メカデザイナー 大久保淳二インタビュー 架空企業が描く未来都市の構想

シルエットを具現化する大久保のメカニックデザイン術

──メカデザイナーの方は内部構造の部分にも興味をお持ちなのかと思っていたので意外です。それでは、具体的にどういった作業工程でデザインをすすめるんですか?

大久保 特殊なやり方ですけど、僕はとにかくシルエットが優先

出雲重機デザイン案

大久保 まず面白いと思ったシルエットをベタ墨で描いて、すごく大雑把な形として3DCGに起こす。そこから紙に戻って、ストックしたコラージュ用素材のパーツを参考に描き込んでいきます。そしてまた、CGに戻ってディテールを仕上げたり、物理的な干渉がないかを考慮しながらまとめていきます。

──そもそものシルエット像はどこから浮かんでくるのでしょうか?

大久保 TVアニメなどの場合は、このストーリーやシチュエーションで出て来るプロップ、あるいはキャラクターやビークルは舞台装置としてどういった形であるべきか? を考える。そのうえで、より視聴者に訴えるような劇的なデザインに仕上げるんです。

ゲームの場合でも登場するものは全てユーザーインターフェイスの一部ですから、判別しやすいシルエットであることは重要になります。 ※大久保淳二さんがメカデザインを担当したスペースコンバットシューティング『Strike Suit Zero』でも、そのデザインの精密さと迫力がうかがえる。

大久保 出雲重機に関しては、新しいシルエットでありながらも、街の中に本当に置いたとしても違和感がないというリアリティを意識しています。

合成写真をInstagramに載せたら外国人が騙される、みたいなことがやりたいんですよ。

日常に溶け込む出雲重機

──リアリティを出すためにどういった点を意識されるのですか?

大久保 「重機をコラージュする」っていうのが一番大きくて、見慣れたパーツが散見できるデザインにするんです。

『スター・ウォーズ』の場合でも劇中に登場するXウィングTIEファイターといった機体は、もともとはジョージ・ルーカスが描いた落書きのようなスケッチがベースなんです。コンセプトアートの段階では、最終的なプロップに感じるリアリティはないし、格好良くもない。……って言うと、またファンに怒られそうですけど(笑)。

ラルフ・マクォーリーというボーイング社のポスターを描いたりしてた人のコンセプトアートワークの中でシルエットが洗練され、さらに、I.L.Mの工房でタミヤ等のミリタリープラモデルのパーツがディテールとして流用されて形づくられていた。そうした工程によって、機体にリアリティが生まれたと考えています。 大久保 なので、ありもしない架空の重機として発表している出雲重機でも、日常的に我々がメカとして認識しているものをコラージュしていけば、現実に沿った機体としてリアリティが出るという結論になりました。

あとは、やりすぎないこと。日本人の“玩具ロボット大好きDNA”が、変に面取り(新しい面をつくる)をしたりして、ガンダムの方向に振らせようとするんです(笑)。そういった欲望をストイックに抑制していく。

──やたらと装飾的に凝ったデザインにするのではなく。

大久保 そうですね。1000toysに「Prove 20WT」の1/12設計図をつくってもらった時にも、おもちゃにするための修正点がいくつか戻ってきたんです。

だけど、それが量産する場合のリアルだということ。なので、いただいた修正は、ほぼそのままデザインに採用しました。

複数のパーツを組み替えて完成する「Prove 20WT」

──お話をうかがっていると、いわゆる“メカ好き”として0から創作をする感じではない。「物事の情報を整理して、表現する」という意味で、非常にデザイン的な観点が強いことがわかります。

大久保 デザイナーですから。過去に舞台劇の美術や衣装デザインの経験もあるのですが、感覚としてはそれが一番近いです。

ただ、物理的な干渉の点は、タカラトミーアーツで『トランスフォーマー』のおもちゃデザインをやらせてもらった時からかなり意識するようになりましたね。

出雲重機が日本にあふれていると世界を騙してほしい

──それでは、改めて「出雲重機のロボを立体化する」という今回のクラウドファンディングをはじめたきっかけをお教えください。

大久保 2006年に出雲重機の画集を出して以降ずっと絶望期で、仕事で鬱々として自信がなくなってたんです。クライアントに迎合しながら仕事をする中で、どんどん牙を抜かれた犬みたいになっていた……。

