彼の名前はウォルピスカーターさん。「高音出したい系男子」を掲げ、圧倒的な歌唱力と安定した高音域の歌声で多くのファンを魅了する、ニコニコ動画の「歌ってみた」シーンを担う歌い手だ。
2015年1月に投稿した「夜明けと蛍」が100万再生を突破、そして2015年4月「アスノヨゾラ哨戒班」ではついに200万再生を突破するなど、その人気は衰えることなく、1月27日には待望のフルアルバム『ウォルピス社の提供でお送りします。』が発売された。
文:安倉儀たたた
「歌ってみた」のきっかけは軽音部の引退
ウォルピス 中学生の頃ですね。通っていた川崎の中学校は、ヤンキーが多くて、周りの友達もニコニコ動画はぜんぜん見ていませんでした。
──じゃあ一人でひっそりみてたんですね。
ウォルピス はい。アニメとかも好きだったんですが、そんなことも言えず……。音楽をやりたくてもそういうことを話せる雰囲気でもなかったので、なるべく地元の同級生がいなくて音楽ができる高校に進もうと思っていました。
高校入学して最初のホームルームで「夢は歌手になることです。軽音部に入りたいです!」って宣言して軽音部に入りました。そこがたまたま軽音の強豪校で、本当に恵まれていたと思います。おかげで、楽器もドラムにベース、ギターと一通り演奏できるようになりました。
──部活ではどんな曲を歌われていたのですか?
ウォルピス 激しい邦楽の曲が多かったのですが、洋楽もたくさんやりました。ストラトヴァリウス (Stratovarius)の「ハンティング・ハイ・アンド・ロー」(Hunting High and Low)という、えげつなく高い曲も歌ったりしていました。
僕はスピッツみたいなJ-POPが好きだったので、「ロビンソン」やりたいといったのですが……相手にされませんでした(笑)。
──「歌ってみた」を始めたきっかけも軽音部だったんですか?
ウォルピス 部活を引退したのがきっかけなんです。僕はピンボーカルでしたが、ほんと「部活命!」の高校生活だったんです。でも、秋の大会を終えて引退してから、燃え尽きてしまい……。
──それだけ打ち込まれていたんですね。
ウォルピス そうなんです。それで、「歌ってみた」なら一人でもできるし、楽しそうだなーと思って始めました。
「世界一高い声を出せるようになる!」
──初めて投稿した時にはどんな気持でしたか?ウォルピス 気楽に始めて、当初は音の調整とかもしていなかったので、どうしてCDみたいな音質にならないんだろうって悩んでました(笑)。
──納得できるような音質にはなりましたか?
ウォルピス はい、「歌ってみた」を通じて知り合った人から録音機材やコンデンサーマイクの存在を教えてもらいました。MIXも人に頼むようになって、段々に納得のいく音質に近づいていったのが楽しかったですね。
──やっぱりコメントが付くと嬉しいですか?
ウォルピス それはもう、どんなコメントでも嬉しかったです! 「来た来たっ! ありがとう」って(笑)。
──活動初期は、高音の歌い手だったわけではなかったと思いますが、その後、「高音出したい系男子」という路線を打ち出し、注目されていったように思います。
ウォルピス もともと高い声を出そうとしていたわけではなかったんです。最初の頃は、音域があわずに歌うのを諦めた曲も多かったんですが、ある日突然、高音の出し方がわかった瞬間があって、「うおー、俺こんなに高い声が出せる! 楽しいいいいーーー!!!」って気持ちよさがあったんです。これをまた味わいたくて、高音の道を歩み出しました。
──その高い声を出すのは技術なんですか? それとも才能?
ウォルピス 経験値と感覚ですね。歌い続ける事によって喉の筋肉も鍛えられるもので、ある段階で高音を出す感覚にうまく触れることができたら、ぱーんって高音が出せるようになる。高音の出し方を体が理解するんですよね。
──それはいつ頃、どの動画を投稿した時にわかったんですか?
ウォルピス 2013年11月に投稿した「命のユースティティア」です。これでかなり高い声が出せるようになりました。
ウォルピス いちばんは歌に対する意識が変わりました。もっともっと高い声を出したくなって、そのためには歌について勉強しなきゃいけないな、と。感覚だけじゃこれ以上の高音は出せないと思って、発声の仕組みとか解剖学的なものにも手をだしたりしました。
──ウォルピスさんが名乗っている「高音出したい系男子」というのは、最初に出た声よりも、もっと上を目指したいということなんですね。
ウォルピス そうです。「俺、もっと高い声出せるようになるから、もうちょっとまって!」という感じですね(笑)。
──たとえば「高音系男子」はいまや沢山いますが、「高音出したい」、自分は過渡期だと名乗る人は珍しいですよね。成長の過程を見守ってほしいという感覚は、今のアイドル文化と同じく、ストーリーがあってファンにとっても共感しやすいのかなと思います。
ウォルピス たしかに肩書きはオンリーワンです(笑)。高い声を出し始めた時、自分より高い声を出す人がたくさんいて嫉妬に狂いそうになったんですよ。それで「俺はまだまだ高い声を出せるようになりたいから、高音を出したい系男子だから」ってつぶやいたのが「高音出したい系男子」の起源だったような記憶があります。
──それは、いつか高音系男子を追い越してやる、と。
ウォルピス もちろん! 世界一高い声を出せるようになる! と意気込んでいます。
初ソロアルバムのリリース 「集大成にして成長記録」
ウォルピス コンセプトとしては「集大成にして成長記録」です。ジャケットも建設中のビルで「まだまだ成長の途中ですが、がんばるので応援してください」というメッセージを込めました。
──建設中のビルと自然豊かな山々という、抜けのある構図が印象的なジャケットですね。
ウォルピス けっこうわがままをいって理想の形にしてもらいました(笑)。僕はあまのじゃくなのか、みんなと一緒はイヤという気持ちが強いんです。だから、アルバムも異質なものにしたかった。僕が語っている「高音を出したい系」という肩書きも風変わりですし、ウォルピスカーターの異質な側面を表現したかったんです。
──ウォルピスさんの異質さはアルバムのどういう所に表れていると思いますか?
