マツコ・デラックス インタビュー Webメディア/ゲイについて

ゲイであろうと、ヘテロであろうと、他人に100%理解してもらえることはない

マツコ・デラックスさん近影

──今回、マツコさんにお話をうかがいたかった理由として、僕もゲイなんですけど。

マツコ (筆者を見ながら)……そうなの? 最近のゲイは、いろんなゲイがいるのねぇ。多様性よねぇ。

──マツコさんはご自身を「男でも女でもない、トリックスター的な立場だから好き勝手にものを言える」と定義されていますよね。それでいて、多くの人から受け入れられている。一方、雑誌や本では個人的な体験や感情を語っていますが、テレビで見る限りでは、マツコさん自身の欲望や内面を見せないようにしていると見受けられます。

マツコ でも、アタシ最近思うのは、テレビってやっぱりすごい力があるなって思っていて。よく「ネットのほうが本質が伝わる」とか「ネットは意見を交換しやすいツールだ」って言われているけど、ネットで好きなことを書いたりするのと同じくらい、もしくはそれ以上に、テレビでアタシが見せている表情なり口調なりで、本能的に人間はその人のことを見破るのよ。それはさっき言ったように、無意識のうちに人間がちゃんとバランスを取っていくのと一緒。

アタシはすごい中途半端な物書きのまま終わってテレビにシフトしちゃったけど、モノを書いている時以上に、その恐怖というものは感じるわけ。テレビの場合、相互性がないから今のところ一方通行にはなってしまうけど、例えばアタシがSNSをやっていろんな人と意見交換する場をつくったとしても、SNSで伝わるアタシのパーソナリティ以上に、アタシがテレビでいろんなことを言っていることで、ネットよりももっとすごい人数がアタシという人間を観察して、本人でも気付いていないような実相も見破られてるんだろうな、って感じることは多々ある。

──なるほど。ただ、例えばライターの僕の場合、LGBTに関する文章を書く時には「この生き辛さを多少なりとも変えたい」という気持ちがあります。マツコさんはそれこそ多くの人から、第三者としての意見を求められる立場にあります。マツコさんの場合、もっと個人的な体験を語ることなどを介して、個人的な欲望を実現しようという思いはないのですか?

マツコ アタシ、たとえゲイであろうと、ヘテロであろうと、既婚者だろうが、独身だろうが、人間って生きづらいのが当然だと思ってる人なのよ。結婚したから孤独が解消されるかっていったら絶対ないし、血がつながってるから100%理解し合えるかっていったら、絶対そんなことない。自分自身が他者に100%理解してもらえることなんて、絶対にないって思ってるのね。だから、アタシが自分の体験を語ることって、実はそんなに意味がないと思ってる。

人間って勝手に思い込むわけじゃん。例えば、ゲイじゃない人はゲイのことを勝手に想像してるし、アタシたちゲイだって、ノンケになったことないんだから、ノンケの人の気持ちなんてわかんない。国同士だってそうなんだよね。アタシたちは、どこでもいいけど中国とかアメリカとかロシアとかを勝手にそういう国だって思い込んでいて、それ(思い込み)の行き着いた先が戦争になるわけで。

それよりは、たとえ表層的だったり他愛のない挨拶だけでもいいから、誰かと何かすること、言葉を交わすこと。ロシアや中国、アメリカの人とこうやって会って、「はじめまして」って言って、握手したら(実際に筆者とマツコさんが握手)、多分それだけで、勝手に思い込んでいた何かがあったとしても、(自分にとって)その人はちょっと良い人になるわけよね。だから、(自分のことを)説明することとかって、アタシはそんなに意味がないと思っている。アタシを見て「不快だな」って人は、多分アタシが何をしても不快なんだと思うのよ。

もちろん、一人でも多くの人に不快って思われないほうが人間は幸せになるんだけど。でも、アタシを「不快だ」って思ってくれていることも、好きだって思ってくれることと同じくらい、その人のことを実は気にしてくれてはいて、無関心よりはるかに良いと思っている。

あなたがゲイだからゲイを例えにすると、ゲイであることを不快に思っている人がいたとして、もしかしたらその人に「初めまして」って挨拶したら、「ゲイ……なにそれ? どうでもいい」って無関心な人よりは味方になってくれるかもしれないって思ってるの。だから、実は(自分のことを)言ってないっていうのは、ちょっと意識していて、あまり自分を押し出したくないの。なぜなら、自分を判断するのは他者だと思ってるから。

──それはそうですね。

マツコ 例えばアタシが日本の柔道で一番すごい人、講道館のトップの人から、柔道について説明されたとします。その話を聞いて、「あぁ、面白い話ですね」って思うかもしれないけど、アタシが柔道をやらない限り、それは関係のない話のままなのよ。だから、社会学やセクシャリティを学んでいる人とか、逆にすごい興味本位で色物としてゲイに関心がある人にとっては、ゲイとしてのアタシがゲイについて語っていることは興味のあることかもしれないけど、大多数の人にとっては「あぁ、そうなんだ(無関心)」っていう話なんだよね。

