『MANKAI MOVIE「A3!」』監督×舞台演出対談　2.5次元を牽引「エーステ」映画化の舞台裏

二人の監督が見た、役者たちが成長する瞬間

──『A3!』は、役者の成長を“監督”の立場から追っていく物語です。その立場に最も近いお二人から見て、役者の成長はどんな瞬間に感じるのでしょうか？

松崎史也　舞台の場合は本番前に稽古があるので、その期間中に何度も目撃してますね。稽古中に演技が突然良くなるとか、別の現場に行っていた人が戻ってきたら「こんなこともできるようになったんだ！」とか、10人いれば10人違うんですよ。演出家はそれを見続けて楽しむ仕事です（笑）。

倉田健次　面白いですね。映像だと本読みがあるかないかくらいで、事前にキャストとの触れ合いが少ないんですよ。

今回の映画は撮影前、『エーステ』新キャストの高橋くん（碓氷真澄役・高橋怜也さん）のための春組ワークショップを見せていただいただけで、みなさんとはほぼ現場で初めましてでした。みなさんのほとんどが『エーステ』に約3年出演されているので、むしろ力をお借りする場面が多かったです。

でも、映像では舞台とは違ったお芝居をしないといけない場面もあるんですよね。たとえば誰にも聞こえないような声で独り言を言う場面なら、舞台ではある程度声を張らないといけません。そういう面で、彼らも試行錯誤していました。 ──役者に迷いが生まれた場合、どのように進められるのでしょうか？

倉田健次　『エーステ』の経験が、逆に“芝居の形から入る”感じが出てしまう場合は、もう一回キャラクターとキャストさんご自身としてのお芝居をなじませていただくよう、少し時間を置いたりしましたね。そうすると一気に変わるんです。

みなさん誠実で真面目だし、勘がいい方も多かったので、僕からひとこと言うだけですごく良くなって。僕はそれを見るたび、松崎さんの存在を感じてました（笑）。これまで松崎さんがみなさんと丁寧にお芝居をつくってきた証拠だなと。こんなに素晴らしいキャストの方々はそうそういないですし、楽しかったです。

──『エームビ』の物語の中で、“役者あるある”を感じることはありますか？

倉田健次　いっぱいありますよね（笑）。

松崎史也　そうなんですよね。たとえば（皆木）綴が脚本を一生懸命書いて倒れちゃうとか、自分の書いた脚本に思い入れがあるせいでセリフが上手く言えないとか、すごく「あるなあ……」と思います。

倉田健次　僕も脚本家でもあるので、綴くんのあの状態にはものすごくシンパシーを感じます（笑）。必死に書いてボロボロになりつつ、みんながどう動くのか心配だったり、自分は自分で思い入れが強すぎたり……とか、演出しているときにもありますから。 松崎史也　あとは演劇自体の“あるある”かもしれないんですが、（碓氷）真澄は最初から殺陣が上手くて、相手役の（佐久間）咲也が上手じゃないことにイラつくみたいな場面は、僕らの若い頃にもありました。いまは無いわけじゃなく、そういう現れ方をしなくなっているだけで、良いものをつくりたかったらそうなるんですよね。

そうやって一緒に稽古して、できない子が引っ張り上げられて成長して、そしたら衣裳が出来上がっていてわーっとテンションが上がって劇中劇へ……っていう今回の映画の流れ、最高じゃないですか!? あそこは何度見ても泣きます、私。

倉田健次　ありがとうございます！ ゼロから舞台をつくり上げていったからこその気持ちよさですよね。みんなでつくったものが結実する、そんな作品全体のテーマが凝縮されたシークエンスにしたつもりなので、お芝居を知らない人にも伝わるといいなと思ってます。

『エーステ』と『エームビ』における役者たちの変化

──今作のストーリーや演目は、2018年の『エーステ』で披露されているものですが、当時と比べて演者が変化・成長したと感じた部分はありますか？

松崎史也　やっぱり演劇の最大の魅力で最大の弱点は“残らないこと”だと思うんです。あの空気感が残らないからいいし、残らないから寂しい。でも、フィルムってその場の空気までもパッケージしてもらえることが本当に素敵だなと。

今回の映画でも、演技の出力を映像にフィットさせていたり、あるいは少しだけはみ出している部分を倉田監督が残してくださったりしているなと感じました。ここはアドリブなんだろうなとか、テストのときのアドリブが良かったから残してくださったのかなとか、彼らの中にも“役”がありありと感じられるところに、変化や進化があるなと思います。

倉田健次　僕はすべての『エーステ』の公演を観られていないんですが、咲也くん（演：横田龍儀さん）や（向坂）椋くん（演：野口 準さん）みたいな繊細なキャラクターは、映像の方がより表現しやすいんです。

声を張らなくていいし、より自然に表現できるから舞台よりも目立ちやすくなるかもしれない。もちろん舞台でも目立っていましたが、いわゆるアッパー系のキャラクターと並ぶくらいになったのは、ある意味で『エーステ』との違いですね。

アドリブに関しては、テストで出てきたものを「これでいきますよ」って2つくらいに絞っておかないと、どんどんアイデアが出てきました。みなさんやっぱり舞台の感覚も強いので、それを優先しすぎると戻ってこられなくなる（笑）。それはそれで楽しかったんですが。 松崎史也　（斑鳩）三角（演：本田礼生さん）とかシトロン（演：古谷大和さん）のあの感じを、映像でちょうどいい感じに残してるのはすごいですよ。

倉田健次　いやー、シトロンさんは「これにしますからね！」って言わないと毎回変わるので（笑）。三角くんはアドリブというより、相談して出してくるという感じでしたね。本当にキャスト全員とのやりとりがみんな個性的で、とても楽しく撮らせていただきました。

──それでは最後にファンや読者に向けてメッセージをお願いします。

松崎史也　これはもう機会があるごとにお伝えしたいんですが（笑）、本作は『エーステ』を応援してくださった方に自信をもってお届けできる素晴らしい映画です。『エーステ』に興味はあったけど観たことがない方にも、一から触れていただけるチャンスになると思います。

舞台を原作にして映画をつくっていただくのは本当にすごいことですが、これもファンのみなさんが応援してくださったから、そして役者たちがここまで頑張ってきたからだと思います。とにかく観ていただいて、この嬉しさを共有しましょう！

倉田健次　この映画で僕がやりたかったのは、ファンの方に楽しんでいただくのは当然として、『A3!』というタイトルが持つ、今の時代に大切な“頑張る気持ち”だったり、自分が自分であるために何をして生きていくのかという想いです。

舞台や2.5次元というところを抜きにしても、ぜひ素直な気持ちで観ていただきたい。『A3!』や『エーステ』はそうそう出会えない素晴らしい作品だと思うからこそ、真摯につくらせていただきました。ここに込められた美しい思想や意味を感じ取っていただけたらいいなと思っています。 ©️2021 MANKAI MOVIE『A3!』製作委員会