『SR サイタマノラッパー』シリーズで知られる入江悠監督による映画『22年目の告白―私が殺人犯です―』が6月10日(金)、全国の劇場で公開される。
本作は、22年前に発生し、未解決のまま時効となった5件の連続殺人事件の犯人・曽根崎雅人が突如姿を現し、事件の真相を語る告白本「私が殺人犯です」の出版会見を敢行。
そして、日本中を混乱に巻き込んで行きながら新たな事件を引き起こしていくというサスペンスエンターテイメントだ。 今回、KAI-YOU編集部は入江悠監督にインタビューを実施。『22年目の告白―私が殺人犯です―』についてはもちろんのこと、『SR サイタマノラッパー』を含めた作品づくりへの思いなどをうかがった。
取材:ふじきりょうすけ 文:新國翔大
入江 日本中が混乱に陥ったあと、物語の後半はほとんどオリジナルなんです。韓国映画『殺人の告白』では、仲村トオルさんが務めたキャスターの役自体がないので、物語の中盤以降はよりオリジナルの要素が強くなっていきますね。 入江 また、物語の冒頭にあるSNSを活用して日本中を騒がせる、ということは2012年当時にはあまり浸透していなかったので、情報の広め方の演出にも大きな違いがあります。
──入江監督と主演の藤原竜也さんといえば、2011年のTVドラマ「ブルータスの心臓-完全犯罪殺人リレー」が思い浮かびます。「ブルータス」でも藤原さんは殺人犯役でしたが、今回の主演起用への影響もありますか?
入江 『22年目の告白』のプロデューサーは、「ブルータス」について全然知らなかったというか、あまり考えてなかったと思います(笑)。
ただ、藤原さんと自分は同じ埼玉県出身なんですよ。それで意気投合していましたし、何より撮影現場での佇まいが好きで。藤原さんのファンだったんです。
「また、何かでご一緒したいな」と思っていたら、今回、役がぴたりとハマって。出演していただけると決まった時は、すごく嬉しかったですね。
──「ブルータスの心臓」『藁の盾』『デスノート』をはじめ、藤原さんの犯人役は鉄板のようにも受け入れられているのかな、と思います。そのステレオタイプなイメージが作品づくりに影響することはありませんでしたか?
入江 この映画には藤原さんが持つイメージが非常に大切でした。それに海外では、悪役を演じることは俳優にとって1つのステータスになるんです。でも日本では、あまり悪役を演じたがらず、みんな清廉潔白な役をやりたがる。
そんな中、果敢に悪役に挑戦している藤原さんはスゴいな、と思いますよね。 ──今回のような人間のクズと言われるような役を演じる藤原さんの右に出る方は……なかなか思い浮かびませんね。
入江 そうですよね。もちろん悪役だけでなく、『僕だけがいない街』などでは真っ当な役も演じられているので、すごく器用な俳優さんだと思います。
入江 自分がいち観客として映画館に映画を見に行ったとき、エキストラの演技が気になってしまうときがあるんですよ。「神は細部に宿る」とよく言われますが、とにかく隙をなくしたい。 入江 藤原さんや伊藤さんといった一流の俳優さんは、コミュニケーションがとれていれば、芝居としては成立するのですが、エキストラの人はモチベーションが違う。ミーハーな気持ちで撮影現場に来てくれることもありがたいのですが、せっかく来てもらったのであれば、作品と同じテンションまで来てほしいじゃないですか。
だからこそ、時間はかかりますけど、そういう人も愛情持って演出したいな、という気になるんですよね。もちろん、撮影自体は大変でしたけど(笑)。
──入江監督といえば、超長回しのワンカット撮影が特徴として挙げられると思っています。その一方で、本作『22年目の告白』では、カット割を刻んでテンポをあげ、エンタメ作品としての強度を高めている印象を受けました。
入江 超長回しの撮影は『SR サイタマノラッパー』のときに、ちゃんとラップを歌っていることを示すために活用したんですよ。
ラップはリレーみたいに、ひとりが歌ったら、次の人が歌っていく。それを一連で撮りたいなと思って、長回しにしました。そういう意味では、それ以降の作品ではあまり長回しのワンカット撮影を使っていないんですよね。
ただ今回は、藤原さん、伊藤さん、仲村さんが三つ巴になる山場のシーンがあるのですが──そこでは長回しのワンカット撮影を行なっています。撮影後に編集で切り刻んで、組み立て直してはいますが、長回しで撮影する緊張感が好きなのかもしれません。 ──12月には『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』以来となるオリジナル脚本の映画『ビジランテ』の公開も控えています。原作ありきのメジャー映画とオリジナル脚本の映画でのスタンスの住みわけはあるのでしょうか?
