このイベントは、7月26日配信予定のゲームアプリ超爽快アクションRPG『THE KING OF FIGHTERS ALLSTAR』の発表を記念したもの。本ゲームアプリは、3人一組のチームでガチンコバトルが楽しめる内容となっている。「KING OF TRACKS」も『THE KING OF FIGHTERS ALLSTAR』よろしく、並み居る人気ラッパーたちが3人一組のチームを結成し、観客たちの票を集めてガチンコバトルを行うという趣向だ。
特筆すべきは3人一組となったラッパーチームが、フリースタイルバトルではなく書き下ろしの楽曲で戦うということだろう。
さらに優勝チームには100万円が贈呈されるという、大規模なイベントとなっている。そんな渋谷WWW Xで6月12日に行われた「KING OF TRACKS」の様子を、ラッパーのハハノシキュウ氏が観戦。前代未聞のイベントについて、彼が感じたところを余すところなくつづってもらった。
取材・文:ハハノシキュウ 写真:Diora 編集(あとがき):須賀原みち
註:本文では、アーティスト名敬称略
ハハノシキュウが見た「KING OF TRACKS」
まず最初に、とある曲の一節を前口上として紹介したいと思う。“甘ったれるなよ、過程を評価してくれるのは学校だけだぜ”クラーク「KOF’98勝利セリフ」
2018年6月12日。「KING OF TRACKS」の公開収録が行われた。その様子は7月14日、AbemaTVで放送される。“例えば数ヶ月かけて出来た曲でも
数時間で簡単に出来たリリックだとしても
びた一文にもなりゃしない
お荷物で終わるなら趣味でラップしなきゃお陀仏だぜ
時代のせいじゃなくて自分のせいじゃね?
綺麗事を並べる自虐ラップはダルい
いつでもライブを見れば一目瞭然” LIBRO feat. MC漢, MEGA-G「マイクロフォンコントローラー」
「KING OF TRACKS」の詳細は以下の通りだ。
“「新曲の楽曲制作」でガチンコバトルを行う”有名人気ラッパーから若手ラッパーまで、8人のラッパーがそれぞれ自分たちの仲間を2人引き連れオリジナルチームを結成。そのチームで「新曲の楽曲制作」でガチンコバトルを行う。有名ラッパーの今まで見たことも無いオリジナルメンバーで作る新曲や、若手チームの下克上が見所。優勝チームには賞金100万円が贈呈される。「KING OF TRACKS」より
一体、何を競い合うのか?
この企画に対する第一印象はそれだった。
ドリームチームがそれぞれ持ち寄った書き下ろしの楽曲で競い合う。わざわざ、そんなことをしなくてもいいじゃないか? なんて思う人もいるだろう。またバトルですか? なんて思う人もいるだろう。
確かにMCバトルシーンがこのイベントの背景として色濃く作用していることは否めない。しかし、そこで「THE KING OF FIGHTERS」に因んで、実直にMCバトルによる3対3の勝ち抜き戦を行わなかったことが企画チームの手腕だと僕は思う。 司会のダースレイダーがパフォーマンス前のDOTAMAにこんな質問をした。
「今回の曲のテーマはなんですか?」
DOTAMAはこう答えた。
「日々、戦いというものは降りかかって来るものです。僕もSAMもDJ YU-TAも戦ってます。ここにいるみなさんも。なので、戦うための準備が必要だと思い『READY』準備は出来てるか?という意味を込めて持ってきました」 MC漢のライブ前のコメントはこうだった。「バトラーは曲が出来ないっていうクソッタレな風潮を変えに来た」。
「テーマですか? 終わらせに来た人たち、ですね」と語るKOWICHIチームのVingo。
対照的にWillyWonkaはこう言っていた。「戦うのはイヤですね。ピースに行きたいっす」。「楽しいことしか考えてない」とチームメイトのreviとlazyyは口を揃えた。
そもそも、好みが分かれることが前提のもの。プレイヤーの意識だって人によってまるで違う。まるで違うものに順位を付けることは可能なのか? 僕が懸念したのは審査方法で必ず物議を醸し出すだろうということ。
だから最初にはっきりと言っておく。
ラッパーたちが楽曲で競い合う価値は絶対的に、ある。
「KING OF TRACKS」につきまとう不安
「KING OF TRACKS」の取材に駆り出された僕は、右も左もわからないまま収録場所の渋谷WWW Xに足を運んだ。はっきり言って、ルールも何も知らない状態での来場だった。①初めて行われる大会だから観客も楽しみ方が決まっていない。
②初めて聴く新曲のライブだから観客もノリ方が決まっていない。
「初めて」という言葉に付き纏う二つの不安を抱きながら、僕は三つ目の不安について考えていた。それは改めて、出演者を全員確認した時だった。
③この出演者全員のファンを公言できる人間はいるのだろうか? と思えるくらいに趣味趣向の異なる人選(個人的にはネットラップからも一組呼んで欲しかった)。【出演者】(左が各チームのリーダー)
MC:ダースレイダー
KEN THE 390/TARO SOUL/DEJI
漢 a.k.a. GAMI/道/スナフキン
呂布カルマ/MAKER/BASE
DOTAMA/SAM/DJ YU-TA
ZEN-LA-ROCK/Kick a Show/???
