さびしい、誰かにかまってもらいたい、人肌が恋しい……。人生のなかで誰しもが感じ、そして対処法を学んでいく感情が「孤独感」。
しかし、「孤独感」と向き合う前提としての「自己肯定感」を身につけられなかったために、いつまでたってもさびしさが消えず、家庭にも社会にも居場所のなさを感じながら鬱と摂食障害に苦しみ、誰かとの交際経験も性的な経験も、ましてや社会人経験もないままにアラサーを迎えてしまったら……?
そんな八方手詰まりな状態から脱皮しようともがいた作者が、なぜかレズビアン風俗に行くことになる。……という一部始終を克明に描いたコミックエッセイが発売されました。
それが永田カビさんの『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』です。
文:ひらりさ
6月17日に発売された単行本も、すでに3刷が決まるという売れ行きで、全国で話題となっています。
しかし、今でもpixivでの内容は無料で読めるため、「あえて単行本を買わなくても……」という方も多いかもしれません。
あるいは「レズ風俗なんてイロモノネタでPVを稼いだだけでしょ?」と斜にかまえて、そもそもpixivも単行本も読む気がないという方もいるかもしれません。
ですが、そんな人たちにこそ手にとってほしいのが、この単行本版なのです。
単行本版では、永田さんが「さびしさ」をこじらせていく過程が、レズ風俗でのプレイ内容以上に赤裸々な描写で紙幅を割かれています。
「親からの評価」を気にするあまり、自己肯定感や「自分のやりたいことをやる」という感覚がごっそり欠如していた永田さん。その結果、高校卒業以来10年近く社会になじめず、自分には物を食べる資格すらないと思い込んでしまい、身長167㎝なのに体重が38kgを割るほどの状態でした。 そんな絶望的な年月のなかで自分の苦しみの根本を模索し、彼女がたどりついたのが、今まで性的経験も欲望も無かった自分のなかに隠れた「誰でもいいから抱きしめられたい」「男性よりは女性、母的な存在につつまれたい」という肉体的な欲求。
だからこそ、身近に頼れる他人のいない永田さんが「レズ風俗」を知った瞬間の衝撃は、まるで三重苦のヘレン・ケラーが流水にふれて「ウォーター!」と叫んだとき並みの大きさでした。
そうして彼女は「さびしさ」からの解放を求めて、レズ風俗へと向かっていくのです。
実際私も、10代のころは恋人ができずに躍起になって、合コンやお見合いパーティーに行き、しかしいざ恋人ができてみたものの「これは本当の『好き』ではないのでは……」という感覚が頭から消えずに、結局何もせずに別れる、というようなことを繰り返していました。
結局20代前半で、そのぐるぐるに終止符は打たれたものの、乗り越えてみて気づいたのは「別にやったかやらないかで人間は変わらないし、むしろ別の種類のさびしさが生まれる」ということでした。
それでも、だからこそ私が痛感しているのが、そうやって「孤独感からは逃れられない」という事実を知ることは、孤独感を軽減するためのかなり有効な方法ではあるということです。 永田さんはレズ風俗におもむいたことで、抱えこんだ巨大な「孤独感」を自分のものにしました。
一般に適切とされる年齢で、一般に適切とされる状況下で、自然と他者と性的経験を重ねてきた人からしてみたら「大したことない」と感じることもあるでしょう。ですが、永田さんにとってその一歩を踏み出すのは本当に本当に大きな決断だったはずです。
そして、そのことを作品というかたちで他人に告白する、というのも、永田さん自身はあっけらかんとしているように見えますが、永田さんにとっても、言えないで苦しんでいる人にとっても、大きな出来事だと思います。
実際、永田カビさんはレズ風俗体験を経て、劇的にさびしくなくなったのかというと……そうではありません。圧倒的な期待値をもってのぞんだ「初体験」は意外なほどにあっけなく、感動的な快感や愛への目覚めなどは一切ありませんでした。
そして「さびしさ」は人肌にふれても続いていく。そんな当たり前の事実こそが、この『レズ風俗レポ』が突いている核心なのではないでしょうか。
単行本を読んでも永田さんの「さびしさ」には触れず、「性病に気をつけてください」という連絡をしてくるお母さんのわかってくれなさぶりからして、家族関係もまだまだ模索中の模様。
思えば『人間失格』だって『金閣寺』だって『こころ』だって、大きく括れば「さびしさ」の話なのです。永田さんの「さびしさ」がこれからさらにどんな作品を生み出していくのか。
“日本一さびしい漫画家”の第一歩としての『さびしすぎて風俗に行きましたレポ』。ぜひ手にとってみてください。
しかし、「孤独感」と向き合う前提としての「自己肯定感」を身につけられなかったために、いつまでたってもさびしさが消えず、家庭にも社会にも居場所のなさを感じながら鬱と摂食障害に苦しみ、誰かとの交際経験も性的な経験も、ましてや社会人経験もないままにアラサーを迎えてしまったら……?
