「シンギュラリティ」は来る?
──科学の世界では、コンピューターが人間の英知を超える瞬間を“シンギュラリティ(技術的特異点)”と呼びますが、近い将来、その瞬間は訪れてようとしているという議論があります。お二人が、そのような未来をどう捉えていますか?kz 僕、子どもの頃に観た『ドラえもん のび太とブリキの迷宮』をすっごい覚えてて。科学の発展の結果、人間が楽をしすぎてダメになった星の話が刷り込まれているんですよ。
『BEATLESS』では、インターフェイスが接客まで担っていますが、僕はそこまでは賛成できないなと思ったんです。例えば医療とかで、人間の手ではどうにもできない精密な動作が必要とされるような分野では機械に任せるというのはいい発想だと思いますけど、ただでさえみんな仕事がないのに、人間でやれることまで任せてしまって雇用を減らす必要があるのか、と。
red でも、働かなくてもいいってことですよね(笑)。その時、人間の出来ることがどれだけ残されるか、です。どんどん機械化していって人間のすることがなくなるかと言えば、なくならないと思います。結局人間って働く生き物なので、働くということはなくならない、逆に言えば、なくなったら人としての文明は終わりです。
──作中には、「そのうち異性とじゃれあうくらいしかやることがなくなる」というようなセリフもあります。
kz もしもそんな未来が実現されたらゾッとするなーと思っちゃうんですよね。その状態って、ほとんどコンピューターに管理されているのと同じじゃないですか。
──ただ『BEATLESS』では、人型ロボットのhIEも、自律する人工知能ではなくて、外部のクラウドネットワークに接続されたインターフェイスでしかない。あくまで人間の意志や欲望を“自動化”する役割を果たす存在として描かれていて、外的要因ではないと定義されています。
kz でも、意識もしない自分の意志を勝手に自動化されてしまっていて、結局は管理されているようにしか見えないというのはシニカルでもあると思っています。
red 『BEATLESS』は、人とモノとの関係を描いていますが、解答までは出していないんですよね。この先も延々といろんな人が議論しながら、その時が来るまで答えは出ない気がします。
ただ、SF作家の藤井太洋さんが言っていたのが、Google Chromeのソースコードは、「最適化遺伝的アルゴリズム」というものを採用していて、もう人が解読できないらしいんです。それは、無数のシミュレートをして、その中から良い結果を出したものを取捨択一するということを繰り返して自動的に進化させる、というものです。実際、もうシンギュラリティがプログラミングの世界では訪れているんじゃないかというお話が印象に残っています。
想像力が先か、技術が先か
──クリエイターとしてのお二人は、大ざっぱな“科学技術”よりも、ツールの進化などにより直接的な恩恵を受けるものだと思います。イラスト・デザインではAdobeのIllustratorやPhotoshop、SAI、音楽ではAbleton Liveなど、様々なソフトの登場・進化が、制作の工程を変化させる、例えばどこかの作業を自動化してくれるということはあるものなのでしょうか?kz 音楽の場合は、単純にスペックの問題で今まで実現できていなかったところをようやく補塡してくれている、という感覚に近いんですよね。
red それは僕もすごい思う。ソフトに使用されているのは最先端の技術ですが、それでも感性に対してツールが追い付いてきていないですよね。
kz ツールの進化によって何かが簡略化されるというよりも、想像力に機能が追いついてきている状態なんです。
red 工数、自分が手を動かしている時間は変わらないですからね。そこをソフトには担ってもらえない。
kz 僕らがやっていることって意外とシンプルで、しる(redjuiceのこと)さんだったら手を動かしてペンタブで線を描くということがすべてだろうし、僕だったらマウスをクリックして音符を打って譜面を書くことがすべてですよね。だから、そこで簡略化できる作業って実はほとんどない。
red 例えば3DCGや映像制作の場合、いつまで経っても長いレンダリングの時間はなくならないですからね。 kz 3DCGの人は気の毒ですよね……だから、多分ソフトとかツールのスペックっていつまで経っても追い付かない。追い付いた頃には、その人たちの想像力はもっと先をいっているはずで、永遠のいたちごっこをしているようなものだと思うんです。
僕らがやっていることは、どんなにツールが進化しても、自動化できない部分なんです。全く同じものをつくるならそれこそ機械で自動化すればいいけど、僕らはいつも、これまでよりも良いものをつくらないといけないから。
red 本当に、心が壊れかけになるまで追い詰められるわけですからね。機械だったら心の心配はいらないかもしれないですね(笑)。
kz ハートだけ機械にしたいですよね(笑)。折れない心、鋼鉄のハートが欲しいですね。
クリエイターも格差社会に突入?
