『ジョジョリオン』論 前編──回転と重力、ジョースターとディオの系譜

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自由と保守 ジョースターの思想と、ディオの思想

それでは「最強のスタンドもう出ちゃったしなんなら主人公サイドでその能力保持しちゃってるじゃん」という状況の中、続く第4部「ダイヤモンドは砕けない」でどんな困難が待ち受けているというのでしょうか……という話にいく前に、③自由と保守の対比について解説します。

「ディオの系譜」というのは実はとても保守的です。保守的というと豪快なディオのイメージと異なるかもしれませんが、「永遠の命を得ること」「世界を支配すること」「恐怖を取り除くこと」どれをとっても、伝統主義で、基本的に変化しないことを求める思想です。

対するジョースターの思想は、その逆を考えればだいたいイメージ通りになります。「今を生きること」「自由を求め冒険すること」「勇気を持つこと(怖くても頑張ること)」など、変わり続けることこそが生きることだ、という考え方です。生きること自体への疑いを持たない「人間讃歌」とも呼ばれていますね。

さて第4部のラスボス・吉良吉影ですが、スタンド能力を目覚めさせる石の矢こそ出てくるものの、血統的にはディオと関係ありません。ではなぜ彼が「ディオの系譜」なのかというと、彼はある意味ディオ以上の保守主義者だからです。

「吉良吉影は静かに暮らしたい」というサブタイトルからも分かるように、彼の最大の行動原理は「心の平穏」です。

タチが悪いのは「心の平穏」を手に入れるためなら倫理を越えた行いもするところで、正体がバレた相手を始末したり、身を隠すために他人の家族に紛れ込んだり、保守的どころかもはや排他主義者です。

その最たるものが彼のスタンド能力の一つ“バイツァ・ダスト”で、吉良吉影の正体を知る者に憑依し、その人物から吉良吉影の情報を知ろうとする者を爆殺&時間を巻き戻し(時間を爆破し)、巻き戻った後の世界でもう一度爆殺を再現するという、自分が平穏な生活を手に入れるためなら完全に手段を選ばない能力です。

そんな“バイツァ・ダスト”を打ち破ったのは、吉良吉影が紛れ込んだ家族の本来の息子である川尻早人という少年です。

もちろん最終的に吉良吉影を下したのは主人公である東方仗助や第3部の主人公だった空条承太郎なのですが、『ジョジョ』において「少年」という存在は非常に重要な役割を果たします。この川尻早人もそうですし、後述する第6部に登場するエンポリオという少年もそうですし、第8部に登場する東方つるぎもキーパーソンになります。より具体的に言うなら、少年の成長が物語の行方を左右する、と表現しても過言ではありません。

というわけで第4部は元々群像劇に近い物語の性質もあり、少年や仲間の力とともにラスボス吉良吉影を打ち破りました。

『ジョジョ』における善悪の境界はどこにあるのか

続きまして第5部「黄金の風」……の物語に行く前に④利他主義者と利己主義者、すなわち『ジョジョ』における善悪について書いておきます。

『ジョジョ』の主人公が一般的な意味で善人かどうかというと、そうでもありません。空条承太郎は不良ですし、東方仗助なんかは実際に岸辺露伴からスタンドでお金を騙し取ろうとしていますし、第5部の主人公であるジョルノ・ジョバーナもギャングで、おまけに血筋だけでいうとディオの遺伝子を受け継いでいます。

では『ジョジョ』における善悪の境界線は何か? それは、自己中心的であるかどうか、自分のためなら他人を踏みにじってもいいと考えているかどうか、この一点に尽きます。他人を犠牲にするという行為に罪悪感を覚えない人間(サイコパス)や、そもそも自分の行いを悪いことだと自覚していない者が最悪の悪として描かれています。

逆に言うと、自己中心的でなければ不良やギャングであろうと主人公足りえるということです。正義や善は、力(スタンド)を持つ者の戒め、ブレーキとして機能しています。

特にこの第5部「黄金の風」で描かれるのは「他に道がなかったからギャングになった者たち」や「ディオの血を引いていながら正義の道を歩むジョルノの姿」であり、悪の中の正義というかアンチ血統主義(擬似家族)というか、スタート地点からこれまでの常識とは逆転した立場で物語が始まります。「敵サイドも苦悩、成長する」という描写もこのあたりから顕著になってきた印象を受けます。

そんな第5部のラスボスであるディアボロのスタンド能力は「自分以外の時間を飛ばし、そこで起きた結果だけを残す」というものです。ディオの能力を「今の時間を止める」、吉良吉影の能力を「時間を過去に戻す」とすると、ディアボロの能力は「時間を未来へ進める」といったところでしょうか。相変わらず「時間を操る」系統の最強格スタンドの一つです。

ではいったいどうやってそんな最強のスタンドを打ち破ったのかというと、「矢」を用いてスタンド自体をその先の段階へ進める、スタンド能力そのものを支配する能力をジョルノが手に入れる、というものでした。作中の言葉を借りるなら「全ての生き物の精神を支配する力を持つことになる」というものです。スタンドによってスタンドをメタるのではなく、スタンド能力(精神)自体をメタる力です。

……えー、ついにスタンドの上位互換まで登場してしましたが、ここから更にとんでもないものが登場し続けるのが『ジョジョ』という作品です。

続く第6部「ストーン・オーシャン」は色んな意味で『ジョジョ』におけるターニングポイント……なのですが、冒頭で述べた「宇宙ステーション」の答え合わせを先にしておきます。(後編はKAI-YOU Premiumにて公開中)

後編に続く

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岩永亮祐

文筆家

1988年生まれ。コラムニスト、関西在住。漫画、映画、小説等に傾倒…していたが、最近は『スプラトゥーン』にハマり過ぎてプレイ時間は余裕の1000時間超え。趣味で作曲も嗜む。プロフ画は、人生初の女装である。

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