今回、2018年2月のライブデビューから1周年を迎え、早くもCDのリリースが決定した彼女にインタビューを実施。
ユニット「赤ちゃん婆ちゃん」を組む孫のMC玄武にも同席してもらい、68歳になってなおも挑み続ける理由や彼女を突き動かすものについて話を聞いた。
ヒップホップに興味がない若者も高齢者も、彼女の言葉に耳を傾けてほしい。
取材・文:石川大a.k.a.ドラム師匠 撮影:はる
68歳のお婆ちゃんがラッパーデビュー
そう聞いてどんなことを思うだろう? ダボダボの服を着せられ、サングラスかけて「イェイ、イェイィィ!」と言ってるだけの企画モノと思ったに違いない。2018年2月、SNSで話題になっていたライブ動画で初めて見たMCでこ八は、想像していた通りの小柄なお婆ちゃんだった。
でも、マイクパフォーマンスは想像と違っていた。hookupしゅがぁさんのところで初ライブをさして頂き、今ごろになって本当にライブに出たと言う実感です❗これからが大変です❗一度目と違う良さを見せて行かないと取り敢えず頑張るのみ pic.twitter.com/xqVU7fApCu
— MCでこ八 『赤ちゃん婆ちゃん』 (@QpCcbZa3Ul3HL82) 2018年2月9日
最後にドスを効かせた声でメリハリをつけ、会場の空気をわしづかみに。ビートにも乗れていたし、堂々とした立ちふる舞いはラッパーそのものだった。「ビートには合いません。ラップは下手です。そして8小節言えません!」
「でも、心はもってる〜」
ライブデビューから3カ月、MV公開、そして全国へ
そのとき会場にいたオーディエンスは気づく。「この人は本気だ!」と。MCでこ八の熱が伝わり、応援する人の輪が広がっていった。ライブデビューから3カ月、2018年5月には孫であるMC玄武とのクルー「赤ちゃん婆ちゃん」のMVがつくられた。
その後も各地からのライブにオファーに応え、全国を飛び回り、MCバトルにも挑戦した。東京のラッパーにカメラの前で腹を抱えながらを紹介されたこともあった。
それでもMCでこ八は感謝を忘れず、今も前だけ見続けながら活動している。
以前は「スーパーで精肉部門のマネージャー」を経て難病認定
──ラップをはじめる前は何をされていたんですか?MCでこ八 以前は、ラウンジを20年ほど経営して、店をたたんだあとは、スーパーで精肉部門のマネージャーをしていました。
スーパーから「働かへんか?」って誘われたはいいけど、お肉なんて触ったことなかったんです。仕事できへんから、おばちゃん連中にボロクソに言われました。
自分で商売をしてたから、そんなこと言われたことないやないですか。「クソ!」と思って一生懸命覚えました。私負けず嫌いやからね。
「人がやれない事はない」という考え方やから。でも、そうこうしているうちに体調を崩したんです。同時に難病指定の病気になって。
MCでこ八 シューグレン症候群と末梢神経症候群という病気です。それが2つ重なって。お医者さんが言うには、悪玉菌も善玉菌も自分を攻撃すると。だから私、キツい痛み止めを飲まないと痛くて立ってられないんです。
今も決められた時間に薬を飲んでいます。ただね、ライブをはじめたことである数値がグッと下がったんです。詳しくはわからないですけど、お医者さんも「良くなってる」と驚いてました。
もちろん完全に治ったわけじゃないですけど、「どこが病気や!」というぐらいまでになってきました。
──すごいですね!
MCでこ八 何か好きなことをすれば、病気は治っていくのかもしれないですね。
──ちなみに病気になった直後はベッドに寝たきりの状態も多かったのでしょうか?
MCでこ八 そうそう、トイレにはって行かなあかんような状況で。その後、痛みが治まってきたから仕事を再開したんです。
でも、また痛みが出てきてしまって、スーパーに迷惑かけるの嫌やし辞めました。スーパーでは「めちゃめちゃな人や!」ってよく言われてましたね(笑)。
孫のライブを見て「じゃ、私もしようかって!」
──そこからヒップホップにどのようにつながっていくんでしょうか?MCでこ八 玄武がライブに出るので見に行ったんです。そしたらみんな礼儀正しいし、(ヒップホップ流の挨拶を)こうやってやってるやないですか。これはいいな、楽しそうやなと思って。
じゃ、私もしようかって!
