「第13回高校生ラップ選手権」レポート スポーツ化したMCバトルとその先

「第13回高校生ラップ選手権」レポート スポーツ化したMCバトルとその先
「第13回高校生ラップ選手権」レポート スポーツ化したMCバトルとその先

G-HOPEさん

POPなポイントを3行で

  • 「第13回高校生ラップ選手権」ベストバウトを紹介
  • G-HOPE、HARDYなどのスキルあるラッパーが勝ち上がる
  • 高校生日本一のラッパーになっても未来は保証されない
2018年3月17日(土)、「BS スカパー! BAZOOKA!!! 第13回高校生RAP選手権inTOKYO」が東京・豊洲PITで開催された。

今回は関東・関西・北海道・東北・九州の全国5ブロックで実施されたオーディションを勝ち抜いた16名の高校生ラッパーが登場。

MCバトルで日本一に輝くのは誰なのか。不良からオタク、ふつうの子までさまざまな生い立ちやキャラクターを持った高校生たちがトーナメントにてぶつかりあった。

ちなみに開催の度に話題となる本イベント。今回も会場は開演前より混雑状態で、入り口を先頭に長蛇の列をつくっていた。 会場内に入ると、スタンディングの観客が溢れている。幕張メッセで開催された前大会より、会場は小さくなったとはいえ、むしろその熱気は凝縮されて強くなっているように感じた。

そんな中、開催された今大会。名場面、名勝負だけでなく、予想外の出来事やドラマも巻き起こった。筆者の独断と偏見で、ベストバウトおよび大会全体を通した振り返りをしていく。

第13回高校生ラップ選手権でおこったドラマ

Red Eye vs 阿修羅(1回戦)

大会初戦となった1回戦Aブロック1試合目。

アウトローかつユニークなキャラが唯一無二で、優勝候補最有力の呼び声の高いRed Eyeさんが登場。迎え撃つのは、新潟県在住、初出場のラッパー・阿修羅さん。

Red Eyeさん

ビートは、DJ RYOWさんの名曲「ビートモクソモネェカラキキナ 2016 REMIX」。

先攻の阿修羅さんはプロップスで負けてる不利な状況を逆手にとり「俺が負けると思ってんだろ ひっくり返してやるから見とけ」という入りで観客を沸かせる。これは、第4回大会MC☆ニガリa.k.a赤い稲妻さんがT-Pablowさんとの対決で放ったラップのサンプリングだ。

阿修羅さん

その後、阿修羅さんはRed Eyeさんのキャラになっている草ネタについてもディス。

一方、Red Eyeさんは自身の草ネタについて「けどヒップホップに変えたんだ俺たちは」という成長と未来を感じさせるラインでアンサー。

阿修羅さんはは、2ターン目で「間違いはないけど、そういうのは口には出さねえんだよ 背中で語れ、てめえアーティストになるんだろう」と一蹴した。

しかし、怯まないRed Eyeさんの2ターン目は、途中から遊びが効いたオリジナルのフロウもみせた挙句、「ダサいからパイセン、目は赤いだけ、ピースより破壊だぜ」というラップで締めくくり、勝敗の予想が全くつかない展開に。

審査員5名の判定は、阿修羅さんに3票、Red Eyeさんに2票。優勝候補が初戦の1試合目から消えてしまう、予想外のスタートとなった。

HARDY vs コウキ a.k.a 仏(1回戦)

1回戦Aブロック4試合目は、前回優勝したCore-Boyさんに僅差の末、敗れたHARDYさんが今大会も優勝候補として登場。

対するは、150kgオーバーの体重を誇り、大食漢のキャラを前面にだすコウキ a.k.a 仏さん。

先攻のHARDYさんは、序盤から持ち前のフロウで韻を刻んでいく。しかし、コウキ a.k.a 仏さんも、フロウしかないというディスを浴びせた上に「公式レフェリー キングHIDA Im'a 銚子のビッグイーター」というパンチラインを繰り出した。

コウキ a.k.a 仏さん

白熱の試合は延長に。

延長に入っても勢いがとまらないコウキ a.k.a 仏さん。HARDYのフロウをディスしながらも、自身もこれまでにみせてないフロウを披露。

会場を大いに沸かせたが、HARDYさんも全く動じずに的確なアンサー。

HARDYさん

審査員も首を傾げて決めた試合の行方は、最終的にHARDYさんに軍配があがった。

試合後、審査員のDOTAMAさんは、「シンプルにコウキくんは口喧嘩が強い」と負けたコウキ a.k.a 仏さんを褒め称えた。

$ph1n vs LITO(1回戦)

