そのゲンエキインタビューは、4月の連載開始から数えて第6回目を迎え、少しずつ秋を感じる季節になりました。秋という季節は、読書の秋、スポーツの秋、芸術の秋と、何かに打ち込むことや取り組む上で、環境が整いやすい時期になります。
今回は、さまざまな秋があるなかで「芸術」にフォーカスし、アニメラテアート王選手権の初代チャンピオンであり、テレビCMなどメディアに数多く出演するラテアーティスト・松野浩平さんにゲンエキ[現役]インタビューを行いました。
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取材・構成:宮崎祐貴・織田上総介
ラテアーティストという職業
━━ラテアーティストとして、さまざまな場で活動されている松野さんですが、ラテアーティストとはどういったことをする職業なのか、また、普段どのように過ごされているのでしょうか?松野浩平(以下、松野) 基本的には、原宿にあるカフェ「Reissue」で料理やホールの仕事をしている他、ラテアートを担当するなど、お店の中で何でも屋として働いています。
また、フリーランスとしていろいろなシチュエーションでラテアートパフォーマンスをやらせていただき、多くの人に笑顔になってもらえるような仕事もしています。
━━カフェでのお仕事とフリーランスとしてのお仕事の割合はどれくらいの比率になるのでしょうか?
松野 カフェは立ち上げてからまだ6ヵ月ほどしか経っていません。働く時間的にはカフェのほうが長いのですが、気持ちとしてはどちらも大切にしたいので半々くらいです。
━━カフェはまだ始められて6ヵ月なのですね。これまでにもカフェの経営に携わったことは……?
松野 今回が初めてのことなので、楽しい反面、いろいろ大変ですね。
━━ラテアートについては、やり始めてからどれくらいなのでしょうか?
松野 20歳くらいから始めたので、かれこれ6年ほどです。
━━ラテアート業界において6年という期間はどれほどのものなのでしょうか?
松野 まだまだヒヨッコもいいところで……。加えて僕たち(Reissue店長である"じょーじ"こと山本員揮さんも含め)がやっているラテアートというのは、バリスタ(※1)の方たちにしてみれば別物になるので……。
※1 コーヒーなどの知識を幅広く熟知し、バールやカフェ、レストランなどでお客様へ最高の一杯を提供する職業
━━ラテアートと呼ばれている種類のなかでもさらに細分化されているのですか?
松野 そうですね。スターバックスさんで見られるような、「フリーポアラテアート」という、ミルクピッチャーを揺らし、波でつくりあげるラテアートと、「エッジング」というピンを用いていろんなものを描くラテアートがあります。
僕たちの場合は、エッジングのほうに特化したラテアートなので、珍しい部類だと思います。 ━━ラテアートにおいて、フリーポアラテアートの方が歴史は長いのでしょうか?
松野 歴史も長いですし、大会もたくさん開かれています。それに対して、エッジングは大会もあまりありません。
また、ミルクを注ぎ終わった瞬間にアートとして完成しているものがフリーポアラテアートで、そこからさらに手を加えるのがエッジングになるため、淹れ立てが美味しいコーヒーにおいては、後者の方が味は損なわれやすく、まだまだ広がっていないのではと思います。
ただ、僕たちとしては、例えラテアートづくりに時間がかかり、味が落ちてしまったとしても、それを見ることでお客さんが喜んだり、笑顔になれるようなものを追求していきたいと思っています。
マネージャーの一言から始まった「独自ラテアート」
━━なるほど。そもそもですが、松野さんがラテアートを始めたきっかけはどのようなものでしょうか?松野 実はもともとシェフになりたくて、専門学校に通い、最初は大阪で1位、2位を争うような有名なイタリアンレストランに就職しました。
ただ、就職したのはいいのですが、そのお店で最初に任されたのがコーヒーの仕事でした。しかし、前のコーヒー担当の方にいろいろ習ったのですが、全然ラテアートが上手くいかず……。
上手くいかなくても毎日毎日お客様には「何か見たい」と求められる中で、ある時、ハートマークの出来損ないで、ただの丸い模様が浮かんだんです。そこに加筆する形で、ノリで国民的アニメ作品のキャラクターを描きました。
そしたらたまたまそれがウケて……その反応が嬉しくて、本気でやるようになりましたね。
━━お客さんの反応がよかった反面、レストラン側から「勝手なことするな!」と怒られなかったのでしょうか?
