DCG「グウェント」本間覚インタビュー 知られざる“ローカライズ“の裏側とは?

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海外ゲームのローカライズとは、どのような作業なのか

──続いて、海外ゲームのローカライズについてうかがいます。ローカライズ担当が行う仕事の範囲は非常に広いと聞きましたが、具体的には、どういった作業がありますか?

本間 大きくわけると、自社タイトルのローカライズか、他社のタイトルかで異なります。前者の例では、例えばソニー・インタラクティブエンタテインメントさんが発売される『ホライゾン ゼロ・ドーン』のような例が挙げられます。この場合、各国に販売するため、ローカライズが行われることを前提で動きます。

一方、スパイク・チュンソフトさんが発売された『ウィッチャー3』は後者です。このケースでは、まず「E3」のような見本市で発表されたタイトルのうち、日本法人がないなどの理由で日本語ローカライズが決まっておらず、かつ、日本市場での売上が期待できるものを選び、権利交渉するところから始まります。

当然、競合もいるため、セリのように価格交渉などをして、ローカライズの権利を獲得します。
ウィッチャー3 ゲームオブザイヤーエディション アナウンストレーラー
本間 その後は、自社タイトルも他社タイトルもあまり変わりません。外国語で書かれたテキストを日本語に翻訳し、必要があれば、音声の収録も行います。

テキストや音声をゲームに組み込んだ上、発売後は、ゲームの販促や営業活動も行います。私の経験では、それらすべてが作業範囲でした。

──翻訳だけでなく、営業活動なども担当されていたのですね。

本間 翻訳者の仕事は、翻訳の作業で完結しますが、ゲームメーカーのローカライズ担当はそれに留まりません。例えば、音声収録をする際は、スタジオでディレクションに近いこともやります。

声優の沢城みゆきさんと4カ月ほど一緒に収録したこともありますが、多くのローカライザーが、セリフ原稿の執筆も担当しています。小説家でもなければ、物書きでもないなかで、沢城さんのような有名な声優さんに数千行分のセリフを書き、現場で質問に答えたり、修正を行ったりするのは、最初はすごくプレッシャーのかかる仕事でした。今ではそれを役得と考え、楽しんでやっています。 本間 同時にプロデューサーであるケースも多く、そうなると日本での販売本数についても責任を負うことになり、マーケティング部門が起案したプロモーションプランの実行についても判断します。よりよいローカライズを行うだけではなく、そのゲームがより日本で売れるために、さまざまなアイデアを考えて実行する形ですね。

──本間さんが担当したタイトルは『ウィッチャー3』など大規模なものが多い印象ですが、ローカライズには、どのくらいの期間がかかりますか。

本間 ボリュームによってピンキリですが、『ウィッチャー3』は、トータルで2年間くらいかかりました。もちろん波があるので、2年間毎日ずっと作業をしていたわけではありませんが、小規模のものでも組み込みからテストなどを含めると2カ月くらいは必要ではないでしょうか。

『ウィッチャー3』のようなオープンワールド型RPGの場合、100万ワードを超える物量を翻訳する必要があり、仮に1日あたり2000ワード翻訳できるとして、500日かかる計算です。実際には、翻訳だけにそこまで時間をかけられないため、複数人に振り分けて翻訳することとなります。

複数人が翻訳を行うと、どうしても言葉の雰囲気に差が現れてしまうので、最終的には1人に集約させて、雰囲気の統一を行います。

──同じ単語でも場面によって別の日本語をあてることがあると思いますが、どのように判断するのでしょうか。

本間 ゲームをプレイしないとわからないですね。そのため、自分はプレイしながらのローカライズを重視しています。翻訳者さんに翻訳していただいたテキストをゲームに実装し、じっくりQA(※1)作業を行うのが確実だと考えています。

ローカライズ担当によっては、翻訳自体に力を入れている人もいます。自分は文芸家ではなく、言葉選びのセンスもあまりないと思っています。なので、究極的にはシーンに合った日本語が出さえすれば違和感はないと考え、ゲームプレイ重視のパワープレイ的なローカライズを行っているイメージですね。

ちなみに『ウィッチャー3』では、自分がQA作業を行った結果、世界で1番早く完全クリアした人として記念のTシャツをもらいました(笑)。分岐が多く、1周クリアしただけでは到底すべてのテキストを見られないので、私一人でも5、6周はクリアしたと思います。

