なぜ鍵っ子を生みだすことができたのか
──その結果、Keyブランドは国内外問わず、ユーザーから非常に愛されています。ほかにも、Keyというブランドを育ててきた秘訣はありますか?馬場 まさしく我々はここ20年、一生懸命ブランディングをやってきたわけですが、まずはクリエイターを前に出すということです。
ファッションであればデザイナー、本であれば作家がいるように、やっぱり誰がつくっているのかというのが一番重要で、ブランドの中身ってそれ以外ないんです。もちろん、いろいろなリスクは伴いますけど、クリエイターを前に出していくということは意識してやってきましたし、今後もやっていこうと思っています。
“鍵っ子”という熱いファンが生まれたのも、過去にクリエイターが頑張ってくれたおかげです。そうやって生まれたファンの熱量を維持するための方法は、より良い作品をつくり続けるしかありません。 ──麻枝准さん、Na-Gaさん、樋上いたるさんら「Keyといえば!」という方は多々思い浮かびます。ただ、クリエイターを前面に押し出すのもリスクがありますよね。
馬場 1番のリスクは、優秀なクリエイターが辞めてしまうことですね。
だからこそ、リスクを恐れてクリエイターを一切前に出さない会社もあります。我々ゲーム会社はチームでモノをつくりますが、そのチーム全員が離反・独立するというリスクもあるんです。なので、同じ作品をつくっているのにCGやシナリオなど作業種別ごとに部署をわけて、担当者を介してしか交流ができないようにしている会社もありました。
だけど、僕はちゃんとそれぞれのクリエイターが交流して話し合って、良いモノをつくる方が大事だと考えています。ブランディングというのは突き詰めていけば、やっぱりモノづくり。だから、優秀なクリエイターが辞めてしまい、ブランド自体の価値が毀損してしまったとしても、会社としてはほかのクリエイターたちみんなで補填し合って、次の人を育てていけるようにしないといけません。
我々がアニメーションに取り組んでいるというのも、アニメに対する理解を深めて、アニメの技術を会社に蓄積しようということなんです。
アニメがコアコンテンツになっていく
──なぜ、アニメの技術を蓄積していく必要があるのですか?馬場 今後、IP(※知的財産権/ここでは、自社の持つコンテンツを指す)はアニメになって、そこから色々なメディアに展開されていきます。つまり、一番のコアコンテンツはアニメになっていきます。
なので、我々としてもアニメをやれるだけの力はつけたい。ただそれは、すでにはるかに蓄積が多いアニメ制作会社のように動画をつくりたいということではなく、アニメでの世界観やキャラクター、ストーリーや音楽といった部分を自分たちでできるようになりたい、ということです。 ──Key原作のアニメ作品では、ビジュアルアーツのクリエイターが脚本や音楽を担当していることが多いです。ビジュアルノベルだけでなく、アニメでもビジュアルアーツのクリエイターが活躍できるようにノウハウを蓄積しているということですね。
馬場 ビジュアルノベルとアニメでは、画面の情報量が全く異なるので、表現するための技術が違うんですよ。
おそらくビジュアルノベルとアニメの間にはコミックがあって、コミックの原作ができれば、アニメの原作もできるだろうと、私は考えています。そういった技術を習得しなければならないということで、Keyではビジュアルノベルだけでなく、アニメやコミックなど色々なチャレンジをしているんです。
ただ、私がいくらそう思っても、クリエイターがやりたいと思わなければどうしようもありません。そういう意図もあって、クリエイターが正しい方向で「やりたい」と言ったことについては「ぜひやりなさい」と言っているんです。
──なぜ、そこまでアニメの技術習得に力を入れるのでしょうか。
馬場 2000年以前は、原作ものはアニメになった瞬間に寿命が終わるようなところがありました。でも今は、アニメ化の後にもう1回アニメになったり、ソーシャルゲームになったりと、いくらでも続いていくコンテンツになりうるんです。
それに……1万本しか売れていないゲームでも、(海賊版が出回っている影響で)修正パッチのダウンロード数が10万を超えるというのは普通に起こっていることなんです(苦笑)。
だからといって、ゲーム本体にプロテクトをかけたらそのゲームが10万本売れるかといったら、そういうわけでもない。なぜなら買う方が手間がかかるから。
Blu-rayのゲームが1分足らずでダウンロードできてしまうんですからね……。
──PCゲームなどで海賊版が横行してしまう現状は、かなり問題視されています。
馬場 そうでなくても、PCゲームといったデジタルコンテンツが低価格化や基本無料化に進んでいく流れは止められないと思っています。
こうした中で企業活動を維持していくためには、いろいろな周辺利得を得ていく必要があります。その一環としてアニメや歌を手がけるためには、それぞれの技術的な部分にも裾野を広げていかなくてはいけません。PCゲームだけを売ってしっかりと儲かるのであれば、ほかの分野はやりませんよ(笑)。
それに、我々は良いゲームをつくる自信はありますが、やっぱりユーザーにとって70時間かかるゲームはハードルが高いですよね。加えて、ビジュアルノベルは楽しみ方に一定のコツがあって、ゲームの世界に自分の意識を投下できないとなかなか楽しめないものでもあります。例えば、100万人いたらビジュアルノベルを楽しむ素養を持っている人は2万人くらいしかいなくて、これはやはりコンテンツとしては弱いんです。
一方で、アニメは視覚的に理解できて、楽しんでいただける裾野がすごく広い。となると、そちらに傾注していくというのは当然の流れでもあります。
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馬場隆博
ビジュアルアーツ/Key代表
アニメ系コンテンツメーカー、ビジュアルアーツ/Key代表。イベント「Character1」相談役兼理事。日本で初めてPCゲーム系フランチャイズを立ち上げ、圧倒的なKey作品の人気を背景に、版権ビジネスやアニメ制作を数多く手掛ける。音楽ではゲーム主題歌を中心にCDを多数発売し、武道館や横浜アリーナでライブも開催した。
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