そんな時に知人の紹介を通じて1000toysの戸張さんから、出雲重機立体化のお話が来たんです。だけど、「すげー嬉しいけど、売れなかったらどうしよう」って不安が強くて。

1000toysディレクター・戸張雄太 「海外の人からも受け入れられるSF的でリアルな日本のメカデザインってなんだろう?」って考えてた時に、ちょうど一緒にお仕事をしていた大久保さんの絵を見たんです。それで「この人だな!」って思って、1000toysから大久保さんにお声がけさせていただきました。

大久保 出雲重機の画集を出したおかげで、海外からは仕事の依頼がぼちぼち来ていたけど、日本では10年間誰にも相手にされなかった。だから「日本では求められていないんだろうな」と思っていたんです。

出雲重機アートワークス

大久保 出雲重機を立体化するというお話をいただいたのはそんな時だったんです。「僕は存在してもいいんだ」って癒されました(笑)。

戸張 (笑)。そこから実際に立体化を進める中で、これまでの1000toysと同様にECサイトで受注販売をするよりも、クラウドファンディングを使ってプロモーションしながら売る方が面白そうに感じたんです。

大久保さんや1000toysともども、これまでのファンであるおもちゃ好きだけじゃない、外の世界に出てみようかな、と。

それで「Prove 20WT」と街の合成写真をつくってInstagramにアップしたり、「コミコン」など海外のイベントで宣伝をしたら、1/6スケールフィギュア好きのコレクターやアートトイのファンだけでない新しい層の人も興味を持ってくれました。 ──今回のクラウドファンディングでは、海外からの反響も大きいとうかがいました。国内と海外で違いはありますか?

戸張 集まっている金額的にはほぼ同じですけど、海外の人のほうが積極的にコンセプトとかを聞いてきてくれます。FacebookやInstagramでバンバン質問が来る。

元々、クラウドファンディングはKickstarterだけでやろうかと思ってたんです。だけど、日本なら出雲重機をすでに知ってる人もいるので、CAMPFIREでもやってみようと。

このプロジェクトをきっかけに、アニメの企画とかで大久保さんに声がかかっても面白いなって。それこそ『ガンダム』とかね(笑)。

──今後は現実世界でも出雲重機のコンセプトのように、ロボットと人間がより共存する社会になっていくと思います。ロボットと人間が一緒に過ごす未来はどうなっていくと思いますか?

大久保 人と共存するロボットについても、『スター・ウォーズ』のドロイドってすごい理想的なんですよ。R2-D2やC-3POのような、複雑な機械と人間の間に立ってくれる立場のロボットって良いなと思っていて。

出雲重機の場合には「無人のロボットが街にいっぱいいても嫌じゃないのか?」という裏テーマがあるんです(笑)。 大久保 今、ロボットに人間の仕事を取られていくっていう話がありますけど、架空会社である出雲重機の理念は「仕事はロボットに任せればいいじゃん」というスタンス。はたして「本当にそれでいいのか?」ということに薄々気づいてくれる人がいたらいいなって。

例えば、「Prove 20WT」を買ってくれたお客さんは、武器をつけて改造したりすると思うんです。それも、現実に照らし合わせて考えてほしい。実際にこういうロボットができたら、当然兵器にもなる。ロボットってそういうものなんですよって。 ──現実への問いかけが潜んでるんですね。最後に、このインタビューを読んで、今回のプロジェクトに興味を持った読者へのメッセージをお願いします。

大久保 出雲重機は玩具化するにあたって、遊んで楽しいものになっています。買ってみたらぜひ合成写真をつくってほしい。

自分の街の見慣れた風景の中に、「Prove 20WT」がいたら面白いと思うし、「日本にはこんなロボがいるんだぞ」ってネットにアップして、全世界の人を騙してほしいですね(笑)
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