入江 そもそも自分自身から何かアイデアが出てくるって、あまりないんですよね。いろんな問題に対して、自分なりの咀嚼をするのに時間かかるんです。
震災や事件などを自分なりに解釈してフィクション作品に仕上げていくのは時間がかかるので、オリジナル脚本にこだわっていると自分の引き出しが狭くなっていく。 入江 『22年目の告白』や、過去に撮った『ジョーカーゲーム』や『太陽』という作品のような脚本は自分では思いつかないですね。いい物語があったら、それをお借りしてひとつの作品にする方が自分に合っているなと思います。
その中で、どうしてもやりたいものがあったとしたら、それがオリジナル脚本の映画になっていくのかな、と。オリジナル脚本の映画だけやっている人はスゴいなと思います。
……それこそ20代の頃、映画が撮れない時期があったのですが、そのときは「映画が自分の人生からなくなったら、死ぬしかない」と思っていました。撮れない恐怖で寝れない時期もあったくらいです。
それで、監督として最後に撮影しようと思って、完成したのが『SR サイタマノラッパー』だったんです。
入江 2007年当時、日本ではヒップホップが馬鹿にされていた節があったんですよね。でも海外を見るとエミネムの『8 Mile』という作品が受け入れられていて、「なんで日本ではこんなに馬鹿にされてるんだろうな?」という思いがありました。「SHO-GUNG」×「SRサイタマノラッパー」 PVフルver.
入江 ヒップホップに関する映画を誰もつくっていなかったので、単純に見てみたいと思ったんです。日本にまだないものを見たくて撮影していました。
この10年間でラップやヒップホップを取り巻く状況はかなり変わったので、当時の映画と現在のドラマでは、全く違うモチベーションで撮影しています。
──違うモチベーション……それこそ『8 Mile』と比べると、映画『SR サイタマノラッパー』ではヒップホップの泥臭ささを表現されていたと思うんです。ただ、ドラマ版では「ラップで河童を呼び出す」「ヒップホップ寺での修行」など大げさにヒップホップをイジっているような描写が増えたような。
入江 ヒップホップの器が広くなってきたので、いろんなことをやってみようと思ったんです。
今回は「歌は祝いであり、呪いである」みたいな言葉も入れてるんですけど、“言葉”にもっとフィーチャーしています。最近はヒップホップだけでなく、言葉に関心がありますね。SR サイタマノラッパー~マイクの細道~ #1
──「サイタマノラッパー」と『22年目の告白』は、同時期の作品でありながら、作風も題材もジャンルもまったく異なる作品だと感じました。監督として、今後の展望をお聞かせいただけますか?
