プラットフォームの進化がジャンルの裾野を広げる
──もう一つ、ツールの進化や普及は、裾野を広げる、つまりクリエイターの数を増やす要因になっているということが挙げられると思います。kz それまでのエンドユーザーがクリエイターになっている状況はあると思います。今の時代、何の専門知識がなくても、それっぽい曲はすぐにつくれてしまいます。音もすごいよくなっている。いい意味で捉えることもできるんですけど、音楽がわからない人にとっては、プロの音楽と素人の音楽の違いに気付けなくて、「だったら素人の音楽でもいいじゃん」と満足してしまうのが、すごくもったいないと思う時があります。
元々音楽の良し悪しに基準なんてないけど、最低限の技術的な評価さえなくなって、音楽自体の裾野が広がってことで、基準が全くわからなくなってしまったという側面はあります。
red イラストはどうなんだろう…結局は紙に描けるかどうか、手先のスキルが問われるものなので、ソフトウェアが進化したところでそこまで変化はないような気がします。
kz 実は僕も、絵を描いてみようかと思ったことがあるんですよ。
red えっ、そうなんですか!?
kz ペンタブって速度センサーとかも付いているので、ペンタブをエフェクターにできないかと思って購入してみたことがあって。せっかくなら絵を描いてみようかと思ったんですけど、やっぱりどんなにソフトとツールが揃っていても、デッサンもできない人間が絵を描くのは無理だと気付いたんです。音楽の場合、マウスで地道にポチポチ、理屈通りに音を置いていけば、本当に誰にでも同じものがつくれるんです。
red ピアノを弾けなくてもつくれるものなんですか?
kz 最低限、ドレミをわかっていれば、一応音楽っぽいものがつくれる。だから、ひょっとしたらイラストより間口は広いでしょうね。そう考えると、聴く側が判断基準を持っているかを逆に問われるようになっていくのかもしれません。
red でも、イラストレーター人口自体は増えたと思いますよ。SAIが登場して、とにかく安くて使いやすかったので、爆発的に増加した。あとは、やっぱりpixivの存在が大きいですね。ソーシャルネットワークの発達がイラストレーターの増加を支えています。
kz たしかに、今、これだけ音楽やイラスト人口が増えたのも、pixivやニコニコ動画、Twitter、SoundCloudといったSNSがとにかく増えたからですよね。見てくれる人がいて、良いでも悪いでも何かしら意見を言ってくれないと、創作ってつまらないですからね。それと関係して、2007年頃から、みんな“クリエイター”という言葉を使い始めた。ツールよりも環境の進化の方が大きいのかもしれませんね。
2人の故郷に錦を飾る
──では最後に、今回5年ぶりにコラボされたわけですが、当時を振り返って、お互いの変化などを感じられることはありましたか?red kzさんが投稿した「Packaged」を聴いてからずっとヤバい人だと思っていましたが、「Tell Your World」でGoogle Chromeのテーマ曲をやったり、ファレル(ウィリアムス)とコラボしたり、世界にもどんどん飛び出していますよね。kzさんのヤバさがますます増しているというのは思いますね。僕、一番聞いてるアーティストってlivetuneなんですよね。
kz 昔からずっと言ってくれますよね(笑)。
red これ、今日言おうかどうか迷ったんですけど、対談にあたって、livetuneを今までどれくらい聴いているかなと思ってiTunesの再生回数を調べてみたら、3万回でした(笑)。
kz まじで!? それはちょっと聴きすぎですね、大変嬉しいですけど(笑)。
red 作業中ずーっと音楽をかけているんですよ。僕が聴き始めたのはそれこそkzさんがニコニコ動画に投稿を始めて同人CDを出した2007年からだったので、7年間365日で割ると、だいたい1日1時間くらい聞いている計算になる(笑)。中毒性があるんですよ、livetuneの曲って。
kz その情熱は、コミケで初めて同人CDとして『Re:Package』を出した時に、僕の「ストロボナイツ」という曲にイラストを描き下ろしてブースに届けてくれた時から変わっていませんよね。ちょうど僕が席を外していて、戻ってきたらとんでもないイラストが置かれていて、すごいビックリした。
red 家のプリンターでプリントアウトして持っていったんですよね。 kz それでHPを見て、これはすごい人だと思って。それからずっと、事あるごとにlivetuneが好きだと言ってくれる。あの時の嬉しさは、よく覚えています。しるさんとはこれからも、ちょくちょく何かやりたいと思っています。
red ようやく5年越しの再コラボですもんね。
kz しるさんの作品は、アニメの『ギルティクラウン』だったり、見る機会がめちゃくちゃ増えた。僕の中では、しるさんのテイストは、ストロボのもうちょっと後ぐらいのところで完成されているイメージなんです。もちろん、音楽で言うところのミックスみたいな、細かいブラッシュアップはすごく感じるんですが、大枠はゆるがない気がする。だから逆に5年越しにやっても何の違和感もないと言うか、ぴったりはまっている感じがしています。
──同人的な出会いを果たされたお二人が、今回、あらゆるメディアを巻き込んだ大きなプロジェクトでご一緒されていることが、それぞれの立場の変化も象徴されていますね。
kz そうですね。歳も違いますしキャリアも全然違いますけど、僕にとってしるさんはコミケのブースにイラストを届けてくれた人で、僕も単にネットで遊んでた音楽屋です。その僕が、今ではこんな最高な面子を集めて、しるさんとまたコラボしているという状況が、故郷に錦を飾るじゃないですけど(笑)、すげぇヤツら連れてきたんで見てくださいよっていうのが正直な気持ちですね。
red 『Re:MIKUS』の頃と比べると、それぞれ色んなプロジェクトに関わる中で、お互いに知名度は上がっていると思います。それに対する反響も、あの頃よりもすごい多くもらえるようになっているのは、成長したと考えていいのかなと思っています。
kz 5年も経って、もしかしたら僕らが一緒にやっていたっていうことを知らない人が増えているかもしれない。だから改めて知ってほしいですし、僕らを知っている人には、久しぶりだなって思ってもらえたらすごく嬉しいですね。
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redjuice
イラストレーター
イラストレーター。2009年には、livetune『Re:MIKUS』のジャケットイラストを手がけている。2011 年、TVアニメ「ギルティクラウン」のキャラクター原案を担当し注目を集めた。TVアニメやケーム関連のキャラクターテサイン、イラストレーションて活躍する。また、クリエイター集団・supercellのメンバーとしても活動している。『BEATLESS』ではイラストを担当。
http://redjuicegraphics.com/
kz(livetune)
トラックメイカー/DJ
トラックメイカー/DJ。2008年 「Re:package」でデビュー。TVアニメの主題歌からクラブミュージ ック、有名アイドルのツアーのライブ用BGM など、様々なジャンルのアーティストの楽曲の作詞、作曲、Remixなどの楽曲をてがける人気 クリエイターとして活動する。特に近年では、ZEDDやPharrell Williamsら、海外アーティストとのコラボも多く、世界をまたにかけて活躍する。
http://livetune.jp/
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