1回戦Bブロックの2試合目に登場したのは、静岡県から初出場の$ph1Nさんと、前回大会で「いそじん」というMCネームで出場したLITOさん。

2017年のヒップホップを代表する曲といえるJP THE WAVYさんの「Cho Wavy De Gomenne」がビートで流れると試合前から会場の熱気が上がる。

$ph1Nさん

先攻の$ph1Nさんは、トラップのビートに合わせたフロウでしっかりと脚韻を踏んでいく。一方、LITOさんも気合い十分。

出だしから「中指立てる意味なら、俺の目の前にビッチがいるから」とディス。続けて「フェイクラッパーにフェイクリスナー フェイクメディアとか全部チンカス」と会場全体を煽るようにラップをみせる。

LITOさん

2ターン目も同じような展開で試合は流れ、着実にお客さんの心を掴んだ$ph1Nさんが勝利を収めた。

しかし試合後、大会史上例を見ない光景が目の前に広がる。

「ラップを通した教育」を掲げている高校生ラップ選手権では、試合後にはお互い握手をするという約束があるが、この試合後はなんだかもめてる様子。遠くから見たためしっかりとは確認できなかったが、LITOさんが$ph1Nさんに向かって中指を立てる状況だった。 その異様な空気は審査員・DOTAMAさんの解説の時にも。会場のカメラがアップで抜いたLITOさんは、審査に対して不満だったのかDOTAMAさんに対してメンチをきっている状況だった。 挙句の果てには、DOTAMAさんに対して「フェイクラッパー」と言い放ったのだ。

その後、審査員・ANARCHYさんがコメント。「LITO、心配すんな。DOTAMAの言うことなんか聞かんでいい。お前、超かっこよかった。俺、お前のファンになったから、あとでお前俺の楽屋までこい」といったことで、会場の不穏な空気は穏やかなものに変わり、その場はおさまった。

このLITOさんの態度は、大会運営としては不本意な展開だったかもしれない。しかし、1回戦敗退ながら、良くも悪くもLITOさんが1番目立った結果となった点においてはラッパーの資質を感じた。

今後のLITOさんの活動にも注目したいところだ。

はまぞう vs G-HOPE(2回戦)

2回戦Bブロックの2試合目。

前回大会でも功績を残した実力者の2人がぶつかる。

はまぞうさんは、独特のワードセンスや言い回しを武器とする文才ラッパー。一方、G-HOPEさんは前回大会の決勝でCore-Boyさんに破れたものの準優勝を果たしている。

左からはまぞうさん、G-HOPEさん

先攻のG-HOPEさんは、はまぞうさんの緑色が印象的な服装をディスした上に、前回大会ではまぞうさんが使った「リボルバー」という単語を引用し会場を盛り上げる。

はまぞうさんは、ディスられた緑色のジャケットをレタスに比喩。その後、弁当箱の中では主人公のタコさんウィンナーと面白いラップで反撃した。

はまぞうさん

しかし、2ターン目からさらにエンジンをかけたG-HOPEさんが、「俺なら中二病、俺も主人公、手札眺めてる遊戯王、1が並んでた通知表、でもこいつでかませば急に5、ZORNに入ったぜ俺は」とZORN(ZONE THE DARKNESS)さんのラップから引用した韻を畳みかける。

さらには、「こいつのラップとかけまして草野球のキャッチャーと解く。そのこころは、どっちともミットもないでしょ」というパンチラインも放つ。

延長戦までもつれ込むハイレベルな試合となったが、巧みな韻を踏み続けたG-HOPEさんが勝ちあがった。

G-HOPE vs HARDY(決勝)

決勝戦には、前評判通りG-HOPEさんとHARDYさんが勝ち残った。

ここまでの戦いぶりをみていると、勢いにのっていたのはHARDYさん。G-HOPEさんは、万全ではなかったかもしれないが、尻上がりに調子をあげていた。

左からHARDYさん、G-HOPEさん

そんな2人の対戦は、試合前から会場がざわつくほどの熱気を帯びる。ビートは、1月に逝去した日本語ラップの先駆け的存在・ECDさんのクラシック「MASS 対 CORE」。

先攻のHARDYさんは、「俺はヒップホップのキングになりてえ」とラップし、会場を沸かせる。優勢な試合運びをみせたが3ターン目でG-HOPEさんが牙をむく。

HARDYさん

「これが3度目の正直、まるで(〇〇)進む1本道、今日は俺がなるぜ日本一」というラインで挽回。最後に「もう封鎖できないレインボーブリッチ」と締めた。(*〇〇の部分は正確な聞き取りができなかったため空欄)

