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“誰も置いていかない“大石昌良の流儀 「弾き語りの限界を越えた」ライブレポート

POPなポイントを3行で

  • 「大石昌良の弾き語りラボ」レポート
  • 「KAI-YOU Premium」連載の対談取材を担当するライターが潜入
  • 「弾き語りの限界を越えた景色」とは?
“誰も置いていかない“大石昌良の流儀 「弾き語りの限界を越えた」ライブレポート

大石昌良 撮影:大参久人

大石昌良の弾き語りラボ」は、作家、タレント、「オーイシマサヨシ」名義でのアニソンシンガーとして活躍するシンガーソングライターの大石昌良さんが、「日本一の弾き語りストを目指し、弾き語りを研究していく」というコンセプトのもと行なっているアコースティックライブ。

ミュージシャンとしても卓越したテクニックを持つことで知られる大石さんだが、その研鑽は止まることを知らず、自らを研究所長、オーディエンスを研究員として、ラボを開設するに至った。毎年冬を中心にツアーが展開されており、2019年のファイナルはクリスマスイブの12月24日、中野サンプラザで行われることに。

大石さんといえば、「KAI-YOU Premium」において「音楽にも物語を」と題した対談を連載していただいている。 他では明かされない音楽に対する真摯で切実な思いをうかがってきた身としては、シンガーソングライターとしての哲学が詰め込まれた今回のライブを見逃すわけにはいかず、聖夜の中野に足を運んだ。

対談においては取材・執筆を担当している筆者は、アニソン界での活躍からファンになったいわば新参のファンであり、予習・復習こそしているものの、ソロシンガー時代からつづくシリーズライブへの参加に一抹の不安があったのも正直なところだった。「新参でもライブを心から楽しむことができるのだろうか」と。

だが、その心配が全くの杞憂であったことは、最初に断言しておこう。

撮影:大参久人

ギター1本でのパフォーマンスを追求した大石昌良

会場に入ると、普通のライブ会場ではお目にかかることのない白衣を纏ったスタッフがいることに気がつく。ラボと銘打つだけあって、助手たるスタッフの皆さんも相応しい衣装に身を包んでいるという気合の入れように、早くも期待感が高まっていく。

ではステージも研究所のようになっているのかというと、そうではなかった。赤と緑のクリスマスカラーに照らされたステージの上には、煌びやかなライトも浮かんでおり、ラボのイメージとはかけ離れたショーステージのようである。

自らをエンターテイナーと語る大石さんがこの豪華なステージの上でどんなパフォーマンスを繰り広げるのかと胸を踊らせていると、ついにその時がきた。

開演を告げるブザーが鳴り響くと、ステージの雰囲気にピッタリな二人のピエロが登場し、パントマイムを披露。さらに声優の鈴村健一さんによる影ナレという豪華な前フリによって期待が煽られていくと、クリスマスイブにふさわしい真っ赤なスーツに身を包んだ大石昌良さんがオンステージ。 興奮が抑えきれないオーディエンスにハンドクラップを煽って、勢いそのまま一曲目「ピエロ」へ。

「知らない人も一緒に歌って!」と優しく声をかけられては、フロアも盛り上がらないわけがなく、スタートから極上のパーティー空間が出来上がる。

途中、ステージを彩るメンバーを紹介すると告げるが、ステージには大石さんの姿しかない。一瞬困惑するフロアだったが、大石さんが「トランペット、オレ!」と口でトランペットの音を奏ではじめるとすぐさま熱狂を取り戻す。つづいて「スキャット!」、「ギター!」と各パートを紹介するが、もちろんどれも大石さんによるもので、一人でありながらもステージを盛り上げるのに一切の不足がないことを証明してみせた

最高のスタートを切ると、次は「幻想アンダーグラウンド」へ繋ぐ。まばゆく輝いた1曲目と変わって、ステージが妖しいライトに照らされる中、響くのはミドルテンポのナンバー。尋常ならざる緩急のつけ方で、瞬く間に会場を自分の世界に引き込む。

間髪入れずに突入した「ファイヤー!」は、タイトルの通り一気にテンポがあがる激しい楽曲で、序盤にしてパフォーマンスの幅の広さをこれでもかと見せつけられると、フロアのテンションも一気に上がっていく。