でも逆に言えば、1周じっくりプレイするのに100時間くらいかかるゲームだと、5、6周がどうしても限界になります。

※1 Quality assurance。直訳で「品質保証」。ここでは、テキストの雰囲気を場面に沿うよう調整する作業を指す

──本間さんが担当するのは、ファンタジーが多いと思いますが、現実世界にないことを日本語にするのは難しいのではないでしょうか。

本間 そうですね。個人的な趣味嗜好として、「なるべくカタカナを使わない」ようにしています。

たとえば「魔法」を意味する単語を「マジック」や「スペル」としてしまいがちなところを、「呪文」といった日本語にするとか、「ボート」は「小舟」にするとか。

小説『指輪物語』では、直訳では「大股で歩く人」を意味する「Strider(ストライダー)」を「馳夫(はせお)」と訳しているのが有名ですが、これの良しあしはさておき、似たようなポリシーで仕事をしています。ファンタジーの言葉は、決まった対訳がないことも多く、造語をあてることも多いです。

──具体的には、どのような造語がありますか。

本間 「グウェント」では、「War Crier(ウォークライヤー)」と呼ばれる、戦場で雄叫びをあげる兵士のカードがあります。そのまま「雄叫びをあげる者」と訳してもよいのですが、少しダサいなと(笑)。

しかも、正確に訳せば「アン・クライト一族の雄叫びをあげる者」となってしまい、冗長とすら感じます。

アン・クライト一族の鯨波兵

本間 悩んだ結果、「アン・クライト一族の鯨波兵」としました。「鯨波」は、戦場であげる声を指し、海賊がひしめき合う「スケリッジ」と呼ばれる島々を背景としたカードのため、鯨のイメージがぴったり合いました。

──そのほか、ローカライズで苦労する点はありますか。

本間 スケジュールが大変な点に尽きるのではないでしょうか。

往々にして、100万ワード級のRPGも、5万ワードほどのFPSも、販売までにかけられるスケジュールにはあまり差がありません。そのなかで、どうさばいていくかという話で、単純にボリュームが多いタイトルほど、スケジュールとの戦いがしんどくなります。

──大変といえば、海外ゲームの場合、音声収録もかなりのボリュームと聞きました。

本間 日本では「一口ボイス」と呼ばれる感情表現をテキストに合わせて出す方法もありますが、海外の場合、フルボイスが一般的です。おのずと、一言語あたりのファイルサイズもすごいものとなります。

日本版では一言語で済みますが、欧州の場合、国単位ではなく欧州版として発売することが多く、英語・フランス語・ドイツ語・スペイン語・イタリア語と5言語は入れることになるので、仮に一言語あたり5ギガバイトだとしても、これだけで25ギガバイト。2層のブルーレイディスクの容量は50ギガバイトなので、半分が音声データになる計算です。 本間 またオープンワールドは、分岐が複雑で、台本だけではどのタイミングでのセリフなのかわかりづらいことも大変です。たとえば、ボスキャラと戦う前なのか戦った後なのか、特定のキャラクターが亡くなった前なのか後なのかなど、声優さんに対して、事前にインプットしたり、現場でフィードバックして調整したりする作業は、ローカライズ担当が行います。

どのようなセリフが聞こえてくるのかが、ユーザーがローカライズのクオリティを判断する重要な要素のため、かなりの時間を要しますが、力を入れるべき作業とも考えています。

──ありがとうございます。最後に、現在CD PROJEKT REDのジャパン・カントリー・マネージャーという肩書の本間さんは、ほぼ一人で日本のマーケットを担当しているとお聞きしましたが、今後はどのような展開になりますか。

本間 最近になって、日本語ができるポーランド人スタッフを本国で雇用してユーザーサポート業務を担当してもらっていますが、それでも、自分と合わせて2人体制です。さらにコミュニティスペシャリストの募集をかけており、今後の体制の基盤を築ければと考えています。

──その言葉通り、ユーザーへの質問に丁寧な回答を用意するなど、プロモーションからユーザーサポートまですべて精力的に行う本間さん。

世界規模では「ハースストーン」一強、国内では「シャドウバース」がDCGシーンをリードする状況のなか、「グウェント」はどこまでの広がりを見せるか、引き続き注目したい。

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杉山大祐

編集者、ライター

有限会社ノオト所属の編集者、ライター。企業のオウンドメディアの編集や執筆、SNS運用を担当。家庭用ゲーム機からPCゲーム、アーケード、アナログゲームまでをまんべんなく遊ぶ無類のゲーム好き。Twitter ID:@doku_sho

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