──私もヒップホップのイベントに行ってますけど、自分でラップをやろうと思ったことは一度もないです(笑)。
MCでこ八 まぁ音楽は嫌いじゃなかったし、演歌とかよく歌ってたんで。
──でこ八さんの中に、もともと何かやりたいという思いがあったんじゃないですか?
MCでこ八 そうですね。前向きに何かをしたいという気持ちはあったかもしれません。これまでも、やりたいと思ったことは全部やってきました。
今回も、たまたま自分の近くにあったのがヒップホップやったんです。でも、まさか自分がヒップホップするとは思ってませんでしたけど(笑)。玄武に、私もやろかな言うたら「ええよ」と言うんで。
──玄武さんが「ええよ」って言うのもまたすごいですね。
MCでこ八 私もそう思ってます(笑)。誰がこんなお婆連れてね、普通は嫌ですよね。ラッパーのHANGさんも「玄武が偉いな」って言ってました。
MC玄武 いや、普通に面白そうやし。ラップやるのはいいことやと思って。自分が「クルー組もうや」って誘って、でこ八が「“赤ちゃん婆ちゃん”って名前でええやん」って言ってすぐに決まりました。
一緒にやったら面白そうやし、2人ともいい人生になりそうじゃないですか。
──この婆ちゃんとならできそうという見通しはあったんですか?
MC玄武 でこ八はブッ飛んでる感じやったからイケるやろなと思って。
「死ぬまでには他のラッパーのレベルに達したい」
──ヒップホップをはじめてラップをするようになって、生活や考え方に変化はありましたか?MCでこ八 最近はCDを買ったりもらったりして、いろいろとインプットしています。私たちの曲で、普段ヒップホップでノれない人たちをノらせてあげたいですね。
ラップって奥深いですよ。韻やらなんやらいっぱい踏まなあかんやないですか。それをやろうと思ったら頭使いますね。
私は自分がやると決めた以上、深く追求して、死ぬまでには他のラッパーのレベルに達したい思っています。だから練習もしますし。
──MCバトルにも出場されたときの動画も話題になっていましたね。
MCでこ八 実は、最初は断ってたんです。8小節もあるし、私はメロディに乗れないじゃないですか。でもオーガナイザーに「盛り上げるためにどうしても出て欲しい」と再三お願いされて。それで1回だけの約束で出ました(※編注:インタビュー後も、東京で行われた“メガトンパンチ”というイベントのなりきりMCバトルに出場。なんと優勝している!)。
──でこ八さんは、バトル強いと思いますよ。男性なら母親に怒られているようでシュンと萎縮してしまいます。ちなみに昔は結構イケイケだったんですか?
MCでこ八 ヤンチャな子らとはよく遊んでいました。私、小柄でしょ。「コイツやったら勝てる」と思われてケンカを売られるんですよ。
でも、遊んでた子の中で私が一番強いんですよ。若い頃はケンカ売られたらボコボコにしたことはあります(笑)。自分からは売りませんけどね。
小学校3年ぐらいからうどん屋のバイトしてて出前を運んでました。うどんが6杯入った岡持ちを両手に持って届けてましたから。だから力だけは強くて、少々の男なら投げ飛ばせたんですよ。
「今のごちゃごちゃした世の中に合っている曲」
──3月リリース予定のCDについて教えてください。玄武さんが「スケジュールが異常や」と嘆いていましたが……。MC玄武 もともとCDをつくる予定はなかったんです。でも、2月がライブデビュー1周年やから、CD出したいなと思って。それを言い出したのが11月ぐらいだったので、単純にはじめたのが遅かったです。
──でこ八さんは、玄武さんから「CDを出す」と言われてどう思いましたか?
MCでこ八 そういうことに関しては、「そうしょう! そうしょう!」「行こ! 行こ!」って。
──レコーディングは順調に進みましたか?