そんな八方手詰まりな状態から脱皮しようともがいた作者が、なぜかレズビアン風俗に行くことになる。……という一部始終を克明に描いたコミックエッセイが発売されました。
それが永田カビさんの『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』です。
文:ひらりさ
pixiv発の話題作『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』
もともとはレズ風俗に行くことを決意してから実際に行くまでの過程をpixivにUPしていたところ、480万回以上の閲覧数を叩きだしたことで、書籍化が決まった本作。6月17日に発売された単行本も、すでに3刷が決まるという売れ行きで、全国で話題となっています。
しかし、今でもpixivでの内容は無料で読めるため、「あえて単行本を買わなくても……」という方も多いかもしれません。
あるいは「レズ風俗なんてイロモノネタでPVを稼いだだけでしょ?」と斜にかまえて、そもそもpixivも単行本も読む気がないという方もいるかもしれません。
ですが、そんな人たちにこそ手にとってほしいのが、この単行本版なのです。
レズ風俗体験よりも鮮烈なさびしさとの葛藤
本作はタイトルこそ『レズ風俗に行きましたレポ』ではあるものの、むしろ主題となるのは永田さんの抱える「さびしさ」。単行本版では、永田さんが「さびしさ」をこじらせていく過程が、レズ風俗でのプレイ内容以上に赤裸々な描写で紙幅を割かれています。
「親からの評価」を気にするあまり、自己肯定感や「自分のやりたいことをやる」という感覚がごっそり欠如していた永田さん。その結果、高校卒業以来10年近く社会になじめず、自分には物を食べる資格すらないと思い込んでしまい、身長167㎝なのに体重が38kgを割るほどの状態でした。 そんな絶望的な年月のなかで自分の苦しみの根本を模索し、彼女がたどりついたのが、今まで性的経験も欲望も無かった自分のなかに隠れた「誰でもいいから抱きしめられたい」「男性よりは女性、母的な存在につつまれたい」という肉体的な欲求。
だからこそ、身近に頼れる他人のいない永田さんが「レズ風俗」を知った瞬間の衝撃は、まるで三重苦のヘレン・ケラーが流水にふれて「ウォーター!」と叫んだとき並みの大きさでした。
そうして彼女は「さびしさ」からの解放を求めて、レズ風俗へと向かっていくのです。
孤独感から逃れる方法はあるのか?
これは私感ですが、「孤独感」は過去の経験や周囲の環境によって引き起こされるものではありますが、何か一時的な体験を達成することで取り去られるものではありません。実際私も、10代のころは恋人ができずに躍起になって、合コンやお見合いパーティーに行き、しかしいざ恋人ができてみたものの「これは本当の『好き』ではないのでは……」という感覚が頭から消えずに、結局何もせずに別れる、というようなことを繰り返していました。
結局20代前半で、そのぐるぐるに終止符は打たれたものの、乗り越えてみて気づいたのは「別にやったかやらないかで人間は変わらないし、むしろ別の種類のさびしさが生まれる」ということでした。
それでも、だからこそ私が痛感しているのが、そうやって「孤独感からは逃れられない」という事実を知ることは、孤独感を軽減するためのかなり有効な方法ではあるということです。 永田さんはレズ風俗におもむいたことで、抱えこんだ巨大な「孤独感」を自分のものにしました。
一般に適切とされる年齢で、一般に適切とされる状況下で、自然と他者と性的経験を重ねてきた人からしてみたら「大したことない」と感じることもあるでしょう。ですが、永田さんにとってその一歩を踏み出すのは本当に本当に大きな決断だったはずです。
そして、そのことを作品というかたちで他人に告白する、というのも、永田さん自身はあっけらかんとしているように見えますが、永田さんにとっても、言えないで苦しんでいる人にとっても、大きな出来事だと思います。
実際、永田カビさんはレズ風俗体験を経て、劇的にさびしくなくなったのかというと……そうではありません。圧倒的な期待値をもってのぞんだ「初体験」は意外なほどにあっけなく、感動的な快感や愛への目覚めなどは一切ありませんでした。
そして「さびしさ」は人肌にふれても続いていく。そんな当たり前の事実こそが、この『レズ風俗レポ』が突いている核心なのではないでしょうか。
永田カビが「さびしさ」から生みだす新たな作品
風俗体験、そしてレポ漫画の反響を通して明るい展望を持った永田さんですが、新しく始まった連載のタイトルが『一人交換日記』であることからしても、長年こびりついた「孤独感」とは日々格闘しているようです。単行本を読んでも永田さんの「さびしさ」には触れず、「性病に気をつけてください」という連絡をしてくるお母さんのわかってくれなさぶりからして、家族関係もまだまだ模索中の模様。
それでも、コントロールできるようになった「さびしさ」が、永田さんの大きなエネルギーであり、最大の才能ではないかと私は思います。お母さんからのメールです pic.twitter.com/7lgnErL7e9
— 永田カビ 単行本電子書籍と3刷6/30頃 (@gogatsubyyyo) 2016年6月10日
思えば『人間失格』だって『金閣寺』だって『こころ』だって、大きく括れば「さびしさ」の話なのです。永田さんの「さびしさ」がこれからさらにどんな作品を生み出していくのか。
“日本一さびしい漫画家”の第一歩としての『さびしすぎて風俗に行きましたレポ』。ぜひ手にとってみてください。
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