入江 スピルバーグの『宇宙戦争』が好きで、ああいう映画を撮りたいんですよね。子供の頃は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ターミネーター』などが好きだったんですけど、SF映画を撮ることが究極の夢になっています。
大きな危機的状況は訪れたときに、人はどうするのかを考えるのが好きなんですよね。なかなか日本では撮れないんですけど、いつかはやってみたいです。
(C)2017 映画「22年目の告白−私が殺人犯です−」製作委員会
本作は、22年前に発生し、未解決のまま時効となった5件の連続殺人事件の犯人・曽根崎雅人が突如姿を現し、事件の真相を語る告白本「私が殺人犯です」の出版会見を敢行。
そして、日本中を混乱に巻き込んで行きながら新たな事件を引き起こしていくというサスペンスエンターテイメントだ。 今回、KAI-YOU編集部は入江悠監督にインタビューを実施。『22年目の告白―私が殺人犯です―』についてはもちろんのこと、『SR サイタマノラッパー』を含めた作品づくりへの思いなどをうかがった。
取材:ふじきりょうすけ 文:新國翔大
『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』はオリジナル要素が強い作品に仕上がっている
──『22年目の告白 ―私が殺人犯です―』は、2013年に日本で公開された韓国映画『殺人の告白』が元になります。入江監督版ならではのアレンジについて聞かせていただけますか?入江 日本中が混乱に陥ったあと、物語の後半はほとんどオリジナルなんです。韓国映画『殺人の告白』では、仲村トオルさんが務めたキャスターの役自体がないので、物語の中盤以降はよりオリジナルの要素が強くなっていきますね。 入江 また、物語の冒頭にあるSNSを活用して日本中を騒がせる、ということは2012年当時にはあまり浸透していなかったので、情報の広め方の演出にも大きな違いがあります。
──入江監督と主演の藤原竜也さんといえば、2011年のTVドラマ「ブルータスの心臓-完全犯罪殺人リレー」が思い浮かびます。「ブルータス」でも藤原さんは殺人犯役でしたが、今回の主演起用への影響もありますか?
入江 『22年目の告白』のプロデューサーは、「ブルータス」について全然知らなかったというか、あまり考えてなかったと思います(笑)。
ただ、藤原さんと自分は同じ埼玉県出身なんですよ。それで意気投合していましたし、何より撮影現場での佇まいが好きで。藤原さんのファンだったんです。
「また、何かでご一緒したいな」と思っていたら、今回、役がぴたりとハマって。出演していただけると決まった時は、すごく嬉しかったですね。
──「ブルータスの心臓」『藁の盾』『デスノート』をはじめ、藤原さんの犯人役は鉄板のようにも受け入れられているのかな、と思います。そのステレオタイプなイメージが作品づくりに影響することはありませんでしたか?
入江 この映画には藤原さんが持つイメージが非常に大切でした。それに海外では、悪役を演じることは俳優にとって1つのステータスになるんです。でも日本では、あまり悪役を演じたがらず、みんな清廉潔白な役をやりたがる。
そんな中、果敢に悪役に挑戦している藤原さんはスゴいな、と思いますよね。 ──今回のような人間のクズと言われるような役を演じる藤原さんの右に出る方は……なかなか思い浮かびませんね。
入江 そうですよね。もちろん悪役だけでなく、『僕だけがいない街』などでは真っ当な役も演じられているので、すごく器用な俳優さんだと思います。
入江監督が徹底する「細部へのこだわり」
──入江監督はエキストラに対してもすごく丁寧な演出をされるとお聞きします。入江 自分がいち観客として映画館に映画を見に行ったとき、エキストラの演技が気になってしまうときがあるんですよ。「神は細部に宿る」とよく言われますが、とにかく隙をなくしたい。 入江 藤原さんや伊藤さんといった一流の俳優さんは、コミュニケーションがとれていれば、芝居としては成立するのですが、エキストラの人はモチベーションが違う。ミーハーな気持ちで撮影現場に来てくれることもありがたいのですが、せっかく来てもらったのであれば、作品と同じテンションまで来てほしいじゃないですか。
だからこそ、時間はかかりますけど、そういう人も愛情持って演出したいな、という気になるんですよね。もちろん、撮影自体は大変でしたけど(笑)。
──入江監督といえば、超長回しのワンカット撮影が特徴として挙げられると思っています。その一方で、本作『22年目の告白』では、カット割を刻んでテンポをあげ、エンタメ作品としての強度を高めている印象を受けました。
入江 超長回しの撮影は『SR サイタマノラッパー』のときに、ちゃんとラップを歌っていることを示すために活用したんですよ。
ラップはリレーみたいに、ひとりが歌ったら、次の人が歌っていく。それを一連で撮りたいなと思って、長回しにしました。そういう意味では、それ以降の作品ではあまり長回しのワンカット撮影を使っていないんですよね。
ただ今回は、藤原さん、伊藤さん、仲村さんが三つ巴になる山場のシーンがあるのですが──そこでは長回しのワンカット撮影を行なっています。撮影後に編集で切り刻んで、組み立て直してはいますが、長回しで撮影する緊張感が好きなのかもしれません。 ──12月には『SR サイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』以来となるオリジナル脚本の映画『ビジランテ』の公開も控えています。原作ありきのメジャー映画とオリジナル脚本の映画でのスタンスの住みわけはあるのでしょうか?
