連載 | #2 カルピス ゲンエキ[現役]インタビュー

プロレスラー・丸藤正道のゲンエキインタビュー「プロレスラーは超人であれ」

プロとしてやっていく確信はない。でも自信はある

━━プロレスの世界にはいろんな団体や選手がいると思うのですが、そのなかで「自分がこの世界でやっていける」と思った時はどんな瞬間ですか?

丸藤 確信はないけれども、プロと名がつくものになったからには自信を持ってやらなければならないし、自信すら持てないのであればやらないほうがマシだと思っています。

自分は過剰と言われるかもしれないけれど、「常にやっていける」という自信を持ちながら働いています。それは練習生の時からですね。

だから、「これをきっかけに確信した」といったものはないです。もともとあった自信を積み重ねていっただけです。

その自信も持つのは人の自由ですし、それが現実になるかは別として、自信を持っていないと向上心につながらないと思います。

━━その自信を支えているものは練習なのでしょうか?

丸藤 そうですね。自信を積み重ねるための日々の練習だと思いますし、ある種、練習は自分たちにとっては酸素を吸っているのと同じ、当たり前すぎるけどないと生きていけないものです。

だから練習は、一般的にサラリーマンの方が電車で通勤して、働いて、帰宅することと一緒なのではないかと思います。

ただ、世間で言われるサラリーマンの方たちに比べて違うと思うところが、試合を見ていると辛そうと思われるかもしれないですが、試合がない日は練習を2〜3時間したらあとは自由なんです。

そういった意味では気持ち良い形で働かせてもらっていますし、天職なんだと思います。

さまざまな立場から見えるもの

━━昨年8月、赤坂に「不知火カレーシティーズ・バー」というカレー屋を丸藤さんはオープンさせたと思うのですが、それも自由な時間があるからこそできることなのですか?


丸藤 それは少し違っていて、レスラーがプロレス以外に何ができるのか、セカンドキャリア的はどうするのか、プロレスを別の角度から広げていけないのかといった視点で取り組んでいます。

僕だって、いつまでもプロレスができるわけではなく、突然できなくなるかもしれない。かといってプロレスをおろそかにせずに模索するには……と考えていたところ、いろんな人との出会い、その上で生まれたものになります。

逆に今、このノアという会社のトップをやりながら、別のことをやるからこそ意味があるのかもしれない。中堅や若手選手であれば、プロレスを横に置いて、別のことに走っちゃうかもしれないですし。

でも、自分の場合はプロレスもしっかりやらねばならないので、そうした状況で別のことをやるからこそ意味があると考えています。

ただ、やっぱり難しいですね! 別のことをやるのは難しいです。そして楽しいです。僕の場合はカレー屋さんで従業員を雇って経営していて、いろんな管理面でも1人じゃできない。

かといって自由に……ということもできないですし。でも、全てがプラスに動いているわけではないですが、楽しいです。

━━先ほど「プロレスを違う角度から広めていく」とお話されていましたが、プロレスに対してそういう風に思うようになったのはいつ頃からですか?

丸藤 最初はただ単にプロレスラーになりたくて業界に入ったのですが、ノアという会社で副社長として働くことになった時に、いち個人だけではなく、会社のことや他のレスラーのことも考える必要が出てきました。

あとは引退していった先輩方々を見てきて、何かプロレス以外のものも視野に入れておかないと、若い時と違い、勢いと気持ちだけではやっていけないと感じるようになりました。

それは家族を持っているということも影響しています。

━━タイミング的には結婚をされたり副社長になられた頃でしょうか?

丸藤 そうですね。いつまでも元気だとは思っていますが、怪我をした時を考えると……。一番良いのはプロレスだけで、60、70歳までやれるといいんですが。

ただ、プロレスを広げようにも、良くも悪くもプロレスの敷居が下がっているので悩ましいところはあります。

プロレスラーよ、超人であれ!

良い部分で言えば、プロレスがより身近なものになり、頑張ればプロレスラーになれる時代になっています。

昔のプロレスラーというとバケモノみたいな人ばっかりだったので……。

悪いところでいえば、団体の数やプロレスラーがめちゃくちゃ増えて、その中でしっかりとした練習をし、プロレスラーとして必要最低限のものを身につけているかと言うと、全員が全員そうではありません。

でも、リングで戦ってしまえば、プロレスを知らない人にとっては一括りに「プロレスラー」になってしまうのは、一概に喜べないところです。

━━もう一度「プロレスとはこうあるべき」という規範のようなものをつくっていきたいと思われているということでしょうか?

