今回は、初の東海地区での開催。東京・大阪で実施されたオーディションを勝ち抜いた腕に覚えのある16名の高校生ラッパーが名古屋に集結した。
現在、第一線で活躍するラッパーの多くを輩出してきた本大会の歴史に新たな名を刻むのは誰なのか。東京在住の筆者は、迷わず名古屋へと足を運んだ。
会場のZepp名古屋
第14回高校生ラップ選手権でおこったドラマ
hMzvsMCリトル(1回戦)
1回戦Aブロックの第2試合目では、言葉巧みな言い回しとユニークな表現が武器のhMzさんと、初出場となる北海道のラッパー・MCリトルさんが対戦。先行のhMzさんは、極onTheBeatsさんの曲「大好きMy Boo、いないけど。」から引用したラップから入る。続けて、「MCリトル」から「チキンリトル」へ繋げて「レッドブル飲んでも羽ばたけない」とラップ。
hMzさん
2ターン目でhMzさんは「俺の表現にうまく返せてない」と指摘するが、それに対してMCリトルさんは「なんでお前の土俵に乗って絶対ラップやらなきゃいけないんだよ」と返した上に、ギアをあげて軽快なリズムを刻むフロウをみせつけた。
MCリトルさん
LOCO vs Hot Pepper(1回戦)
1回戦Bブロックの第3試合目は、大会初出場者同士の対決となった。ジェンダーレスなファッションに王子様風のキャラクターが印象的なLOCOさんと、男らしく無骨なキャラクターのHot Pepperさんが登場。
先行のLOCOさんは、自身がコンセプトするワード「フランクキスベイビー」を鮮やかに披露。
LOCOさん
2ターン目でLOCOさんは「待て待て男の子感出しすぎて、女の子が寄ってこないのはこいつのことだろ」と一蹴した後に、再度「フランクキスベイビー」のパンチラインを繰り出した。
Hot Pepperさん
しかし、Hot Pepperさんのラップが終わり、審査に移ろうとした時にLOCOさんが3度目の「フランクキスベイビー」を会場に向かって言い放つ。定着してきたのか客席から和やかな笑いが起きた。
Hot Pepperさんは完璧とも言えるパフォーマンスだったが、その熱いスタイルがゆえにLOCOさんの独特なキャラクター性の良さを引き出す形になったのかもしれない。
藤KooS vs Red eye(準決勝)
準決勝の1試合目は、圧倒的にスキルフルなラップで1、2回戦を突破してきた藤KooSさんと第12回大会で準優勝に輝きアウトローなキャラクターで知られるRed Eyeさんが激突。ビートは日本語ラップのクラシックにもなっているRHYMESTERの「B-BOYイズム」。
左より藤Koosさん、Red Eyeさん
Red Eyeさんは、1バース目から勢いのあるラップをアンサー。「アングラでお前聞かないぞ」とディスした。
延長戦では、楽園感のあるビートをレゲエのフロウで乗りこなすRed Eyeさん。藤KooSさんをフロウだけだとディスした上で、「みんな口だけ、それはガキのうちまで 大丈夫心配すんなって俺は無事だぜ」と歌い、もはやレゲエアーティストのライブを聴いているかのような完成度だった。
藤KooSさんは「俺はレゲエとはあえて敵対」とアンサーし、落ち着いたラップを続けた。
会場を盛り上げたスキルフルな戦いは、どちらが勝利してもおかしくない状況に。しかし審査結果は、全員一致でRed Eyeさんに札が上がった。
Ono-D vs HARDY(準決勝)
準決勝の2試合目。初出場ながら大会前から注目を集め、個性的なキャラで会場をロックしてきたOno-Dさんと4度目の正直で優勝を目指す実力者のHARDYさんの対戦。試合前からレフリーのラッパー・HIDADDYさんが「オノディー、ハーディー、俺」と客席を煽ると、お客さんも「ヒダディー」と答えるなど穏やかな空気の中、試合がはじまる。
重低音が強いビートにトラップ風の乗り方をみせるONO-Dさん。リズム感の気持ち良さから自然と会場が湧く。
Ono-Dさん
その後、Ono-Dさんは「吸い足んねえってガンジャ、爺ちゃん婆ちゃん 神社でガンジャでなんちゃら 病院患者はいらない 親には感謝してた方がいいぜ」とユニークなラップを披露。
2ターン目に入ってもお互い一歩も譲らない展開は、延長戦へ。
