Jinmenusagi インタビュー ストリートを知らないラッパーの台頭と苦悩

Jinmenusagi インタビュー ストリートを知らないラッパーの台頭と苦悩
Jinmenusagi インタビュー ストリートを知らないラッパーの台頭と苦悩
「ネットラッパーはストリートを知らない」という言説がある一方、有り余るスキルの高さでヘッズから厚い信頼を寄せるネット発のラッパー・Jinmenusagi

ニコニコ動画に端を発する「ニコラップ」シーンから産声をあげ、盟友である電波少女と繰り広げる数々のコラボや、気鋭のサウンドチーム・HyperJuiceの楽曲「City Lights」にも参加。プロデューサーDubbyMapleとのユニット「インディペンデント業放つ」としても、その異能をヒップホップシーンの内外で発揮している。
電波少女「Earphone feat.Jinmenusagi」
KAI-YOU.netでは、10月20日発売のカルチャー雑誌『SWITCH』の特集「みんなのラップ」とコラボレーション。

『SWITCH』では、ヒップホップとSNSの邂逅に焦点をおいて語っていただいたが、KAI-YOU.netでは、Jinmenusagiならではともいえる、オタク観とネットラッパーのスキルの相関性についての考えを、さらに踏み込んでお伝えしていく。

コアなヒップホップ好きからも賞賛を浴びるJinmenusagiさんは、ネットラップシーンの今をどう俯瞰するのだろうか。

写真:菊池良助 取材・文:ふじきりょうすけ 撮影場所:EAR

オタクの変化とともにライトになったネットラップシーン

──ニコニコ動画に端を発する「ニコラップ」のシーンが盛り上がっていたのが2009年あたりですよね。でも今はYouTubeもあればSoundCloudもあって、一口に「ネットラップ」と括ることができないと思います。ネットラップシーンは今どういった状況なんでしょうか?

Jinmenusagi 正直、ネットラップはもう成り立ってないですよね。

若ければ「高校生RAP選手権」とか、ネット以外にも有名になる舞台ができたじゃないですか。だから、いわゆるニコ動的な「ネットラップ」にわざわざ残ろうとする人ってある意味頭がおかしいか、オールドスクールなオタクかのどちらか。

ネットラップのシーンは、元々オタクみたいに「ラップが好きで超研究したい」ってヤツばっかりだったんです。

──Jinmenusagiさんはオタクをどのように捉えているんですか?

Jinmenusagi 特定の作品にすげえ深いヤツらのことが、本来のオタクだと思ってるんです。だけど、今は特定のアニメに群れたがるじゃないですか。

そんなオタクの変化とともに、ネットラップのシーンもライトな方向に変化したんです。今はなんとなく「ネットラップって良いよね」というような、ライトなラッパーの集団に変化してる印象がありますね。

ただ、これだけは言っておきたいんですけど、全世界規模でヒップホップを聴いてるのは濃いオタクが多いですよ。
Jinmenusagi - TokyoTown feat. Y'S

スキルが高すぎると観客がついてこれない

──例えばディグやビーフの文化など、その文脈性の高さから「ヒップホップはオタクの音楽」と言われたりもしますもんね。

Jinmenusagi 加えて、誤解を恐れずに言うと、オタクじゃなきゃやってらんない音楽なんです。スキルを追求しようとするのはオタクなんですよ。現場でどんどんライブをこなしていくようになったら、スキルとか言ってられないんです。

やっぱり現場で重要なのはキャラ。スキルがそんなに無くても、面白いことを言ってたら耳に入ってくるので。逆にスキルが高すぎると、耳で追うのに必死になりすぎて、観客はライブについてけないんですよね。 Jinmenusagi 俺の現場では、よくその現象が起きてるんです。目で見た瞬間にステージを理解しようとして、お客さんたちの体が止まるんですよ。

だから……正直、第一線でやってるような人って、ラップの上手さを気にしてないんです。キャラとほかのサブジェクトの選び方でバランスを取るのがアーティストだから。スキルはあくまで、その2つの接着剤でしかない。

というか、ラップが上手いって変だと思わないですか?

──ラップが上手いと変……?

