ミステリーの楽しみ方の違い 謎解きの難易度調整の難しさ
極限脱出 9時間9人9の扉
━━打越さんが手がけられた「極限脱出」シリーズのような謎解きのあるコンシューマーゲームとなると、プレイした人の大部分が解ける謎でないとダメだ、といったことも考えるのでしょうか?打越 それはありますね。この前、「リアル脱出ゲーム」を手がけるSCRAPの加藤隆生さんと対談したんですが、「リアル脱出ゲーム」は謎が解けなくてもよくて、参加者をいかに心地良く悔しがらせて、もう一回やらせるかってことが一番大事なんだそうです。
でもコンシューマーゲームだとそうはいかない。「極限脱出」シリーズでは、ちゃんとみなさんが解けるように気を使っていますが、「極限脱出」シリーズの脱出パート、今回の『ZERO ESCAPE』では「クエストパート」と呼んでいる部分の難易度って、人それぞれなんですよね。「前作より簡単だった」と言う人もいれば、「難しい」って人もいるので、難しいところです。
極限脱出ADV 善人シボウデス
━━過去の「極限脱出」シリーズでは段階的にヒントが出てくるので、プレイヤーに合わせた難易度を提示してくれていました。竜騎士さんは『極限脱出 9時間9人9の扉』『極限脱出ADV 善人シボウデス』をプレイしてみて、いかがでしたか?竜騎士 僕は『CRIMSON ROOM』(2004年 密室脱出ゲーム)を筆頭に、もともと密室脱出ゲームが大好きだったので、非常に楽しめました。
難易度が人それぞれ、というのは、そもそもミステリーの楽しみ方というのは、”謎を解けて嬉しいという達成感”と“謎が解けなくても、答えを聞いた時に「なるほど!」と思う爽快感”。この2つに分離していて、実は人によって期待しているものが違うからなんですね。
「謎を解きたい」と思う人は、主人公たちがヒントを言ってくれることに腹を立てるんです。「自分で解くからヒントは言わなくていい!」って。
誰でも解ける謎だと、謎を解いた自分に誇りが持てない。要するに、アクションゲームと同じように「俺はあの難しいベリーハードを解いたぜ!」みたいな達成感がないと悔しがるんです。一方の後者は、実は自分で謎を解く気はあまりない。目についたポイントをヒント通りにクリックして進めていって、オチを見て喜ぶ人。この二派に分かれています。
「極限脱出」シリーズで面白いと思うのは、達成感を得るために“ゲーム中で解けるようにできている謎”と、普通に追っても置き去りになってしまう“考察しなければ解けない謎”、謎の種類をちゃんと二分化した上で用意しているところなんです。
━━それはどういった点なんでしょうか?
竜騎士 例えば、「この部屋から脱出できました」とか、基本的に一本のシナリオで“表面上は”解くことができる。
これは言ってしまえば、達成感を感じるためのもので、それ自体はミステリーではない。だって、全員が解けるようにできていて、解けない人にも解けるシステムにしてある。
でも、「極限脱出」シリーズは、多重世界(パラレルワールド)構造になっているので、同じシナリオを何度もプレイしたり、作品を横断することで初めてわかる情報があるんです。さっき僕が言った表面上で解けるにようにできている謎と何回か再プレイしてガチンコで挑まないと解けない謎、「二種類あるミステリの楽しみ方」、両方のニーズに応えているのがすごいんですよね。
打越 それは初めて言われました…。そうなのかな(笑)? 自分では全然意識してなかったです。
━━こうしたミステリーの構造的な部分について、打越さんが無意識に書かれていたというのは意外ですね。
竜騎士 次の『ZERO ESCAPE』は3作目ですよね。例えが正しくないんですけど、僕はこれを“カレー屋問題”と呼んでいて。すごく美味しいカレーをつくるお店がヒットすると、ファンは2皿目にはもっと美味しいカレーを期待します。
では、辛口だった1皿目を裏切ろうと、2皿目に甘口のカレーをつくった場合、今度は「辛口か、甘口か」という二極が出来て、3皿目をつくる時には新しい3つ目の軸がなくなってしまう。そうなると、つくり手側としては、今度はカレー自体を裏切るしかない。でも、ファンはカレーを期待しているので、カレー以外のものをつくると怒られてしまう。
つまり、王道の次に邪道をやると、それで「王道/邪道」という二極を使い切ってしまって、次の軸を見いだすことができません。これは、色々なトリロジー作品の3部作目がちょっと尻すぼみになってしまう大きな理由なんです。
『9時間9人9の扉』『善人シボウデス』に続く「極限脱出」シリーズの3作目がどうなるのか……(笑)。
優先順位のない究極の選択肢がつまった最新作
打越 僕はそこまで冒険せず、ちゃんとカレーを出しました(笑)。シリーズのファンが求めているものはわかっていたので、「まずはそれをやろう」と。竜騎士 ジャケットを見てもわかりますが、『ZERO ESCAPE』は前2作に比べて、明らかにリアル寄りです。『9時間9人9の扉』『善人シボウデス』がティーンエイジャー向けだとしたら、『ZERO ESCAPE』は久しぶりにゲームをプレイするような大人をメインターゲットにしているとわかります。
スパイク・チュンソフトさんは『ダンガンロンパ』がティーンエイジャーに向けた方向性なので、この「極限脱出」シリーズの変遷はおっさんの僕としては嬉しいです。
「極限脱出」シリーズは、どれも自分の価値観次第で迷える選択肢がいっぱいあって、それが面白い!