決勝の審査は、司会者・小藪さんの呼びかけによって、出演者全員がステージ前に集められる。

審査員は全員でジャッジの話し合いを行うが、すぐに審査委員長の漢 a.k.a. GAMIさんが「マイクもらっていいですか?」と言い、観客の視線を集めると延長を示す札を掲げた。

そして、延長戦へ。ビートはDABOさん、ANARCHYさん、KREVAさんによる日本語ラップの名曲「I REP」。

先攻のG-HOPEさんは、1ターン目からギア全開。大会前より批判を浴びていた状況を逆手にとり「嫌われもんがつけるチャンピオンベルト」というラップで会場を沸かせる。

対するHARDYさんは、「テキトーなサンプリング、下駄箱に置いてきたハイヒール はぁ!?」に加え「自分のライフ語ってから出てこい」とラップ。

それを受けたG-HOPEさんに突如スイッチが入る。「俺は貧乏 もともと母子家庭 靴下穴あき 聴いてたANARCHY」とこれまで語らなかった自身の生い立ちを熱くラップする。

G-HOPEさん

その後、HARDYさんも「俺は足まで橋をかける ラップをするのは明日の為」と返すが、G-HOPEさんは「明日の為? そんなラップじゃ稼げねえはした金」とアンサー。

延長戦はG-HOPEさんが終始強さをみせていたが、最後のターンにHARDYさんが「お前じゃ無理だぜライブ、音源 俺がヒップホップの最終王手」と締めくくったことにより、どっちが勝ってもおかしくない会場の雰囲気に。

審査員が何分かの協議をおこない結果発表がおこなわれた。僅差の大熱戦を制し、優勝を飾ったのはG-HOPEさんとなった。

なお、第13回大会の模様は、4月16日(月)午後9時より、BSスカパー!で放送される。

高校生日本一のラッパーになったその先に

そもそも比べるものではないが、第12回大会と今大会を観戦した筆者の所感だと、全体的に前回大会の方がレベルの高い試合が多いような印象を受けたのが正直な気持ちだ。

そんな中、G-HOPEさんやHARDYさんなど安定したラップスキルをもつラッパーが勝ち上がっていく姿には納得できた。1種のスポーツ化しているともいえるMCバトルのトーナメントにおいて、ラップスキルは基礎体力となるんだなと痛感した所存だ。

また、初出場ながら存在感を示した阿修羅さんやコウキ a.k.a 仏さんなどの新生ラッパーの登場もおもしろかった一方、昨今、女性(フィメール)ラッパーの出場も恒例となっている中、今大会は女性ラッパーの出場がなかったのが少し残念だった。

次回は、女性ラッパーの登場を楽しみにしたい。

最後に、筆者ら取材陣が大会後に優勝者インタビューを行った際になんとなく感じたことを述べさせてもらう。

インタビューのG-HOPEさんは、いわゆる高校野球・甲子園の優勝者インタビューのような「高校生日本一になったんだ」という喜びと晴れやかな姿や表情は見られず、淡々としている様子だった。 もちろん、G-HOPEさんの落ち着いた人柄や、インタビュー内でもCore-Boyさんにリベンジできないことが心残りだと語っているように複雑な心境があってそんな様子になったことも分かる。

しかし、その後のインタビューで「MCバトルは、1度お休みし、音源制作に力を入れていきたい」と語っており、そこから筆者は「高校生ラップ選手権で優勝したからといってラッパーとしての成功は保証されていない」ことを高校生ラッパーたち自身が強く認識しているのではないかと感じた(今さら筆者が言うまでもないかもしれないが)。

思い返してみると前回大会の優勝インタビューの際も、Core-Boyさんは、喜びを出すよりも淡々とした姿をみせ「ラップ選手権は通過点でしかない」と語っている。 例えば、第1回・第4回大会で優勝したラッパー・T-Pablowさんは、その活躍を経てリリースした楽曲も評価されているが、高校生ラップ選手権で名を残してきたラッパーの楽曲がみな売れているか(アーティストとして成功しているか)と言われるとそうではない。

その背景には、2015年以降のラップブームによって、ヒップホップのカルチャーが一般にも浸透しつつある中、ヒップホップのライフスタイルや楽曲を愛するファンと、MCバトルやラップそのものが好きなファンが2極化している現状もあると考えている。

どちらが良い悪いの話ではないが、日本のヒップホップが音楽としてより発展していくには、高校生ラップ選手権に出場していったラッパーたちが、MCバトルやラップそのものが好きなファンを巻き込んで、多くの人に評価される音源をリリースしていくことなのではないかと改めて感じた。

(C)BSスカパー!BAZOOKA!!! 第13回高校生RAP選手権in TOKYO

ヒップホップの最新情報

この記事どう思う?

この記事どう思う?

関連キーフレーズ

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。