──ただ、ネットだと、感情に訴えかける話や体験談といったものがバズりやすいということもあると思います。さきほどの感情や空気に流されるという話ともつながってくるのですが、マツコさんの個人的な体験談を聞いて、それが聞く人の感情を揺さぶる。そうすることで何か変わることもあるかもしれない。それがネットの怖いところでもあるし、ある種の希望にもなるのかもしれません。

マツコ 別に否定するわけでも非難しているわけでもないんだけど、ネットに限らず、お涙頂戴話を売りにしてる人とかっているじゃない。でも、お涙頂戴話によって何か心を動かされたものって、実はすごい諸刃の剣なの。いろんな人がいろんな風にその人を見て、もっと自由に考えてもらっていたら、そこで何か感情が生まれて、もしかしたら何か違う動きになるかもしれないという可能性を、とっても狭めてしまうことにもつながると思っているのよ。

昔、アタシもゲイのアクティビストの人たちと話したり、そういうこと(LGBTの権利活動)をしようとしていた時期があるんだけど、アタシよりはるかに熱意を持ってその活動をしている人たちを見て、「あ、それはこの人たちに任せよう」と思ったの。でも、「この人たちはおそらく、こんなに薄っぺらくオカマを表現することは出来ないな」って思ったわけよ

──いわゆる、オネエや女装子といった、キャラ化されたオカマを表現することは出来ない、と。

マツコ アタシは誤解されようが、なんでもいい。もちろんゲイってみんな女装してるわけでもないし、アタシはとても特殊なジャンルではあるんだけど……。アタシ、よくゲイの人から「マツコさんみたいな人がゲイの中でも目立ってしまうと、僕らみたいな女装しないゲイが誤解されちゃうじゃないですか」って言われるの。でも、今、目の前にあんたがいるからあんたでもいいけどさ、(見た目が)面白くないじゃない(笑)。

──まぁ、僕は普通の格好をしていますね(笑)。

マツコ もちろん面白いことがすべてではないけど、世の中ってやっぱり面白かったり、引っ掛かりだったり、何か(きっかけ)がないとね…。普通の人が出てきて「僕は普通です」って言っても、それは何もなかったことになってしまうじゃない。アタシは、たまたまこういう女装癖があって、こういうやり方でしか出来ない人間だから。「女装されないゲイが誤解される」って思ってるんだったら、「あなたはどこかでそれを主張し続けなさい」って言うのよ。それに対して、また何かを思う人が出て来るから。それは、アタシに文句を言っても仕方がないことだよって。

申し訳ないけど、ゲイである以前に、アタシはアタシという個人なわけで、万能の民ではない。だから、やれることはものすごく小さくて、その中で生きてるわけ。だから、アタシは自分がゲイとかLGBTみたいなものを背負っているかのように見せてしまうことのほうが恐怖なんだよね。

“電波芸者”マツコ・デラックスの役割

──誤解を広げないために、意識的に「マツコさん=ゲイ」とは見えないようにしているんですね。

マツコ 見えないようにしているのは、すごい確か。だから、「いや、アタシはゲイの中でもマイノリティで、マイノリティ・オブ・マイノリティみたいなもん。電波芸者として、化け物がテレビに出させていただいてるんですよ」ってよく言うんだけど。さっき言ったメディアの持っている危険性っていうのを、アタシは本当に恐怖に思っている。アタシが先頭を切って、何かLGBTのことを言ってしまったら、LGBTに対して何も興味がなくて知らない人にとっては、「これがLGBTの意見だ」ってことになっちゃうんだよ。

そうじゃなくて、もっといろんな多様性があっていろんな人がいるのは、どのジャンルでも一緒。まさか自分がこんなにマスの人間になるなんて思わないで生きていたから。マスじゃなかった頃は、そういうこと(個人としての意見を発信)をしてたんだけど、マスになればなるほど、すごくそれがデリケートになってきたから、あまり背負うことを止めたの。

──LGBTを背負うのではなく、マスを通じて外に出ることで、きっかけになればいい?

