話はコミケからエジプト、スピルバーグへ
ここまでが、囲み取材の様子だ。実はこの日、個別取材が可能かどうかは当日までわからず、会場に入ってから個別取材の時間をいただけることが判明した。
とは言え、当然沢山の質問を用意していった筆者だったが、恭子さんの口からとうとうと語られる、コミケからエジプト、スピルバーグへつながる壮大なお話を前に、すべての質問が吹っ飛び、かろうじて相槌を打つのみ。
普段、メディアやイベントでは恭子さんのお話を補足されることも多い美香さんは、終始頷きながら恭子さんのお話に耳を傾けていた。
囲み取材前のトークイベント中、恭子さんが「オタク」の定義について、そもそもなぜカテゴリ分けしなければいけないのか疑問を呈するくだりがあった。「もし『オタクですか?』と私たちが聞かれてもどう答えていいかわからない」と(実際に「オタクですか?」という質問があったわけではない)。それも踏まえて読んでみてほしい。 ──昨日は本当にお疲れ様でした。僕も名刺をいただきました、ありがとうございました。
恭子さん&美香さん こちらこそありがとうございました。
──昨日は帰ってすぐお休みになられたんですか?
恭子さん いえ、しなければいけないことがたくさんありましたので。
美香さん そうですね、ブログも更新しましたし。
恭子さん チェックしなきゃいけない宿題とかが沢山。
──そうですよね、昨日まではコミケ準備にかかりきりとうかがいました。しかもその翌日に発表会で本当にお疲れ様です。
改めてコミケ参加についてお話をうかがいたいのですが、サークルとして参加して初めて気付かれたこと、想定と異なるギャップはありましたか? 先ほど、指の皮がはがれたといったお話もありましたが。
恭子さん 指の皮なんて、別にどうでもいいことなんですよ。たまたま、そんな(名刺を1万枚配る)ことは自分の人生の中でやったことがなかったので、単にお勉強になったというだけです。
ギャップといっても、私たちは、普段から、何かを始めるにあたってはかなりリサーチをするので、普通は大体わかっているんです。
例えば、エジプトにいくとかインドに行くとか、危険がないわけではありませんが、私も美香さんもどうしてもピラミッドに登ってみたかった。でもそこは40度以上の灼熱で、治安もよくない。そういうネガティブな要素もあって、行く前に相当な下調べをしました。
でも、エジプトというところでは、いろんな方のいろんな評価が聞ける。しかも、誰もがエジプトに行こうと思えば行ける。それは、コミケにも通じるところで。コミケも、私たちにとっては、日本にある特別な場所、というイメージなんです。
──さきほどコミケを異国とも表現されていましたよね。
恭子さん はい。コミケは言葉も通じるので、例えばインドやエジプトと日本のカルチャーとの違いと、全く同じではありません。けれど、私たちにとっては異国と同じだったのです。
オタクの方々は、皆さんあまりに礼儀正しくマナーがよい。さっきも申したように、オタクという分け方を世間がしている意義が私たちにはわからない。
よく言われるのです。「世の中の人は大半がオタクという事実を隠したがるところを、叶姉妹は全然それを隠そうとしないどころか、テレビで言っている」と。でも、私たちテレビで「オタクです」なんて言ったことないのですよ。じゃあ、そもそも「オタクというものって一体何?」「世間がいうオタクというイメージって何?」私たちはそれを知らないのかもしれない。
もしくは、勝手な感想ですが「なぜ(オタクとそうじゃない人を)分けるの?」とも思っていて。そういった意味では、世の中の方の勝手につくっているイメージ、偏見があるのではないかと。
私たちは、自分のしたいと思うことを素直にしている。今に限らず、それはずっとです。そして、したいと思った時には、何が何でもベストな形・状況でいく。それが自分たちにとって楽しいことなんです。 だから、エジプトにしても、ピラミッドとスフィンクスを必ず見たい。それで一番いい場所を調べた結果、あるホテルのバルコニーから見るのが一番綺麗だと思ったので、そこに泊まりました。それは、現地の方に写真を送っていただいたりしたことも含めて、自分たちのリサーチでわかったのです。
ホテルのバスタブに入れるお水も、エビアンやコントレックスを何ダースも持ち込む。コミケについても、同じ感覚です。何かしたい時は、必ず自分たちのベストな状態でいく。それに対して、皆さんが不思議がっていることの方が不思議なのです。
──お二人にとっては自然な状態だと。
恭子さん 「叶姉妹はお金を持っているくせに、なんでオタクのところでビジネスをしているのか」ともよく言われます。
私たち、お金のことなんて全く考えたこともないです。正直、たった一日のイベントでのお金なんて、普段の一時間や二時間で済ませられる話なんですよ。
じゃあ、(事前準備や制作も含めて)これほど時間を費やして、むしろお金的にはマイナスかもしれないことをなぜ私たちがするのか。世の中の人はわからないと思います。
なぜなら、自分の価値観、知識の中で当てはめてしか考えていないからです。そうじゃなかったのは、スピルバーグでしょう(※筆者註:『E.T.』や『ジュラシック・パーク』の監督)。あの時代に、誰も考えていなかった想像のものを映像に落とし込んだから絶賛されたのであって。
もちろん、私たちの頭の中はスピルバーグと言わずとしても、今は誰にもわからないことがいっぱい入っていると思います。
日本の方は、日本のカルチャーでしか物事を考えていないから。世界から見たことがないから、(私たちのことを)違った形の生物として見る。
例えば私たちがシースルーのドレスを着ていても、少なくともアメリカのアカデミー賞のレッドカーペットで通用する、フォーマル度の高いものだということもご存知なく、「露出狂より露出している」とか書く方はいっぱいいらっしゃいます。
例えば私たちのインスタグラムも、とても過激だと書かれている。でも、海外のセレブが出しているものは、それはそれはもっとすごいものが沢山。それも名前の通った方々です。私たちは可愛いもので、日本向きに地味目にしているにも関わらずそんな反応の方もいらっしゃる。
でも、私たちはなんとも思ってないんです。視野が狭く生きてらっしゃるだけなんだとお勉強になるだけ。
──うらやましいと思っている部分もあるんじゃないでしょうか?