ウォルピス 選曲に関しては普段通りの僕だと思いますが、曲順はすごく変ですね。一曲目からびっくりしてもらいたくて。僕の歌が好きでアルバムを買ってくれた人にも驚いてほしいし、僕のことを知らない人にも驚いてほしいです。
──今回のアルバムでは鬱Pさんら四人のボカロPが曲を書き下ろしていますが、ウォルピスさんはオリジナル曲を歌うのは初めてですよね?
ウォルピス はい。自分のために曲をつくってもらったというのは初めての体験で、嬉しかったけれど、同時にプレッシャーもすごかったです。みなさんのクオリティに応えられるか、あまりにも不安すぎてやめてやろうかなって思ったぐらい(笑)。
──オリジナル曲を歌う時と、歌ってみたを歌う時で違いがありましたか?
ウォルピス 「歌ってみた」を録る時は、ボーカロイドだけじゃなくて、いろんな人の「歌ってみた」を聞いていろんな表現や歌い方を探るんです。でも、オリジナルは自分の引き出しを全部あけて、その中から最高の歌い方を探すという自分との戦いでした。そういう事をずっと考えながら歌っていたので、大変でしたがすごく勉強になりました。
──オリジナル曲はウォルピスさんから楽曲の要望をだしたと聞きました。どんなことをイメージしながらボカロPさんにお願いをしたのでしょうか?
ウォルピス たとえば、dorikoさんの「last will」では本人と何度か直接お会いして、女性目線のバラードをつくってほしいと依頼しました。dorikoさんの描く女性目線の歌詞がすごく好きで、僕は男だけれど女性キーの高音でつくってほしくて、dorikoさんも快諾してくださったんです。
──それで期待通りの曲ができたと。
ウォルピス はい。ドンピシャのやつが来ました。でも、あえてOrangestarさんにはいっさい要望を出さなかったんですが、そうしたら、とんでもなく人間離れした曲ができて……。正直、歌えるか不安だったんですけれど「これを待っていたんだよ!」って思いましたね。
ウォルピス いっちばん大変でした。いや、もう燃え尽きるぐらい魂込めて歌ったので、ぜひ聞いてください!
刺激し合える歌い手仲間
ウォルピス ミリオン超えの再録ということで、プレッシャーがすごかったです。両方とも、投稿してからそれほど期間が空いていないので、そこまで大きく変えずに、コーラスの位置やオクターブを調整したり、ニコニコ動画版とは少しニュアンスを変えて収録しました。
ウォルピス うーん、進化というか、別分岐みたいな感じでしょうか。ニコニコ動画版もアルバム版もそれぞれの良さがあっていいなあと思います。聞き比べてほしいですね。
──歌う曲を選ぶ基準はありますか?
ウォルピス 結局自分が歌いたいかどうかですが、流行には乗らないっていうのは決めているので、少し前の曲をストックしておいて歌うようにしています。4、5年前の曲を歌うこともあります。あとは、友達が歌っているのを聴いていいなと思った曲だったり、仲のいい人から勧められたりもしますね。
──その友達というのは、やはり歌い手さんですか?
ウォルピス 歌い手さんが多いですね。歌い手の友人達には本当に恵まれています。みんな歌に関してすごくストイックなんですよ。みんなで会えば歌や発声について朝まで語りあったりして、そういう人たちを見ていると僕も負けてられないぞって思います。
──歌い手同士、お互いに影響を受けたりしますか?
ウォルピス たくさんあります。お互いに、動画や歌について思ったことを言いあえるんですよね。有名になればなるほどハッキリ言い合える人は少なくなるからこそ、「ここが気に入らない」みたいなことをズバっと言ってくれる人は本当に大切にしていきたいなと思います。これからも切磋琢磨しながら、でも俺のほうが絶対高い声がでるからな! って(笑)。
──やっぱり目指すは高音なんですね(笑)。
ライブは高音を出せるようになった時に
──ウォルピスさん自身にとって理想的な歌い方や曲はありますか?ウォルピス 割とアップテンポな曲をロングトーンでのびやかに歌いたい。テクニカルな歌よりもストレートな歌い方ができる曲が好きですね。
──なるほど。逆にしっとりした曲をあまり歌われない印象もあるのですが、バラードやR&Bに挑戦しようと思ったりはしませんでしたか?
ウォルピス バラードは歌ってほしいと言われたりもするので積極的に歌ってみたいと思っています。R&Bはまだ挑戦したことないですが、以前はラップにも挑戦しましたし、演歌もやりたいですね。
──幅広くいろいろなジャンルに挑戦していきたいと。
ウォルピス そうです。自分らしさも残しつつ、なんでも歌えるなって思われたい。
──ウォルピスさんの高音を生で聞きたいファンも多いと思うのですが、ライブはされないんですよね。
ウォルピス 実は、高音で歌うのが本当にしんどいんです。高音系男子ならライブで歌えるんですけれど、高音出したい系男子だと、コンディションが最高でも2、3曲歌いきれるかどうかもあやしいぐらいです。失礼なものを見せるわけにはいかないので、ライブはみんなを満足させられるようになった時にやりたいなと思っています。
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