2016年12月、突如YouTubeでチャンネルデビューを果たし、今に至るバーチャルYouTuber(VTuber)ムーブメントを巻き起こした「キズナアイ」。キズナアイ9連続楽曲リリースを記念して、参加プロデューサー総勢8名の徹底解説を、ライターでありトラックメイカー「Miii」としても活動する和田瑞生氏に依頼。各プロデューサーのコメント及び、キズナアイ本人の独占インタビューも掲載。
あの手この手でバーチャル世界と現実の垣根を飛び越え、挑戦を続ける彼女が、9週連続の楽曲リリース企画を実施する。
今回の企画で彼女と手を組むのは、m-floの☆Taku Takahashi、DE DE MOUSEといった超有名なプロデューサーから、Yunomi、Pa's Lam Systemら若手実力派プロデューサーまで集めた、クオリティお墨付きの全8組。
発表時には大きな話題となったほどで、参加陣の名前くらいは知っているという人も多いだろう。
この記事では、彼らが一体どんなアーティストなのか? その魅力はどこにあるのか? 改めて、一組ずつ紐解いていきたい。
解説執筆:和田瑞生(Miii) 編集:新見直
目次
Avec Avec - 無国籍で曖昧で濃密DE DE MOUSE - 変幻自在、打ち込み王子
MATZ - 鋭利な刃は脆くてキレがいい
Nor - EDMとポップスが生んだ鬼子
Pa's Lam System - 超攻撃的覆面ユニット
☆Taku Takahashi - 重鎮にして中心
TeddyLoid - 飽くなき求道者
Yunomi - コミカルとシリアスのあわいを泳ぐ
キズナアイさん独占インタビュー「気合入ってます。」
キズナアイ楽曲を手がけるプロデューサー8人を全力解説!
Avec Avec - 無国籍で曖昧で濃密
無国籍で粘っこいビートと複雑な構造の中にもキラリと光るポップセンスを持つAvec Avec。2012年にネットレーベル〈Maltine Records〉からリリースされたポストR&Bとも言える「おしえて」のリリースが話題となり、fhánaや中江友梨(東京女子流)といった数々のアーティストの作品に編曲やリミックスで参加。 最近では“ラップ×声優”として注目を浴びているドラマCD作品『ヒプノシスマイク』に楽曲「Shibuya Marble Texture -PCCS-」を提供するなど、国内を代表するサウンドメイカーとしての地位を徐々に築き上げている。
他方では、大阪が生んだサウンドプロデューサー・Seihoとのミュージックユニット「Sugar's Campaign」としての活動といったポップな側面が注目されがちなAvec Avecだが、彼の真髄はグルーヴの中にこそ潜んでいる。
2010年頃にブートレグ(海賊版)としてニコニコ動画とSoundCloudで公開された、ゲーム「クロノトリガー」の名曲をリミックスした「Wind Scene(Takuma Remix)」がある。当時登場したスカンジナビア発祥の音楽ジャンル「Skweee」をフィーチャーした、曖昧で濃密なビートが特徴的な楽曲だ。
『おしえて』にも収録された「Love Amania」はジャズ的なズレを徹底的に追求した楽曲であり、ビート・ミュージックとしての強度も非常に高い。
今回のキズナアイとのフィーチャリング楽曲も、一筋縄ではいかないポップ・サウンドが期待できそうだ。
Avec Avecコメント:
以前からVRに関してとても興味を持っていましたしVTuberさんが大好きでしたので、今回楽曲制作のお話をいただけて光栄な気持ちでいっぱいです。
もちろんキズナアイさんの動画もずっと視聴していまして、僕は特にA.I.Gamesの方も好きでDoki Doki Literature Club!は更新がいつも楽しみで待ち遠しかった覚えがあります。
堂々とみんなを引っ張っていく存在、時々抜けていてポンコツなところ、なにより元気で明るく可愛い笑顔、そんな色んな側面を持っているキズナアイさんのことを思いながら曲をつくらせてもらいました。
音楽のそもそも持っているVirtualな部分をより多層的に捉えることができるVTuberという文化はすごく面白いと思いますし、試行錯誤のなか、新しいテクノロジーで新しい表現が生まれるのはいつも本当にワクワクすることなので、色々な垣根を越えて広がっていけばなといち作り手としてもいちファンとしても思います。
DE DE MOUSE - 変幻自在、打ち込み王子
