連載 | #3 カイユウクリエイターズファイル

Bahi JD インタビュー オーストリア人アニメーターが辿り着いた日本とアニメ

オーストリアのアニメーターとしての働き方、そして絶対的な情熱

Bahi JD でも僕はどこかのスタジオに所属するよりも、人やプロジェクト自体を一番大切に考えています。いまはフリーランスなのですが、良いプロジェクトが舞い降りてきたら、それに集中したい。たとえ、スタジオがあまり良くなくても、一緒に働く仲間やプロジェクトが良ければ、がんばって進めていくことはできるから。

──日本に拠点を移したいと思ったりはしませんか?

Bahi JD 今はこのままで良いと思っています。でももう少しキャリアと歳を重ねたら、もしかしたら日本に拠点を移すことも考えるかもしれないです。

──すごく特殊な働き方だと思いますが、Bahiさん個人として、アニメ制作で最も大切にしていることは何ですか?

Bahi JD ありすぎて一つに絞れないよ! でも言うとするならば、情熱。アニメーション業界は、本当に体力的にも精神的にもつらい業界。アニメを好きというレベルではなく、マジで「愛する」という気持ちがないとやっていられない。アニメーターとして仕事を続けて、進化するには、情熱は重要な気持ちだと思うよ。

アニメーターは単に絵を描くだけではなくて、映画監督のスキルが必要なんです。映画撮影術(シネマトグラフィー)やカメラレンズ、カメラ位置、撮影テクニック、監督術などのすべてが繋がっています。映画をつくっているのと同じ感覚なんですね。単にキャラクターを表面的に描くのではなく、映画のような世界観を包み込むために、キャラクターに命を吹き込むんです。

Bahi JDさんが手がけたCarpainter「Digital Harakiri」のアートワーク

Bahi JD またエフェクトやアニメーションをやっていない場合も、良い俳優になることが重要です。だって、そのキャラクターの気持ちや存在を深く理解する必要があるから。アニメーションは「絵を描く」という一つの技術だけでは、全く足りない……!

宮崎駿監督の映画や『攻殻機動隊』や『AKIRA』も、アニメ映画ではなく、本当の映画を見ているような気分になる。

──アニメーションと同じくらい、映画も昔から好き?

Bahi JD もちろん。小さい頃の思い出として強いのは『ジュラシック・パーク』『ターミネーター2』とか。リドリー・スコット監督の『ブレードランナー』は、もうクラシックな定番映画ですが、僕を映画や制作の世界に引き込ませたきっかけです。

アニメーションの世界と映画の世界は重なる部分があると思っているから、アニメーションの仕事をしているときも、絵を描くだけではなく、映画をつくっているような意識でやっている。もう何回も言っているけれど(笑)──映画監督のようなスタンスでアニメーションをすることが重要。

僕は、キャラクターのストーリーを物語るプロジェクトで仕事をするのが、とにかく好き。モーションや生命を創出したいんです。だって、僕にとって、アニメの世界というのは、つくり上げたものではなく、現実に実在しているもの。それが大好き。だからキャラクターを物語る映画とかを見ると興奮します。

あと、一緒に仕事をする人たちが面白かったり、楽しめる仲でないとダメですね。だからチームも大事。幸運なことに、僕が今まで仕事をしてきた仲間は、みんな強い情熱があったから、これまで一緒にやってこれたよ。

アニメの枠組みを越え、発展させるために

Illustration for Cosmo's Midnight Albums.

──日本以外で気になっている国や、アニメ以外で気になっているクリエティブなジャンルはありますか?

Bahi JD 面白い国に関しては断定できない。だって僕は、インターネットのTumblrやTwitterを通して様々な人やアートの新たな発見に出会っているから。もう国という単位は、本当は関係ないと思っています。世界はどこだっておもしろいと思います。

──あらゆる国のカルチャーやアートに触れる中で、日本のアニメを選ばれた理由はどこにあるのでしょうか?