入江 そもそも自分自身から何かアイデアが出てくるって、あまりないんですよね。いろんな問題に対して、自分なりの咀嚼をするのに時間かかるんです。
震災や事件などを自分なりに解釈してフィクション作品に仕上げていくのは時間がかかるので、オリジナル脚本にこだわっていると自分の引き出しが狭くなっていく。 入江 『22年目の告白』や、過去に撮った『ジョーカーゲーム』や『太陽』という作品のような脚本は自分では思いつかないですね。いい物語があったら、それをお借りしてひとつの作品にする方が自分に合っているなと思います。
その中で、どうしてもやりたいものがあったとしたら、それがオリジナル脚本の映画になっていくのかな、と。オリジナル脚本の映画だけやっている人はスゴいなと思います。
……それこそ20代の頃、映画が撮れない時期があったのですが、そのときは「映画が自分の人生からなくなったら、死ぬしかない」と思っていました。撮れない恐怖で寝れない時期もあったくらいです。
それで、監督として最後に撮影しようと思って、完成したのが『SR サイタマノラッパー』だったんです。
いつかは『宇宙戦争』のようなSF映画を撮影したい
──10年に撮影が始まった『サイタマノラッパー』は、リアルなヒップホップ映画として入江監督の名を大きく広めました。そして「フリースタイルダンジョン」をきっかけにヒップホップブームが起こったいま、新たに制作されているドラマ版「SR サイタマノラッパー~マイクの細道~」が、ヒップホップをどう表現したいのかをお聞かせください。入江 2007年当時、日本ではヒップホップが馬鹿にされていた節があったんですよね。でも海外を見るとエミネムの『8 Mile』という作品が受け入れられていて、「なんで日本ではこんなに馬鹿にされてるんだろうな?」という思いがありました。
この10年間でラップやヒップホップを取り巻く状況はかなり変わったので、当時の映画と現在のドラマでは、全く違うモチベーションで撮影しています。
──違うモチベーション……それこそ『8 Mile』と比べると、映画『SR サイタマノラッパー』ではヒップホップの泥臭ささを表現されていたと思うんです。ただ、ドラマ版では「ラップで河童を呼び出す」「ヒップホップ寺での修行」など大げさにヒップホップをイジっているような描写が増えたような。
入江 ヒップホップの器が広くなってきたので、いろんなことをやってみようと思ったんです。
今回は「歌は祝いであり、呪いである」みたいな言葉も入れてるんですけど、“言葉”にもっとフィーチャーしています。最近はヒップホップだけでなく、言葉に関心がありますね。
入江 スピルバーグの『宇宙戦争』が好きで、ああいう映画を撮りたいんですよね。子供の頃は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『ターミネーター』などが好きだったんですけど、SF映画を撮ることが究極の夢になっています。
大きな危機的状況は訪れたときに、人はどうするのかを考えるのが好きなんですよね。なかなか日本では撮れないんですけど、いつかはやってみたいです。
(C)2017 映画「22年目の告白−私が殺人犯です−」製作委員会
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イベント情報
『22年目の告白—私が殺人犯です—』
- 公開
- 6 月10 日(土)全国ロードショー
- 配給
- ワーナー・ブラザース映画
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