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ハチロク世代女子映画プロデューサーの、カンヌ映画祭滞在記☆ 最終回

ハチロク世代女子映画プロデューサーの、カンヌ映画祭滞在記☆ 最終回

映画祭期間中のカンヌの町並み

こんにちわ! QULTという会社で、映画プロデューサーをやっております、山中羽衣と申します。さて、私が映画プロデューサーとして初めて足を運んだカンヌ国際映画祭のあれこれを紹介するこのコラム。連載最終回となる今回は、そもそもなぜ私がカンヌ国際映画祭へと足を運ぶことになったのか、そしてカンヌ国際映画祭へ実際行ってみて、自分にとってどのような発見があったのかについて書いていきたいと思います。前編、中編をご覧になっていない方はぜひこちらこちらから読んでみてください!

カンヌへ行くことになったきっかけ

今回そもそもカンヌへ行く事になったのは、私が制作に携わった「夢を見た」という短編作品を出品することになったのがきっかけでした。

「夢を見た」 監督・脚本・編集:井上真行/プロデューサー:山中羽衣/キャスト:渡辺大知(黒猫チェルシー)、奥田恵梨華

元々、この作品は経済産業省の海外事業の一環として作られたものだったので、はじめからカンヌや他の国際映画祭で評価されることを念頭に置きながら作っていました。そういった思いを持って2012年の10月〜3月まで制作を進めていたのですが、結局カンヌ国際映画祭から声をかけられることはありませんでした。目標に置いていた映画祭の1つだったこともあり、実のところしばらく立ち直れずにいたのです。

でもくよくよしていても、何も始まらない。そこで、今後自分が映画を製作していく上でどうアプローチしていくか、その振る舞い方のヒントを求めて、内心挑むような気持ちでカンヌ行きを決めました。ちなみに、実際に現地で聞いた噂によると、映画祭関係者は各映画祭や各国の映画情報を事前にチェックし目を付けていて、どういった作品に声がかかるかなど内々に決まっていることもあるそうです。

ノミネート作品と出品作品の違い

さて、今回のカンヌ国際映画祭では、オフィシャルセレクション部門に20作品、短編部門に10作品がノミネートされました。よくニュース番組などでカンヌが紹介される際にも、このノミネートという言葉が使われますが、そもそもどういう意味なのでしょうか?

ノミネート作品というのは、映画祭の運営サイドが選出した、受賞の候補対象に入っている作品のこと。カンヌには毎年すごい作品数が応募されるので、倍率がとても高く、ノミネートというのはとても名誉のあることなのです。それに対して出品作品とは、カンヌのマーケットに制作サイドが自ら持ち込んだ作品のことを言います

そんな今年のカンヌでは、日本国内からオフィシャルセレクション部門として三池崇監督「藁の楯」是枝裕和監督「そして父になる」の2作品。短編部門として佐々木想監督「隕石とインポテンツ」という1作品がノミネートされました。

「隕石とインポテンツ」 監督・脚本・編集:佐々木想/プロデューサー:鈴木徳至/撮影:岩永洋/音楽:Open Reel Ensemble/キャスト:筑波竜一、野本かりあ、中村邦晃

実は、この「隕石とインポテンツ」と私が関わった「夢を見た」は、同じプロジェクトの一環で制作された作品でした。さらに同作のプロデューサーである鈴木徳至さんが同い年であったこともあって、ノミネート結果の発表時は悔しい気持ちでいっぱいでした。しかし、実際にカンヌの場で、世界中から集まった人を前に作品が上映されている様子を見て、同じ日本人として誇らしい気持ちになりました!