誰も置いていかない大石昌良流のライブ

早速のMCではクリスマスイブという特別な夜に集ったファンに対し、「弾き語りラボを選ぶなんてセンスあるねー!」と声をかけると、嬉しそうな大歓声があがる。

次はノリの研究をしたいと念入りにコールの練習を挟む。弾き語りラボと一見難しそうなタイトルを冠しながらも、初めてのファンでも参加しやすいのは嬉しいこだわりだ。

そして披露された「パラレルワールド」では、練習のかいあって研究員たちも一発目のコールから完全に調子を合わせてみせる。これには研究所長も「めっちゃえぇかんじ!」と太鼓判を押し、メロウなビートにのせられるまま会場のボルテージはさらに高まっていく。 暖まりきった会場にオートチューンのかかった歌声が響くと、「ボーダーライン」へ。

さらにスピードを上げ、手数を増やすギターから聞こえる多重の音色は、一人で奏でていることが信じられないほどだが、目の前でやられてしまっては疑いようもなく、ただただ圧倒されるばかり。

ギター1本でEDMのような展開までつくり出し、本公演の主旨である「弾き語りの研究」に挑む姿勢を強く示してみせた。 驚異的なテクニックを見せつけながらも、「弾き語りの魅力は、オーディエンスの声が合わさること」と語った大石さんは、続いてシンガロングを多声でやりたいと驚きの実験内容を告げる。

2500人を3パートに分け、それぞれ別の音階を歌うという前代未聞の試みに、最初は戸惑うオーディエンスだったが、実際に合わせてみると美しいハーモニーが生まれ、練習にも熱が入っていく。

そんな入念なリハーサルから臨んだ「おはよう」では、ボーカルとコーラスが想像以上の素晴らしい響きを生み出し、ステージを一緒につくり上げているという感覚が未知の感動となって胸を打つ 祝祭感溢れるステージから一転、静かに口笛が鳴りはじめると「別れの種だね」へ。ダンサブルな調べとは裏腹に、別れをテーマにしたナンバーによって、フロアには少しだけ悲しげな空気が漂う。 そうして会場の雰囲気を次々に塗り替えてみせるがまだ終わらない。つづく「鍵っ子ノエル」は、童謡を思わせるはじまりから壮大に展開していくクリスマスソングで、ギタリストとしてのテクニックのみならず、作曲家としての引き出しの多さまでも見せつけた

大石昌良が見せてくれた、弾き語りの限界を越えた景色

次の曲はタイトルにちなんでメガネをかけて演奏するのが定番なのだが、この日に限ってメガネを忘れてきてしまったと焦る研究所長。そこで、会場の研究員をステージに招き、メガネを貸してもらおうとすると志願者が続出。

我こそはとアピールするアグレッシブな研究員の中から、大石さん似の男性を指名すると、ステージ上で結婚指輪を渡すような仕草でドラマチックにメガネが大石さんにかけられる。そんな小芝居も挟まれるなど、ラボでの研究は楽しく進んでいく。

賑やかな雰囲気のまま披露された「眼鏡ダーリン」は、ライブにおける根強い人気曲とあって、抜群の盛り上がりをみせる。急ごしらえの眼鏡もしっくりきているようで、ロマンチックなラブソングを歌う姿はいつになく楽しそうだ。

さらなる盛り上がりを煽って突入したのは「トライアングル」。軽快なナンバーに誘われるまま、会場の一体感も限界を越えて上がり続けると、曲の最後には鳴り止まないほど拍手が響き渡り、「これが弾き語りの限界を越えた景色か!」と大石さんも感嘆の声をあげた。

ふたたびのMCでは「30を越えてから、弾き語りを極めようと練習してきました」とラボを開くまでになった弾き語りのその起源を振り返る。「その中で身につけたスラップ奏法を弾き語りに活かせばよかったのに、アニソンに使ってしまった」と照れくさそうに語ると、あの名曲のイントロが聞こえ始めた。

代名詞的スラップ奏法のフレーズから突入したのは「君じゃなきゃダメみたい」。アニソンシンガーオーイシマサヨシの名を世に知らしめた名曲とあって抜群の知名度を誇るポップナンバーに、会場の熱狂は本日何度目かの最高潮へ導かれる。 クライマックスへ向けて熱を高めるフロアにつづいて投入されたのは「ようこそジャパリパークへ」。アニソン史にその名を刻む伝説的ナンバーは、様々な現場で披露されてきた定番曲のひとつになっており、円熟したパフォーマンスに負けじとコールを合わせるオーディエンスによって、これ以上ないほどの幸福感がフロアに溢れ出していた。

興奮冷めやらぬ会場に「オマケね!」と告げて、「オトモダチフィルム」まで披露。アニソン界での活躍から応援を始めた新しめのファンにまでサービスのきいた大盤振る舞いに、実際その口である筆者を含め、多くのファンが驚喜の声をあげる。最後はバッチリとポーズまでキメて、いよいよクライマックスへ。

