アーティストがアートだけで食える方法とは? 椿昇が講師となるFCPの魅力

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アーティストがアートだけで食える方法とは? 椿昇が講師となるFCPの魅力
アーティストがアートだけで食える方法とは? 椿昇が講師となるFCPの魅力

「FUTURE CULTIVATORS PROGRAM 2017」で講師を務める現代美術家・椿昇さんの作品

東京藝術大学の卒業生の半分が“行方不明”になるという逸話が紹介されている書籍(『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常』)がベストセラーになったのも記憶に新しいが、果たして現代美術などのアーティストは、アートだけで”飯を食っていく”ことができているのだろうか?

公的機関などの支援が盛んで、アーティストとしての生き方が認められている欧米と違って、日本において“アーティスト”として自立していくのはまだまだ大変なことだ。

とはいえ、近年では、そうしたアーティストを目指す人のために、国内外、公的機関や企業問わず、さまざまなアーティスト支援プログラムが用意され始めている。

その中でも「FUTURE CULTIVATORS PROGRAM」(以下FCP)は、“クリエイターとしてどうあるべきか、どう生きるべきか”という視点から次世代クリエイターを支援するプログラムだ。
現代美術家の椿昇と学ぶ「やわらかさの美学」 FCP2017が開催
選ばれた参加者にはワークショップとフィールドワークの機会が提供され、オリジナルの作品を作品発表会にて発表する機会が与えられる。

本プログラムは、無添加タバコ「ナチュラル アメリカン スピリット」で知られる「トゥルースピリットタバコカンパニー」が2015年より開始したもの。分野を問わず本気でアーティストを志す方々のために、これまで有名アーティストによるワークショップや参加者の作品展示などを行ってきた。応募資格は次世代のクリエイターを目指す21歳以上の男女。職業、プロ・アマ経験は問わない。

今年行われる第3弾の「FUTURE CULTIVATORS PROGRAM 2017」では、現代美術家の椿昇さんを講師に迎え、東京でのワークショップと京都でのフィールドワークを開催する。2017年6月19日(月)に参加者公募がスタートした本プログラムについてご紹介しよう。

文:齋藤あきこ 編集:かたやまけん

アートの“仕組み”をも生み出す現代美術家・椿昇とは?

まず本プログラムの講師である現代美術家・椿昇さんとはどんな人だろう?

現代美術家の椿昇さん

椿昇さんは世界的に知られる現代美術家であり、現在は京都造形芸術大学の教授、森美術館理事を務めている。

その作品はユーモアのある表現が多い。2001年に開催された現代アートの祭典「横浜トリエンナーレ」で発表した、全長40メートルにも及ぶ巨大なバッタのバルーン『インセクト・ワールド 飛蝗(ひこう)』は大きな話題を呼んだ。

椿昇さんの作品『インセクト・ワールド 飛蝗(ひこう)』

海外ではベネチア・ビエンナーレなどの国際的なアートフェスティバルに多数招聘されているほか、国内では水戸芸術館、京都国立近代美術館、霧島アートの森など全国の美術館で個展を開催している。

椿昇さんの作品『MOONWALKER』

椿昇さんのアート活動の特徴は、自身の作品をつくるだけでなく、アートを取り巻く仕組みを新しく生み出してしまうこと

例えば、2013年瀬戸内芸術祭「醤+坂手プロジェクト」ではディレクターとして携わり、49億円の経済効果をもたらした。また、教授をつとめる京都造形芸術大学美術工芸学科の卒展をアートフェア化して活性化させている。

「アートが売れない」と言われる日本で、アーティスト自身が機会をつくるというアイデアがユニークだ。

椿 うちの卒展を「アートマーケットにした」というのは、作品を売ることができるようにしたということで、一年の売上が800万円ほどもあります。そしてその中で、学生同士での売買は200万にものぼります。友達どうしで「アーティストとして見込みがあるぞ」というものを買うんですね。

アーティストがコレクター、キュレーターにもなるというわけです。これからは「アートフェア」じゃなくて、「アーティストフェア」のような試みが盛り上がって行くと思いますよ。

大事なのは、技術ではなく、“創作意欲”

前回の椿昇さんによる講義の様子

椿昇さんとFCPの繋がりは深く、第1回では作品集への寄稿、第2回では講師として参加した。『アーティストカルテ「危機と嗅覚」を作成する』、また『課題「脱獄のテクノロジー」発表と処方箋の提供』というテーマで、アーティストにとって実践的な授業を行っている。

椿昇さんに本プログラムについて聞いた。

椿 ポイントは“脱獄”する主体が誰なのか。何がそれを閉じ込めているのか?ということです。それがあなたである場合もあるし、他のものかもしれない。そういう縛っているものから逃れないと、人はクリエイティブにならない。だから、そこをみんなでやろうというプログラムですね。

前回の椿昇さんによる講義の様子

椿昇さんがプロのアーティストとして参加者に厳しくジャッジを下す……前回行われたこの忌憚ない講義は大変好評を博した。

椿昇さんが考える“アーティスト”になる方法は、独特だ。

重要なのは、技術ではなく、なによりもアーティストとしての“創作意欲”だと語る。

椿 作家を育てるときもほとんど同じ手法なんですが、僕はまず個人のヒストリーをすごく大事にするんです。何を食べていたの?とか、ピーマンはいつ嫌いになったの?ということを雑談混じりにヒアリングしていく。