MCでこ八 卍LINEなどをプロデュースしたAKIO BEATSさんがプロデュースしてくれました。手直ししたり、上手くレコーディングしてくれました。
──「金くれよ」という曲が特に印象的ですね。
MC玄武 あのHOOK(サビ)が好きなんです。「最高速、最低限金くれよ」っていう箇所が。
最初は「ヒップホップへの想い」ってテーマで曲をつくろうって2人で決めたんです。でも、でこ八のリリック見たら「金、金、金、金、金くれよ」ってなってて(笑)。
もう1人のMCが入って、3人のラップがいい感じに混ざりあってる感じが気に入ってます。
──「大目に見ろよ」は懐かしさと人情味があって、「赤ちゃん婆ちゃん」らしい曲ですね。
MCでこ八 今のごちゃごちゃした世の中に合っている曲だと思います。
──リリックってすらすら書けるものですか?
MCでこ八 勝手にというか、こんな曲つくりたいなと思ったらパッと浮かんできます。完成したら玄武に「これどうや?」言うて送ります。
「私らは悪口を言うてる暇がない」
──CDもリリースして、今後はどんな活動をしていくのでしょうか?MCでこ八 ライブに呼ばれたら全国に行きます!
3月10日にわれわれが主催のイベント「ゲストがないのがゲスト」も開催するし、「赤ちゃん婆ちゃん」でコントもしようかと思って。
──体力的に大丈夫ですか?
MCでこ八 それは頑張ります! 私が、頭が雁之助になってきた(頭がガンガン痛いという意味)って言ったら、玄武が「薬飲んだか?」っ言ってくれますし。
──68歳の人がラップをしてると言うと、ヒップホップに興味のない人も感心をもってくれます。うちの両親に言ったら「私と年齢変わらない人が!」と驚いていました。
MCでこ八 年配者の方に、「でこ八さんの映像見せてもらったら元気が出ます」とか言われます。中には「私も何かしてみたい」という人もいて。そんなときは「あなたも何かやられたらどうですか?」と言っています。
年寄りって家にこもってたら人の悪口しか言わないでしょ。でも、私らは悪口を言うてる暇がない。リリックを書きたいし、練習もせなあかんし。年寄りもくすぶってんと、前に出て、かわいい年寄りとして生きていけばいいと思います。
この間もシニアの(ヒップホップ以外の)イベントから「私(でこ八)1人で出ませんか?」ってオファーがあったんです。でも「赤ちゃん婆ちゃん」やないとしません。1人でダンス踊ったり、そんなんはしません。 ──確かに、ヒップホップの中でこそ、でこ八さんの個性が光ると思います。
MCでこ八 やっぱり「赤ちゃん婆ちゃん」ていうユニットでやってるんで、死ぬまで「赤ちゃん婆ちゃん」でやりたいです! 私がちょっとよそに行ったら、玄武に「裏切るのか」と言われますので(笑)。
──私はでこ八さんが高齢者の星になるような気がしています。
MCでこ八 そうですね、病気も吹き飛ばしてね。まぁ、いつになるかわからないけど、ホンマもんのラッパーになるまではやり遂げます!
この記事どう思う?
商品情報
赤ちゃん婆ちゃん初CD『異策 ~傑作の自作~』
- 発売日
- 近日発売
- 価格
- 1000円 手売り
- 内容
- 7曲入り
- 1.おおめにみろよ prod by ジャッキーゲン
- 2.孫ソロ 光と影 prod by ジャッキーゲン
- 3.金くれよ prod by Castro beats feat 大樹 aka 考え中
- 4.天国と地獄 prod by ジャッキーゲン
- 5.お婆ソロ 回転木馬 prod by ジャッキーゲン
- 6.赤ちゃん婆ちゃん prod byジャッキーゲン
- 7.昭和と平成の友 prod by ジャッキーゲン
関連リンク
ドラム師匠
HIPHOPライター
国産HIPHOPが埋もれている現状を嘆き、Twitter(https://twitter.com/drumshisho)にてレビューを毎日配信し、ブログ( https://jpn-hiphop-ch.com/ )も運営している。
目標は、国産HIPHOPを世界に伝えること。
0件のコメント