AV監督タートル今田 引退インタビュー後編 AVはこのまま死滅するのか? 変革前夜に見た光明

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AV監督タートル今田 引退インタビュー後編 AVはこのまま死滅するのか? 変革前夜に見た光明
AV監督タートル今田 引退インタビュー後編 AVはこのまま死滅するのか? 変革前夜に見た光明
2014年の冬、10時間に及ぶアダルトビデオを編集した『劇場版テレクラキャノンボール2013』が大きな話題を呼んだAVメーカーのHMJM(ハマジム)。

HMJMは監督自身が演出・撮影・出演をする「ハメ撮り」の第一人者であるカンパニー松尾が設立し、女優のリアルな表情を描き出すことに力を注ぐ「ドキュメントAV」と呼ぶ作品群を送り出してきた。

近年はアーティストとのコラボレーションや、積極的に自主イベントを打つなど好調に見えたが、苦しい経営状況から2016年8月に所属監督のタートル今田さんと、自社サイト「PGbyHMJM」の編集長を務め、音楽ドキュメンタリー作品『モッシュピット』の監督でもある岩淵弘樹さんを解雇した。この記事ではそのひとり、タートル今田さんにインタビューしている。 タートル今田さんはHMJMでデビューし、キャリア10年を迎えたAV監督。人妻や熟女モノを手掛けることが多く、まさに会社の柱となって活躍してきた。その監督を切らねばならない事情の裏側には、業績不振だけでないAV業界の現在地点が表れているようだ。

前編では、映画学校を卒業した青年がハメ撮りを始めるまでを追いながら、タートル今田さんの視点とドキュメントAVの魅力を掘り下げた(前編リンク)。後編はAVが置かれているシビアな現状とその未来を考えると共に、タートル今田さんの今後についてもお聞きした。

文=長谷川賢人 写真・編集=新見直

AVの現場は「思ったより超ちゃんとしている」

HMJMオフィス

タートル今田さんはAVの仕事を始めた当初、それまで携わってきたドキュメンタリーとのつくり方の違いに戸惑ったという。たとえば、撮影日数。師事していた原一男さんの「関係性を築くまでカメラを回さない」という考えから、1ヶ月ほど被写体に会うだけの日々もあった。しかし、HMJMでは撮影、演出、出演を一人で行い、わずか数日の間に撮りきらなくてはならない。

27歳で業界入りした青年が内側から見たAVの世界は「意外にちゃんとしていた」そうだ。

タートル今田(以下、今田) 「HMJMみたいなドキュメントならまだしも、外注の時は台本を書いて、シーンのリクエストを受けて、プロデューサーに言われたとおりにヤるんだよね。女優さんは台本に目を通して全部その通りに、セックスを『見せるもの』としてこなせるし、すごいなって。

AV女優さんって、撮影の時はいくらでもヤっていいと思うでしょ? 実はそんなことなくて、『ギャラがいくらなら、カラミ(セックスすること)は何回まで』とバッチリ決まっている。俺とか松尾さん(カンパニー松尾)は『ここは発射してないから0.5カラミ』とか、わけのわからないことを言いつつ、女の子のテンションも引き出しつつみたいな芸当があるんだけど、本当はダメ(笑)」

たしかに、カンパニー松尾作品では、公衆トイレでの発射なしの「0.5カラミ」シーンがしばしば登場する。ただ、このルールは見方によって功罪がありそうだ。回数の制限は現場の無茶な要求を通りにくくし、女優の保護につながる。一方で、ドキュメンタリーにはふさわしくないであろう “予定調和” が生まれやすくもなりそうだ。

今田 「ダメなことをするのもどうかって話だけど、決まりごとでない部分を踏み越えると、その人のエロさを引き出せることもあるんだよね。そこは俺らもさじ加減を判断している。やってみて『ダメです』と言われたらちゃんと引くし、流れによっては『0.5』なんて言わずに発射まで撮ったりもする。あとはマネージャーさんだけに内容を言っておく手もある。何かあった時に揉めると大変だからね……」

10年で1/10!? 下がり続けるAVの売れ行き

インタビューも1時間に差し掛かり、タートル今田さんはタバコに火をつける。少しだけ空気がゆるんだように思った。「ギャラとカラミ」についてうかがったところで、さらにAV業界の内実を聞いてみることにした。

