これまでのブームとは異なり、ヒップホップの中でも小さなコミュニティーで楽しまれていたフリースタイルやMCバトルが注目され、いまやテレビ番組や大企業のCMでもラップが取り入れられるようになった。
このフリースタイルブームの捉え方はさまざまだが、そのブームの最前線に立ち、さまざまなメディアに連日出演しているラッパーがACEさんだ。
『フリースタイルダンジョン』での山下新治役をはじめ、『ヒルナンデス』『歌ネタ王決定戦2016』『ものまねグランプリ 2016秋』『仰天ハプニング100連発』など、お昼のニュース番組やゴールデンのバラエティ番組など、数多くのテレビ番組に出演。10月からは、J-WAVEの新番組『WORD FREAK』のナビゲーターとしてレギュラーで出演している。 こうしてメディアへの露出で目覚ましい活躍を見せているACEさんだが、その反面、現在のフリースタイルやバトルだけに注目されがちな賛否両論あるブームの槍玉に挙げられているのも彼だ。
KAI-YOU.netでは、10月20日発売のカルチャー雑誌『SWITCH』の特集「みんなのラップ」とコラボレーション。
『SWITCH』では、ACEさんが主催する「渋谷サイファー」について語ってもらっているが、KAI-YOU.netでは、『SWITCH』では伝えきれなかった、ソロアーティスト・ACEとしての活動のスタンスを伝えていく。
一体、このブームの渦中にいるACEさんは、何を思い、その先の未来をどう見ているのか──。KAI-YOU.netでは、ACEさん2年ぶりのインタビューをお届けする。
取材/文 吉田雄弥 写真/MIZUKAMI SHUNSUKE
この現象があと30年続けばいい
──ACEさんは、ここ1年で主にテレビ番組への出演が急増したと思いますが、今のブームについてどう感じていますか?ACE 5年前とかに比べたら本当にありがたいというか。昔は北柏木公園で1人でラップしてるだけで通報されてましたからね(笑)。
頑張ってて良かったなって思ってる人はいっぱいいるし、逆に辞めて悔しい思いをしてる人もいっぱいいる。それでも、この現象があと30年続けばいいなって。続けるために、俺が「紅白」に出るしかないんで、頑張ろう。
メディアの取り上げ方に不満とかないですよ、むしろまだまだ足りないくらい。ゴールデンでラップ番組あってもいいんじゃないですか? はい、アイディア売ります!
冗談は置いといて、今のメディアの中には、前のヒップホップブームを体験している方々が多いし、ヒップホップを好きだから取り上げてくれてるという部分もあるので、僕らやヒップホップという文化に対する愛情をすごく感じます。時々、愛のない奴らもいるけど。
「とりあえず韻踏んでもらっていい?」みたいな……こともありますね(笑)。 ──たとえばヒップホップシーン全体で見た時、今のブームはどう捉えられているんでしょうか?
ACE 僕はシーン全体が見えているわけではなくて、あくまで自分が見える範囲だけの話になってしまうんですけど、良くなっていると捉えているとは思います。でも、その分良くなかった時代のことを俺らは絶対忘れないし、そういう時代があったからこそ今がある。
ただ、もし万が一、明日パタッとブームが終わって、テレビが取り上げてくれなくなったら? またあの頃に戻るのか? という恐怖のプレッシャーはあります。先行きが見えない不安定感というか。
「バトル観てます! YouTube観てます!」「CDは持ってません! ごめんなさい!」って人がどんどん増えていく。ファンが増えて、バトルとか観に来てくれることはすごくありがたいし、すごくいいことなんですけど、まだそのファンを本当の(ヒップホップの)ファンに結びつけることができてない。
ラッパーのことを好きになりかけてくれてる今こそ、そのラッパーを応援しに現場に行く、CDを買う、別に俺のじゃなくていいんですよ。テレビで取り上げられなくなっても変わらず応援してくれる人たちがいる状況をどうやってつくればいいのか──それをまだヒップホップのみんなも模索していて、これから協力してなんとかしていかなきゃいけないんだろうなって。
サイファーもバトルも音源もライブも、すべてが文脈でつながっていて、1つでもなくなったらすべて倒れるんですよ。バランスを保ちながら、すべてのレベルを全員で上に持ち上げていかないと、シーンとしての本当の成長はないと思います。
──そのために、ACEさんなりに考えてることはあるんでしょうか?
ACE 街中でACEを探して、俺を見つけた最初の3人にはCDとかDVDとかのACEグッズを全部無料であげて、3人目以降はサインあげたり、一緒に写真撮ったりする「ACEを探せ」って企画を地道にやり続けていて。
ACE CDショップにわざわざ行くタイミングもなくて、「CDを買う」という行為が億劫になりがちだと思うんですけど、俺のファンになってくれた人たちが、「ACEを探してCDを買えば写真も撮れるし、もしかしたらタダでCDがもらえるかもしれない」って気持ちで会いに来てくれたら、CDを聴くチャンスを与えられるかもしれない。【ACEを探せin大阪】
— ACE 公式(ラッパー) (@ACE0317) 2016年5月6日
【5月8日16時〜24時】
合言葉は #ACEみつけた!
