倉田健次 いやいや、劇中劇のところでバリバリご協力いただいたじゃないですか!(笑)。一つの劇中劇を約7~8つのシークエンスに切り分けたものを演出し直していただきました。
もともと僕らが脚本の段階で物語をかなりコンパクトに切っていたものを「演出していただけますか?」とお渡ししたので、だいぶ無茶を言ってしまっていましたが。
──『エーステ』を経験した上で『エームビ』を観ると、小劇場としてふさわしい世界観にまとめられているのかなと感じました。
松崎史也 そうですね。本来のMANKAI劇場がこのくらいだろうというのもありますし、物語を劇場のサイズにフィットさせるのがそもそも演出家の仕事のひとつなので。
むしろ(自分の演出家としての)ホームが小劇場だったのもあって、そういう作業は楽しいから、映画で特別何かを演出した記憶がないんです(笑)。
倉田健次 それでも『エーステ』は、映画でつくったセットの3~4倍くらいはあるんですよね。そこからコンパクトにしていただいたので、だいぶ無茶振りだったなと思います。
松崎史也 いえいえ、演劇はいつもああいうものです。生で観るのとは違う、映画らしいダイナミックさにワクワクしましたし、すごく素敵な映像にしてくれて本当に嬉しかったです。 倉田健次 『エーステ』の公演もカメラで撮って編集したものは存在しているわけですが、それが(映画版で)小さいセットになったら、同じ手法でやってもあまり意味がないんですよね。僕は本物の舞台を堪能したいなら『エーステ』を観ていただくのがいいと思っているので。
たとえば“客席をバックにした舞台の映像”は実際の劇場では見られない画角なので、そういうところで彼らが頑張っている描写を入れました。あと、狭い場所だからこそのダイナミズムが出しやすい面もあったんです。
春組の場合は舞台が構築されていく様がよりわかるように構成を置いているので、劇中劇でも引きのカットを多めにして舞台感を味わえるようにしているんですけど、春夏秋冬と物語が進むにつれて、見え方が変わるようにはしています。
劇中劇は『エームビ』でもキモになる部分ですし、冬組までいくと舞台っぽい部分を敢えて抑え、より劇映画的な撮り方に切り替えたりもしていますね。舞台チームと映像チームの融合が上手くいった部分だと思います。
倉田健次 水戸黄門じゃないですけど、いままでいろんなことがありつつ、最後に「ドン!」と見せられれば気持ちがいいですし、ストーリー自体が公演に向けて頑張ってきたものになっているので。最後のご褒美じゃないですけど、みんなにとっても幸せな公演になってほしいなと。
舞台のキャラクターを“リアル”な物語として撮る
──ステージと映画では見せ方や演出が異なりますが、かなりお二人の間で話し合いをされたのでしょうか?松崎史也 いや……僕は本当に全部お渡ししただけで、映画は倉田監督とチームのみなさんがつくったものと言っていいと思います。演劇ではじまったものを、映画ならではの表現で突き詰めてもらったことは、メディアミックスとしてすごく幸せだと思いました。
遠慮気味だったり、あるいはエゴ全開だったりしたら良くないものになったと思うんですが、僕自身も手放しでお任せできる方々だと信頼していましたから。
倉田健次 企画や脚本の段階からいろいろと相談していましたが、基本的には背中を押していただく関係でクランクインできてましたね。先ほどお話した劇中劇だけでなく、本編のドラマパートも僕としては舞台感を少しだけ残しています。
この映画を安っぽいものにしたくなかったんですよ。作品自体はすごく豊潤というか、精神面がとても豊かな作品ではあるけど、見た目でいうと現実にはあまりいない髪色の人物がいます。
それをそのまま撮ってしまうと安っぽくなる可能性があったので、リアルに生きている人間として描きたかった。組ごとに撮影の仕方も変えていますが、映像の質感を含め、できるだけ豊かな画づくりを目指しています。 松崎史也 それは画面からすごく感じました。
倉田健次 本当ですか? 良かったです(笑)。こういう作品だと、インパクトを強める撮影の仕方もあるとは思うんですが、カット数を減らして一般的な日本映画でもあまりやらないくらい丁寧に照明をあてています。
彼らがただそこにいるだけじゃなく、その場所で生きていると感じられたなら、照明や画づくりのおかげかもしれません。劇中劇でもカメラワークや照明を変えても成立するよう、両方のバランスも重要だったと思います。
──たしかに髪色やビジュアルは一見すると浮いてしまいそうですが、実際の映像を観ると、きちんと物語の世界と一体化しているなと感じられました。
松崎史也 根っこの部分での倉田監督の気遣いと技術ですよね。だから僕は、本当に監督の話をずっと聞いていたいんですよ!(笑)。技術的にどうなっているのかとか、『エームビ』の解体新書を発売してほしいくらい。どうやって映画にしたのかはめちゃくちゃ興味あります。だってすごいから!!
倉田健次 (笑)。必要なことをやっていただけなんですが、何をどうやったかは意外と忘れているんですよね。聞いていただければ思い出せるので、松崎さんとのトークを書籍化したらいいかもしれません。
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