唯一無二のうたうたいになれる

ロックバンド・Sound Scheduleのボーカルとしてデビューし、ソロシンガーやアニソン作家、タレントとしても多方面に活動を広げてきた大石昌良さん。開かれた窓口の多さに比例するように、中野サンプラザという大会場に集ったファン層も実に多様だ。

そんなファンに対し「どんな窓口から入ってもらっても愛してます。どんな窓口も肯定したい」と感謝を述べる。バンドの解散などの苦境を経験し、1からの再出発で今日の日に辿り着いたからこその言葉は、確かな重みと優しさが宿っていた

唯一無二のうたうたいになれると確信してる」ここまで軽快なMCをとばしてきた大石さんが最後に放ったのは、そんな力強い言葉だった。真摯な思いを告げ、晴れ晴れとした表情を見せると、「耳の聞こえなくなった恋人とそのうたうたい」で本編のラストを飾る。 ただ一筋のライトがギターを抱える大石さんの姿を照らす。絢爛に展開してきたここまでのステージとは違い、一切の視覚的演出を抑えたことによって、ギターの音色と歌声がより深く染み渡っていく。

ギターと歌という最小限の構成要素でステージを成立させ、絞り出すように愛を歌う姿は、弾き語りとしてのひとつの到達点を感じさせ、特別な夜を彩ったひとりのうたうたいに惜しみない拍手が送られた。

大石昌良「紅白にも出たいし、武道館いくからね!」

素敵な夜をまだ終わらせたくないオーディエンスの思いが、アンコールを求めてフロアを包むと、サンタ帽を被った大石さんが再びステージへ登場。

挨拶もそこそこに披露されたのはソロシンガーとしてのデビュー曲「ほのかてらす」。消え行く街の情景を歌ったバラードは、ここまで披露されてきた楽曲へ連なる起源も感じさせるナンバーで、大石さんがアーティストとして辿ってきた確かな歴史を思わせる。

中野サンプラザという大舞台でのライブを大成功させたことで、また夢が大きくなったと告げる大石さん。これまでは冗談交じりに言ってきた夢も、もう茶化すことすらできない現実的な目標となり「紅白にも出たいし、武道館いくからね!」と宣誓した。

その景色を確かな未来として思い描くのは集うファンも同じ、それを確かめ合うように会場は満開の笑顔と拍手に包まれていった。

一度やってみたかったとスマホのライトに照らされる中、山手線を4周ループして作ったという「東京ループ」を披露。冗談めいた制作秘話を持つこの曲は、上京するも思い通りにいかない日々への焦燥が綴られたナンバーで、個人的に自らの心境と重ね合わせながらしっとりと聞き入った。 あらゆる試みをやり切った研究は、「ストーリー」で大団円を飾る。大会場特有の銀テープも舞い、華々しくグランドフィナーレへと向かう中、今日一番の大合唱が巻き起こると、「今日の実験は大成功!」と研究所長が叫ぶ。 歌詞の通り、エンドロールまで笑顔が溢れ出して、物語は幕を閉じた。

大石昌良の「自分のための音楽」がもっと聴きたい

アニソン作家として評価を高め、名前の出ないクールはないほどの活躍をしている大石昌良さん。2020年1月クールの主題歌の担当は5曲(アニメ4本・ドラマ1本)。

激務に追われる中で、「自分のための音楽」がつくれていないというのが対談企画の中で語られてきた苦悩のひとつ。

今日のライブで披露された曲の多くは、大石昌良さんが語る「自分のための音楽」そのものだ。

言葉の上では分かっていたつもりだったが、楽しそうにギターをかき鳴らし、笑顔で歌う姿を目の当たりにして、「自分のための音楽」を追い求める意味が真に理解できた気がした。 アニメファンとしては、アニソン界での活躍を見たいと思ってしまうが、これだけ素晴らしいステージをやってのけたシンガーソングライターがつくる「自分のための音楽」をもっと聴きたいと思ったのもまた正直な感想だ。

武道館、紅白、次なる夢へ向かううたうたいの姿を、これからも一人の大石昌良ファンとして見守っていきたい。

「大石昌良の弾き語りラボ2019」セットリスト
01. ピエロ
02. 幻想アンダーグラウンド
03. ファイヤー!
04. パラレルワールド
05. ボーダーライン
06. おはよう
07. 別れの種だね
08. 鍵っ子ノエル
09. 眼鏡ダーリン
10. トライアングル
11. 君じゃなきゃダメみたい
12. ようこそジャパリパークへ
13. オトモダチフィルム
14. 耳の聞こえなくなった恋人とそのうたうたい

[Encore]
En1 ほのかてらす
En2 東京ループ
En3 ストーリー

大石昌良が出会ってきたクリエイター・アーティストたち

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