「グラフィティも社会に貢献できる」世界を飛び回るライターの思い

「グラフィティも社会に貢献できる」世界を飛び回るライターの思い
「グラフィティも社会に貢献できる」世界を飛び回るライターの思い

POPなポイントを3行で

  • 合法的なグラフィティ手がけるVERYONEさんにインタビュー
  • グラフィティへの締め付けが強くなってきている
  • 「グラフィティなんて日本に根付かないかも」発言の真意とは?
グラフィティ」と聞いて、どんなイメージを抱くだろうか? 路上の壁などにスプレー等を用いて描く行為や作品を指す。直訳すると「落書き」だ。

KAI-YOU.netでは、「2018年のストリート」を特集している。

ストリートカルチャーから派生した様々なジャンルが世界的に隆盛し、日本でも独自の空気感として広がっている。スケートがオリンピックの種目に選ばれ、スケートブランドの存在も世界的に認知されつつある。そして、アメリカや韓国ではヒップホップが当たり前に聴かれ、トップチャートを賑わすようになった。

グラフィティもまた、ストリートカルチャーの一つだ。ただし、無許可なグラフィティ行為は日本では器物損壊罪や建造物等損壊罪といった違法行為にあたる。2017年には、ラッパーのKダブシャインさんがグラフィティを称揚するツイートをし、炎上の様相を呈した。 今年だけでも、グラフィティを巡って大きな報道があったばかり。13日には千代田線、15日には日比谷線、そして小田急線の車両が被害にあったことが立て続けに報じられ、被害届を受理した警察が捜査を始めた。

ヒップホップやスケート文化が日の目を浴びたことで変化を余儀なくされているのと同様に、グラフィティもまた、社会とどう向き合っていくのかを問われている

取材・文:新見直 取材協力:藤瀬崇史

「スキマが減っている」日本におけるグラフィティ

1970年代にNYで隆盛したと言われる「グラフィティ」カルチャーは、大ヒット映画『ワイルド・スタイル』の中でヒップホップカルチャーの一つとして広く認知され、日本でも80年代後半にはその文化が目撃されている。

『ワイルド・スタイル』/Amazonより

「グラフィティ」は落書きという性質上、路上が主な表現の場だ。グラフィティを描く“ライター”たちはその表現を追求するため、夜な夜な街へ繰り出す。街中での無許可のライティング行為は「BOMB」(ボム)と呼ばれる。

しかし、ライターたちは「ここ数年で、街のスキマが減っている」と語る。

都心はカメラであふれ、ライターはその痕跡を消すことができない。行政の締め付けも厳しくなり、グラフィティへの風当たりはますます強まっている。

ガードレールや電柱、壁など、グラフィティには大小様々な対象があるが、それが電車の車両といった影響の大きいものに及んだ場合、大きく報道され社会問題にもなるのは前述の通りだ。

例えば世界的に合法化の流れが進み活発に議論されているマリファナ(大麻)とは異なり、野外でのグラフィティは世界でも「ヴァンダリズム」(蛮行を意味する破壊行為)として嫌悪されることもある。

「グラフィティ」の礎は確かに無許可なボムだが、本質はその違法性にだけあるのではない。

ライターのサインを残す「タグ」(タギング)、2色で構成された文字のアウトラインを残す「スローアップ」、3色以上を使って作品として仕上げられた「マスターピース」(ピース)……様々な表現手法でライターは完成度を競い合う。

街中にあったとしても、無許可なボムだけではなく、店主や所有者に許可を取ったウォールアートやグラフィティも数多く存在している。しかし、それらは一般人には区別がつかない。「グラフィティは違法行為」という偏った見方が、その理解を拒んでいるからだ。

では、様々なストリートカルチャーが社会に浸透する中で、グラフィティはこの国で、文化としてどのように生き残っていくのか。

例えばグラフィティシーンからの一つの回答として、ラッパーのSHINGO★西成さんらによるアートプロジェクト「西成ウォールアートニッポン」(西成WAN)がある。

「西成ウォールアートニッポン」(西成WAN)

日雇い労働者らが多く集まる通称「あいりん地区」として知られる西成で、アーティストと地域の子どもたちが許可を得て街にグラフィティを描いていくことで、西成のイメージアップと来訪者の増加を目指している。

つまり、“合法的なグラフィティ”とも言える。

今回話を聞いたのは、その運営の一人であるVERYONEさん。大阪を拠点に世界中を飛び回って20年以上活動を続ける彼は、グラフィティに対してどのような思いを抱いているのか。