以前、タートル今田さんが、自身が監督した2009年リリースの『ゆうあ ふたたび』に出演した妃悠愛(きさきゆあ)さんの「(とある出演作が)2万枚の大ヒット」だったと口にしていた。

今田 「年々下がっているよね、ヒットの基準も。2万枚、3万枚は今なら『元芸能人』が出演する作品並の大ヒットですよ。AV業界の売り上げは……低すぎて言えないくらい。少し前まで『3000本を超えたらヒットだね』って言ってたのが、今は『1000本でヒットだね』という状況になっていて。俺が業界に入った時は『1万枚でヒット』だったから、10年で10分の1になった

『ゆうあ ふたたび』が発売された2009年といえば、音楽業界の売り上げも右肩に下がり始めた年だ。CDのみならず有料音楽配信でも売り上げのピークに近かったというデータもある。片や、少なからず影響が及んでいると思われるスマートフォン市場は、この年にはiPhone 3GSが発売されるなどして着実に伸びていった。

今田 「AVというジャンルからお客さんが離れているんだよね。本数は変わらずリリースして売り上げが減っているから、結局は制作費にしわ寄せがいって、2本撮り、3本撮りが行われるようになった。

つまり、コーナーや余白の部分を削って、1日で撮れる内容のAVを同じ女優でまとめて撮る。メーカーが内容の薄いものを発表するから、買った人は良いって思わない。悪循環ですよ。だからこそHMJMはスタンスを崩さなかった。うちのお客さんには特にそういうものを見せたらダメだと。そうしたら、経営がもっと大変なことになっちゃっていた……と(笑)。

でも、俺にはHMJM以外でAVを撮るのが魅力的に思えないんですよ。今のAVはどんどん制約が厳しくなっていて。たとえば、街を歩くシーンも全部すりガラスみたいにぼかしていないと審査が通らなくなってきている。(情景や雑踏が)図らずも入っているのがドキュメントの良さだったし、映っていなければ時代性もなくなってしまう。ぼかして消してしまうのは映っていないのと一緒だからね」

時代の厳しさといえば、つい最近も「何か」がAV業界に起きつつあるのを感じさせた事件もあった。大手AVプロダクションの元社長らが “出演強要” の疑惑で逮捕されたり、キャンプ場を貸しきって撮影をしていたキャストたち52人が公然わいせつで書類送検されたりといったニュースを目にしたのは記憶に新しい。

今田 「どこかから見られる可能性があるところでの撮影が一切NGになりつつある。ホテルの外観も写せないからね。だからといって、ホテルの中だけでずっとぐちょぐちょやるっていうのもね……やっぱり映像としては『開けた空間』が俺は見たい。いやらしいことをしていようが、していまいが、室内ばっかり撮っていても映像として面白くないじゃないですか」

HMJMオフィス

タートル今田監督は別のインタビュー(外部リンク)で「『青春100キロ』上映中止以降、俺らが一生懸命つくってきた作品も、どんどんDMMから下ろされ、社会的に無かったことにされていく。その状況も心配だし、辛いよね」と話している。

DMMの掲載拒否は「仮に半露天風呂で事に及んだ場合、反対側の山から見えるかもしれない」というような論理がベースにあるそうだ。露店風呂や窓を開け放してのプレイ、あるいはカーセックスなど、従来の演出手法が次々に縛られているという。

今田 「AV業界にとって、ドキュメンタリーの手法がちょっと合わなくなっているんじゃないかなぁ。HMJMはまだ戦ってますけどね。審査団体から意見が来たら『こういう理由でやっています、何かあったら責任を持ちます』みたいに返しているけれど、他のメーカーは言われたら『そうですか、じゃあカットですね』って。ただ、HMJMもいつまで抵抗できるかはわからないし、HMJM以外でドキュメンタリーAVをつくれるかって言われたら難しいよね。