Bahi JD 自分の幼少時代に、アニメに触れていたことが大きいと思います。ただ、アニメといっても、その枠組みを越えて拡大や発展をさせることを常に念頭に置いています。色々な分野から少しずつ良いところを取り出し反映させていきたい。僕の場合だと、アニメーションをクリエイティブな作品にするために、広い視野を持つことがとても重要なので、映画術やアニメーションはもちろん、幅広いジャンルを気にしないといけないですね。

どの分野で活躍する人だって、必ずほかの分野も学び、それを自分の分野に生かしているよ。

多くの監督たちからの影響と学びについて

──特に一緒に仕事をして良かった、影響を受けた監督はいましたか?

Bahi JD 『スペース☆ダンディ』の監督を務めた渡辺信一郎さんと夏目真悟さん。最近も『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』で水島精二監督と作業させてもらっていて、とても楽しかった。あと、いま進めているプロジェクトの詳細はまだ公表できないのですが、その作品を担当している監督もとても良いです! 今まで関わった監督はひとり一人違いますが、どんなに厳しい人でも、何かを教えてくれる上、伝えてくれるので、自分は良い勉強になっています。
スペースダンディ

Bahi JDさんが手かげた『スペース☆ダンディ』の原画(Bahi JDさんのTumblrより)

BahiJD -NEW-VERSION-concrete revolution opening--

Bahi JDさんのコンクリート・レボルティオ OPの原画
作画監督:伊藤嘉之 / 監督:水島精二 / アニメーション制作・ボンズ

Bahi JD アニメーターさんとのコミュニケーションを怠らず、常にアニメーターたちも視野に入れ、コンタクトをとるようにし、正しい方法を教えてくれたりする監督の教育的な優しさと厳しさには、感謝しています。

インターネット時代に突入したこともあり、様々なクリエイターが本当にいろんな場所から情報を入手している。アニメーションを専攻している学生は、ディズニーとピクサー、そして日本のアニメから情報を入手していることが多いんです。最近そういった学生たちの短編映画を観ていると、日本のアニメ技術を思い出すことがあります。例えば、パリの名門アニメ大学のGobelinsでは、インターネットから得た情報で互いを高め合い、情報を結合させ、自分の作品に生かしている。実際にスタジオジブリでインターンシップをしていた学生もいました。卒業後に彼女はスタジオ4°Cとディズニーで働きはじめましたね。

Gobelins, L'école De L'image(Googleストリートビューより)

──日本のアニメシーンが抱えている問題点や課題は何だと思いますか?

Bahi JD 課題はもちろんあります。それは常に自分でも考えていることであり、本当に難しいところ……。特にアニメーターを志す段階にいるビギナーにとってはややこしい問題がある。

でもスタジオはすべて違うから、経営や経済的なスタイルも違う。自分のスキルや所属するスタジオによって金銭的な問題も異なっていると思う。どのように、この課題が解決できるかはわからないけれど、この業界では努力は必ず報われると思っています。上達すれば課題も少なくなるはずですが、初学者にとっては難しいですね。

ただ、誰だって急にスーパーアニメーターになれるわけではなくて、ステップごとに上達していくしかない。最初は辛くても、学び、仕事を重ねて行く上で、やりやすくなるはず。

──業界やスタジオの構造は長らく問題視されていますね。そんな中でBahiさんのようなスタイルで仕事をする人は新しい流れにあたると思います。Bahiさんと同じように日本アニメに関わりながら、海外で活躍しているアニメーターに知り合いはいますか?

Bahi JD  ロサンゼルスで活躍しているアニメーターを知っているよ! アニメーション制作会社のWIT STUDIOが手がけた『ローリング☆ガールズ』の仕事をしていたよ。

『スペース☆ダンディ』のあるエピソードで、作画監督をつとめた湯浅政明さんは「インターネットで活躍するアニメーターと仕事がしたい」という意志からTwitterで呼びかけをしたんです。結果、そのエピソードではアメリカやフランスに限らず、沢山の国からのアニメーターが集ったインターナショナルな環境になりました。

『ピンポン THE ANIMATION』キービジュアル 同作も湯浅政明さんが監督をつとめた

あと、先ほど挙げたフランスのGOBELINS大学の卒業生でもあるAymeric Kevinさんという人も、背景アーティストとして活躍していますが、『スペース☆ダンディ』や松本大洋さんが原作の『ピンポン THE ANIMATION』などの作品のために来日していましたよ!