「なぜグラフィティを描くのか?」突きつけられる問い

VERYONEさんがグラフィティに興味を持ったのは、1995年。16歳のことだった。

当時、周囲の影響でヒップホップDJとして早くも活動していたという彼は、ヒップホップ映画のつもりで鑑賞した『ワイルド・スタイル』に感銘を受けて、その日の夜に、スプレー缶を片手に家を飛び出していた。

「誰も(グラフィティを)やっていなくて、マニアックなところに惹かれたのかもしれないですね。全然シーンのこととかもわからなくて、駅前にボムってたら、ちょっと噂になってたみたいで。『誰だよあの落書き』って。最初は何を描きたいかって言うより、描ける場所を探して街を歩くことが面白かったですVERYONEさん

「不安なんて全然なかった。ああいうの(グラフィティ)をどんどん街に増やそう」という一心だったと振り返る。1年ほど一人で街に繰り出していたVERYONEさんはその後、グラフィティショップを通して他のライターに出会い、その輪を広げていった。

街を楽しむ”という感覚はどうやら、グラフィティライターには共通した思いのようだ。筆者の周囲のライターたちも、口を揃えて同じことを語る。

ボムが違法行為である以上、大っぴらにその活動を行うことはできない。夜が更けた頃、人の目をかいくぐって自分にとってのキャンバスを探す。

とは言え、完全に誰の目にもつかない場所はキャンバスとしては相応しくない。適度に人の目に触れる場所でなければ、描かれたグラフィティは意味をなさないからだ。

街中で、人通りも車の行き交いも絶える一瞬。ライター曰く「街の空気が止まる瞬間がある」という。

「自分の存在意義を示すだけ、という人もいるし、見るのだけが好きな人もいる。みんなそれぞれですよ。でも、変なヤツは多い(笑)。常に葛藤があるから、普通の人は(グラフィティを)続けてられないですよ」 (VERYONEさん)

「なぜグラフィティを描くのか?」。ライターは、常にその問いを突きつけられている。

逮捕されるリスクを負って、かつ、ライターとして世間に向かって堂々と名乗りを上げるわけにもいかないため名前を売ることも容易ではない。

個展を開いてキャンバスに描いたグラフィティを作品という形で販売したり、ファッションブランドを立ち上げたりと、グラフィティから派生したビジネスも存在するが、それで生計を立てられている人間は一握りだという。

グラフィティマガジン『HSM』

20年以上活動を続けるVERYONEさんも、グラフィティマガジン『HSM』を発行しているが、グラフィティ活動だけで食べていっているわけではない。「お金儲けを考えたら、やめた方がいいっすね」。

それでもなお、ライターはグラフィティに魅了されてしまう。

世界を巻き込んだゲームとしてのグラフィティ

VERYONEさんは、自身にとってグラフィティは「ライフスタイル」だとはっきり言い切る。

「クセ、というか。俺は、やり出したら止まらない気質。街歩いてると、自然にグラフィティに目がいっちゃうし、写真撮ったりもするし。もう、自分にとって関わらずにはいられないものなんですよ。もちろん自己表現の一つでもある。誰も見たことのないグラフィティを描いて、マスターピースを残していきたい」 (VERYONEさん)

VERYONEさんは、グラフィティをある種のゲームに例える

誰がどこに、どんな新しい表現のグラフィティを描くか。カッコイイ場所にカッコイイものを描いて、グラフィティシーンの中で自分の名前を上げていく。

公共物に描くのか、私物に描くのか。ライターによって傾向は異なり、その対象も様々だという。ガードレールや電柱、大事にされてない建物。廃墟や工場の裏の壁。VERYONEさんはそうした「街のスキマ」に好んで描いてきた。

例えばNYでも常にグラフィティの対象となってきた電車の車両は、やはり日本でも「ポイントが高い」のだという。「人の目に触れる、一番美味しい場所だから」──電車だけを対象にしたトレインライターなど、世界規模で様々なコミュニティーが存在し、ライターの中でも住み分けがされている。

ライター同士で切磋琢磨し、時にはクルーを結成して協力しながらグラフィティ作品を生み出す。それは「世界を巻き込んだゲーム」だという。

ただ、他人に迷惑をかけてしまうことに決して無自覚なわけではない。

「自分も昔はいろいろやってました。変なとこに描いちゃって、後日おばあちゃんがそれを消してるのを見て反省したこともあります。そうやっていろんなことを覚えてきた。以前、民家に描き出した若いヤツらがいて、Twitterで苦言を言ったことがあるんですよ。そしたら、おまえが言うなって炎上しましたけど(苦笑)」(VERYONEさん)

そして、グラフィティを巡る状況はより深刻さを増している。

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1件のコメント

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匿名ハッコウくん

匿名ハッコウくん(ID:1668)

5分くらいで消える画材で描いたら良いんですよ。水とか。

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