俺は辞めることになったけれど、HMJMが好きですし、会社も最後まで残そうとはしてくれたと思うんです。でも本当にきつくなちゃって、最後の決断として俺と岩渕(岩淵弘樹)が辞めることになった。HMJMには恨みも嫌な感じもないですよ。社長から『すまん!』と告げられたときも、『しょうがないっす』って本当に言ったからね。やっぱり、これだけお金が入ってこないと無理だから。

それに、金のためだったら、もう少し報われる仕事がしたいよ。ドキュメントAVの監督なんて時間ばっかりかかってさ、プロデューサーに怒られてさ、〆切を迫られていじめられてさ、お金もぜんぜんもらえないしさ、何かあったら『あいつが悪い、売れなかった』って言われてさ……しかも撮れるものも縛られて……なんていうんだろう、アホらしくはなるよね。

自由なものが撮りたくて入った業界なのに、不自由さばかりがどんどん増しちゃう。愛着を感じていたものがどんどん変容していくようで、なんか、ねぇ

変革の中で、もがき続けるAV業界には何が必要か?

AVの売り上げは落ちていく。撮りたいものが撮れない。もがき続ける中で、HMJMが活路を求めてこの2年間取り組んできたのが劇場上映やイベントだった。AVというジャンルを超えた外側へのアプローチで顧客を取り込もうとしたのだ。
今田 「『劇場版テレクラキャノンボール2013(以下、テレキャノ)』は1万本くらい売れたんじゃないかな。だから、ヒットはしたんですよね。でも、そこからHMJMのAVを見てくれるようになった人はかなり少なかった。あれだけテレビに出て、バラエティ番組でパロディにしていただいて、この数字ですよ。

テレキャノをリリースしたのは2013年だから、それだけでは会社は食っていけない……HMJMとしては劇場やイベントに活路を見出そうとしていたけど、うまく実を結べなかったんだよな……それもきつかった。どうしようって焦るばかりで。DVDは売れなくなる、劇場公開もそれほどお金が入ってこない、ウェブサイトを再構築したけど期待よりは奮わなくて、自分たちがどうしていいかがわからなくなっていた 手詰まりの切迫感が伝わる中で、新しい売り方や発明ができなかったのは、HMJMの失策かもしれないし、業界の膠着といえるかもしれない。

今田 「一時期、神話的に『エロは人間の根源的な欲求だから廃れない』って業界の空気もあったけど、それは『エロ全般』にはいえないんだなって。テレクラがなくなって、エロ本が廃れ、AVが廃れ……その空気が万能ではないのを感じたのが、ここ何年のこと。

(棚に並ぶパッケージをちらりと見て)これ、買うのハードル高くなかったですか? 今もずっと、この10何年間、ハードルは高いままに中身は変化せずだからさ。それはちょっと、まずかったのかなって気はする」

かつてAVはVHSやDVDといった再生メディア環境を牽引し、インターネット配信でも存在感を放った。しかし、出版や音楽と同じく、大きな変革の最中にAVも立たされているのだ。 今田 「AVというフォーマットの求心力が、もう完全になくなってしまっているような気がしていて。つまり、『エロをじっくり見る』という文化がもうないんじゃないかな……『無料動画』の目的はオナニーじゃないですか。でも、俺らがつくっていたのってさ、もちろんエロいところも見てほしいんだけど、それ以外のところも見てよって感じだったから。自分のAVを『作品だ』と言うのはどうかと感じるけれど、やっぱりつくる側は『作品だ』と思っていたからね。

たとえば、音楽もCDじゃなくて1曲単位で、ヒットしたのだけ買ってアルバムは要らないっていうのは、じっくり何かと向き合うとか、じっくり何かを掘り下げる風潮がなくなったのにつながっている気がしている。僕らは、そういう意味でのAVが好きだったんだけどね……」

「消費がインスタントになっている」のは、引き合いに出た音楽やAVだけでなく、どこの業界でも聞き及ぶテーマである。似ているジャンルとして「成年コミック」の例では、ページ単位でカラミや射精の回数を指定されるようになり、自由には描けなくなっているという話もある。

自由な表現がまとう「余白の部分」を削られている現状に、タートル今田さんは「それによって、商品の魅力もなくなっている気がする」と言った。

今田 「なんでもいいから、じっくりとひとつのジャンルに向き合うってのは、人生を豊かにしそうなものなんですけどね……」

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