「1位 6点セットプレゼント 名刺 アルバム EP DVD タオル Tしゃつ プレゼント!+写真 & サイン!」
詳しくは画像で!! pic.twitter.com/tfPNgeUQYM
俺のアルバムを聴いてくれれば、GotchさんやR-指定、輪入道、TOCさん、SHUNのことも知ってくれて、ファンの人たちが次のステップに上がれるんじゃないかと思って、続けてますね。
ACE 1人に見つかると列ができて囲まれちゃったりして迷惑かけてしまうこともあったんですけど、最近は近くの服屋さんが「うち使ってください」って言ってくれてサイン会みたいな状態になっちゃったりとか、親子やおじいちゃんおばあちゃんも来てくれたりするので、反響はすごくよかったです。さあ!ACEを探せ継続中!!#ACEみつけた pic.twitter.com/W0gJTKU66y
— ACE 公式(ラッパー) (@ACE0317) 2016年4月30日
ラッパーの概念を壊した1st、シーンを震撼させる2nd
──「ACEを探せ」でも配布されている1stアルバム『STRAIGHT』を昨年リリースされましたよね。聴いてみて、ヒップホップというよりすごくバンドっぽくて聴きやすい印象でした。ACE それは大分意識してますね。僕はコード進行も「F」で挫折した人間なんですけど(笑)。
「朧月~三つ巴~」はガンガンヒップホップ要素があるし、ヒップホップのつもりでつくったんですけど、「ラッパーはヒップホップをやらないといけない」という概念を壊したかった。別にラッパーが歌ったっていいし、ラッパーがギターを弾いてもいい。それでもかっこよければ「ラップじゃん!」ってことで、自分のやりたいようにバラエティに富んだトラックの上で遊ばせていただいてますね。
ACE 2ndはヒップホップディス。ヒップホップシーンを震撼させると思います。身近にあった出来事や自分の考え、感じていることをそのまま素直に書いていて、皮肉っている部分がいっぱいあります。
シーンに対する不満とかではなくて、今シーンで起きている事実を語ってる。ただ、それを語ることはみんなからしたらタブーなので、「いや、それ言っちゃダメでしょ」ってことを平気で言ってます。ハハハハハ(笑)。もう攻めに攻めてるので、角が立つっていうか単純に反感を買う。
──逆に楽しみです! ここまでサイファーにバトル、音源、メディア露出といろいろお話をうかがってきましたが、どれかに集中しようってことはないんですか?
ACE 最初はどれかに集中しようとしてたんですけど、忙しすぎてどれかに集中なんて言ってられなくなっちゃって。忙しくて時間ない中ですべてをフルにこなさいといけないので、もうどれかに集中も何もないという状態ですかね……。
番組出演のオファーお待ちしております。天狗ではありません、生まれつきです。10年前から言い続けてるので、このスタンスはブレません(笑)。
CHARLES 電車賃持ってない時からこのスタイルだった。ほんと昔から変わらないよね。※CHARLES:渋谷サイファーの一員で、取材に同席していた
ACE きっと現実を知らない人たちは、俺の貯金いくらなんだろうとか話してると思うんです。実際は大したことないんですけど。ポケットの中に70円しか入ってない時から、「俺、売れてっから!」って言ってたからね。最近、露出が多いからいやらしく聞こえてくるんだよ。でも、有言実行してるから。
目標は今もメジャーデビュー
──2年前のインタビューでASIAN KUNG-FU GENERATIONの影響を受けているとおっしゃっていて、有言実行じゃないですけど、1stアルバム『STRAIGHT』で後藤さんと共演を果たしてましたよね。その時、目標として、「メジャーデビュー」を掲げてましたが、そこには近づいていますか?ACE 大分近づいてるんですけど、うーん……なんでしょうね……。ブームじゃないですか? ブームで近づいてくる大人っていっぱいいるんですよ。ただ、その大人たちがブームじゃなかった時に近くにいたかって言われたら、いないんですよ。だから、正直言うと信用できない。ちょっと人間関係を築いてからにしたいですね。
実際、いっぱい声はかかってるんですよ。だから急げよ? ほしがってるところ急げよ? 早くしろー! チャンスだぞ!
──やっぱりかかってますよね。以前は肌の色の違いから理不尽な扱いを受けてきたこともあって、「ラップで世界を認めさせたい」とおっしゃっていましたが、メジャーデビューするのも、認めさせたいという思いが強いからですか?
ACE もう、俺が認められるどうこうじゃなくて、ラップが認められはじめてるんで、ここまでくると見返すもなにも認めざるを得ない状況にきていると思います。これだけテレビ出てて、まだ見返すとか言ってたら、ただの嫌な奴じゃないですか。そこは自分の中で区切りがついています。
今は俺だけの力じゃなくて、みんなでもっともっとラップを認めさせていこうってところなんで。
俺は「紅白」に出るとか、メジャーデビューするとか、武道館に立つとか、サラッと言うじゃないですか。自分が吐いた唾は飲めないから、それを一個一個消化して、ちゃんと確実にこなしていかなきゃいけない。とりあえず、変わらずメジャーデビューすることが目標です。 クリックして今すぐチェックする
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作品情報
LIGHT DOWN(ライトダウン)
- 発売日
- 2016年12月7日(水)
- レーベル
- 戦極CAICA
<トラックリスト >
1.Write down
2.アクションno.2
3.ディアブロ
4.up
5.マジェスティック
6.com on!feat 般若.zeebra
7.HIPHOPTRAIN 内回り
8.ディアブロJP feat 掌幻 HIDE
9.skit
10.街灯
11.down
12.淡月
関連リンク
ACE
ラッパー
1990年ブラジル生まれの新宿育ち。日本語・ポルトガル語・英語の3カ国語を操り、渋谷サイファー主催のほか、数々のMCバトルで優勝。「フリースタイルダンジョン」をはじめ、バラエティ番組やテレビCMにも出演。12月7日には2ndアルバム『LIGHT DOWN』をリリースする。
Twitter:(@ACE0317)
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