Live2D×実写で表現した“そこに居る”存在感「Live2D Awards」グランプリインタビュー

Live2Dで「キャラクターがそこに居る」を表現

──最初の待ち合わせに向かうシーンに代表されるように、現実と地続きな世界のような表現が印象的です。構想段階から重視されていたポイントなのでしょうか?


sokat 待ち合わせに向かうシーンは最初からイメージしていました。ただ、冒頭に持ってくるというのは、映像が半分くらいできた段階で決まりました。


まほうさんに「イントロこんな感じでどうかな?」と相談したら「いいじゃん!」って。結果的に、日常感のあるはじまりになったと思います。

冒頭、待ち合わせ場所の駅へと向かうシーン。画面奥にキャラクターが登場する。

──映像制作の経験は初めてだったようですが、技術はどのように習得したのでしょうか?


sokat 中学時代、VOCALOID(ボーカロイド)にハマった時に、自分もMVをつくりたいと思って映像ソフトの使い方を勉強しました。でも、作品をつくるところまでには至らず、知識だけはあるという状態だったんです。


──まほうしょうじょさんは、アニメーションをつくる側として編集のsokatさんにどんなイメージを伝えていたのでしょう?


まほうしょうじょ sokatが思い描いたものをつくってもらう方がいいと思ったので、基本的には彼の言うことを聞く姿勢でした。雰囲気の出し方とか、演出の引き出しはsokatの方が多いと思ったので、安心して任せられました。


sokat 今満面の笑顔で聞いてます(※取材はオンラインで実施)。ありがとうございます。


──今回の作品『海と休日』の審査員コメントでは「『キャラクターがそこに居る』を再現するための細やかなこだわり」と評価されていました。実際、カメラワークや構図、テンポ、アニメーションなど、随所に緻密さを感じます。

『海と休日』メイキング画面

まほうしょうじょ アニメーションという意味では、CGアニメーション感が強い動きにならないように注意しました。


一般的なアニメーションの場合、動かすだけじゃなく止めることでメリハリをつけるというか、止まることが許されていると思うんですが、Live2Dアニメーションの場合は、常に動かしていないと違和感が出てしまうんです。なので、ちょうどいい塩梅で、なおかつCGっぽく見えないようにこだわりました。


──確かに、動作の余韻を感じさせるような動きの丁寧さはとても印象的でした。


sokat 僕はそうやってつくられたものを、1フレームずつ実写映像に合わせていくという、とても地道な編集作業を頑張りました!


まほうしょうじょ 海と対面するシーンでは、カメラを上に向けて、そこから下がっていくとキャラクターの背中とその向こうに海が映るようになっているんですが、そこは本当にカメラの動きとアニメーションの調整を1フレームずつ、力技でやってもらいました。

実写背景とアニメーションの動きのズレに注意したというシーン

sokat 該当シーンでは、まほうさんが、髪や服が風になびいているキャラクターの後ろ姿を、Live2Dアニメーションでつくりました。僕はそれを、カメラの上下移動に合わせて画面下から自然に登場するように編集しています。


かなり細かくて地味な作業ですが、ちょっとでもズレると合成感が強くなってしまうので、念入りに作業を進めました。

『海と休日』メイキング画面

sokat また、冒頭の待ち合わせ〜2人で歩くシーンは、かなりカメラが動くので、ぼかしなどを使って“意図的に手ブレ感”を演出しているかのようにごまかしました(笑)。でも結果的に、キャラクターがそこにいるかのような雰囲気が出せたんじゃないかと思います。

若手も台頭、群雄割拠のLive2DシーンとVTuber

──アワード全体やLive2Dを取り巻く環境についても聞かせてください。今回「Live2D Creative Awards 2023」の応募作品で気になったものはありましたか?


まほうしょうじょ malinalliyさんの作品は公開された時から気になっていました。ピクセルが動いている感じがすごく可愛くて、ずっと見てられるんですよね。


ラビットモンスターさんの作品も衝撃的で、sokatと一緒にどうなってるんだ?!って言いながら見てました。

フューチャー賞:malinalliyさんの作品
ファイナリスト:ラビットモンスターさんの作品

sokat リアルタイムでピアノ演奏できる古都Lazさんのモデルもすごかったです。僕もピアノを弾くので、Live2Dでこんな表現ができるんだって驚きました。


以前からピアノを弾くVTuberを見たいと思っていたので、これを機に増えてくれたら嬉しいです。

──「Live2D Creative Awards」では2022年から高校生以下の部を設けて以降、学生の応募も増えているそうです。技術としてのLive2Dのハードルの低さ、使用するユーザーの技術習得の速さなどは感じますか?


