AV監督タートル今田 引退インタビュー前編 ドキュメンタリーに魅入られた男がAVに見つけたリアル

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自分に何もないから、撮れるものがある

ベスト盤ともいえる『タートル今田のすべて 2006-2010』には、ボツになってしまったHMJM入社後の第一作目が収録されている。話し方や声のトーンは現在とさほど変わらない印象だが、「僕も仕事だからハメないといけないけど……」と女優に漏らし、レンズに向き合うことへ照れを感じさせる青年の姿が写っていた。

今田 「小さい頃からしゃべり方はあんまり変わらないんだよね。あと、初現場の時に、やっとカメラを持ちだしたくらいで慣れていなかったんだよ。映画学校の時にカメラをやってみたけど下手だなって思って、興味がわかなかったのもあるから、ずっと演出をやっていてカメラを持ったことがなかった。

最初はすごい戸惑いましたよね。女優さんと二人きりになるのも嫌だったし。今では人と話すことがむしろ楽しいくらいだけど、これは完全にAVの影響。どんな人が来てもサッとカメラを回す瞬発力もAVにつけてもらったな」

第一作目はボツになってしまったものの、タートル今田さんは「楽しかった」実感と、ハメ撮りのスタイルに手応えにも似た感覚を得る。

今田 「俺が行ってた映画学校ってセルフドキュメントの人ばかりだった。松江さんも在日(韓国・朝鮮人)だった自分や家族を撮ったり、他の生徒は引きこもりのお兄ちゃんと対話をしたりとか。

俺はそういうフックになるような生き方をしてこなかったから、自分には無いものを持っている人への憧れはすごいあったし、何かを抱えている人を撮るほうが肌に合ってた。その人自体を撮りたいのであって、自分が何かを表現したいっていうのはないんだよね。自分の思いをぶつける作品を撮りたいわけじゃない。

感情の揺れとか、その人が今まで生きて紡いできたものを一旦見せてもらう、そういう作業だからね。初めて会った女の子の表情が、最初と最後で変わっているとかさ

そういう自分にとっての『リアル』を重ねていくから、言ってしまえば、ほとんどファンタジーと表裏一体な感じですよ。でも、やっぱり俺は、その人がふと発した言葉とか見せた表情を感じて、グッと来たものを人に見せたい。君はこんな表情するんだよ、こういう瞬間って人にはあるよね、と思えるところを拾い上げる。

だから(カメラが回ってないところで口にした)『今のセリフ、超良かったからもう一回、言って!』みたいにお願いすることだってありますよ。それは演出ではなく“やらせ”だけど、俺へかけてくれた言葉は本物で、俺の心にも響いたから、その点ではやらせじゃない。それはドキュメントの演出だと思う」

言わせたいことを答えさせるのか、構築するために引き出すのか

『温泉美人 さやか』

自分のスタイルを構築しながら、タートル今田さんは着々と作品を撮っていった。その信条は、『タートル今田のすべて 2006-2010』に収録された『温泉美人 さやか』の映像解説文にあった下記の一文だっただろう。

ファンタジーよりリアルなものが撮りたいのです。Keep it Real!!!!『温泉美人 さやか』より

しかしながら、AV業界はさらにファンタジーが主流となっていった。リアルを求めるタートル今田さんには、業界を疑問視する気持ちはなかったのだろうか。

今田 「それはあったよね。めんどくさいし大変だから、ドキュメントはやらないじゃないですか、みんな。ドキュメントって『どの場所へ行くか』が決まっているくらいで、話の内容なんてどうなるかわからないじゃない。インタビューだって、俺の場合は言わせたいことを話してもらうんじゃくて、その内容を俺が聞いて作品を構築するためのものだから、すごい時間がかかるんですよね。

しかも、俺は編集も遅いから完成まで2〜3週間くらい平気でかかっちゃうこともあって。時間がなければ1.5週間くらいのもあるけど……他の仕事もあって切り詰めてやりつつ、最長で3週間。あとは出来上がったのを見て、なんかおもしろくねぇ……って思っちゃうと、途端にやる気が出なくなってしまう。

でも、そういうときも答えは素材の中にあるんですよね。『最初のインタビューでこういう表情をしているし、この人にとって重要なシーンなんだ』って見つけた時にバーッとつながる感じで切っていける」

ドキュメンタリーはいつも「終わり」を探している

素材の話を聞いたところで、筆者にとってタートル今田さんの作品でも指折りの名シーンについて聞いてみることにした。

『ゆうあ ふたたび』※モザイクは編集部

『ゆうあ ふたたび』で半露天風呂でのセックスが終わり、体に飛んだ精液を拭いていると、遠くから『夕焼け小焼け』のチャイムが聞こえてくるのだ。情事の後に流れるわずかな湿り気が、夕方のしみじみとした切なさと重なって、旅の終わりをいっそう感じさせる。

今田 「本当なら発射したら終わってもいいんだけど、あの『夕焼け小焼け』がたまたま撮れて『あぁ、もう夕方になっちゃったんだね』っていうシーンが使いたくて、長めに回してた。予想してないかった余白の部分がポコンと出てくる、そういうのを撮れるとやっていて楽しい」

タートル今田さんも気に入っているという『えみ香 ふたたび』は、窓を開けた部屋でセックスを終えた後、ふたりが蝉の声に包まれながら、余韻にひたるシーンで終わる。

今田 「えみ香ちゃんって、あんまり言葉で語らない人なんですよね。でも最後に、俺が『なんかケロッとしてるね』と言ったら、えみ香ちゃんは『だって動いているのは今田さんだもん。私はイくの。ずっと』ってイイコトを返してくれた。言葉で語らない人の本心みたいのに少し触れた感じがして『ここで終われるな』って。

ドキュメンタリーは終わりどころを探す作業だ』って森達也さんが言ってたんです。録ってみるまではよくわからなかったけれど、録りはじめたらすごくわかる言葉。ドキュメンタリーは終わり所か、落とし所を探す作業なんだなって」

タートル今田さんは自身にとってのリアルを追い求めて積み上げることで、「AV」というファンタジーとの境界を曖昧にしていく。そして、視聴者は「女優」と「女性」の淡いにいる存在を垣間見た時、積み上がってきたリアルが一気に押し寄せて、心を揺さぶられる。ドキュメンタリーAVの魅力のひとつは、そこにあるといえそうだ。

しかしながら、昨今、ドキュメンタリーAVは撮影が非常に難しくなっているとタートル今田さんは言う。その制約は、今回の監督引退への要因にもなっているようだ。詳しくは記事後編でお届けするが、一端を先に記しておく。

今田 「今のAVはどんどん制約が厳しくなっていて。たとえば、街を歩くシーンも全部すりガラスみたいにぼかしていないと審査が通らなくなってきている。(情景や雑踏が)図らずも入っているのがドキュメントの良さだったし、映っていなければ時代性もなくなってしまう。ぼかして消してしまうのは映っていないのと一緒だからね。

僕とか松尾さん(カンパニー松尾)は、よく野外でセックスしているじゃないですか。ああいうシーンも審査が通りにくい。ここ1年くらいで締め付けが強くなってきて、表現の幅がどんどん狭くなっている」

後編では、HMJMが陥った窮地から考えた、現在地点のAVが抱えている問題をまとめていく。タートル今田さんの今後の活動と共に、その先に光明があるかについても考える。
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イベント情報

タートル今田&岩淵弘樹 お疲れ会

日程
2016年9月16日(金)
時間
24:00〜
料金
無料
会場
新宿ロフトBAR

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