日本は世界に太刀打ちできるのか

そんなわけで「夢を見た」を携えてカンヌに足を運んだわけですが、特に感じたのは、ああ、日本はもう既に、映画の世界において経済的な優位さはないのだなってこと。これは、仕方ないことだなと思う反面、少し寂しい気持ちになりました。会場には国別にブースや建物があるのですが、そこに各国の経済状況が反映されていました。中国や韓国などアジア圏は大きなブースと豪華な冊子で展開されている反面、日本のブースはどうしたって控えめな印象なのです。それはもちろん国ごとの文化的政策の違いもあるわけですが、世界の中で日本の位置付けは確実に変わっているんだな、ということを肌で感じました。

国別に展開されているブースの施設。見てお分かりのように、日本の国旗は見当たらず、こちらではブース展開していませんでした。国が主催するパーティも、日本のものは今年からなくなったそうです

また、国ごとに色んな政策や業界の構造があって、それによって環境が違うというのは事実です。フランスでは文化助成が充実しているため映画が作りやすい環境にあるし、インドではボリウッドなど映画制作に特化した場で作品を大量に作れます。カナダや韓国は国をあげてロケーション誘致や映画祭企画を積極的に行うなど、自国の映画文化が盛り上がるような施策を打っていますし、ドバイではエネルギー資源からくる絶対的な資本力を使って、各国から映画制作者を招き映画文化の発展を促しているようです。実際、私も去年に韓国が主催するロケーションツアーに参加させてもらったのですが、ロケーション誘致にかける現地の方の熱量は、すさまじいものがありました。今回のカンヌでも、映画に対して積極的な国の作品の質はやはり高く、パルムドールを受賞するなど評価されている印象がありました。

『La vie d'Adèle』/監督:アブデラティフ・ケシシュ オフィシャルセレクション部門 パルムドール作品(フランス)

『SAFE』/監督:ムン・ビョンゴン 短編部門 パルムドール作品(韓国)

そんな中で、国ごとの課題も見えてきました。例えば、東アジアは経済的に発展してきているけれど、映画を制作するノウハウはまだまだこれから身につけていく段階。そのため、技術力の高い日本人監督を求めているのです。またヨーロッパでは、昨今のクールジャパンの影響もあってか、日本のアニメーションやマンガについて興味を持っている方が多く、日本の文化を愛して受け入れてくれる土壌があるわけです。落ち込んでいると言われている日本の映画業界ですが、その打開策は必ずしも国内のみで行う必要はありません。海外諸国が抱えている課題や興味に対して、日本だからこそ可能なアプローチの仕方があると気付けたのが今回の大きな収穫でした。

その一方で感じたのは、日本人の少なさ。カンヌには色んな国の映画祭関係者、バイヤー(映画を買い付ける人)、ディストリビューター(映画を配給する人)など第一線で活躍している人たちが集まります。けれど、その中にいた日本人の数はほんのわずかでした。実際に海外の映画関係者と話してみると、日本人からのアプローチが少ない、繋がる機会がなかなかない、ということを皆さん残念そうに口にしていました。実際に私の周りの映画関係者を見渡してみても、積極的に海外へ出て行こう、アプローチしていこう、という人は数少ないのが現状のようです。

当然と言えば当然ですが、映画祭期間中は世界各国の人たちがカンヌ周辺に滞在していました

積極的アプローチのススメ

では、実際に海外にアプローチしていくとどんなことがおこるのでしょうか。実はカンヌの滞在中、この連載のvol.2で書いたクラウドファウンディングの講義とは別に「映画業界をいかに生き抜くべきか?」という、今を生きる映画制作者がおそらく直面し続けるであろうテーマを掲げた講義が行われていました。そこで講演されていた、映画学校で教鞭をとりつつ、映画製作についてのコンサルティングを行っているSydney levineさんが何度も口にしていたのは、外の人に見てもらうことの大切さ。そして繋がる機会を自ら作っていくことの大切さです。

