創業24年「とらのあな」の総売上から振り返る、平成オタク史

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『けいおん!』(2008年~2010年)

京アニのアニメ化で大ブレイク、女子高生のゆるふわバンド活動の青春を描き、コンビニなどにもタイアップ商品が並ぶほどの社会現象を巻き起こした『けいおん!』。

当時、『けいおん!』人気によってギターやベースの売り上げが伸び、楽器屋もその恩恵に預かるという現象が起きました。

ニコニコ動画で歌ったり、弾いてみたり、踊ってみたりと露出が増え、『けいおん!』を観てバンドを組んでみる……というアクティブオタク層も目に見えて増えた時期です。

『けいおん!』『らき☆すた』など「萌え系は4文字」といった雰囲気があったのもちょっと懐かしい。

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない(文庫)』(2008年~2013年)

ギャルっぽい妹の高坂桐乃と、ぱっとしない兄・高坂京介を中心とした、伏見つかささんによるジュブナイルラブコメディ。略して「おれいも」。

売上もさることながら、この1巻の表紙が「pixiv」などをはじめ、ネット上でどれだけパロディとなったことか。

桐乃は(当時まだ)オタクの天敵だったギャルであり、同時にエロゲーオタクでもある少女。当時のギャル・オタクの対立文化構造が表現されているのも面白い。

のちの『エロマンガ先生』(伏見つかさ)に比べ、ガチで殴り合うような展開や将来を考える生々しいエピソードが多く、「見ているのがツラい」という声もちらほらありました。

2009年(平成21年)

『ソードアート・オンライン(文庫)』(2009年~)

VRのMMORPG(※1)を舞台に、ログアウトできなくなったプレイヤーたちを描いた作品。

このころは、すでにTwitterやmixiをはじめとするSNSが一般化しており、ネトゲ経験者層もがつんと増えていた時期でした。それにともない、ネットを舞台としたバーチャルな題材の作品が人気を獲得した時期でもありました。

加えて『ソードアート・オンライン』は、作者である川原礫さんが自身のウェブサイトで公開していたというのも見逃せない事実。同じく川原礫さん作『アクセル・ワールド』の電撃小説大賞の受賞と合わせて商業発表されたという経緯があります。ネットで発掘され、プロ作家・漫画家・ミュージシャンになるケースが増えたのは、平成中期~後期らしい出来事でもあります。

※1:「Massively Multiplayer Online Role-Playing Game(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロールプレイングゲーム)」の略称。コンピュータRPGをベースにしたオンラインゲーム。

『僕は友達が少ない(文庫)』(2009年~2015年)

友達のいない少年・少女の部活「隣人部」を描く、残念系青春ラブコメディ。

非リア充感覚がネットを通じて共有しやすくなり、黒歴史をエンタメにすることが一般化し始めた時代性を、この作品の人気っぷりがわかりやすく表している気がします。

「おれいも」もそうですが、ラノベのタイトルが文章形式で長く、かつ四文字略語ができる(この作品の場合は「はがない」)のは、オタク界隈のトレンドの一つ。

2010年(平成22年)

『ドリフターズ』(2010年~)

カルト的な人気を誇った『ヘルシング』(1998年)、同人誌即売会の熱を描いた『大同人物語』の平野耕太さんが、満を持して描いた作品。作者の考える最強の偉人祭り的な漫画です。

どこかで聞いたことのある歴史上の人物がバンバン現れて、異世界で血みどろの殺し合いを繰り広げます。各店舗で、新刊が出るたびに特設コーナーが作られていた記憶があります。

平野耕太さんならではの独特の言い回しと熱血思想は、今もなおファンによって熱烈に支持されています。

2011年(平成23年)

『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)

虚淵玄さんの脚本による、魔法少女たちの残酷な運命を描いたストーリーが、日本中のアニメファンの度肝を抜いた作品です。通称「まどマギ」。

悲惨なストーリーとゆるふわな作画のギャップは、いつ見てもゾクゾクしますね。「マミってる(頭から食われて殺されること)」は、ネットのトレンドワードとしてテレビでも紹介されていました。

また、東日本大震災が発生したことで放映延期となったことも思い出します。

コミカライズ版、ノベライズ版ともに大いに話題になり、様々なスピンオフ作品も作られました。『まんがタイムきらら☆マギカ』が刊行されるなど、今も続くムーブメントとなっています。

2013年(平成25年)

『艦隊これくしょん-艦これ-アンソロジーコミック 横須賀鎮守府編』(2013年~)

2013年にスタートした、女体化した軍艦で戦うブラウザシミュレーションゲーム『艦隊これくしょん-艦これ-』が人気爆発。その後にアンソロジーやストーリーコミックが数多く生まれました。

なかでも本作は、現在までに22巻が刊行されている超ロングランシリーズ。同人誌即売会でも、「艦これ」は超巨大ジャンルとして大きくスペースが設けられています。アンソロジーの売上が上位に入るというのは、同人誌を扱うとらのあならしく、かなり興味深いところです。

混沌と変化し続ける、平成オタクカルチャー

一気に振り返ってきましたが、売り上げからここまで露骨にオタクの本流の歴史が見て取れると、ちょっと嬉しくなります。

自分が好きだった話題の作品はみんなも大好きで、10年以上前、僕と同じく多くのファンがこぞってとらのあなで買ってたんだなぁ。

一方で、『げんしけん』や『おれいも』などから見て取れる、オタク文化の変容っぷりは少々心に刺さるものがあります。移り変わるものも沢山あるということ。

混沌と変化し続ける平成オタクカルチャーと、それを間違いなく牽引してきたとらのあな。その売上の歴史を見ると、酸いも甘いも含めて、マンガ・ラノベ文化を楽しんできた記憶が蘇ります。後悔は本の置き場所以外はなにもない。そして、これからもまだまだ楽しめる!

また、平成最後となったいま、現在の売上上位がどうなっているかも見てみると、最新の「オタク」の姿がちょっとだけ見えておもしろいかもしれません。(外部リンク

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雑食ライター。エキレビ!、ねとらぼ、MoguraVR、まんが王国ラボなどで書いています。漫画、サブカル、VTuber方面がメイン。好きな漫画は女の子が殴り合うやつ。
https://twitter.com/tamagomago

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