とはいえ「なるほど!」と素直に納得できないのが正直なところ。新型コロナウイルスの影響も叫ばれる中で、運営する株式会社虎の穴は何を考えているのか?
「クリエイターのファミリーになる」というビジョンのもとで進められているとらのあなの一大転換について、取締役である鮎澤慎二郎さんと、オンラインサービスを統括する野田純一さんの2人を直撃した。
すると、小売業が感じた同人業界の危機感、そこから転じてより高まったクリエイター支援への使命感、客層の変化や自社プラットフォーム「Fantia」の成長、さらには同人誌の掛け率問題や今後の店舗の在り方まで──。
「コロナ禍で通販が好調でした」の一言では片付けられない話が次々と飛び出した。
取材・文:七夜なぎ 編集:恩田雄多
目次
「前年比マイナス70%」コロナと同人、そしてとらのあな
──新型コロナウイルスの影響は、同人業界に大きな影響を与えたと思います。2020年から2021年にかけての変化を、とらのあなはどのように感じていましたか?鮎澤 大きく変わった部分としては、まずなんといってもイベント(同人誌即売会)の開催が難しくなったことですね。同人誌は基本的に、即売会に合わせて作品(新刊)が発行されます。
我々はその作品をお預かりして店舗や通販で販売しているわけですが、2020年4月から7月は本来開催される予定だった「コミックマーケット98」などの大型イベントが軒並み緊急事態宣言の発令で延期・中止となりました。
作家さんの新刊が少ないので、読み手も「新刊を読みたいけれど読めない」状態になり、一時期の購買意欲は低くなっていたと思います。感染を避けるために来店も減ったことで、店舗での売り上げは一時期前年比マイナス70%まで落ち込みました。
──マイナス70%……! かなりの大打撃です。
鮎澤 ただ、新型コロナウイルスの影響は、今思うと2020年2月ごろから現れていたんですよね。私たちは27年間秋葉原にいるのですが、2月の時点ですでに変化の“予兆”がありました。
──2020年1月から2月にかけての日本は、中国の一部地域やダイヤモンドプリンセス号での感染拡大が話題の中心で、だんだんとマスクの品薄などが問題になっていたころですね。まだここまでの事態になるとは思っていなかった人も多かったように思います。秋葉原ではどのような変化が……?
鮎澤 秋葉原はここ3~4年、インバウンドのお客様がほとんどでした。とらのあなの秋葉原店舗でも、10〜20%が海外、特にアジアのお客様。2019年の冬に秋葉原を歩いていたときは、周りのほとんどが海外のお客様で、秋葉原はインバウンドで活性化しているんだな、こんなに秋葉原に観光しに来ていただけるんだなと肌で感じていました。
2月は中国の旧正月にあたるので、ここ数年の秋葉原は中国からのお客様でにぎわっていました。ところが2020年の2月時点で、秋葉原、なんば、福岡、札幌という地域で、他の店舗にないような客数の減少が見られました。 ──とらのあなの店舗ではすでに数字に現れていたと。
鮎澤 渋谷や原宿、銀座という街でビジネスをされている方も、似たような変化を感じていたのではないでしょうか。秋葉原において今後のお客様は変わっていくという予感はその時点からありました。
──2021年4月には、秋葉原B店・C店が閉店しました。秋葉原にいわばフラッグシップ的な印象を抱く人も多いのではないかと思うのですが、この閉店はこうした状況からの判断ですか?
鮎澤 閉店のニュースを見たクリエイターの皆さんから「とらのあな、大丈夫なの?」と心配の声をいただきました。ただ、秋葉原に関してはコロナ禍の影響とは少し違っていて、秋葉原B店はテナントの契約終了、秋葉原C店はビルの取り壊しという背景がありました。
とはいえ、今のとらのあなは「店舗の役割」を見直し、選択と集中を加速する流れの中にあります。その中で、より経営資源をお客様の需要に沿っているオンライン事業に寄せる判断をしています。
──6月9日の発表(関連記事)では、2020年7月から2021年6月の通販売り上げは過去最高の145億円見込みとなっています。店舗は大打撃、通販は好調ということでしょうか? 野田 2013年ごろから徐々に通信販売を好む人が増えていて、2017年ごろからは「店舗を出店していくのではなく、デジタル方面に拡張していこう」とデジタルシフトしていく方針ではありました。
そこを一気に加速させたのが新型コロナです。2020年5月からの1年間は、通販の売り上げが前年の1.4倍に成長。通販と店舗売上は、6:4から一気に8:2になりました。ここまで変わることは想定できていなかったですね。
──みんな通販で買うようになった。
鮎澤 そうですね。たとえばこれまで、とらのあなの店舗では夕方~夜にサラリーマンのお客様が多かったんですよ。出勤した帰りに、乗り換え駅にあるとらのあな店舗で買い物をしたり、ネットで頼んでおいて店舗で受け取ったりといった利用ですね。
ところがコロナの影響で、通勤自体がなくなった方もいて、「じゃあ通販で買おうか」と切り替えた方も多かったように思います。
──店舗全体としてそうした傾向があったんでしょうか?