恭子さん ないと思います。うらやましいというのは、自分に少しは近い存在でないと。遠いと、羨ましくもなんともないでしょう。
──ただ、先ほどのオタクの話も踏まえて言えば、叶姉妹のお二人は、ご自分の生活自体をオープンにされていますよね。セクシュアルな部分さえオープンにされている。それぞれ違うものですが、日本において、性のことだったり、あとはアニメや漫画といったオタク趣味は、基本的には秘匿すべきものだという感覚があるので、お二人の言動に驚くのじゃないかと。
恭子さん 日本はそもそも隠蔽主義なのですよね。それが本当に不思議。私たちのメンタリティーが日本のカルチャーとは違うのだと思いますね。
あとは、私たちは、他の誰とも比べられない。同じようなことをしてらっしゃる方がいても、どなたとも違うオリジナリティーがあります。
例えば、海外のことが知りたい。それで世界を旅して回る方は大勢いらっしゃいますが、私たちは、もし何かを知るためには、すべてを知らなければいけない。上から下まですべて。だから当然中間もです。そういう生き方をしてきましたし、それは今回(のコミケ)も同じです。
どんなにお金を費やしても、それで得た経験には勝てないのです。(コミケ参加も)自分たちのちょっとした気持ちでやったことではなく、すべてを知るというつもりでやっています。
──なるほど。だから、もっと次はこういうものをつくりたい、と思うということですね。それでは、コミケを知るという意味で、一般参加もされて、サークル参加もされて、コスプレ参加という可能性もあるのでしょうか?
恭子さん コスプレ参加はありません。私たちは、コスプレイヤーにはならないです。なぜなら、自分たちがやりたいことはコスプレではないから。
コスプレには、既存のキャラクターのイメージがある。つまり、限界があることなので、あまり熱中はできないのです。美香さんは、さらっと(コスプレを)やっても、幸いにも完成度が高い。かといって、私たちはコスプレイヤーというものになるつもりは微塵もないし目指してもいない。今後先もない。ただ、皆さんが勝手に呼ぶのは、ポジティブな意味ではウェルカムです。ネガティブなものはスルー、あまりにひどいものはなんとかしないと、と思います。
コミケについては、最近のすごく夢中になれることです。人によっては、それがディズニーランドかもしれない。けれど、世界中でやりたいことをやり尽くした私たちにとっては、そこ(コミケ)にたどり着いた時、こんな身近にこんな知らないことがあったなんてと感動したんです。
そしてそこにいた方々の、なんと礼儀がいいことか。触れ合ったことで、それがわかりました。
それはさきほど、皆さんの前でもお話した通りです。「お待たせしてごめんなさい」と私たちが口にするべきなのに、「長い間いてくださってありがとうございます」と。 私が、グッドルッキングガイの親友とそういう関係になってしまった時、グッドルッキングガイから「僕が至らなかったからこんなことになってごめんなさい。何を直せば僕はそうじゃなくなりますか?」と言われたことがあって。それも二十歳過ぎの子に言われた時に、「こんなことを言わせてしまっている私は本当にダメだ」と思っている気持ちと似た感情を、なぜか思い出してしまいました。
私は、もしかしたら感動のポイントが人と違うのかもしれませんが、自分が言うべきにも関わらず、相手の人から先回りで言われると、心が動いてしまうのです。しかも、コミケではそういう方が、一人や二人じゃない。
──コミケは、並んでいる人も「お客さん」ではなく「一般参加者」だからでしょうね。みんなで参加してつくりあげるというのがコミケのコンセプトです。
美香さん そうですね。それは私たちも最も気をつけたポイントです。
恭子さん だから、私たちが特別扱いされるのも嫌なんです。ただ、私たちは、自分の影響力も考えなければいけない大事なポイントだと思うんです。運営の方にもご迷惑をかけてはいけない。自分たちが人に知られているということを加味した上で、誰も不快に思わないようにすること、それも努力したポイントでした。
──それは会場で伝わってきました。だからこれほど絶賛されたんだと思います。
スタッフから事前に指定されていた取材時間をすでに大幅に超過してしまっていたため、取材時間はここで終了。
これが、コミケ参加の翌日、叶姉妹のお二人がコミケについて語ったすべてだ。
叶姉妹のコスプレレポート
叶姉妹、共感できる
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8月11日(金)から8月13日(日)まで開催されている、世界最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット92」(C92)を特集! 企業ブースや同人サークル、コスプレまで、様々な角度から真冬の風物詩を取材していきます。
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