S.S.ラージャマウリ×小島秀夫対談 インド映画『RRR』を通じて共鳴した創作論

S.S.ラージャマウリ×小島秀夫対談 インド映画『RRR』を通じて共鳴した創作論
S.S.ラージャマウリ×小島秀夫対談 インド映画『RRR』を通じて共鳴した創作論

S.S.ラージャマウリ監督と小島秀夫監督

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日本でも熱狂の渦を巻き起こした『バーフバリ』シリーズを手掛けたS.S.ラージャマウリ監督の最新作『RRR』が、10月21日より全国公開中。

今回、インド映画史上最高の製作費7200万ドル(約97億円 ※2022年8月時点)を投じた本作を引っ提げ、ラージャマウリ監督が来日。『DEATH STRANDING』で知られるゲームクリエイター・小島秀夫監督との夢の対談が実現した。
1分でわかる映画『RRR』
『RRR』は、1920年・英国支配下のインドを舞台にした英雄譚。英国軍にさらわれた少女を救わんとするビーム(NTR Jr.)と、英国政府の警察として生きるラーマ(ラーム・チャラン)。運命に導かれて出会った男たちの壮絶な生き様を圧倒的な熱量で描く。

劇中のビームとラーマのように、共鳴し高め合うラージャマウリ監督と小島監督。貴重なものづくり対談をお届けする。最後のプレゼント企画もお見逃しなく。

取材・文:SYO 編集:恩田雄多 写真:寺内暁

【画像】映画『RRR』の熱量感じる場面カット

目次

ラージャマウリ「10分ごとに何か盛り上がるポイントを」

──小島監督は『RRR』発表時に「これは観るしかない!長くても観る」とツイートされていましたね。 小島秀夫 結果的に長くありませんでした(笑)。ただやっぱりインド映画=長いというイメージがありますよね。だいたい3時間以上あって、途中にインターミッション(休憩)が挟まる形式が多い。

『バーフバリ』のように日本に来るとカットされる場合もあって(編注:『バーフバリ 王の凱旋』は141分の「国際版」ののち、167分の「完全版」が公開された)、本当は3時間半くらいあるものが3時間くらいになっていることもありますよね(編注:『RRR』はオリジナルが187分で、日本版が179分)。

──「長さ」に逆行する時代の流れとして、ファストなものが求められがちな傾向があると思います。ラージャマウリ監督はそういった中で、飽きさせないためにどんな工夫をされたのでしょうか?

S.S.ラージャマウリ まず「長さ」に関してですが、実際のところ、尺の問題ではないと思います。いまはなんとなく「2時間以内」が標準になっていますが、肝心なのはどういう筋運びをするかではないかと。

本来、ストーリーに応じて尺が決まるべきですよね。それは、映画のレベルを指し示すものでもあります。観客の皆さんが深く入り込んでいたら、時間のことなんて考えないはず。つまり、どれだけ登場人物やストーリーに共感できるかが重要で、そこでつながりを持てなかったら1時間でも観るのは苦痛になるのではないでしょうか。

では、どうやって観客を没頭させるか? まずは、最初の10~15分でキャラクターを好きになったり、何らかに感じるものがあったりして「この人とこれからの旅路を共に行きたいな」と思わせること。そして私のスタイルとしては、10分ごとに何か盛り上がるポイントを設けるようにしています。

S.S.ラージャマウリ監督

小島秀夫 尺という意味での実時間はあくまで業態で、重要なのは体感時間ですよね。例えばハリウッドは、2時間で回して稼ぐという(劇場)ビジネス上のフォーマット=業態がある。それがインドでは、3時間や4時間で回すのが当たり前で、その中で物語をつくっているだけ。

ただ、体感時間は必ずしも実時間に一致しないものです。3時間を10分に感じる映画もあれば、ドラマだと45分くらいでつないでいく形だからクリフハンガー(物語の終わりに視聴者が続きを観たくなるような“引き”となるシーンを入れる演出法)が出てくる。つまり、媒体によってつくり方は変わるもので、いわゆる良い物語は体感時間で語るべきだと思います。

小島秀夫監督

ゲームでいうと、昔はクリアまで60時間以上ないと怒られる時代がありました。当時は「何時間でクリアできるか」を問われて、それで値段を決める流れがありましたが、いまはそんなことは関係なくなっている。60時間プレイできない人もざらですしね。

物語をつくるときというのは、「どういうものを伝えるか」と並列して「メディアが何であるか」を念頭に置きながら取り組むものなんです。

小島秀夫「これぞストーリーテリング」英雄のド派手な出会い

──体感時間でいうと『RRR』は一瞬ですよね。それを成し遂げている理由のひとつは、アイデアの豊富さではないでしょうか。橋を舞台にした序盤の救出シーンは「こんなの観たことない!」とワクワクしました。

S.S.ラージャマウリ いま挙げてくださったビームとラーマの出会いのシーンでは、もう観客はビームとラーマが良い人/優れた人であることはわかっていて、両者がいずれ対立することも感じ取っている。

とすると、観る側からしたら「どうやって対立していくのか?」を期待するはず。そこに応えたいと考えました。2人の出会いが、コーヒーショップでお茶を飲んでいるものでもいいのですが、どうせだったら思いっきりド派手にしてやろうと思って(笑)。
映画『RRR』ビームとラーマの出会いのシーン
また、この2人がどれだけ熱い思いを持って、共通のゴールに向かって進んでいるかということも示したいと考えていました。それぞれが国に対してやっていることが、ここでは少年という形で描かれる。

結局、困っている対象が国なのか少年なのかの違いだけなんです。「少年を救う」も「国を自由にする」も、ふたりが手を合わせれば、犠牲を生むかもしれないけどその目的を達成できる。

小島秀夫 対岸と橋の上にいて、その中心に位置する川に少年がいる。2人の「別の立場」を表しているのは明らかで、ビームとラーマが別々の行動をしながら協力して少年を助ける。それをロープで繋ぐ。最後にそこで初めて手が触れ合うんですよね。その後、ダンスをして友情を高めて、最後に肩車をして一体化する。これぞストーリーテリングというか、構造が素晴らしい ──身体的な“触れ合い”が、要所で登場しますね。

小島秀夫 ラストで炎と水の神となった両者が同じ方向を向いて戦うという部分もそうですね。非常に意図的だと感じました。

また、オープニングで『RRR』というタイトルが出るところで、水と火が出ていますよね。これが後々の“前振り”になっている。

水と火はビームとラーマを象徴していて、水に飛び込むシーンが用意されていたり、槍を渡すシーンにつながっていて非常に上手いなと感じました。出会いのシーンも、火と水が描かれていますよね。

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