Jinmenusagi 子供の頃からめちゃくちゃラップが上手いやつが、身の周りにいたら別に不自然じゃないんです。だけど、それはアメリカとかの話。

日本人の場合、後天的に調べた文化のなかにヒップホップやラップがあるじゃないですか。生まれたときにラップが存在しないから、ラップが好きな人にしかスキルの高さは伝わらないんですよ。そう考えていくと、結局上手さに意味はないし、ライブでも浮くんですよね。

俺のラップのやり方は、面白い言葉を次々と出していくスタイル。やっぱり側から見ると異常なんですよね。どんな現場でも浮いてしまうのが悩みなんです。

──なるほど。それこそ、Jinmenusagiさんが所属していたLOW HIGH WHO?からリリースした楽曲に比べて、独立後、2015年12月にリリースしたアルバム『ジメサギ』はかなりリスナーに聴かせることを意識した印象を受けていました。

Jinmenusagi そうですね。スキルを高くすること自体はいまだに好きなんですけど、段々削ぎ落としていったんです。

ラップの上手さって、ギターの速弾き的なもの。テクニカルだから一聴してすごいと思うんだけど、聴いた後に「すごかったけど、特に感想は……」って、一定以上は伝わらないんですよ。
Jinmenusagi x DubbyMaple - はやい

ラップは上手くてもヒップホップじゃない

──スキルの高さはライブなどの現場では不要だった。だからこそ、インターネットはスキルを披露する場として最適だったんですね。

Jinmenusagi ただ、もう時代の進化でスマホとかTwitterとか、インターネットの要素がヒップホップのDNAに組み込まれているから、これからは皆ラップが上手くなっていくと思います。

ネットラッパーたちが持っていたテクニカルな部分は、今の「いかに文字を詰めるか」というラップの流行と重なりますよね。

それこそ即興のフリースタイルだと、経験の浅い10代の選手たちが言えることも無くなってくるんですよ。そうすると韻の奇抜さとか文字数のクオリティで勝負するしかない。だから今はみんなラップが上手くなるしかない状況なんです。

音源でも同じです。今のヒップホップのメインストリームで流行ってるのは、BPMがすごく遅い曲。そうなると1小節に当てはめられる文字数が一気に増えるわけですよ。だからドドドドドって詰め込む、速くてテクニカルなラップが必要になってくる。
Jinmenusagi - "BABEL feat. Mato"(Official Video)
──スキルの高さが表立つ一方で、ヒップホップは現場主義でマッチョイズムが評価される側面も大きいと思います。オタク的なネットラッパーたちは、現場でどのような立場だったのでしょうか?

Jinmenusagi その通りで、ネットラッパーたちはすげぇ馬鹿にされてたんです。「オタクだからラップが上手くて当然だ」「ラップは上手くてもヒップホップじゃない」って。

現場だと特に「ストリート」というのが大事なキーワードになるんですよね。自分の足で行った土地で見たことや、培った経験がヒップホップという価値観の上では大事だから。音楽的レベルとヒップホップらしさは全然別のベクトルなんです。

でも、ようやくほとんどのラッパーもSNSをやるようになってきて、ヒップホップが「なんでもあり」という状況になってきました。俺は、インターネットの力で「なんでもありの時代」になってようやく力を発揮できたタイプのラッパーですね。

インターネットがヒップホップと交わる「なんでもありの時代」

──「なんでもありの時代」というのはどういうことでしょうか?

Jinmenusagi 大前提が崩れてますけど、そもそも「ラッパーはSNSをやらない」というイメージがありませんでしたか? ただ、SNS慣れしてない単純なツイートも多いですよね。スタジオで仕事した、ライブ行きました、共演者と写真撮りましたとか……。

結局、Twitterを楽しませてるのってオタクなんです。彼らの面白さは、マジで半端ないんですよ。だから俺はオタクが流行らす言葉や流れを真似してるんです。
Jinmenusagi Live - World Wide Words 2016
──……SNSに関してもオタクに対するリスペクトがものすごいですね。

Jinmenusagi オタクはめちゃくちゃ深いんですよ。それに、俺の生活はSNSが中心になっちゃってる。時代をわかってるフリはしてますけど、一番流されてるのは俺なんです。

SNSやってなかったら俺はこんなんじゃなかった」って思いますよ(笑)。 クリックして今すぐチェックする
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Jinmenusagi

ラッパー

バブル経済の崩壊と時を同じくしてこの世に生まれ落ち、
官庁や政党ビル、商社が連なる街で育った少年はいつしかラップ・マシーンとして覚醒する。
時事ネタを交えたブラック過ぎるジョークやファッションの流行、
さらにはインターネットスラングでさえも独自の日本語観でリリックに仕立て上げとにかくスピットしまくる彼は、
盟友DubbyMapleとともにインディペンデント・チーム「業放つ(ごうはなつ)」として日夜ヒットソングメイクに励む。
そんな彼の姿はまるで押し寄せる感情の波をキャンバスにぶつけたゴッホのようだ。

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