red イラストやデザインのソフトも、5年ぐらい前にはもう形が出来ていて、機能的な進化はあっても、あまり先進的な機能は使っていない。ずーっと枯れた技術を使い続けている。それまでいろんなツールで培われたものが、地道にフィードバックされていっている感じ。ユーザーの意見を聞いて更新し続けるのは結局のところ人の手によるので、そこにSFはないんですよね。kz ただ、イラストとの比較で言えば、どちらかと言うと音楽は技術が追い付いてきている方で、やれることがほとんど完結してきちゃっていますね。もっと突き詰めて、例えばAとBのイコライザーがあった時、たしかにそれぞれ違うものはできるんですけど、ただ、その違いを何人がわかるのか。これ以上はもう自己満足でしかない、というところまではきていると思います。
ツール自体はすごく進化してるんですけど、それを感じられる人たちがそんなにいなかったら、それはひょっとしたら進化とかではなくて、単純に更新し続けなきゃいけないものであるという義務感になってしまう。それは意味がないと思うんです。
red 僕が思うのは、細かいフィーリングの部分でなかなか技術者・開発者と共有できないところがあって。クリエイターの考えていることと技術者の考えていることって違うから、そこのズレは生まれてしまいますよね。
kz 進化よりも、同調や同期させるチューニングの方が重要かもしれないですね。クリエイターが今何を欲しているのか、何をストレスとして感じているのかをリアルタイムにフィードバックして更新し続けるソフトウェアになっていったら、それはもう完璧でしょうね。
でも、Wiiやキネクトが登場した時に、クリエイターがみんなハックして自分の創作に活かそうとするように、技術者との認識のズレが面白いことを生む場合ももちろんあります。
red 最近だと、3DCG自体は昔からあった技術ですが、立体プリンターで出力する技術が確立されたことで、フィギュア業界にとってはパラダイムシフトが起こってるかもしれないですね。最近は「ワンフェス」(ワンダーフェスティバル)に出ている個人でも、立体出力を使っている人が増えています。 kz 3Dプリンターって完全におとぎ話上のアイテムみたいなものだから、後はそれをどう利用するか、ですね。新しい技術が生まれた時に、持て余すか持て余さないか。その人の想像力が追い付いているかどうか、個人個人の問題ですよね。
red 3DCGが普及して、今イラストやデザインの学校でも授業に取り入れるようになっていて、どんどんアカデミックの領域になっている気はするんですよね。そこで学んだ人は技術的なベースが上がっていくだろうけど、環境を利用できる技術や知識を持っているかどうかという点で、ますますクリエイター間の格差は広がっていきそうな気がしています。
kz 僕も所属していたのでわかるんですが、最近、音楽でも、大学でポップミュージック科やロック科みたいなものが沢山できていますが、そこでのお勉強で満足してしまう人と、こんなんじゃあ全然ダメだと思える人との差ってものすごく広くなってきている。何もなかった時はそれぞれ努力していたけれど、レールが用意された途端に、これに乗っていればいいんだと思って止まってしまう人が出てくる。
だから、しるさんの言ったように、格差は広がっていくだろうけど、それが健全なんだと思います。各分野にレジェンドはいっぱいいますが、ぶっ倒すまでいかなくても、やっぱり爪痕を残したいじゃないですか。「俺はあいつより下だから見返してやろう」というハングリーな意識から生まれるクリエイティブってあると思うんですよ。
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イラストレーター
イラストレーター。2009年には、livetune『Re:MIKUS』のジャケットイラストを手がけている。2011 年、TVアニメ「ギルティクラウン」のキャラクター原案を担当し注目を集めた。TVアニメやケーム関連のキャラクターテサイン、イラストレーションて活躍する。また、クリエイター集団・supercellのメンバーとしても活動している。『BEATLESS』ではイラストを担当。
http://redjuicegraphics.com/
kz(livetune)
トラックメイカー/DJ
トラックメイカー/DJ。2008年 「Re:package」でデビュー。TVアニメの主題歌からクラブミュージ ック、有名アイドルのツアーのライブ用BGM など、様々なジャンルのアーティストの楽曲の作詞、作曲、Remixなどの楽曲をてがける人気 クリエイターとして活動する。特に近年では、ZEDDやPharrell Williamsら、海外アーティストとのコラボも多く、世界をまたにかけて活躍する。
http://livetune.jp/
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