1978-2 漫研のお姉ちゃんはなんでも知っていた
また、高校生だけあって、そのお姉ちゃんはいろいろなものを持っていました。『宇宙戦艦ヤマトサウンドトラック』(テレビのドラマをダイジェストで収録したもの)というLPレコードも、うやうやしく聴かせてくれました。帯には「君は覚えているか! ヤマトのあの熱き血潮を!!
」って書いていました!! 映画館で観た宇宙戦艦ヤマトを追体験できちゃうのです。ああ羨ましい。 さらには、もうすぐ公開されるスターウォーズの日本語ドラマ版LP「THE STORY OF THE STAR WARS」も持っていました。元はオールナイトニッポン特別番組として放送されたもので、ルークを神谷明。ハン・ソロを羽佐間道夫。レイア姫を潘恵子という、あれです。おおまかなストーリーは、事前に雑誌などでさんざん紹介されていたんですが、あの魅力的なSE(R2の声!)やテーマ音楽といった、LPレコードならではの発見がありました。
毎日のように彼の家に通いつめ、お姉ちゃんの話をむさぼるように聞きました。お姉ちゃんの言葉は、もはや啓示のようでした。「ザンボット3観てなかった? それはダメだね。あれは傑作」「だから、ダイモスもいいけど、実は6月から始まる富野監督の『無敵鋼人ダイターン3』に注目すべき」「『季刊ファントーシュ』って知ってる? アニメの専門誌があるんだよ」いま思えば、お姉ちゃんだって地方都市在住の高校生ですよ。それほど中身ある話ではなかったんだと思います。それでも、十分にワクワクさせてくれたんですよ。 また、お姉ちゃんからイベントの誘いを受けることもありました。「トリトンもいいけど、おすすめは『サイボーグ009』(白黒)。今度、ファン主催の上映会あるけど行く?」自分の知らない場所で、アニメファンたちが集い、日夜研究にいそしんでいる、というイメージに天啓を受けたのです。「自分も、この道を進むべきだ!」そして、上映会に同行! 完全に洗脳状態となっていったのでした。
その年の5月、ついに『月刊アニメージュ』が創刊(すでに『月刊OUT』、『ランデヴー』を読んでいた自分にはずいぶんと初心者向けに思えたけど)。そして、『スター・ウォーズ』の公開(いうまでもなく最高の体験でした)を挟んで8月にはSF雑誌『スターログ日本版』が創刊。そして、そして同月には、待ちに待った新作劇場版『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』全国ロードショー!! 盛り上がるアニメ、映画の情報の渦。お姉ちゃんという宣教師。それに呼応するかのような世間の波。これで、アニメファンにならないわけがないじゃないですか!!
8月5日『さらば宇宙戦艦ヤマト愛の戦士たち』全国ロードショー。前日の夜には劇場版『宇宙戦艦ヤマト』テレビ放送もあり。また、9月14日にはテレビ『銀河鉄道999』放映開始という、怒涛のムーブメントだった
すっかり、お姉ちゃん目当てで友人の家にいりびたる毎日。しまいには、友人の家族旅行に同行して仙台まで遊びに行く始末。その仙台のデパートで偶然にも開催されていたのが、ブーム需要を見込んだ「アニメフェア」なるグッズの即売会でした。今思えば、東映がのちにオープンするアニメショップ「アニメポリス・ペロ」のテストパターンだったのではないかとも思います。古い東映作品のセル画や、シナリオ、ポスターが販売されていました。オレはお姉ちゃんおすすめの『サイボーグ009』「Xの挑戦」のシナリオを購入して大興奮でした。
さらに、即売会で配布されていたのが、「この冬アニメファンのための雑誌『マニフィック』が創刊します! 予約受け付け中!」というチラシです。創刊号は、キャプテンフューチャーとガッチャマンの特集に加え、特撮映画史とやらもラインナップされているようでした。書店流通はなく、通販頼みの雑誌だったんですが、マニア志向だった自分はハートをわしづかみにされました。「渋いチョイスだ!! 買うしかない」そう決意し、旅行先にもかかわらず、その場で予約したのです。
「知らない価値」が続々発見できる面白さ。それが、当時の自分がアニメに夢中になった理由です。それは、当時の若者雑誌が掲げていた「サブカルチャー」全般に感じていたことと等価でした。「ロック」や「ポップアート」や「ニューシネマ」に並びうるジャンルとして確立した(そう感じていた)「アニメ」や「SF映画」。少なくとも自分はそう認識していたのです。
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Takayoshi Saito
構成作家/インタビュアー。テレビ、ラジオ、イベントの企画、構成。BMSKコンサルティングの研究員としてブランディングコンサルタントと、その一貫でアートディレクションも生業にしています。その他ゲームの企画、シナリオ、キャラクター研究家。京都精華大学、非常勤講師。オタクの学校@模型塾、講師。アクトオンTV「つくろうプラモNAVI」ナビゲーター。
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