機材も被写体も似ている、それなのに「何か」が違う……3名の写真家によるトークイベントから、その「何か」を見つけるヒントを得られました。 2015年12月19日、東京・京橋の72Gallery White Cubeにて、青山裕企さん、時永大吾さん、飯田えりかさんがトークイベントを行いました。本イベントは時永大吾さんの写真展『-G-』、飯田えりかさんの写真展『ユメノアオノ』の期間中に開催。ふたりは青山裕企さんのアシスタントを経て独立しており、師弟対談とも呼べるひと時となりました。 仕事では雑誌、書籍、ウェブ、ライブなど、さまざまなフィールドでシャッターを切る3名。一方で作品制作においては、「女の子」を被写体として撮り続けてきた共通点があります。写真は「何」が写るのだろう?
写真は「視点」が写る。
写真は「光」が写る。
写真は「コミュニケーション」が写る。
写真は「生きざま」が写る。
写真は「距離感」が写る。 ── 青山裕企『僕の妹は、写真家になりたい。』(雷鳥社)p,30
文:松本塩梅
3人はどのような「女の子」を撮ってきたのか?
女子高校生を題材にした作品集で2013年には映画化もされた『スクールガール・コンプレックス』をはじめ、吉高由里子、指原莉乃、生駒里奈など女優、アイドルの写真集を手掛けてきた青山裕企さん。『ガールズフォトの撮り方』といった教則本でも構図の取り方や手法を積極的に伝え、自身が代表を務めるユカイハンズを含め、後身の育成にも意欲的です。 時永大吾さんは雑誌やWebでのポートレート撮影を中心に活動。今回の『-G-』が初の個展となりました。モチーフに選んだのは「かつては若者の象徴でもあった」と時永大吾さんが考えるギャルたち。存在や言葉も曖昧なまま、街に浮遊するかのような彼女たちに興味を抱き、今年の初めより撮影した作品を並べました。 “少女写真家”を掲げる飯田えりかさんは、アイドルのいずこねこ(現ミズタマリ)を追う一連の作品群をはじめ、講談社主催のアイドルオーディション「ミスiD2016」オフショットカメラマン、女優の武田玲奈を表紙に迎えた写真集『0410』が話題となったショートカット推進委員会の公認カメラマンとしても活動しています。女子高校生、ギャル、少女……スタイルもスタンスも異なる女の子を前に、彼らのファインダーには何が写り、そして何を写してきたのでしょうか。
「被写体への負い目がなければ、人物を撮る必要があるのか?」
青山裕企さんは、3名の共通点を「撮りたい対象に負い目があること」と指摘します。青山裕企さん自身は著書でも触れているように、人見知りで思春期に話すことさえままならなかった女子高生たちへの負い目がありました。同様に時永大吾さんはギャルへの、飯田えりかさんは少女への負い目があり、ギャル/少女という客観的・表面的なイメージではなく、あくまで「自分の心に居る、リアルでは捉えきれなかったギャル/少女」を撮ろうとしているのが「写真家としての視点」なのではないかと言います。
さらに青山裕企さんは「対象に負い目があるかどうかは、人物を撮る基本ではないかとも思っています。記憶を撮っているのか、記録を撮っているのかの違いでもあります」と言及。負い目がある対象への撮影は記憶をベースにしたものであり、その体験の個人差によって撮られる写真も変化するのでしょう。 ギャルを撮り続けた時永大吾さんは制作の原点について、中学生時代にいつも集団でいるギャルたちに「興味はあるけれど近づきがたい感じ」を抱いていたと振り返ります。 やがて成人を迎え、地元の同窓会で当時は話せなかった彼女たちと会話をすると「各々が目指しているものがあり、仲間意識と強い志を持っている人たち」と思い始めたそう。その時に抱いた気持ちをベースに、2015年の東京にいるギャルたちの心理と信条を確かめたくなり、撮影に踏み出しました。 飯田えりかさんは作品制作について、今回の個展『ユメノアオノ』を含め、「少女に宿る美しさと純潔、一定の期間にしか存在しないものを撮っていきたい」という共通のテーマがあると話します。
そこには高校3年間を通じた「女の子が女の子を好きになるという、憧れとそれ以上の劣等感」を抱えるほどの少女との出会いと日々がありました。その少女が持つ「きれいと思わないものは排除する美学」に飯田えりかさんは価値観を強く揺さぶられたと言います。 年齢を重ね、その価値観とも向き合えるようになると、現在は「被写体が年齢に関係なく持っている少女性を抽出して撮る」という手法まで意識的に確立しながら作品制作を続けています。
それぞれが抱く負い目は違えども、その感情が作品に「視点」となって宿っているのです。「写真の定義はそれぞれだけれど、僕は基本的にフィクションで、真実を写そうとは思っていない。リアルな自分と過去の自分とが対峙する中での作品制作は、過去の自分をどうにかしたいと思ってもどうにもならない、絶対クリアできないゲームをやっているみたいなもの。だから、ずっと撮り続けることができる」と青山裕企さん。
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