丸藤 そうですね。自分は「プロレスラーは超人でなくてはならない」と思っています。普通の人ではなれない、手の届かない、思わず見てみたくなるような存在でなければならないと思っています。

時代の流れ……というものがあるのであれば、難しいと思いますが……。

━━時代が進むにつれ、多様化し、娯楽が増えていく中で敷居を下げざるを得なかった部分もあると思います。

丸藤 プロレスというのは、レスリングとは違いますし、小中高の部活動としてあるものでもないです。かつてはサッカーや野球とは別に、敷居の高さはあったと思います。

一昔前までは、他のプロスポーツ選手や芸能人なども含めて憧れを抱いてもらっていたのがプロレスなので、もう一度、プロレスをその位置に戻したいですね。

どんなことをしていても、人に喜んでもらえる仕事をしたい

━━セカンドキャリアについても考えていらっしゃるとのことで、いままでやってきたプロレスという仕事とセカンドキャリアとで、共通して人に伝えたいことはありますか?

丸藤 やはり人を喜ばせることかなと思います。カレーに関しても自分が美味しいと思ったものを人に食べてほしいという思いから始めたことなので、人を喜ばせる仕事が好きなのかもしれないですね。

そもそも自分も小さい頃にプロレスから夢をもらい、楽しんで、喜んで……その結果、その道に進むことになったので、自分も同じように伝えていかなければと思っています。

━━最後に、いち社会人として成し遂げたいことはございますか?

丸藤 プロレスあっての今の自分なので、プロレスをより広めていきたいし、これからプロレスラーになる子たちがもっと夢を持てるようにしていきたいです。

今のプロレスラーというのは、プロレスが好きというだけで続けている人が多いと思うのですが、変な話、「プロレスラーになったらこんなすごいことができる」「こんな方面に出ていける」といった、プロレス以外の部分がモチベーションになるようにしたいです。

昔のプロレスラーはそういった部分を見せることができていたのではないかと思います。

━━そうした想いと現実とのギャップを埋めていく際に、どういったことが必要だと考えていますか?

丸藤 まずはプロレスラーが、よりプロ意識を高く持つことも大切ですし、先ほど言ったようにプロレスラーは超人であるべきですね。

また、時代の流れに合わせていいのか、合わせないほうがいいのか。例えば、今の時代に合わせるのであれば、激しいだけのプロレスをやっているだけでは世間の目は向かない。

だから、より多方面に露出したり、生き様や格好、プロレスラーというものをストーリーとして見せていくことで、プロレスがよりポップなものになると思います。

近いようで遠い存在。この距離感を見つけた時にもっと注目されると考えています。
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丸藤正道

プロレスラー

1979年9月26日生まれ。埼玉県鴻巣市出身。
埼玉栄高校在学中に全日本プロレスの道場で練習を行ない、卒業後に入門。わずか5ヶ月という速さで1998年8月にプロデビュー。デビュー直後から素質が開花し、天才と称される。2000年8月、ノアに移籍。2006年9月、秋山準を破りGHCヘビー級王座の最年少王者となり、ノア史上初のGHC全タイトルを制覇。プロレス大賞・年間最高試合賞を2006年、2008年に授賞。2009年7月6日にノア取締役副社長に就任。2010年にIWGPジュニア・ヘビー級王座を獲得し、プロレス界初となるノア、全日本プロレス、新日本プロレスの3大ジュニア王座を制覇した。2014年7月に新日本プロレスの永田裕志に流出していたGHCヘビー級王座を奪回し、ノア旗揚げ15周年を牽引している。
身長:176cm 体重:90kg 得意技は不知火、虎王、タイガーフロウジョン、他
丸藤選手の試合情報はノア公式HPへwww.noah.co.jp

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カルピス ゲンエキ[現役]インタビュー

全9回まで展開したカルピスの「ゲンエキインタビュー」では、様々なジャンルで活躍する現役の方々をゲストに、ロングインタビューを敢行。 声優の内田真礼さん、諏訪部順一さん、水瀬いのりさん、Pileさん、アニソンを中心に活動する歌手のLiSAさん、プロ棋士の橋本崇載さん、ラテアーティストの松野浩平さん、サイクルフィギュアの佐藤凪沙さん、プロレスラーの丸藤正道さんにご出演いただきました。 それぞれの来歴や仕事への意識、そして他ではなかなか聞けなかったら青春や初恋についてのぶっちゃけトークまで、カルピスを飲みながら赤裸々にお話いただきました!

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