絶滅した動物たちを祀るためにある北極百貨店
本作は最終話で、物語の舞台になる北極百貨店が、人間が絶やした動物を祀るために建立されたこと。後に、動物たちが人間風の衣装を着て、人間の生態である大量消費の象徴である百貨店を体験できるテーマパークになったことが判明します。
そして、人間もすでに絶滅しているようなのです(絶滅種について書いてある手帳に人間も載っている)。
この事実を鑑みると、絶滅種を特にもてなすべきとしている北極百貨店のルールに含みが生まれます。自分たちのせいで絶滅した動物たちに奉仕する構図は、生前の関係の裏返しです。一種の贖罪であり、とても皮肉が効いています。
また、死してなお働く人間たちの姿は、大量消費を是としてきた“生態”を表しているようで薄ら寒い。
さらなるサプライズが、北極百貨店の外が広大な森であることが分かるラストです。主人公の秋乃が百貨店の外を伺いながら、いつもの笑顔で、接客してきた動物たちに思いを馳せるモノローグのあとに、洋々たる森の中にぽつんと北極百貨店が佇む見開き。ゾッとしました。
と同時に、ここに至って、秋乃たちの出自の説明や日常の描写が一切なかった理由がおぼろげながら理解できます。
彼女たちは一体どんな存在なのか? 北極百貨店は地球のどこかにあるのか? 人間の従業員の中でも事情を知っている者と、そうでない者(秋乃はこちら側)がいるのはなぜか? ぽつぽつと浮かぶ謎を、十人十色に解釈できるようにするためだったのです。
物語に一層の深みが生まれて、読者が面白さを見出すポイントが多層的になる最終話の演出はお見事でした。
絶滅した動物と、絶滅危惧種のコンシェルジュ
ということで、どうしても最後に分かる事実に頭が引っ張られるのですが、純粋に、秋乃の成長物語/お仕事ものとしても楽しめる絶妙なバランスで成り立っているのが、『北極百貨店のコンシェルジュさん』の良さです。
数多いるお客様をよくよく観察して困っている者を見極め、等身の低いお客様にはかがんで目線を合わせ、要望を十分に伺った上で半歩先を行くサービスを提供できる、確かなホスピタリティを身に着けていく秋乃。彼女の成長が地味ながら丁寧に描かれています。
スマホ一つであらゆるものが調べられて、好きに物を買うことができる今、アナログなサービスのコンシェルジュは現代的ではないかもしれません。一種の絶滅危惧種とも言えます。
しかし、最後まで読み通すと、2話で適者生存では説明できない生き残り方をしてきたものがあると語られる一幕が、よくよく思い出されます。コンシェルジュは環境に適してはいないかもしれないけれど、確かに必要とする誰かがいる。だから、あるいは──
この世から消えてしまった絶滅種を憂いながら、コンシェルジュという生き方の儚さを尊ぶような、皮肉っぽく、洒脱な毒っ気のあるラストの余韻。格別です。
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テーマは「漫画を通して社会を知る」。 国内外の情勢、突発的なバズ、アニメ化・ドラマ化、周年記念……。 年間で数百タイトルの漫画を読む筆者が、時事とリンクする作品を新作・旧作問わず取り上げ、"いま読むべき漫画"や"いま改めて読むと面白い漫画"を紹介します。
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