それを記念して、1月28日に東京・渋谷のSOUND MUSEUM VISIONにて「KEIJU as YOUNG JUJU Presents "7 Seconds" Supported by PIGALLE」が開催された。
「PIGALLE」 写真:金子優司
豪華な客演を可能にした“客演王”ことKEIJU as YOUNG JUJU
「KANDYTOWN」 写真:金子優司
オープニングDJから、フロア全体を覆う興奮は伝わってきた。それもそのはず、事前に発表されていたゲストだけでもそうそうたる面子だからだ。
KEIJUとKANDYTOWNに加え、tofubeats、JJJ(Fla$hBackS)、YZERR(BAD HOP)、JP THE WAVY、唾奇、RIRI……ここに、さらにシークレットゲストも加わることが明らかになっている。
この多彩でフレッシュなメンバーをゲストに、ライブとしてまとめあげることができるのは、KEIJU as YOUNG JUJUをおいて他にいないだろう。
彼の2017年の活躍は、目覚ましいものがあった。ソロ名義でのリリースこそないが、「2017年の客演王」との言われようも確かに頷けるほどの功績を残した。
清水翔太「Drippin’ feat. IO & YOUNG JUJU」やJJJ「COWHOUSE feat. YOUNG JUJU」、Zeus N’ LostFace「Someday feat.YOUNG JUJU and IO」。そして、YOUNG JUJUが総監督をつとめたMUDのソロ・デビュー作『Make U Dirty』収録の「A Lady feat. YOUNG JUJU」では自身が客演で参加している。
わかりやすい話題作もあればアルバムのスパイスとして機能している曲もあり、いずれもKEIJUは客演としてその役割をきっちりつとめている。
特に、Awich「Remember feat. YOUNG JUJU」と並ぶアンセムとして迎えられているのが、tofubeatsとの「LONELY NIGHTS feat. YOUNG JUJU」だろう。
その彼が「KEIJU」への改名と同時にメジャーデビューを果たす。そうして迎えた1月28日、ソロデビューライブへの期待はいやが応にも高まっていた。
「普段と違う特別な日だ」脳裏に刻んだ開幕のKANDYTOWN
筆者はKANDYTOWNの熱心なリスナーではない。ワンマンに足を運んだことはなく、イベントで過去に4度ほどステージパフォーマンスを見た程度だ。しかし、その筆者をして出し惜しみのないセットリストだと感じるほど、息つく間もない怒涛の構成。
冒頭、KANDYTOWNのライブの時点からそれは明らかだった。
「KANDYTOWN」 写真:金子優司
メンバーも驚くほど饒舌だったフロントマンの一人・IOはもちろん、普段ライブには顔を出さないメンバーの参加など、「普段と違う特別な日だ」と思わせるには十分なセットリストと布陣だった。
ラッパーのマイクリレーは生ライブにおいては見れたものではない場合も多いが、KANDYTOWNは彼ら自身のパブリックイメージと同様、ライブにおいても洗練され、かつ堂々としている。
「IO」 写真:junpei kawahata
豪華すぎるゲストタイム、次々と披露されるアンセム
DJを挟んで後、豪華なゲストタイムに突入。「JJJ」 写真:金子優司
「YZERR」 写真:junpei kawahata
「唾奇」 写真:junpei kawahata
「JP THE WAVY」 写真:金子優司
「Awich」 写真:金子優司
毛色が違ったのは、女子高生シンガー・RIRIとtofubeatsのライブだった。
KEIJUが最も注目しているというシンガーだというRIRIは、ややアウェイながら力強い歌声を見せつけ、初見の人が多かったはずのフロアを魅了した。
「RIRI」 写真:junpei kawahata
「tofubeats」 写真:金子優司
『FANTASY CLUB』から「CHANT #1」に「SHOPPINGMALL」、そしてフロアの感触を探りつつG.RINAとの「No.1」、KREVAとの「Too Many Girls」、tofubeatsの名を知らしめたオノマトペ大臣との「水星」といった大ネタを投下し、お祝いのステージを飾った。
「tofubeats」 写真:junpei kawahata
KEIJUが口にした喪失について
異色だったのは、メンバー・RyohuによるDJを挟んで、その日の目玉であるYOUNG JUJUこと「KEIJU」のソロライブパートだった。「Ryohu」 写真:junpei kawahata
この日、RIRIのライブ以来2度目となるマイクスタンドが設置され、KEIJUがメロディアスな新曲2曲を立て続けに披露。
「KEIJU」 写真:金子優司
“異色”と表現したのは、もちろんそれだけではない。最後の曲に移る前にKEIJUが話し始めたのは、1月24日に亡くなったECDのことだった。
KEIJUは現在、日本のヒップホップでは著名なエンジニア・Illicit Tsuboiと共に楽曲を制作しているという。
過去にECDの楽曲制作にも携わり仲良くしてきたというIllicit Tsuboiが、それでもECDが亡くなった翌日にはKEIJUのレコーディングに参加してくれたというエピソードを語るKEIJU。
彼への感謝の念、そして大切な人を失ったやるせなさを自身に引き寄せて、KEIJUは「僕も数年前に友達を失ったから、すごくその気持ちがわかる」と口にする。
すると突然、照明を消して、それぞれの大切な、失ってしまった人のために祈ろうと言い始めた。