映画を作りたい人というのは、日本にも世界にも星の数ほど存在します。その上でlevineさんは、「類いまれなる才能を持った人はともかくとしても、作品が完成したら見てもらう工夫を行わなくては、次に繋がっていかないのだ」ということをしきりに言っていました。実際、私の周りでもとても素敵な作品を作ってるのに、より多くの人へ届けるためのアプローチを行っていないため、結果身の回りの親しい人にしか届かないまま、あまり人の目に触れずに終わってしまうケースがたくさんあります。そんな時に国際映画祭という場は、未知の人に評価される1つの機会として、そして新たに人と繋がるための機会として、とても有効に機能しているわけです。

カンヌ国際映画祭が発行する冊子内の講義要項のページ

その点で、カンヌへ実際行ってみて特に印象的だったのは、海外の人の押しの強さ!
偶然出会った方に「今から5分時間ある? これ僕の作品だから見てほしいんだ」とipadで歩きながらのプレゼンテーションーー俗にいうエレベーターピッチをされたこともありました。中国から来た大学生の男の子は自分の作品を積極的に売り込んでいたし、イタリアでテレビ局に勤めながらを映画をつくっている男性とは、ふと話したことがきっかけで、一緒にプロジェクトを動かし始めることになりました。みんな何とか次の機会を作ろうと、自分の作品を懸命にプレゼンする様子は、日本にはなかなかない光景です。

その他にも海外からカンヌに足を運び、実際に行動を起こしている人たちは、少なからず様々な映画祭に招待されて作品上映の機会を得たり、バイヤーと繋がったりしていました。そんな光景を目の当たりにして、結局日本人は、自分たちで自らの枠を勝手に設けているのかもしれないなあ、もったいないなあということを実感しました。

今後にどう活かしていくか

私が映画プロデューサーとしてやっていきたいことは、熱量を持った人がより自由に作品を作っていけるような環境をつくることです。自分自身も出来るだけ胸が熱くなるような、わくわくするような作品と出会って、それを広く届けたい。そのためにも、自分の頭の中に思い描いている風景をどうにか形にしようとする人たちと、たくさん出会いたいと思っています。

今、映画を作りたいと思った人が継続的に作品を作っていくことが困難な状況にあります。でもカンヌに行ってみて強く感じたのは、やはり文化や国の状況を越えて、良い映画は人の心に響くし、きちんとアプローチをすることで伝わる余地は十分あるな、ということ。そして、きちんと人に見てもらい評価されることが、次の作品の制作機会に繋がっていくというシンプルなことでした。

そんな私が今取り組んでいるのが、「JAPANSHORTS」という日本の短編映画を海外に発信していくということを目標の一つとして掲げているプロジェクトです。その他にも、日本の作品を海外で紹介していく機会をいくつか計画中です。まずは、海外の人たちに日本で作られている作品を知ってもらえるようなきっかけを作っていきたいと思っています。そして、日本の映画に関わる人たちに「海外ってなんか案外近いもんだね」と思ってもらいたい。

現在閉塞感に苛まれている映画業界の中で、「まだまだ出来ることはあるんだ」と周りにいる映画に携わっている人たちが思えるようなきっかけを作ったり、「よし作品を作っていこう!」という希望をを持った仲間が増えていくよう働きかけるということ。色々と試行錯誤しながらにはなりますが、今回のカンヌ滞在で気づいたことを糧として、少しずつでも今後の活動に活かしていきたいと思ってます!

今回は、3回に渡りカンヌの体験記をお送りさせていただきました。こうして振り返ることで、色々と今後を見つめ直す機会となりました。お付き合いいただき、どうもありがとうございました!!

山中羽衣 // UI YAMANAKA

合同会社QULT 代表

1987年生まれ。大学在学中に映画監督の岩井俊二氏のもとで手伝うようになった事が映画との最初の関わり。2011年3月早稲田大学卒業。同じ年の夏、音楽家まつきあゆむ出演、池田千尋監督の短編映画「重なり連なる」を初プロデュ―ス。井上真行監督「夢を見た」が最新作。形にする人と共に作っていきたい、という想いから2012年5月、合同会社QULT設立。絶賛、英語勉強中。

山中羽衣

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