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『カゲプロ』作者じん ロングインタビュー 「大人を喜ばせてもしょうがない」

『カゲロウプロジェクト』は「本気で子供を騙しにいく」もの

──改めて、じんさんが5年間やってきた『カゲロウプロジェクト』という作品を振り返ってもらおうと思うんですが。じんさんとしては、どういう道を歩んできた感覚がありますか?

じん 今音楽をつくってる人、それこそヒトリエのwowakaさんとか米津(玄師)くんと話してても、おもしろいものをつくる人って、見てるものの角度がおもしろいんですよね。でも、僕としては彼らみたいに特別なことしてる感覚もないし、その才能があると思っていませんし、だからって誰よりも努力したとも言えません。でも、今なにかをつくれているのは、好きになったものの存在が大きかったと思うんです。

僕は小説と音楽とも、同じように好きでした。不登校で、友達が全然いない時期があって、そのときにゲームをやったり漫画を読んだり小説を読んだり音楽を聴いたり、全部同じチャンネルとしてずっと楽しんでいたんです。そういう自分がいたから、そういうものをつくれるんだろうなって。

子供たちは受け取り方が豊かで、僕の子供の頃と同じように受け取ってくれる。たまたま、そういう感性が合っていたから、今の子たちが『カゲプロ』をカッコいいとか泣けるとか言ってくれるのかなって思います。

だから学校に行かなくてよかったなって思います。「これ読んでる読者全員、学校はべつに行かなくていいぞ」って言いたいくらいです(笑)。ダメなんですけどね。

──つくり手として、この5年間で『カゲプロ』がこの方向には行かないようにしようとか、この要素を入れると純度が下がってしまうからやめておこうという方針はありましたか?

じん やっぱり、大人の金儲けに付き合うことですね。それは一番嫌いなことだった。お金をもらうって大事なことなんですよ。子供にとって宝物である500円のお小遣いと等価交換で引き換えて渡すものが、どれくらいヤバいものでなくちゃいけないかってことだから。僕自身はすごく怖い思いでつくってるんです。

でも、大人になってくると会社の都合とかスキームの都合とかで、個人の責任じゃなくなっていく。そうすると、コンテンツって弱くなっちゃうんですよね。たらいまわしにされる中で「その責任を負うのは誰?」となってしまう。そういう意味で、自分のつくるものがただの金儲けになってしまっているっていうのは、やっぱり一番悲しいことです。

──「子供騙し」という言葉があるけれど、実は子供が一番騙せない。ちゃんと見抜くと思うんです。

じん でも僕は、あえて「子供騙し」するべきだと思っていて。大人が子供を騙せなくてどうするんだと。夢を持たせなくちゃいけない、希望を見させなくちゃいけないって。だから本気で子供を騙しにいく

今の時代、インターネットが普及して、大人が暗い顔をして現実的なことを言っているのが子供にも見えるようになってしまった。それで苦しんでいる子たちも多いと思うんです。だから自分も一緒になって信じられるもので騙すのが、大人としての責任という感じがする。

──たしかに。それは言ってみれば、ウォルト・ディズニーがやってきたことですからね。じんさんが目指すのもそこである。

じん 本当にそうなったら最高の話ですよね……。だから、子供が信じていいものをつくらなくちゃいけないなって思います。今の時代にとっては幻のものかもしれないけど、希望を見せたい。「これを信じることが間違いなく君にとっていいものになる」って言えるものを届けたいし、「あの感覚があってよかったな」って大人になってから思ってもらえるようなものをつくりたいですね。

今ならもっとケタ違いのものをつくれる

──先ほど米津さんやヒトリエのwowakaさんの名前も出ましたが、同世代で、きっとお互い刺激を与えあっている関係なのではないかと思います。実際のところはどうでしょう?

じん 僕は刺激というのはそんなに感じないですね。普通に「格好いい曲だな」とか思ったりはあるんですけど、あんまり「負けられない」とかは思わない。ファンと同じ感覚ですね。「めちゃくちゃ格好いいな」って(笑)。

──00年代後半のニコニコ動画という意味で、同じ時代に同じコミュニティーにいた人間が、今はそれぞれの道で才能を発揮してる状況は?