まほうしょうじょ Live2Dはすごく始めやすいと思いますよ。


何かわからないことがあっても、ネット上にある解説や動画ですぐ解決できる。加えて、Live2D社さんとユーザーコミュニティが一体となって、あらゆる問題の答えを用意してくれている印象です。そういった点が、ハードルの低さに繋がっているんじゃないでしょうか。


若い人たちの勢いもあってか、シーンとしても盛り上がりを感じます。VTuberのLive2Dモデルを見ても、とても生き生きと動いているものがここ数年で増えていると思います。


──先ほどから話題に出ていますが、技術が活用される機会も多いVTuberシーンにおけるLive2Dについて、どうご覧になっていますか?


まほうしょうじょ わずかな表情の変化を読み取って、モデルに反映できるよう細かな調整が施されている部分に、ものすごい進化を感じます。


sokat 基本的なレベルが高くなっているんだろうなっていうのは、素人目に見てもわかりますね。


まほうしょうじょ ただ、クオリティの高いモデルをつくるにはお金も時間もかかります。なので、企業か個人か、資金力があるか否かといった面で、差が生まれつつあるというのはあるかもしれません。


sokat 今でこそLive2DモデルってVTuberの基本形態みたいになってますけど、以前はむしろ3Dモデルがメインでしたよね。今はLive2Dモデルで活動を始めて、3Dモデルがその上位進化のような位置付けになっていると思います。


個人的には、初期の3Dモデルに対抗する表現としてのLive2Dモデル、というのを見てきているので、3Dっぽい動きを目指すのではなく、3D表現に対抗できるLive2D独自の進化をしていってほしいなと思います。


──Live2D表現ならではの魅力は、どのような点にあると思いますか?


まほうしょうじょ 誤解を恐れずに言えば、原画の魅力をそのままアニメーション化できるのが、最も優れた点だと思います。原画を出力先に合わせて“描き直す”3Dや2Dのアニメーションではできないことです。


反面、僕自身は、Live2Dで動かすことで原画の魅力を崩してはいけない、という危機感を持ちつつ制作しています。


僕たちの今回の作品でも、イラストレーターのハナモトさんに素晴らしい絵を描いてもらったので、「まずハナモトさんに受け入れてもらえるものをつくらなくちゃいけない」と考えていました。

sokat 一般的なアニメって、デフォルメされたアニメらしい動きがあると思うんですが、Live2Dの場合はすごくヌルヌル動くというか、3Dとも実写ともまた違った独特の動きが特徴ですよね。


最初は違和感を感じていたんですが、慣れるにつれてそこに魅力を感じるようにもなりました。だからこそ、Live2Dの良さや特徴を維持できる範囲で生み出せる表現がもっと出てくると、シーンとしてさらに面白くなってくるのかなと思います。


──2人に影響されて「次は自分も!」と考える人たちが生まれてくるかもしれません。最後に、そんなこれからのクリエイターへメッセージをお願いします。


まほうしょうじょ やっぱり自分が楽しいと感じることを続けていくのが大事だと思います。僕は昔からアニメが大好きで、アニメをいっぱい見てきたことが、Live2Dに出会ってモーション制作をお仕事にできている今に繋がっていると思うので。


僕自身、2018年の「alive」に参加してすごく刺激をもらったので、今度は僕たちの作品でいろんな方に刺激を与えられていると考えると、すごく嬉しいですね。


sokat 偉そうな言い方かもしれないですけど、「ダメ元でも頑張ってみてください」と一番伝えたいです。思いついたけどやらないことがいっぱいあると思うんですが、やってみると良いことがあると思うんですよ。


今回、僕らはグランプリという結果に繋がりましたけど、そうじゃなくても、アイデアを形にするだけで得られるものってたくさんあると思っています。だから思いついたらとにかくつくる、第一歩を踏み出す癖みたいなのをつけていくと、良い影響が生まれてくるんじゃないでしょうか。


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