映画『箱男』8月23日(金)に劇場公開される。
この映画は、小説家・安部公房さんの同名小説を原作とした作品。監督は、安部公房さんから直接映画化を託された石井岳龍さん。
主演は永瀬正敏さん。その他にも佐藤浩市さんや浅野忠信さん、白本彩奈さんらの実力派俳優が名を連ねる。
公開されたポスターと予告編では、段ボールを頭から被った強烈なビジュアルが確認できる。
前衛的な作風で高い評価を獲得した小説『箱男』
安部公房さんは、『砂の女』や芥川賞受賞作の『壁 - S・カルマ氏の犯罪』 などでも知られる小説家。
『箱男』は1973年に発表された小説で、語り手が目まぐるしく変わり、時系列も前後する実験的で複雑な構造を特色とする。原作は、ダンボールの箱を頭から被り、その覗き窓から外を見つめて都市を彷徨う「箱男」の記録という構成。
見る/見られるという関係や、匿名性について考察する内容で、SNSなどで匿名の存在として他人を眼差す現代社会との親和性も高い。
一方の映画は、箱という鎧をまとい、完全な孤立、完全な匿名性を手に入れて一方的に世界を覗き見、「箱男」になったと豪語する「わたし」が主人公(永瀬正敏)。
そこへ箱男という存在を乗っ取ろうとするニセ医者(浅野忠信)や軍医(佐藤浩市)、そして謎の女(白本彩奈)が箱男を消し去ろうと登場。「本物」をめぐる戦いが始まるという内容となっている。
「メタルギア」シリーズのダンボールも『箱男』から
こうして映像化された『箱男』。予告編のアクションシーンを眺めていると、ある作品のことを思い出さずにはいられない。
その作品とは、ゲーム「メタルギア」シリーズ。潜入ミッション中に主人公がダンボールを被って敵をやり過ごす姿はおなじみのものだ。
実は、メタルギアに登場するダンボールは、小島秀夫監督が『箱男』に捧げたオマージュ。
小島秀夫監督は自身のXで「覗く側と覗かれる側の視点、隠れる側と見つける側の視点をゲーム上でリアルタイムに切り替えて欲しかった」と語っている。
幻となっていた映像化が安部公房生誕100周年で実現
このようにジャンルの枠組みを越境して様々なクリエイターに影響を与え続けてきた安部公房さんと『箱男』。
ヨーロッパやハリウッドの著名な映画監督も映像化を熱望していたが、安部公房さん側から許諾が下りず、企画が立ち上がっては消えることを繰り返していた。
そんな中、最終的に安部公房さんから映画化を託されたのは、『狂い咲きサンダーロード』でのデビュー以来、数々の話題作を手掛けてきた鬼才・石井岳龍さん。
安部公房さんからの「娯楽にしてくれ」という要望のもと、1997年に製作が決定。しかし撮影は突如頓挫。幻の企画となってしまった。
それから27年後、安部公房さんの生誕100年にあたる2024年、映画化を諦めなかった石井岳龍さんの手により、映画『箱男』は現実に。今回の映画で、そのエッセンスがどのように「娯楽」へと昇華されるのか注目したいところだ。
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