彼が鼻声で口にしたこと全てをここでは書かない。黙祷については明らかにその場の思いつきのように見えたし、感情があふれた結果としての突発的な言動のように思えた。
それまでがひたすらお祝いムードにあふれる、それでいて緻密なステージングだったため、この場面とのギャップは余計に目立った。
KEIJUは最後まであえてその名前を口にしなかったが、その場にいたファンは知っている。確かにKANDYTOWNが悲しみを抱えていることを。
彼らはかつて、IOの親友にしてビートメイカーだった年若きYUSHIを不慮の事故で失っている。2015年、翌年のメジャーデビューを待たずに亡くなった彼は、KANDYTOWNの中心人物でもあった。
KANDYTOWNは、メンバーのことをファミリーと呼ぶ。かつて大黒柱だったYUSHIの喪失は、ことあるごとにメンバーを家族だと強調する彼らに影を落としている。
正直、筆者にはわからなかった。ソロデビューを祝うライブ中に、ECDの逝去をきっかけに本人から唐突に挟まれた黙祷をどう受け止めればいいのか。フロアからまっすぐな視線をステージに向けている観客が、このメッセージをどう受け止めているのか。
ただ、しばらく後になって思い出した一節がある。遺作となった著書『他人の始まり 因果の終わり』の中で、ECDはこう語っている。
同書は、家出を図って家族から逃亡し、後に脳溢血で亡くなった母と、父との二人暮らし中に腹をさばいて自殺した末の弟を巡ったエッセイである。「今のヒップホップをリードしているのは、あらかじめ崩壊した家庭に生まれた子供たちだ。KOHHがそうだ。BAD HOPもそうだ。川崎のゲットーで育った子供たちだ。僕たちは高度成長が生んだフリークスだった。何不自由ない家庭を自らぶち壊しながらでないとバンドをやることもできなかった。七〇年代の後半から八〇年代の前半のアンダーグラウンドの音楽はそうやって花開いた。僕はいまだにそこから離れられないでいる。」(ECD『他人の始まり 因果の終わり』/河出書房新社より)
中産階級に生まれ、吉祥寺の均質化されたよそよそしさから逃れるために高校中退を宣言した自分の行動が、家族の崩壊に繋がった一因だったのではないか──そう振り返るECDが晩年、自身の根底にある(作為的な)喪失感を見つめ、その喪失をあらかじめ抱えて育ったうら若きラッパーたちの姿に重ねて見ていた。
紋切り型の記述と言われてしまえばそれまでだが、80年代から活動するECDというラッパーが時を超えた若い世代と自らの世代を対比させる言葉として、筆者の心には強く残っていた。
そして奇しくも、吉祥寺からそう遠くない世田ヶ谷を拠点とするKANDYTOWNのクルーが、それも記念すべきイベントの最も大事な瞬間に、家族を喪失した自身に重ねる形でECDの喪失を偲んだのだ。因果という他ない。
「KEIJU」ソロデビューの狼煙とその終幕
フロアはしばし、静寂に包まれた。その黙祷の後、失ってしまった友達に捧げる曲として、最後の新曲が遠慮がちに披露された。
「KEIJU」 写真:金子優司
しかし、一連のくだりや背景を度外視しても、この日披露された3曲の中で最も血肉が通い、シンガーとしてのKEIJUの魅力がきちんと発揮された叙情性豊かな名曲だったことは記しておく。
「こんなはずじゃなかったんだけどなあ……」とボヤくKEIJUの声が耳に残っている。
こういう時、クルーであることのありがたみを知るのだろう。妙にしんみりしたフロアとKEIJUを鼓舞するかのように、我先に駆けつけたKANDYTOWNのメンバーたち。フロアを煽り「KEIJU」をコール&レスポンス、巻き返しを図る。
「KANDYTOWN」 写真:金子優司
「清水翔太」写真:金子優司
KANDYTOWNは、tofubeatsがかつてそれを的確に評していたように、思っていることを強く打ち出すクルーではなく、メンバーそれぞれが感じていることや洒脱な言動を含めた全体感が支持を得ているように思う。日本ではこれまであまり見られなかったタイプのクルーだ。
彼らは2016年の「さんピンCAMP20」でも、ステージでYUSHIの遺影を掲げてライブをした。その感傷もまた、KANDYTOWNというクルーの根底に流れる要素となっている。
イベント・タイトルの「7 Seconds」には二つの意味があるという。バスケットボール用語で、「7秒以内に2点を取るクイックプレイ」という意味が一つ。
そして、もう一つは、セネガル人アーティストのYoussou N'DourががNeneh Cherryをフィーチャーした同名の世界的大ヒット曲から取られてもいる。アフリカの「語り部」の血を継いでいると言われる彼は、「7 Seconds」にて、新生児がこの世に生まれてから最初の7秒、つまり、世界中が抱える問題──肌の色など──を何も知らない無垢なる時間を歌った。
最後の最後、KEIJUが露呈させた繊細さは、新たな一歩を踏み出すアーティスト「KEIJU」としての武器になるのかもしれない。
KEIJUソロデビューの狼煙が上がったこの日は、一日限りの特別な夜だった。それだけは間違いない。
ストリートの今、HIPHOPの今

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1件のコメント
匿名ハッコウくん(ID:1664)
温度が感じられるすごいいい記事。実際にイベントに行って感じた思いと、記事を読んでから振り返り思い出す感じとが混ざり合い、お気に入りの本を読み返した感覚になりました。
素敵な記事。この記事でKEIJUやKANDYTOWNをもっと好きになりました。
ありがとうございます。