鮎澤 「なんば、福岡、札幌などインバウンド需要減の影響が大きいな、逆に千葉や大宮などの生活圏に近い店舗は来店者が一時的に増えているな……」など、その土地の変化や特徴が激しく見えた1年でもありました。今後の予測は難しいですが、一つひとつ対応しつつ、今もっともお客様が多い通販に力を入れていきたいと考えています。
女性会員が多いとらのあな、掛け率の誤解はなぜ生まれた
──通販の好調に伴う客層などの変化を教えてください。鮎澤 特に増えたのは女性会員数です。もともととらのあなは2017年前後から女性の作家さんの方がサークル登録が多く、女性の利用者も通販を中心に伸びていました。さらにコロナの影響で爆発的に増え、直近では70%が女性になっています。
──意外です。個人的に同人誌をつくっている中で、とらのあなにはJOSHIBU(女性向けサブブランド)があるものの、どちらかというと男性向けのイメージがありました。
鮎澤 そうだと思います。私はよくクリエイターの方からお話を聞くのですが、男性に女性比率の話をすると驚かれます。一方で女性のクリエイターとお話していると、「えっ、とらって女性向けの方が全然強いと思っていた!」と言われます。
──すこし話が脇道に逸れますが、最近SNSで「とらのあなは男性向け作品の方が掛け率(※)が優遇されている」といった批判があったように思いますが、そのような話題の上がった理由はどのようにお考えでしょうか?
※同人誌委託販売では、委託価格×設定されている掛け率の売り上げが作者に振り込まれる。
鮎澤 掛け率に関するご指摘、我々も見ていました。あれは半分誤解のところと、誤解ではない部分があって……。誤解の部分は、実は指摘を受けたタイミングでは女性向けの強化プロモーションを行っていたので、むしろ女性向け作品の方が掛け率がよかったんですね。
誤解ではない部分は、確かに以前は男性向けの方が掛け率が上でした。現在は基本的に男性向けと女性向けの料率は同じで、時々のキャンペーンによって変化するようになっているのですが、今回のご指摘は見ていて「確かにわかりづらいところがあったな」と反省点に上りました。 ──なるほど。なぜ当初は女性の方が掛け率が低かったんでしょう?
鮎澤 男性向け・女性向けという表現がふさわしいのかはわからないのですが、いわゆる女性向け作品の取り扱いを積極的に増やしていこうと動いていた当初、ポストカードやペーパーなどの“オマケ”を付けてほしいという要望が非常に多かったんです。
印刷会社からそれぞれ別々に届いて、とらのあな側でセットする作業を行っていました。年間2000万冊前後の同人誌を扱っている関係上、それに対応する人員を確保していく必要がありました。そういった面もあり、サークルさんからの要望に応えるためには、同一の手数料では難しい時期がありました。
──確かに女性向け同人では男性向けと比べてノベルティカルチャーがありますね。
鮎澤 ただ、取り扱いを重ねる中で我々も機械化を進めて、徐々にノウハウが蓄積できてきたので、仕組みを変えていこうと。現在は、基本的には同じ手数料で取り扱わせていただくことができるようになりました。それ以降は時期ごとに行っているキャンペーンによって手数料は変わっています。
匿名ハッコウくん(ID:4593)
イベント未販売同人誌の通販って著作権大丈夫なんですかね?
ファン活動の一部の同人イベントで売ってるものを店舗や通販で再販売のていならまあ権利者としてはお目こぼしできても