KOWICHI/AKLO/Vingo(BAD HOP)
WILYWNK/revi(No name's)/lazyy(No name's)
MIKI(KANDYTOWN)/MUD(KANDYTOWN)/JUMA (SIMI LAB)
開演時間となり、「KING OF TRACKS」は総合司会のダースレイダーによるルール説明から始まった。
ひとしきりオープニングトークが終わり、各チームのリーダー全員が壇上に出揃う。この時点である程度の歓声は飛び交っていたものの、先ほど前述した不安要素を誰もが抱いていたかのように、少し空間が強張っていたような印象を受けた。「KING OF TRACKS」ルール
・判定は観客判定とし、Twitterの鍵アカを利用してその場で票を集計
・票数はパフォーマンス後すぐに発表され、暫定キングのチームよりも獲得票が少なければ即座に脱落(ダースレイダーいわく「M-1グランプリと同じ勝ち抜き方式」)
・パフォーマンスの順番はステージ上でクジ引きによって決定
・3人の役割分担は自由(例:3MCでも、2MC1DJでもOK)
・披露する曲は一曲のみ
そして、そのままの空気感でクジ引きが始まる。数字入りカラーボールの入ったボックスを右側から順番に引いていく。一番最初に引いたのはKEN THE 390だった。
「6ですね」
MC漢、呂布カルマと続いて、カラーボールを引いていく。前者が「3」後者が「2」だった。 そして、DOTAMAの順番が回ってきた時に空気は一変する。引いたカラーボールを誤ってボックスを戻してしまったのだ。DOTAMAの隣でマイクを持っていたZEN-LA-ROCKが、半笑いで一言。
「早くも不正が行われてますね」
会場は笑いに包まれ、ようやくフロアーの空気がほぐれたように見えた。開き直ったDOTAMAは両手を広げて観客の方を向き、マイクを通さずに生声で主張した。
「1番でした!」
おそらくDOTAMAは、この数字を引いてしまったことにより動揺してしまったのだと思う。すでにこの時点で、雰囲気がM-1グランプリに似ているなと感じていたのも手伝って、先頭バッターの重圧には同情の余地があった。
1番手はまだ空気が温まってない状態で先陣を切らなければならない。さらに審査の基準点を決める重要な役割も担っている。
しかし、DOTAMAがカラーボールをボックスに戻してしまうくらいにたじろいでしまった本当の理由は他にあった。それはこの後で行われるライブの構成によって露呈することになる。
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放送情報
KING OF TRACKS
7/14(土)24:00〜 「AbemaTV」GOLDチャンネルにて放送
7/15(日)21:00〜 「AbemaTV」HIPHOPチャンネルにて放送
7/22(土)25:00〜 「AbemaTV」HIPHOPチャンネルにて再放送
関連リンク
ハハノシキュウ
ラッパー
青森県弘前市出身のラッパー。学生時代は小説家を目指していたが新人賞の応募規定にあったあらすじの書き方が解らず、挫折。『3 on 3 MC FREESTYLE BATTLE』のDVD を鑑賞後「不良じゃなくてもラップをしてもいいのか!」と気付き、ラップを始める。MC BATTLE における性格の悪さには定評がありUMB や戦極MC BATTLEなどに出場し、幾多のベストバウトを残している。作詞家、ライターなどの顔も持ち、ライターとしてはクイックジャパン、KAI-YOU などへの寄稿で好評を得ている。特徴的なザラつきのある声と、自意識や青春をこじらせた英語を使わない歌詞で局地的な人気を集めている。2012 年05 月、処女作品集『リップクリームを絶対になくさない方法』をリリース。2013年09 月、フリースタイルダンジョン初代モンスターDOTAMA とのコラボアルバム『13 月』をリリース。2016 年11 月、地下アイドルおやすみホログラムの遍歴をエモーショナルにラップした『おはようクロニクルEP』がポニーキャニオンからリリースされ、実質メジャーデビューを達成する。2017年06 月、ハハノシキュウ× オガワコウイチ名義で2 枚組アルバム『パーフェクトブルー』をおやすみホログラム所属のgoodnight! Records からリリース。2017年08 月、ハハノシキュウ独演会「立会い出産 第一子」を開催した。
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