遠藤大介氏によるプロジェクトであるDE DE MOUSEは、現在の国内エレクトロニックシーンで活躍する全てのアーティストの原風景であり、目標であると思う。2007年に弩級の名作『tide of stars』でデビューを果たすと、翌年にはavexよりリリースが決定。現在では、レーベル〈not records〉をDE DE MOUSE自身が主宰し、一切ペースを落とすことなく精力的に活動を続けている。
DE DE MOUSEの特徴は、もはやお家芸とも言えるメロディアスなボイスカットアップ…でもあるが、雑食で多様な音楽スタイルこそが魅力であると思う。ポップからブレイクコアまでを自在に行き来する彼のスタイルは、楽曲のみならず、印象的なライブアクトからもうかがえる。 YouTubeが世に広がりつつある頃、無垢な学生であった僕は家庭のノートパソコンから、インターネットに転がっていたDE DE MOUSEのライブ動画を初めて見た。そこで目の当たりにした、フリーキーで攻撃的なライブスタイルは、その代表曲「Tide of stars」のような綺麗で欠けのない世界観とはかけ離れているように見えて、とても衝撃だった。
そこから月日が流れ、僕は初めてageHaのメインステージで彼のライブアクトを生で目撃することになる。「あの頃」のような衝撃は果たしてあるのだろうか……と思いながら眺めていたが、ライブが終盤になると、鳴っていた音楽のBPMが急激に引き上げられ、そこに手数の多いアシッドベースと、高速のドラムビートが重ねられた。そして、おもむろに壇上に足を掛け、そこに登り、88鍵の大きなキーボードを掻き鳴らすDE DE MOUSE。それはかつて見たライブ映像よりも遥かに衝撃的だった。エモーショナルでパンクでカラフルな氏の音楽に一人でも多くの人間が触れることを願う。
DE DE MOUSEコメント:
ぼく自身がテンション上がるエモさ大爆発ダンストラックを、キズナアイさんが歌って、みんながそれを聴くなんて、本当に最高です!!
MATZ - 鋭利な刃は脆くてキレがいい
現在21歳の若手トラックメイカーであるMATZ。彼のプロデュースするトラックは、世界水準の強度を持つエレクトロミュージックでありながら、とても繊細な側面も兼ね備えている。活動初期はSoundCloudを中心に攻撃的なダンス・ミュージックを公開していた彼だが、2017年にデビューEP『Composite』をリリース。激しいだけではない、繊細で多面的な彼の性質がこの楽曲集には詰まっている。 EPに収録されている楽曲「I See You(feat. Ruby Prophet)」は、EDM以降の正統派バラードミュージックであり、続いて収録されている「Eclipse」はテック・ハウスの要素を取り入れながら、反復する静謐なメロディが特徴的なダンスチューン。
また、DJ moeとの共作である「Unstable」は、様々な仕掛けと展開の組み込まれたダークなトラップ・サウンドが特徴的である。
MATZは2017年と2018年にはお台場で開催された「ULTRA JAPAN」に2年連続出場。最近ではデジタルプラットフォームを中心に多彩な活動を続けるけみおの配信シングル「どこまでいっても渋谷は日本の東京」のプロデュースを手がけた。
日本のエレクトロシーンにおける新たな顔として、彼の活動は今後も更に多くの層に広まっていくことだろう。
MATZコメント:
今回、Kizuna AIさんの楽曲をつくらせてもらえて本当に光栄です。次元を超え僕たちの生きる世界の人々に影響を与えられるような楽曲、というものを意識して制作に取り組みました。
以前から自分もKizuna AIさんのファンでよく制作の間に動画を見て元気をもらっています! 僕は特に"スナック愛"が大好きです。
バーチャルYoutuberという素晴らしい現代のテクノロジーが集約された日本発のカルチャーを代表して広めていってほしいと思っています! これからも次元を超えたご活躍を楽しみにしています!
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和田瑞生
トラックメイカー/編集/執筆
1992年、東京生まれ。学生時代にMiiiとして音楽のキャリアをスタート、日本のネットレーベル文化の中で活動を続ける。2013年から、音楽メディア「UNCANNY」を中心に音楽批評文を執筆開始。2015年には〈Maltine Records〉の10周年を記念して作られた書籍『Maltinebook』に共同編集者/インタビュワーとして参加している。
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