マツコ こんなアタシを見たら、興味を持つ人は「ゲイってなんなんだろう?」って思うじゃない。今ならちょっとネットを調べてもらえれば、「アタシ=ゲイ」ではないことにはたどり着くわけ。それぐらい少し動ける意思を持った人にとっては、何らかのきっかけにはなると思うのよ。こんなアタシが世に蔓延(はびこ)ってたらね。だから、アタシの役割って、それぐらいでいいかなって思ってるの。

逆に、アタシがLGBTの運動とかをしちゃうのは、すごく申し訳ないって思っちゃうんだよね。だって、ウルトラマン柄のラコステのパーカー(筆者の服)を着るオカマもいるってことを、いちいちアタシが説明することはできないじゃない。

最初の話にも戻るけど、民意ってものがネットで簡単に書き込めるようになったからこそ、(自身の個人的な欲望を発信しないというのは)一番気をつけてるところ。アタシがLGBTについて語ってしまうと、そこでまた(見た人が)何かを書き込んで誤解を生む話が出てきてしまう。アタシ自身、ゲイとしてのプライドもあるから、さっき言った「マツコさんがメディアに出ているとゲイが誤解される」って言っているような人をさらに誤解させてしまうことになるのが、本当に申し訳ないって思う。だから、そこはすごい注意してる。

今日はゲイの話を言ってるけど、ゲイのことだけじゃないけどね。最初、アタシのことを「トリックスター」って言ったけど、初期はともかく、こうなっちゃったらもはやトリックスターでもなんでもないわけじゃない。「マツコ、なんか薄っぺらいこと言ってるな」って思う人は、多分増えてきたんだろうなって思う。アタシがマスになればなるほど、(ある事象について)簡単に言ってしまうと、本当にいろんな人に誤解を与えてしまったり、誹謗中傷をされる人も出てきたり、いろいろ迷惑をかけてしまうっていう心配がどんどん肥大化していくんだよね。だから、つまらないバランス感覚のある人間だな、って自分を嫌いになる時もあるんだけど。

──繰り返しになりますが、それでも、マツコさんがメディアに登場するのは、個人的な主張ではなく、自身の存在を通じて、視聴者が自由に考えるきっかけを提供できれば、と思っているからですよね。

マツコ アタシみたいなマス(メディア)の電波芸者は、それくらいの役割でいいのかなって。

あとがき:マツコ・デラックスさん取材を終えて

インタビューを終えた筆者が思うのは、マツコさんは一貫してメディアリテラシーのことを話していたのだ、ということ。

マツコさんは「真実のメディアなんてものはこの世に存在していない」と語る。それでも、人は自分の想像力が及ばないものに対して、往々にして思考停止をし、メディアが伝えたものを真実として受け取ってしまいがちだ。だからこそ、マツコさんはゲイとしての自分をテレビというメディアを通じて大々的に表現することはないし、そのことが生む誤解やその誤解に他者が巻き込まれてしまうことに恐怖を感じる、という。

他者に対する想像力が欠如すれば、人は自分の感情を是としてしまう。マツコさんが万能の民でないように、誰だって万能の民ではない。その中で、マツコさんは人々に考える契機を与える役割を担おうとしている。中村うさぎさんとの対談本『信じる者はダマされる うさぎとマツコの人生相談』の中でも、マツコさんは質問者に対して「考え方を変えてごらん」と応えているのが散見できる。

マツコさんが言うように、実際に会ってインタビューをしたからといって、筆者がマツコさんのことを100%理解できるはずもない。当然、このインタビューを読んだからといって、読者がマツコさんのことを完全に理解できるわけでもない。それでも、マツコさんの考えていることがより多くの人に届けば、それはきっと嬉しいことだと思った。
1
2

SHARE

この記事をシェアする

Post
Share
Bookmark
LINE

関連キーフレーズ

マツコ・デラックス

タレント

1972年、千葉県生まれ。美容専門学校を卒業後、ゲイ雑誌の編集部を経て、エッセイスト、コラムニストに。現在はテレビを中心に活躍の場を広げる。著書に『世迷いごと』『デラックスじゃない』(ともに双葉文庫)など。2016年11月には、『サンデー毎日』で連載中、中村うさぎさんとの人生相談コーナーをまとめた『信じる者はダマされる うさぎとマツコの人生相談』が刊行された。

0件のコメント

※非ログインユーザーのコメントは編集部の承認を経て掲載されます。

※コメントの投稿前には利用規約の確認をお願いします。

コメントを削除します。
よろしいですか?

コメントを受け付けました

コメントは現在承認待ちです。

コメントは、編集部の承認を経て掲載されます。

※掲載可否の基準につきましては利用規約の確認をお願いします。

POP UP !

もっと見る

もっと見る

よく読まれている記事

KAI-YOU Premium

もっと見る

もっと見る

情報化社会の週間ランキング

最新のPOPをお届け!

もっと見る

もっと見る

このページは、株式会社カイユウに所属するKAI-YOU編集部が、独自に定めたコンテンツポリシーに基づき制作・配信しています。 KAI-YOU.netでは、文芸、アニメや漫画、YouTuberやVTuber、音楽や映像、イラストやアート、ゲーム、ヒップホップ、テクノロジーなどに関する最新ニュースを毎日更新しています。様々なジャンルを横断するポップカルチャーに関するインタビューやコラム、レポートといったコンテンツをお届けします。

ページトップへ