松野 むしろ逆で、当時のマネージャーさんは「おもしろい!」と言ってもらえて……。お店の客単価でいうと、一人1万5,000円や2万円くらいするようなところなのですが(笑)。
またそのお店はディナーだけでなくランチもやっていたので、そのランチ中にもラテアートを描いていたところ、口コミサービスで「あの店のラテアートすげぇ!」と書かれるようになりました。
そうなると僕がキッチンに入ることは徐々になくなり、「お前はもう、ずっとラテアートやって!」となって、そこでいろいろ揉まれました(笑)。
2ちゃんねるでラテアートを研ぎすませる
━━最初はシェフになりたくてイタリアンレストランに就職したのに、仕事はコーヒー担当で、ご自身のなかで不安や不満はなかったのでしょうか?松野 もともとはシェフになりたくて入ったので不満はありましたが、ラテアートに触れる機会と自由にやらせてもらえたことに感謝しています。
その一方で、どうせラテアートをやるのであればちゃんとしたカフェで学んだ上で自分の力を発揮してみたいなという気持ちも芽生え、イタリアンレストランは1年半ほど勤めさせていただいた後、退職しました。
━━その後、すぐにカフェで働いたのでしょうか?
松野 はい。あるお店ですぐにオープニングスタッフとして働いたのですが……そのカフェがもうダメダメで、わずか1ヵ月くらいで潰れてしまいました。
お店が潰れた後にある先輩からバーで働かないかと誘われ、夜はバーで働きながら、昼間は自分の家のマシーンでラテアートを描いていました。その間、ラテアート活動としては、いろんなイベントに出たり、インターネットに投稿していました。
━━インターネットには、どういった形で投稿していたのですか?
松野 暇だったこともあって、巨大匿名掲示板の「2ちゃんねる」で、レストラン勤めの時に撮りためていたラテアート画像をどんどんアップしていきました。
そうしたら、次の日には「2ちゃんねる」のまとめサイトに取り上げられて、Twitterでもものすごい反響をいただきまして……(笑)。
正直、いろんな人から叩かれるのかなと思っていたら、思いのほか評価していただいたので、「これはひょっとしたら何かおもしろいことができるな」と思い、そこからすぐにコーヒーマシンとパソコンを買い、いつでもアップロードできるようにして、夜な夜ないろんな人の要望に応えながら描いていきました。
━━さながら武者修行ですね。
松野 そうですね(笑)。夜中のうちに4、50杯つくったりして、気が付いたら朝になっているなんてこともありました。
出来損ないのハートマークを経て、テレビ出演
━━そのような生活を送りながらもバーでは働き続けていたのでしょうか?松野 バーでの勤務は続いていました。ただ、ラテアート写真をネットに上げていたことから、『スタードラフト会議』というテレビ番組に出演依頼をいただき、初めて東京に遠征したんですね。
番組では、可愛らしいクマなどを描いたのですが、その結果、多くの人に興味を持っていただき、さらなるテレビ出演やイベント出演など、さまざまな方からお話をいただくうちに、「東京」という街に可能性を感じ、番組収録から3ヵ月後には東京に引っ越しました。
━━実際に東京に来てみていかがでしたか?
松野 思っていた通り、本当に楽しい仕事がたくさんあり、来てよかったなと思います。
ただ、楽しい仕事をするためには、常にアンテナを張ることが大切だなと感じました。例えば、飲みにいった先で仲良くなった人との縁で仕事につながったこともありますし、人とじっくり喋ることで密度の濃い、良好な関係が築けました。
また、誰かが必要としてくれたり、助けを求めているのであれば、まずは自分自身でできる限りの価値を提供するということをしていました。それはギブ&テイクというよりは、ひたすらギブ&ギブといった具合でした。
今となっては、そうした姿勢でいたことで現在のカフェとラテアートの両立を形成できているのかなと。
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松野浩平
ラテアーティスト
10月5日生まれ。兵庫県出身。
現在、原宿のカフェ『Reissue』にて、店長である"じょーじ"こと山本員揮氏とカフェ運営に携わる。また、フリーランスのラテアーティストとして、数多くのテレビやイベント出演などを通し、ラテアートの普及を行う。
日本最大級のアニメイベント「AnimeJapan 2015」内で開催された「アニメラテアート王選手権」にて初代チャンピオン獲得。
連載
全9回まで展開したカルピスの「ゲンエキインタビュー」では、様々なジャンルで活躍する現役の方々をゲストに、ロングインタビューを敢行。 声優の内田真礼さん、諏訪部順一さん、水瀬いのりさん、Pileさん、アニソンを中心に活動する歌手のLiSAさん、プロ棋士の橋本崇載さん、ラテアーティストの松野浩平さん、サイクルフィギュアの佐藤凪沙さん、プロレスラーの丸藤正道さんにご出演いただきました。 それぞれの来歴や仕事への意識、そして他ではなかなか聞けなかったら青春や初恋についてのぶっちゃけトークまで、カルピスを飲みながら赤裸々にお話いただきました!
2件のコメント
AOMORI SHOGO
ゆるふわな人かと思ったら目力つよすぎる
にいみなお
味が落ちてもしまっても仕方ないって割り切れるのはすごい。