、全体の見せ方の演出の部分である。というのも、ワンフェス上海で展示されていたフィギュアの彫刻は日本のフィギュアと比べてグッと細かい。というか、細かさの方向性が日本と違うのだ。しかし、中国のフィギュアの緻密さの方向性はそれとは少し異なるように感じた。そもそも、アマチュアディーラーの卓に展示されているフィギュアは版権の都合上オリジナルの立体物であり、どこかに元ネタがあるというわけではない。なので、フィギュア自体の見た目やどこにどういったディテールを入れるかという差し引きこそは、原型師の真価が問われる部分である。
さしずめ料理人同士が野菜の飾り切りの腕を競い合うようにフィギュア自体の彫刻は細密になり、前述の状況と組み合わさって「巨大なのにどこまでいっても彫刻が入っている」という異常な展示物がゴロゴロと転がっている事態になっているのだ。
この、緻密であることそのものを競い合うという状況は、単なるフィギュアというよりも、もう少し工芸品的な方向を志向しているように見える。つまりモチーフではなく技芸を追求する行為であり、職人芸的な腕自慢の世界だ。
予想がつかない中国の煮えたぎるエネルギー
会場を回って強く感じたのが、中国のディーラー・メーカーにとって最大のネックとなるのは造形のモチーフとなるIPの部分だろうという点だ。つまり、既存のキャラクターを使った商品としては、どうしても国外のコンテンツに頼らざるを得ないのである。例えば、『トランスフォーマー』シリーズ、特にオプティマス・プライムはどこに行っても見かける。ロボットといえばオプティマス、それもコンボイ司令官ではなく実写版のオプティマス・プライムという空気が濃い。
大型スタチューを販売するメーカーは漏れなくマーベル・シネマティック・ユニバースのキャラクターをモチーフとした巨大な彫像をいくつも並べ、『エイリアン』や『プレデター』といった生物的なディテールのあるキャラクターや、『ドラえもん』など日本のコンテンツも人気だ。
劇中に登場する大型トレーラーは、企業ブースかアマチュアディーラーかを問わず、本当にどこにいっても展示されていた。世界に販路を持つ中国メーカー・MENGモデルはデフォルメしたフィギュアのキットを展示していたし、上海市内の玩具店でも『流浪地球』を題材としたブロックトイを見つけることができた。
すでに極めてハイレベルな原型師がアマチュアレベルでゴロゴロしており、アイデア一発を買い取って投資して海のものとも山のものともわからない商品をいきなり発表する資金力もある。そもそも各国の玩具・フィギュアメーカーの下請けを延々とやってきた国だから、技術的な問題点のクリアも早いだろう。現状中国に足りないのは国産のIPだけなのだ。
だからこそ、今年のワンフェス上海では『流浪地球』の商品をあれだけ大量に見かけたのだと思う。会場に展示されていた作品のモチーフは現状まだ未整理のごった煮状態感が強かったが、この先いつまでそれが続くかはわからない。
ひょっとしたらとても早い段階で、数本の特定の題材に全てのディーラーと展示物が集中する状況が生まれる可能性もある。正直なところ、どんな方向にどんな速度で変化していくのか全く想像がつかない。しかし、いざ弾みがついたら一瞬で変わってしまうのだろう……というエネルギーだけはひときわ強く感じたのだった。
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しげる // shigeru
Writer
1987年岐阜県生まれ。プラモデル、アメリカや日本のオモチャ、制作費がたくさんかかっている映画、忍者や殺し屋や元軍人やスパイが出てくる小説、鉄砲を撃つテレビゲームなどを愛好。好きな女優はメアリー・エリザベス・ウィンステッドとエミリー・ヴァンキャンプです。
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