「キャラの誕生日の0時から開催」コロナ禍の同人誌即売会
──通販が増えたこと以外に、変化を大きく感じたことはありますか?鮎澤 2020年5月ごろは、「このまま同人誌即売会というカルチャーが継続していけるのだろうか」という危機感も抱いていました。ですが、同人業界というのはいろいろなことを乗り越えてきた業界でもあるので、6月ごろには通販の売り上げが前年の6割くらいには復調しています。
8~9月ごろには、イベントの開催場所をオンラインに移した「オンラインイベント」の開催が増えていきました。イベントがあれば新刊が発行される、購入する方も増える、という流れが再び生まれて、9月以降は通販がけん引してとらのあな全体で回復していきました。 野田 とらのあなは2020年4月からオンライン即売会の支援として、「とらのあなWEBオンリー」というサービスを立ち上げています。累計で約250回ほどオンラインのオンリーイベントが開催されて、累計で約3000サークルさまが参加しています。
いずれオフラインの同人誌即売会が普通に開催できる日は来ると思いますが、一方で、オンラインのニーズは残ると思っています。
鮎澤 オンラインイベントを開催しているのも女性向けジャンルが多いですね。
──地方在住の方や休みの日程が違う方も参加しやすいのは、オンラインならではのメリットですね。
鮎澤 先ほどの店舗の話もそうでしたが、オンラインになって新たなニーズに気づくこともありまして。これまでのイベントの常識から「午前10時スタートでいいだろう」と思っていたら、「(キャラクターの誕生日当日の)0時からはじめたい」「アニメの放送時間に合わせたい」と。そういった要望を受けて、「そうか!そういうこともWebの世界なら自由なんだ!」と気づかされました。
──なるほど! 確かに誕生日記念オンリーなどは0時からスタートしたいですね。
鮎澤 最初の方はこちらも体制が不十分で、希望されていた時間にスタートできなくてお叱りを受けたこともありました。でもこの1年ほど反省を積み重ねて、成果が表れているのではないかと思います。
リピート開催をしてくれる主催者の方もいます。イベントは主催者と参加者でつくり上げるもの──そういう意識を持っているのが大事なんだというのを我々も感じました。 ──逆に「こういう面はオンラインでは難しい」ということはありますか?
鮎澤 リアルの同人誌即売会は、同人誌の売り買いだけではなく、作者と読者、作者同士のコミュニケーションの場でもあったんですよね。その「交流の場」という機能は単純にオンラインにしただけでは十分に再現はできないなと。オフラインももちろんそうですが、オンラインだと準備会(イベント主催者、イベンター)のこだわりや演出が非常に重要になってきます。
野田 それから、「即売会会場の熱量」をオンラインで……というのはなかなか難しいと感じています。オフラインの即売会だと参加者の気持ちが一体となって高揚して、熱気に任せて衝動買い……というのはよく見られると思うのですが、オンラインだとPCやスマホの画面上なのでどうしても空気感が違ってきます。
それでもポジティブな気持ちを後押ししたいので、「○円買うと送料無料」という施策で“ついで買い”していただいたり、通販ページ内でレコメンドしたり、まとめて買うとポイントが付くフェアなどを行ったりしています。
鮎澤 あと、これまではイベントが新しいサークルを知る場になっていたと思うんですよね。壁や誕生日席に新しい人気サークルさんが配置されたり、列ができていたり。
そういった新たな出会いを促進することを考えて、女性向けを中心に、毎月2~4の人気サークルさんにインタビューして、そのサークル主さんが好きな別の作家さんや影響を受けた作家さんを紹介してもらう──という企画もやっています。 野田 サークル主がオススメサークルをレコメンドできる機能も実装しました。たとえばオフラインの即売会なら「合体サークル」として出ているようなサークルさんなのに、通販ページ内だとそれぞれ個別のサークルに見えてしまうということがありました。
レコメンド機能によって、お互いの作品ページから合体相手の同人誌をレコメンドするということもできるようになって、オフラインの即売会がもっていた機能に少し近づけたかと思います。
「クリエイターを支援する」急成長した「Fantia」って?
──オンライン中心への転換はコロナ禍によって一層加速したと思います。ビジネス面とは別に、背景にはどんな思いがあったのでしょうか?鮎澤 同人の世界は生態系のようなものだと思います。読み手は同人誌を買うことによって作者を支援していて、作者は作品が売れるから次の作品をつくる。そのサイクルの中に我々や印刷会社さんも入っている。コロナによって同人イベントが続々となくなったとき、「クリエイターの方が活動をやめてしまわないか」という大きな危機感が生まれました。
日本の優れたコンテンツの源流の一端に同人活動をしているクリエイターがいて、その人たちが一度つくることをやめてしまえば、コロナ禍が過ぎても戻ってこないのではと。少しでもカバーできるところを増やしたいという思いは強くありましたね。
──そういう意味では、クリエイター支援プラットフォーム「Fantia」はコロナ禍でどう変わったのでしょうか?
野田 一時期は「つくっているものを出す場がオンラインしかない」という状況でした。クリエイターが「Fantia」で活動し、ファンの方の「作家を支えたい」という気持ちの行き先のひとつとして成長したところがあると思います。 ──「Fantia」は2016年スタート。どんなところが出発点でしたか?
野田 クリエイターが永続的に活動できる──おじいちゃん・おばあちゃんになるまで本を書き続けられる──世界をつくれないか、というところからスタートしています。つまり「Fantia」だけで生活できるクリエイターさんが生まれてほしいということです。
一般的にクリエイターの食べていく道は商業出版などの「マス」を相手にした活動ですが、ファンの方から支援を受けながらクリエイター活動が続けられるという道も、ひとつの理想なのかなと思ったんです。実際、サービスが広まっていって、1~2年くらいで「Fantia」だけで生計を立てているクリエイターさんの話もうかがうようになりました。
鮎澤 最初はみなさんにイメージがなかったので、クリエイターの方に提案しても「よくわからないな」「どんなものですか?」という反応をもらって、「ファンクラブを個人でつくるようなものです」と説明していた時期もありました(笑)。
中には海外の先行例を知っているクリエイターさんもいて、「期待しています」と言ってもらえたり、要望をもらったり……というところからスタートしました。
──最近は認知が広がっているように思います。競合といいますか、クリエイター支援プラットフォームのプレイヤー(企業)も増えています。 野田 利用者はどんどん増えています。2020年~2021年の利用者数は、前年比265%と大きく伸びました。
最初は「よくわからない」から始まって、3年目くらいから「Fantiaみたいなものがあるらしい」と知ってもらえるようになり、最近はクリエイター支援プラットフォームそのものが浸透して、それらを「Fantiaみたいなもの」と説明してもらえるようになってきているかなと。
鮎澤 まだまだ「Fantiaってとらのあながやっているんだ!?」と言われることもありますが(笑)。ほかのデジタルサービスでいうと、「とら婚」もクリエイターの支援という流れから生まれたサービスで、2020年からようやく大きく伸びてきました。
匿名ハッコウくん(ID:4593)
イベント未販売同人誌の通販って著作権大丈夫なんですかね?
ファン活動の一部の同人イベントで売ってるものを店舗や通販で再販売のていならまあ権利者としてはお目こぼしできても