アニメーターのなかにはそうやってインターネットを用いて働き、ときには来日して直接コミュニケーションをとりながら働いている人もいます。インターネットを通して活躍している優秀なアニメーターの一人が鈴木亜矢さんです。彼女は細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』に参加したイギリス出身の優秀なアニメーターです。

「アニメーターはドリーマーだ!」

──Bahiさん自身は、色々な監督や周りのクリエイターからどんなアニメーターだと言われますか?

Bahi JD  僕がどういうアニメーターだって言われるかって(笑)? 難しい質問。現在のところは未経験のアニメーターです……。

──アニメーターを目指している方たちに対してアドバイスはありますか?

Bahi JD 僕も未だに若手で、発展途上のアニメーターだからアドバイスをすることは難しいです……。だから僕が今まで偉大なアニメーターの人たちから言われてきたことを繰り返します。

腕のいいアニメーターは全てのものに命を吹き込むことが可能です。そして大事なのは、自分で限界を決めないこと、あなたが出会うすべての人、物から学ぶことです。あなたの周りにあるものすべてを観察し、あなたが見て、経験するものすべてを研究してください。最高峰のアニメーターたちや自然から学び取ってもいいです。それもあなたを鍛えることになります。

あなたが基礎と今ある技術を身につけた時、あなたはあなただけのアニメーションをつくり出す、良いアニメーターになることができるでしょう。そして、ネバー・ギブ・アップ!

──映画づくりの話から察するに、物語全体をつくる人、監督になりたいという気持ちも強い?

Bahi JD 未来を予測することはできません。僕にはまだ学んでいないことや、経験していないことがたくさんあります。ただ監督になるまでの道は、ステップを踏まずに自動的になれるような人もいるけど、本当に一握り。大抵はアニメーターやTVアニメのエピソード監督で数本のキャリアを積んで、監督という最終目標にたどり着く、険しいものだと思う。

──最後の質問になってしまうのですが、Bahiさんがアニメーションで成し遂げたいことを教えていただきたいです!

Bahi JD  僕は、アニメーションを通して様々な世界を発見し、他人の目線からのストーリーを物語りたい。そのために面白い斬新なモーションやアニメーションをつくり上げたいですね。アニメーションを通して、人々に新たな世界への冒険の旅に出てほしいとも思います。

そして、これがもっとも大事なことなのですが、ファンタジーか現実に近い設定かに関わらず、キャラクターや、自然、空気などは「本物」でなければいけない。映画で本物の感情を表現したり、面白いストーリーを伝えたり、僕の 感情や感じたものみんなと共有したり。それをアニメーションやその他のメ ディアを通してすることは僕にとってとても楽しいことです。

アニメーションの「動き」を記述するテクニックを使って、色とりどりのストーリーを発信していきたいです! アニメーターは、ドリーマーなのです! 僕は、自分の夢を視覚化したいと思っています。
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Bahi

アニメーター/イラストレーター

1991年生まれ。オーストリア在住のアニメーター。じん(自然の敵P)のMV「日本橋高架下R計画」やテレビアニメ『坂道のアポロン』に参加。その躍動感あふれる作画と出自もあいまって話題を集める。その後も『スペース☆ダンディ』『ピンポン THE ANIMATION』や『血界戦線』に参加し、その才覚とアニメーションへの情熱を遺憾なく発揮。期待を一身に集めている。

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3件のコメント

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CKS

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editoreal

AOMORI SHOGO

まだ日本いるからありえるかも?<MOGRA

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顔隠してるけどこの人こないだMOGRAにいなかったっけ?