そこでその人の隠れたもの、例えばその人が受けているプレッシャーが浮かび上がる。そのプレッシャーを取り除けば、元々子どものときにあったものが自然にパワーを得るんですよ。教育というのはそのパワーを抑えることだから、逆にプレッシャーを開放してあげれば、自然な状態に返してあげることができる

よく笑って、よく遊んで、よく食べて、よく泣いて。人間らしくなることが第一。

そうすると、必ず創作の意欲が湧いてきます。

あなたを縛る“約束”に気づくアートプログラム

今年は椿昇さんの指導のもと、東京でのワークショップと京都でのフィールドワークが行われる。東京は筆ペンと巻紙を使って行なう、「歩きながら恋文を書く」、「腰掛けて風景を描く」というユニークなテーマ。京都は「室町時代というシステム」をテーマに、宿坊宿泊や座禅体験、水墨画鑑賞に茶室での茶会など、日本文化の基礎を学ぶ。

宿泊予定の妙心寺大心院

そもそも椿昇さんが考えるプログラムの狙いとは何だろうか?

椿 僕らは言葉に縛られているんです。例えば僕は男の、関西の言葉で喋っています。男とか女とか、日本人とか中国人とか、そういう縛りというか“約束”は後天的なもの。アーティストは、その縛りを客観的に自覚しないといけない。

このプログラムを通じて、そういう足かせを解いて、できるだけ自分のナチュラルなエンジン、人間にあるエネルギーが自然に出るようにしたい。

美大の学生を見ていると、95%がそのエネルギーを出せていませんが(笑)。受験のためにデッサンをやりすぎて、自分の絵が描けなくなってしまったりね。

前回の講義風景

世界で闘うには室町時代までさかのぼれ

また、京都におけるフィールドワークのテーマ「室町時代というシステム」は、椿昇さんの「世界で通用するアートは室町まで日本の中ではさかのぼらなければいけない」という考えに基づいているという。

椿 日本で生まれた「茶の湯」や「禅」は、世界のどこでもできる素晴らしい様式です。日本の場合は、その“フォーム”をつくるのに、様々な要素を上手な閉じ込め方をしているんです。他にも水墨画や能もそうで、それらは室町時代に生まれているんです。室町に生まれた、床の間があるような「書院造り」も今の家の形式と全く同じ。

室町時代の人たちは、戦争に明け暮れながら、自分たちの暮らし方とか日本人を創造していった。日本文化がみんなこの時代に集まっていると思うんです。

妙心寺大心院でも、日本独特の美である“枯山水”を眺めることができる

例えば、フィールドワークのプログラムで紹介される「佐々木能衣装」は、能・狂言・歌舞伎等の装束・衣装を提供する京都の会社だ。

椿 佐々木能衣装の織り子(織職人)さんってもうほとんど70〜80歳なんですよ。それは、高齢化ではなくて、その年にならないと織れない反物があるということ。歌舞伎役者の坂東玉三郎さんが着ている特殊な織り方の衣装もここでつくられていて、普通に織るものより30パーセントも軽いんです。絹の染めから全部やってしまうので、ものすごく軽くなるんです。機械の織りではこれはできない。

そういう、いま失われつつある本当に良いものを皆さんに知っていただきたいと思っています。

椿昇が考える理想のアーティストとは?

最後に、本プログラムでどのようなアーティストが生まれると良いと思っているのか、を聞いた。

椿 本質的にその人の持ってるリズムやエネルギー、色彩をフルに表現できる存在になること。アーティストに大事なのはコミュニケーション能力ですが、それは本人が持っている魅力で、語学力なんか全然関係がないものです。そういう魅力が、ナチュラルに、中からにじみ出るような存在になってほしい。

前回の講義で僕が選んだ参加者もやっぱりそうで、アーティストだけど図書館の司書をやりながら、運転手をしながら…という方々がいたけど、にじみ出る「本人」というものがあった。日本の芸術においても、そういう存在を増やしたいですね。

前回の椿昇さんによる講義の様子

アーティストにとって、技術を習得するのはもちろんのことだが、より難しいのが、明文化できないアーティストとしての“生き方”を学ぶこと。そしてアーティストで居続けることは、さらに難しい。

しかし、椿昇さんは技術よりもアーティストとしての“生き方”が大事であると語る。現代美術界において、アーティストが生きるための新しい仕組みを生み出してきた椿さんから直接、アーティストとして生きる心構えを学べる。そんな貴重な機会になりそうな本プログラム。

マーケットで流行しているから、人気があるから…そんなマーケティングの思考からはかけ離れた、本当にクリエイティブなアーティストになるためのセッションが行われる。

アーティストを志す人も、またはこれからアート活動を始めてみたいと思っている人にも、参加してほしいプログラムだ。
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齋藤あきこ

ライター

宮城県出身。図書館司書を志していたが、“これからはインターネットが来る”と神の啓示を受けて上京。青山ブックセンター六本木店書店員などを経て現在フリーランスのライター/エディター。

https://twitter.com/akiko_saito

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