実力派ボーカリスト・花たんインタビュー メジャー/ニコニコ/同人を横断する歌

有名ボカロP・OSTER projectとの共作

──今回のアルバム『The flower of dim world』では、90年代のアニソンをカバーされていますが、好きな音楽のジャンルはどんな感じなんでしょうか

花たん 今回のアルバムのコンセプトというのは、ロックやHR/HMな感じの楽曲を集めたものなんです。なのでカバーさせていただいたアニソンもロック寄りの楽曲から選曲させていただいたんですが、好きなジャンルにこだわりはないです。ロックが好きといっても、今作をつくるまでロックというジャンルが数えきれないほど細分化しているのも知りませんでした(笑)。

好きなアーティストさんも2〜3人はいるんですが、「この曲良い!」ってなったら何度も繰り返してリピートするタイプです。子供のころに観たアニメはやっぱり曲も印象に残っているので、今回は『ふしぎ遊戯』のED「ときめきの導火線」や『魔法騎士レイアース』のOP「光と影を抱きしめたまま」などを歌わせてもらっています。

『The flower of dim world』クロスフェード



──ボカロPとして黎明期から活躍されているOSTER projectさんがプロデューサーとして参加されていますが、OSTERさんはロック系ではないイメージがありました。

花たん そうなんです。私もOSTERさんは昔から知っていたんですが、おしゃれな楽曲が私の中で印象強かったです。けれど「花たんならこうやって歌ってくれるだろう」「花たんしかこれは歌えないだろう」という楽曲がたくさんあって、私の声に寄せて作曲してくれたのだと思います。

OSTERさんがボーカルディレクションをすべてやってくださって──でも実はすごく厳しい方で(笑)。いまの時代って楽曲をレコーディングした後も、かなり大胆に修正や編集ができてしまうんですが、OSTERさんは、それを絶対に許さないタイプで。私が自分で録音するときは、後で編集することを考えて、ニュアンス重視で歌うことが多いんですが、OSTERさんはそれを許さないんですよ。少しでも想定している音と違えば、そこが完璧なものに仕上がるまで、延々と歌わせられるんです! 大変だったんですが、自分の中で成長できたし、挑戦的だったし、変われたと思っています。

──信頼関係があるから突き詰めて作品づくりができるわけですね。OSTERさんとは昔からお知り合いだったのでしょうか。

花たん 昔から知り合いではあったんですが、2年前にOSTERさんが作曲・作詞の「狐ノ嫁入リ」という曲を歌わせていただいたところから仲良くしてもらっています。OSTERさんもすごく気に入って下さって、私もそこでOSTER projectさんってこんな曲もつくれるんだ! という驚きがあって。その後もいろいろ一緒にやらせていただいて、今回は念願のアルバム・プロデュースをしていただく形になりました。

✿狐ノ嫁入リ 歌ってみた



──音はロックですけど、メロディーがポップで、アニソンにも合うような曲が多いですよね。

花たん OSTERさんと一緒に、去年くらいからアニメやゲームの曲を歌えたらいいよね、と話していて。だからOSTERさんもそういった楽曲をたくさんつくってくれたのかなと。いつも二人で「いつかがんばろう!」という話はよくしています(笑)。

──『The flower of dim world』はシンガーソングライターの天野月さんや元ホワイト・スネイクのダグ・アルドリッチさんという豪華な作曲陣が参加している反面、最後の楽曲は花たんさんが作曲されているという構成も印象的でした。

花たん 担当さんから「お前が作曲をやれ」と言われて……。気合いを入れてDTMのソフトを購入したんですが、最終的にメロディーしか送れませんでした……。あとは編曲を担当してくれたいちにぃさんとsu-keiさんが良い感じに仕上げてくれました。楽器も小学校5年生までピアノを習っていたんですけど、不真面目過ぎたのか、特に身に付かなかったです。

ユリカ/花たんという二つの名前の秘密

──今作も含めて、これまでリリースした作品の名義は「ユリカ/花たん」となっていますが、二つの名前はどのように使い分けされているんでしょうか。

花たん ユリカという名前は同人音楽の方面で活動するときに使わせていただいたんですけど……でも最近は同人でも花たんという名前も使いはじめていて、結構適当になっちゃった感があります(笑)。本当はユリカという名義で活動したかったんですが、やはりニコニコ動画から入ってくれた人には花たんという名前が馴染みがあるみたいですね(笑)。花たんという名前で「歌ってみた」の動画を投稿しはじめたときは、こんなに多くの方に聞いてもらえるようになるとは全く思っていなかったので、「花たん」なんて適当な名前をつけてしまって……今は結構後悔しています。けれどこれまでのアルバムのタイトルには全部「FLOWER」と入っています。

──矛盾を孕んでいて逆に素敵だと思います(笑)。昔つけたハンドルネームを撤回するのは難しい問題ですよね……もともとインターネットはよくやられていたんでしょうか。

花たん そうですね。もともと中学校くらいから家にパソコンがあったので、インターネットはやっていました。ニコニコ動画ができた2006年、「歌ってみた」がまだジャンルとして認知されていないころから見ていました。いまでいう「歌ってみた」的な動画があることは私も知らなくて。当時のニコニコ動画は無法地帯で、アニメの動画がアップされていたりとか、そっちにばかり目がいってた気がします(笑)。いまも人気ですけど、ゲームプレイの実況動画が好きでよく観ていましたね。人がゲームしているのがなぜかすごく楽しくて。

──ニコニコ動画は、これまで数多くのクリエイターを生み出してきましたが、そういった中で、有名になるとニコニコ動画に投稿しなくなる方も多いです。一方、花たんさんもメジャーからアルバムを3枚を出されているのに「歌い手」としての活動をされていると思います。ニコニコ動画というサービスやユーザーには、どんな意識で向き合っていますか?

花たん 私は「歌ってみた」の動画を聞いて下さった方たちに育てていただいた、という感謝がまずあります。ニコニコ動画での活動を辞めて、外の世界にいくのは違うかなと考えていて。でも、ニコニコ動画はずっと在り続けるけど、前に進まないと、ずっとそこに止まるだけではいけないという気持ちもあります。これまでのようにニコニコ動画に歌をアップしつつ、いろんな場所で歌っていきたいです。

はじめてレコード会社からアルバムのオファーをいただいた時も、すでに「歌ってみた」のユーザーがアルバムをリリースするのが流行っていた時期で、周りからいろんな話を聞いていて「なんか面倒くさそうだな」という感想だったんですね(笑)。二社からお話をいただいたんですが、最初はどちらもお断りしようと思っていました──というかお断りしたんです(笑)。メールで直球で「嫌です」と返信したんですが、焼き肉が無料で食べれるよと誘われて(笑)。そこから半年くらい話し合いを続けて、最後に決心しました。

大きな野望もありはするんですが、性格的に面倒くさいと思ってしまって、CDを出すことになっても、自分がどこまで行けるかというビジョンもなくて……でもアルバムを1枚出すだけで「はい、良い思い出できましたね。さよなら」みたいになるもの嫌でした。だから担当さんに「1枚だけじゃなくて今後の将来も面倒みていただけるなら私、つくります!」みたいな感じでOKしました。

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