海外でも“鍵っ子“が誕生する理由
──今回の『クドわふたー』を含め、ビジュアルアーツがアニメに力を入れている理由がわかった気がします。それこそ、現在“鍵っ子”が、国内外に広がっているのにはアニメの力もかなりあったのでは?馬場 確かに、海外にもアニメが取っ掛かりになって、ビジュアルノベルをやってみたという“鍵っ子”は多いです。
ビジュアルノベルには、神視点で見ているアニメにはない、自分が作品の世界に入って本当に女の子と出会っているような感覚、そして、そこからやってくる深い感動があります。それこそがビジュアルノベルの一番のウリなんです。 馬場 特にKey作品では、女の子の切ない感情などがプレイヤーに流れこんできて、それを理解した時の感動がものすごく大きい。それこそがKey作品の本質であり、その感動を味わった人こそが“鍵っ子”になれます。
今や世界中に“鍵っ子”がいて、僕が海外に行くとみんな「あの作品やりました!」って目をキラキラさせて近づいてくるんです。“鍵っ子”の匂いって、世界共通なんですよね。だから、僕は世界中どこに行ってもホームなんです(笑)。
──先ほど、「ブランディングというのは突き詰めていけば、やっぱりモノづくり」とおっしゃっていましたが、Keyというブランドが海外でも浸透しているのはすごいことですよね。
馬場 基本的に、Keyに求められているものは“感動”であり“泣き”であって、「過酷な運命を負った少女と一緒に、主人公が努力して運命を克服し、その少女との恋愛を成就させる」という普遍的なテーマがあります。だから、もしKeyで勇者が活躍するファンタジーRPGをつくったとしても、そこには必ず“感動”と“泣き”があるでしょう。
このコアとなるコンセプトがブレるのなら、Key作品ではない。そういったコンセプトをしっかりと守ってきたことも、“鍵っ子”を生み出せた理由だと思います。
どうなる?アニメ版『クドわふたー』
──ここからはアニメ版『クドわふた―』の具体的な内容について、おうかがいしていければと思います。地上波でのアニメ化はもともと考えていなかったとのことですが、それこそちょっとエッチな展開も期待できるのですか?馬場 全年齢向けの一般作品ですが、クドと主人公の理樹との恋愛や情愛はしっかりと描くつもりでいますので、ちょっぴりは期待していただければと思います。
原作からファンだという大人の方だけでなく、みずみずしい少女への憧れや恋愛に対する夢を持っている若い人たちを満足させる話を描くつもりです。また、今回はまだ原作をプレイしていない新しいお客さんもかなり意識しています。
──今回のアニメ化にあたって、「ゲーム版のテーマをベースにしつつも、アニメならではのオリジナル要素」もあるとのことですが、具体的にはどういったものになるのでしょうか?
馬場 それが悪いわけではないのですが、ゲーム『クドわふたー』は少し独特の暗さがある話になってしまっているので、今回は別の側面にスポットを当てた話にしたいと思っています。『リトルバスターズ!』の明るい世界観でのクドの話にしたいので、必然的に話の流れもかなり変わってきます。 馬場 そもそもゲーム『クドわふたー』では差別化の意図もあって、『リトルバスターズ!』のキャラはあまり出てこないんです。でも、お客さんとしては『リトルバスターズ!』の世界観の一部であるキャラクターたちは見たい。アニメではユーザーさんのその気持ちにきちんと応えつつ、明るい世界観の中で理樹とクドの恋愛をしっかりと描いて、最後には感動させたいと思っています。
私としては「ストーリーを全面書き直してほしい」と言っていますが、そのあたりはクリエイターとせめぎ合っているところです(笑)。
──ちなみに、『クドわふたー』に出てくる新キャラクターの有月椎菜や氷室憂希は出てきますか?
馬場 それは出てきますよ。
──お話も新しくなるということだったので「もしかして…」と思ったのですが、良かったです(笑)。
馬場 それと『クドわふたー』自体が10年近く前のお話なので、その間にアニメ自体も表現力が進化しています。だから、現代のアニメの進歩に沿って、原作のゲームよりももうちょっとアクティブなものになるかもしれません。今のアニメらしいものがつくりたいな、と。
だって、ゲームとして知ってるストーリーをもう1回アニメでトレースしてもまったく面白くないでしょう? 「動いているキャラを見たい」というのは、アニメ版『リトルバスターズ!』で済んでいるので、新しいものをつくらなければ作品としての価値がないと思っています。
馬場 出資者の都合や思惑に忖度せず、メーカーがやりたいことをやれるっていうのはありがたい話です。ご支援いただいているユーザーさんには、本当に頭が下がります。
ただ、やりたいことをやれすぎてしまうっていうのも問題なんです(笑)。実は作品づくりって、いろいろな縛りを与えてもらったほうが楽。「なんでもやれる」となると、「なんで尺が40分じゃないといけないんだ?」とか言い出して収拾がつかなくなってしまう。
我々のように、中小企業のメーカーで上層部の人間も作品愛を持っていると、なおさら……。経営者としては非常に危険なんですよね(笑)。 ──それこそKey作品に欠かせないクリエイターとして、『リトルバスターズ!』では企画・脚本・音楽を担当された麻枝准さんの名前が挙がると思います。大病を患われながら、近年少しずつ活動されているようですが、アニメ『クドわふたー』に麻枝さんが関わる可能性などはあったりするのでしょうか?
馬場 それは本人次第ですね。ただ、当然作品についてはいろんな段階で本人と議論していますよ。Keyブランドの仕事で彼が一切関わってないっていうことは、ほぼありません。
本人が見て「これは任せて大丈夫だな」となったら放っておくでしょうし、「面白そうだから、もっとやらせろ」と言うのだったら関わってくるでしょうね。
──なるほど。本日、お話を聞いて、アニメの技術習得にも積極的に取り組んでいるビジュアルアーツがつくる『クドわふたー』がより楽しみになりました。最後に、先ほど「今はアニメから、いくらでも続いていくコンテンツがあり得る」とおっしゃっていましたが、『クドわふたー』も劇場アニメになった後も、何かしら続いていく可能性は……?
馬場 もちろん、あります。何があるかわからないですからね。ユーザーさんの評価次第で、すごく人気が出れば地上波でのアニメになっちゃうかもしれないですし。
我々としては、現在制作中の『Summer Pockets』をはじめ、新しい作品をつくるのも大事ですし、今回の『クドわふたー』のように、ヒットした過去の作品を長く広めていくことも大事だと考えています。そうやって、縦の地平と横の地平を広げていくような、垂直と水平、両方の展開をやっていきたいと思っています。
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馬場隆博
ビジュアルアーツ/Key代表
アニメ系コンテンツメーカー、ビジュアルアーツ/Key代表。イベント「Character1」相談役兼理事。日本で初めてPCゲーム系フランチャイズを立ち上げ、圧倒的なKey作品の人気を背景に、版権ビジネスやアニメ制作を数多く手掛ける。音楽ではゲーム主題歌を中心にCDを多数発売し、武道館や横浜アリーナでライブも開催した。
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