じん ああ、でも僕には「一緒にやってきた」みたいな感覚はそんなにないですよ。一緒にCDつくったり同人サークルをやってた人にはそういう気持ちはあるし、「あの頃楽しかったよな、俺ら」みたいな感覚はたまにあるんですけどね。でも、地区予選では見るけど、全然違う競技をやってる感覚に近いのかな。

──同じことをやっていた意識はそんなにない。

じん やっぱり自分も「ニコニコ動画の〜」という形で括られるんですけど、それは他人に与えられる認識だと思うんですよね。仲はいいですよ。でも、本を書いてる人もいれば、踊ってる人もいるし、バンドやってるやつもいれば、楽曲提供してるやつもいる。みんなバラバラなんですよ(笑)。

ただ、同じものを見ていたっていうのはきっとあると思います。ランキングがあって、そこで異種格闘技で戦っていたような感じ。そういえば、僕は今も、ボーカロイドを辞めたつもりはないんですが、なぜか引退したことになっているような気がしていて逆に戻りにくいんですよね。結局、観てる人が決める文化だったと思うんです。

──ニコニコ動画はユーザー参加型でしたもんね。

じん だから僕らがつくってきたわけじゃないんです。僕にとってはそれほど母校に思い入れがないのと同じで、そこまで思い入れはないですね。あそこにいた人、あそこで起きたことには興味はあるけど、あくまでそれは僕の主観なので。ニコニコ動画って切り口で何かを語るのは難しいですね。

──これは僕の考えですが、『カゲロウプロジェクト』はやっぱり2010年代を代表するコンテンツだと思うんですね。そして、それに象徴される2010年代は「介入の時代」だった。それを準備したのがニコニコ動画のアーキテクチャで、動画にコメントをつけることができるというのは、まさにコンテンツへの「介入」だと思っていて。


じん たしかにそうですね。

──そして今は没入感のあるVRが新たなテクノロジーとして取り沙汰されている。ひょっとしたら、次は「没入の時代」になるかもしれない。そういう時に、じんさんがやっていることが当事者的なフラッシュバック、アトラクション的なものになっている。今回のMX4D™専用映画もそうですし、渦中の感覚を音楽にするというのも、より没入の深度を極めていく方向になっているのではないかと思うんです。

じん たしかにビート重視の音楽っていうのはそうですよね。体験の快楽がある。そういったものの魅力は僕も感じています。でも僕は、やっぱり小説が一番没入感を持っているコンテンツだと思うんです。想像力の余地のあるものの方が没入できるじゃないですか。

──本来的にはそうですよね。

じん だから「ここは想像させよう」というさじ加減を、映像とかノベルを踏まえたバランス感として持っている人がこれからおもしろいものをつくるんじゃないかって勝手に思ってるんです。それこそ僕も「どういうものをVRでつくったらおもしろい?」と考えてたんですけど、僕はVRの中で小説を読みたい。読んでいたらその場所にいる。喋るわけでもなく、キャラがいるわけでもなく、ただ森や学校という場面に行くだけ、みたいな。

──シーンが再現されるのではなく、情景だけがVRで表現される。

じん そうです。

──実際のところ、VRを使った物語の紡ぎ方の文法は今まさに開発されている過渡期だと思います。

じん あとは、さっき言ったようにPVの中であのスピード感で歌詞が出てくるというのも没入感に近い感じがある。そういう風に、いろんなおもしろさがこれから展開される気がします。

ただ僕は、今は欲張らないで黙々といい音楽といい物語をつくることをがんばっていきたいと思っていますね。まだ全然決まってないですけど、GOUACHEでライブをやろうとも思っているので。

──話をうかがっていて、じんさんはすごく興味深い進化を辿っていると思いました。これまでは、最初にシンプルな表現があって、それがメディアミックス展開されて重層な物語になっていくという流れが一般的でした。けれど『カゲプロ』の場合は、最初から動画として、ストーリーと音楽と絵とキャラクターとが一緒くたになったいわばメディアミックス的なものとして展開されて、逆に5年経ってじんさんの表現がそぎ落とされて純度の高い方に進化している、という。

じん そういう実感はありますね。

ただ、自分としては、哲学を表現するための手法として音楽や小説がある。それをどの手段でやるか、これまでは興味とか憧れで進めていましたけど、それがだんだん武器になってきた感じです。たぶん、今の脳みそでストーリーのある音楽をつくったら、ケタ違いなものになってくれると思うんですよ。だから、ぐちゃぐちゃだったものを1回分断してまとめて、「よしっこうしよう!」みたいなこともやりたいとは思ってます。
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じん // jin

音楽家/小説家/シナリオライター

「カゲロウデイズ」にてスマッシュヒットを記録し、1stALBUM「メカクシティデイズ」で衝撃的デビューを飾る。音楽だけではなく、小説家としても活動するマルチクリエイター。

じん

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作品情報

MX4D『カゲロウデイズ-in a day’s-』

原作
じん
監督
しづ(脚本・キャラクター原案)
制作
1st PLACE / JUMONJI
公開
2016年11月4日(金)から上映中
劇場
全国TOHOシネマズ MX4D™シアターにて公開中
キャスト
【シンタロー】寺島 拓篤 【エネ】 阿澄 佳奈 【コノハ】 宮野 真守
【マリー】 花澤 香菜 【セト】 保志 総一朗 【キド】甲斐田 裕子
【カノ】立花 慎之介 【ヒビヤ】富樫 美鈴 【モモ】柏山 奈々美
【???】 畠中 祐
製作
『カゲロウデイズ-in a day’s-』製作委員会

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