「キズナアイ」の継承と革新、2つのXRライブ
──今回みなさんは、「NEWVIEW FEST 2022」の一環として渋谷スクランブル交差点で披露される、歌唱特化型AI・#kznのXRライブに参加されています。0b4k3さんは、Steve Aokiさんのリミックス曲「Movie Star ft. MOD SUN & Global Dan(#kzn & TeddyLoid Remix)」の演出を手がけるにあたり、どのような点を意識されたのでしょうか? 0b4k3 正直、僕はARライブに対して全然興味を持ててなかったんですよね。もともとヘッドセットをつけて没入してしまうVRを主に遊んでいたのもあるんですけど、「スマホの小さい画面でわざわざ何かやってもしょうがなくない?」と思っていて。でも今回ライブ演出のお話をいただいたときに、STYLYの機能がアップデートして、より場所そのものを演出に使うことが可能なARが制作できるようになったと聞いたんです。今回の#kznちゃんのXRライブの舞台となるスクランブル交差点でも、このアップデートのお陰で、これまでよりもちゃんと道路やビルといった地形や建物そのものを演出に使うことができる。
──現実世界の情報をより反映した視覚表現ができるようになったということでしょうか?
0b4k3 そうですね。建物を検知してその物陰に隠れるから、#kznちゃんがそこにいるだけで正直もうだいぶ面白いんですよ。 0b4k3 また、VRは視界全体で体験するという性質上、多くの映像作品で用いられているようなエフェクトと相性が良くない場合があるんです。だけど多くのARはスマートフォンの画面で観るものだから、VRと違って“画面”と解釈することが可能なんですよね。
なので、そういったVRと相性が悪そうなエフェクトだったり、例えばアニメや映像作品などで使われてきた表現手法だったりが比較的応用しやすいと思うんですよね。そういった演出を効果的に使えているのも、今回のXRライブの見所のひとつだと思っています。
──一方、Kamuiさんが#kznをフィーチャーした楽曲「what am I feat. #kzn」は、JACKSON kakiさんが演出を手がけています。制作にあたり、お二人はどのような点を意識されたのでしょうか? Kamui 「what am I」はブレイクコアと呼ばれるジャンルの楽曲なんですが、キズナアイさんをベースにした合成音声をブレイクコアに落とし込むとすごい違和感があるんですよ。水と油っていうか。それが面白い。
だから、いかにその違和感・無機質さを引き出すかってところで、エフェクトやグリッチ、オートチューンなどを使って、これまでの#kznと全然違うアプローチを試みたんですよね。そもそも俺に依頼する時点で、多分そういうものを期待してるんだろうなというか。
0b4k3 僕が参加した「Movie Star」の方は、TeddyLoidさんのリミックスによって日本的でキャッチーな仕上がりになっているからか、どちらかというとキズナアイさんの面影を感じさせるような楽曲になっていますよね。
原曲とはまた違った、ポップでカッコよくて、とても好きなリミックスです。演出も頭に浮かびやすかったですね。
JACKSON kaki「キズナアイはほぼlainみたいな存在」
JACKSON kaki 僕が最初にプロデューサーからお伺いしたのが、「#kznというものに新しいイメージをつくってほしいです」ということでした。なので「ちょっと怒られるぐらいのことやるか」って思ったんですよね(笑)。それでいろいろアイディアを練っていたら、Kamuiさんから「楽曲の雰囲気をブレイクコアっぽくしたい」と聞いて。ちょうど僕自身も、海外のブレイクコアのプレイリストを流していたんですが、『Serial experiments lain』(※)をサンプリングしたような楽曲をよく見かけていたんです。思えば、#kznやキズナアイさんってほぼlainみたいな存在だよなって。
(※)編注:1998年に発表されたメディアミックス作品。オンライン社会の集合的無意識などをテーマにしている。
JACKSON kaki そういった解釈から、現代っぽいムードやインターネット文化に親しい海外のオタクたちにも通ずるような何かがつくれたら面白いんじゃないか。
もしかしたらパッと見は「情報量、多!」って感じられるかもしれないけど、「なんかインターネットで見たことあるぞ」「何か今っぽいな」っていうイメージを通して、世界中が繋がっていけるような演出になったら面白いんじゃないか──そんなことを考えて制作しました。 Kamui モーションキャプチャの現場でも、かなり熱く意見を交わしました。
モーションキャプチャに携わるスタッフはある種、命を吹き込む仕事をしてるのに、今回の俺が作った「what am I」は無機質さをテーマとしていて、それをJACKSON kakiくんがさらに解釈している。
JACKSON kaki 僕も向こうも、自分の領域で最高の仕事をしようとしていて。プロ意識をすごい感じました。
Kamui 結局「#kznは生まれたてだからそもそも空っぽじゃん」っていうところで一応お互い落ち着いた。
JACKSON kaki ストーリーも、最終的には「成長」に紐付けていて、空虚だけどハートフルな形にしています。僕は『Serial experiments lain』を究極のハートフルストーリーだと思ってるんですよね。一見もしかしたら冷たいとか、空虚だなって感じるものが実はすごくハートフルに見える。僕はそういう感覚を大事にしたいと考えています。
Kamui 結果的にKizuna AI Inc.の人たちも「良かった」って言ってましたね。
JACKSON kaki うん、モーション自体もすごくいい感じに撮れましたね。
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