HARDYさん
審査の結果、今大会初の再延長に。
再延長では、先手のOno-Dさんが「いいね、楽しいね」とさらに乗ってきた様子でラップを展開。HARDYさんも会話をするようにアンサー。
Ono-Dさんは2ターン目で「Ono-Dくんは一途な男」「愛が世界救う日が今きた」とHARDYさんと正反対の恋愛観を歌う。
だがそこからだった。HARDYさんは、最終バースにして突如リズミカルなフロウで一気にライムを畳み掛けるとオーディエンスが熱気に帯びた。
長期に及んだ試合の最終結果は、わずかに1票差でHARDYさんが勝利を掴んだ。
HARDY vs Red Eye(決勝)
決勝戦は、共に優勝候補の筆頭として名前が挙げられていた両者による対決が実現。それまで圧倒的な強さで勝ち上がってきていたRed Eyeさんの方が優勢のように見えたが、HARDYさんも準決勝の再延長戦をものにし勢いに乗っている。
待ちに待った決勝戦を前に客席からは、異様などよめきが聞こえた。
先行のRed Eyeさんは1バース目からキレのあるラップをみせ、HARDYさんもスムーズなフロウで応戦。
Red Eyeさんのターン
どちらが勝ってもおかしくない熱戦だった。出演者はステージ前に集められ、審査員らが集まって協議する。HARDYさんは、マイクを手に取り「なんか決勝きたら延長みたいな風潮あるけど1回で決めて欲しい」という旨のメッセージを届けた。
しかしその後、審査員長のラッパー・漢 a.k.a. GAMIさんより延長戦になることが告げられた。
延長戦でも譲らない両者。後攻のRed Eyeさんは「口より行動 論より証拠 もちろん今日だって飛んでる状況」というパンチラインを浴びせ会場のボルテージが上がる。
さらに、2バース目では壇上から降りてパフォーマンス。客席にコール&レスポンスを求めると客席もしっかり反応し、Red Eyeさん一色のムードに包まれる。
しかし、その姿を見たHARDYさんは「代わりに言っといてやるよ ステージに立ちたかった奴がいるのにお前はステージの下に降りる ふざけんじゃねえ」とアンサー。
HARDYさんのターン
再延長を経てもなお、どちらが勝ったか筆者には分からなかった。
その行方は、最終ターンで起死回生のラップを披露したHARDYさんに軍配が上がった。
新しいMCバトルの概念が生まれる
最後に筆者の正直な気持ちを述べると、第14回大会にあまり大きな期待はしていなかった。2015年ごろから一気に過熱したフリースタイル/MCバトルブームの盛り上がりが、少しずつ落ち着きをみせはじめた昨今。殴られても、刺されてもおかしくない状況でMCバトルが行われていたひと昔に比べて、スポーツのような競技性やエンターティンメント感が強くなったシーンにマンネリ化を覚えていた。
その立役者となったラッパーをあげると初出場のOno-DさんとLOCOさんだ。
Ono-Dさんは、1回戦で壇上を降りるという前代未聞のパフォーマンスした。加えて、トラップ・アーティストのようなビジュアルとラップのフロウを持ってながら、トラップでよく歌われる内容(ドラッグ、お金、女、暴力)とは真反対の価値観をラップしていたのが斬新で面白かった。
そして、LOCOさんは独特のキャラ立ちに加えて「フランクキスベイビー」という代名詞(造語なのだろうか)を持って、一気に会場を自分の味方につけた。
2人に共通していた要素をあげると「コミカル」「コメディー」「ギャップ」といった点だろうか。
これまで筆者が考えていたMCバトルは「ラップが上手い方・かっこいい方/お客さんを納得させた方」が勝つという概念だったのだが、今大会では「面白い方が勝つ」というケースを何度か目の当たりにした。
もちろんそれは、筆者がMCバトルに惹かれた当初の緊迫したものとも違うが、MCバトルの新しい魅力や価値観になり得る一面であるようにも感じる。
HARDYさんの優勝インタビューでも「今日はポジティブにやれました」という言葉が印象的だったように大会全体を通してもたくさんの笑いが巻き起こり、会場には異様なほどポジティブな空気が流れ続けるという、過去に例をみない大会であった。
0件のコメント