PS Vita/3DS ZERO ESCAPE 刻のジレンマ アナウンストレーラー
竜騎士 一見迷うように見えて、実はまったく迷う余地がなく、むしろ「迷ったら負け」みたいな選択肢もありますよね(笑)。
でも打越先生の考える選択肢は、どれが正解なのかまったくわからないので、どうしても直前でセーブしたくなります(笑)。
僕は、これが「極限脱出」シリーズの持ち味じゃないかなって。“選択肢の前で悩むこと”が醍醐味。
『ZERO ESCAPE』では、「究極の選択」という、これまでの過去作にはなかった2択から選択するゲームパートが新しく増えましたが、どの選択問題も面白そうですよね。『これからの「正義」の話をしよう』で有名なマイケル・サンデル教授の「トロッコ問題」みたいな。 打越 さすがですね。「トロッコ問題」は「究極の選択」を発想する発端のひとつでした。
竜騎士 「トロッコ問題」は、危機に瀕している人々がいて、自分が誰か一人を積極的に殺せば最終的な犠牲者の数を減らすことができるという状況で、どちらの選択をすべきか? というものです。
要するに、自分の勝利条件を何にするかで答えは変わってきます。生存者の人数が多いほうを勝利とするならば、誰かを積極的に殺したほうがいい。しかし、現実の世界では、積極的な殺人者になってしまうと社会的不利益を被るので、何もしないで見過ごすのが得策だ……という。 打越 企画段階では、わかりやすく「命がけの選択」と呼んでいたのですが、本当のところは『ZERO ESCAPE』で「どちらの選択が正しいのか?」ということを、世に問いたいんです。
また、今回はプレイヤーに『ZERO ESCAPE』の編集権を与えています。プレイヤーは、完結型の複数ある物語の断片を好きな順番でプレイできるので、どの断片からプレイしても、最終的にはすべてがつながるようになっています。
100人プレイすれば、100通りの感じ方がありますね。人が死ぬ順番も、プレイヤーによって全然違ってきますから。 竜騎士 さらにそのプレイの順番という選択肢には、優先順位がないんですよね……。プレイヤーによってストーリーが違ってくる━「俺ならどっちを選ぶかなぁ」って、これだけで延々と友達と話していられるテーマですね。
━━ゲーム内ではどちらか片方を選ぶけど、ゲームの電源を切った後に「本当にあちらを選んでよかったのか?」と悩む……。まさにこれもミステリーゲームの魅力ですね。本日はありがとうございました!
【動画ではミステリーの魅力、そして科学との関係性を語る!】 打越鋼太郎 × 竜騎士07 シナリオライターが語るミステリーの魅力とは?
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ZERO ESCAPE 刻のジレンマ
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発売 : 2016年6月30日
価格 : ¥5,378
プラットフォーム:PlayStation®Vita
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発売 : 2016年6月30日
価格 : ¥5,999
プラットフォーム:Nintendo 3DS
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タイトル情報
ZERO ESCAPE 刻のジレンマ
- 発売日
- 2016年6月30日(木)
- 対応機種
- PlayStationⓇVita、ニンテンドー3DS、PC(STEAM®)
- ジャンル
- 極限脱出アドベンチャー
- 年齢別レーティング(CERO)
- D(17歳以上対象)
- ディレクター・シナリオ
- 打越鋼太郎
- キャラクターデザイン
- 友野るい
- サウンド
- 細江慎治
- 開発元
- (有)チャイム
- 販売元
- 株式会社スパイク・チュンソフト
- 公式Webサイト
- http://www.spike-chunsoft.co.jp/zeroescape/index.php
【STORY】
2028年12月31日――ネバダ砂漠。
実験施設 Dcomでの共同生活が始まってから6日目のことだった。その日、目覚めると9人の男女は監禁室の中にいた。左の手首には見覚えのない黒い腕輪――バングル。そこに仮面をつけたひとりの人物が姿を現わし、Decisionゲームの開始を宣言する。
「これはきみたちと、私と、人類の存亡をかけたゲームだ」
その後、彼らは地下シェルターへと搬送され、C ・ Q ・ D――3つの区画に分かれて収容されることに……。
はたして生き残るチームとは……?全人類――80億の未来は彼らの決断(Decision)にかかっている!
【GAME SYSTEM】
映画や海外ドラマのようなリアルさ「シネマパート」、オリジナリティ溢れる謎解きが楽しめる「クエストパート」、究極の選択「ディシジョンパート」3つのパートが絡み合い、相乗し合い、物語は加速していきます。
【CAST】
石田彰、小野大輔、小見川千明、坂本真綾、沢城みゆき、杉田智和、鈴木達央、豊崎愛生、能登麻美子
関連リンク
打越鋼太郎
クリエイター
株式会社スパイク・チュンソフトのクリエイター。
『Never7 -the end of infinity-』『Ever17 -the out of infinity-』『極限脱出 9時間9人9の扉』『極限脱出ADV 善人シボウデス』などを手がける。
2016年6月30日には、新作『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』の発売を控えている。
公式Webサイト:http://www.spike-chunsoft.co.jp/zeroescape/index.php
Twitter:@uchikoshi
竜騎士07
クリエイター
同人サークル『07th Expansion』代表。『ひぐらしのなく頃に』『うみねこのなく頃に』『彼岸花の咲く夜に』『祝姫』などを手がける。
2016年夏には完全新作『トライアンソロジー~三面鏡の国のアリス~』を発表予定。「人類は衰退しました」の田中ロミオ、『リトルバスターズ!』の都乃河勇人、そして竜騎士07の3名のシナリオライターによるトライアンソロジーとなっている。
公式Webサイト:http://trt.07th-expansion.net/
Twitter:@07th_official
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