信じることで、失敗を乗り越える
━━自分でコントロールする部分が大きいですね。とはいえ、しっかりとコントロールしていてもサボってしまいたくなる日もあると思いますが……?佐藤 何回か……ありましたね(笑)。でも、体育館が使えることは本当に恵まれていると思います。どうしても場所が必要になってくるスポーツなので。
以前、この競技で活躍していた堀井和美さんが大学時代の時は、場所をなかなか確保できなかったので、外で練習していたと聞きます。
その時はアスファルトの上で練習していたようですが、そもそもサイクルフィギュアの自転車は室内用なので、タイヤの消耗も激しかったでしょうし、着地や転んだりすると大変だったと思います。
━━普通に乗って転ぶだけでも痛そうなのに、アクロバティックな技を繰り出している中で転ぶと尋常じゃない痛みがありそうですね。
佐藤 そうですね。痛いですし、失敗した技は「また落ちるのではないか」という思いから、挑戦するのが怖かったりします。
━━ただ、試合で高い得点を取るためには、そうした技の成功が必要になってくると思いますが、失敗はどのように乗り越えているのでしょうか?
佐藤 最終的には練習量でカバーするのですが、父のサポートがあるから乗り越えられているという面もあります。
失敗した技への恐怖心からその練習を避けている状況の中で、適当なタイミングで「この練習やってみろ」と父が提案してくれて、補助もしっかりしてくれます。
父の補助を信じ、少しずつ練習をし、克服しています。そういうことを考えると、父の支えは大きいと思います。
あとは、母の存在の大きさも最近になって気付きました。以前は母とずっと一緒にいると正直鬱陶しいと思うこともありました(笑)。
ただ、個人競技で、かつマイナーなので、そうした時に練習の送り迎えや試合の応援など一緒にいてくれる母のありがたみを感じるようになりました。
マイナー競技は支えられてこそ実現可能
━━家族の支えがあり、今の佐藤さんがあるのですね。佐藤 そうですね。自転車も高価で、私が使用している自転車も20万円以上します。普通の学生が簡単に買えるものではないので、そのような支援をしてくれる親には感謝ですね。
とはいっても、まだまだマイナーな競技ということもあり、胸を張って語ることができない自分もいます。特に以前は、サイクルフィギュアをやっていることをおおっぴらに公言しておらず、基本的には仲良くなった子に聞かれたら話す程度でした。
━━それはなぜですか?
佐藤 家に帰ると、「JAPAN」と書かれたジャージがあるのですが、普通の人が想像する「日本代表」は、サッカーやバレー、野球みたいなものが多く、一方でサイクルフィギュアは大げさに言うと、ちゃんと頑張れば日本代表や世界を目指せる競技なので、「すごいじゃん!」と褒められるのに対して素直に喜べず……。
━━肩書きに対して自分が釣り合っていないと感じるのですか?
佐藤 そうなんです。そういうふうに思ってしまい、自分からはなかなか言えない状況でした。
━━今はどうですか?
佐藤 今は世界選手権に出場すると大学がホームページに掲載してくれたりして、それを見た友達が応援してくれるので、「肩書きに負けないように頑張ろう」と思っています。
加えて、以前はただただ自転車に乗っているだけだったのですが、毎年世界選手権に行くと、トップレベルの演技を生で見ることができ、多くの刺激を受けます。
そこで刺激を受け、結果を残せないことに対して猛烈な悔しさを感じるようになりました。「世界選手権で通用するには、どのような練習をしていかなければならないか」を考えるようにもなりました。
━━年を重ねるごとに周りが見えてきたことで、自分の立ち位置を理解し、戦い方について意識するようになったのですね。
佐藤 やはり中学・高校くらいまでは、物事の価値というのがわからないですよね。だから自分がやりたいようにやってきてしまったのですが……。
ただ、大学に入り、家族に加え、連盟の方や大学の広報、学生部の方にすごく応援してもらえて、そういう人たちに支えられてこそのマイナー競技なので、少しでも期待に応えていきたいと思っています。
イメージトレーニングと100円寿司で世界と戦う
━━世界で戦う上で、ハイレベルのパフォーマンスを出すためにしていることはなんでしょうか?佐藤 毎日毎日サイクルフィギュアの練習をしていたら、たぶんここまで維持できていないと思います。なので、練習だけではなく、適度に休みを挟んで、自分の時間をつくるようにしています。
私自身、世界選手権に出ている一方で、国内ではまだプロというカテゴリがない競技で、「それ一本で飯を食っていける」のであれば全力でできるのですが、まだまだそういう状況でもなく、大学生という身分もあるのでバランス配分は難しいですね。
━━メンタル的なところでいうとどうですか?
佐藤 日本は世界的にはレベルが低いと思っていて、「世界選手権に出ることに意義がある」と自分に言い聞かせながら戦っています。
世界選手権の審判は、少しでも技がブレたら減点となるので、そこでいかに自分がやってきたことを出せるか……という気持ちで試合に望んでいます。
また、試合で自分の力を出し切るために、試合前はギリギリまで自転車に乗って練習することはせず、音楽を聞いて走ったり柔軟するなど体を温めつつ、あとはイメージトレーニングをするようにしています。
実際に去年の冬の大会では2回演技をする機会があったのですが、1回目が全くダメだったので、2回目に備えて自分の演技を十分イメージしたら、2回目の方が良い結果が出ました。
━━なるほど。ちなみに世界選手権では緊張しないのですか?
佐藤 どちらかといえば、日本の試合の方が緊張します。レベル的にも接戦が多く、お客さんも近いので。対照的に、世界選手権は自分との戦いになるので、孤独に置かれた方が戦いやすいですね。
━━一方で、スランプに陥る時もあると思うのですが、その時はどうやって乗り越えているのですか?
佐藤 ここ1ヶ月くらい前までずっと練習していた技がなかなか出来ず、練習が進まなくて苛立ちを覚えることもありました。
そういう時は、練習中は練習に集中して、それ以外はもう何も考えずにひたすらやりたいことをやるようにしていますね。
━━やりたいことというと例えば……?
佐藤 よく食べますね。お寿司好きなので100円のお寿司などをガンガン食べます。
ただ、競技の中で自分の腕だけで全体重を支える技などもあり、父には「もうそれ以上、体重増やすなよ」と言われますね(笑)。
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佐藤凪沙
サイクルフィギュア選手
2015年現在、京都産業大学の3回生(21歳)でありながら、自転車を使って制限時間内により難度の高い課題を、いかに正確に行えるかを競う室内自転車競技「サイクルフィギュア」で世界選手権に6年連続で出場している。
2015年11月20から22日まで、マレーシアで開催される世界選手権「UCI Indoor Cycling World Championships 2015」にも出場予定。
連載
全9回まで展開したカルピスの「ゲンエキインタビュー」では、様々なジャンルで活躍する現役の方々をゲストに、ロングインタビューを敢行。 声優の内田真礼さん、諏訪部順一さん、水瀬いのりさん、Pileさん、アニソンを中心に活動する歌手のLiSAさん、プロ棋士の橋本崇載さん、ラテアーティストの松野浩平さん、サイクルフィギュアの佐藤凪沙さん、プロレスラーの丸藤正道さんにご出演いただきました。 それぞれの来歴や仕事への意識、そして他ではなかなか聞けなかったら青春や初恋についてのぶっちゃけトークまで、カルピスを飲みながら赤裸々にお話いただきました!
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