VTuber事務所を運営する株式会社Million Production(以下、ミリプロ)が、総額約1.8億円の資金調達を実施しました。
今回の資金調達には、株式会社MIXIや株式会社バンダイナムコエンターテインメント、個人投資家などが参加しています(外部リンク)。
ミリプロは2023年4月、当時は個人勢VTuberであった甘狼このみさんを設立メンバー・0期生・クリエイターとして迎え設立された新興のVTuberプロダクション。2024年4月に法人化を果たし、その後1年あまりで大型資金調達に至るまで急成長しました。
現在、活動するVTuberは少なく見積もっても6万人以上(外部リンク)。群雄割拠の業界内で、ミリプロはなぜ短期間で存在感を示しはじめたのか、そして資金調達を迎えた今、ミリプロが見据える未来とは──
同社代表の島井尚輝さんへの独占インタビューを通じて、資金調達の背景や今後のミリプロが求めるVTuber像について、話を聞きました。
甘狼このみら在籍、ミリプロ急成長の鍵は「ショート動画」にあり
──まずは、約1.8億円の資金調達、おめでとうございます。発表した今、率直な心境はいかがでしょうか?
島井尚輝 ありがとうございます。正直なところ、「ようやくスタートラインに立てた」という気持ちと、「ここまで来られたんだな」という実感が半々です。
これまで試行錯誤の連続ではありましたが、タレントやスタッフ、そしてファンの皆さんの支えがあったからこそ、今日まで歩んでこられました。
今回の資金調達は私たちの取り組みに対して、一定の評価をいただいた結果だと受け止めています。
──2023年4月設立のミリプロが短期間で急速に成長した背景には、ショート動画戦略が欠かせなかったと考えます。当初はどのような狙いで取り組まれたのでしょうか?
島井尚輝 ミリプロはVTuber事務所の中でも後発の立ち上げにあたります。そのため、既存の事務所と同じ戦略では勝ち目がないことは明らかでした。そこで、注目したのがショート動画だったんです。
当時、VTuber業界ではショート動画がまだ主流ではなく、明確な成功パターンや定番フォーマットも確立されていない状況でした。しかし、TikTokをはじめ縦型動画の普及を見れば、ショート動画の重要性は明白でした。
特に、チャンネル登録者数が少なくても、クオリティの高いコンテンツであれば一気に拡散されるというYouTube Shortsの傾向は、後発組の我々にとって大きなチャンスだと捉えていました。
ショート動画が、今後のVTuberにとって新たな登竜門になると確信し、いち早く取り組みはじめたんです。
──ミリプロの視聴者層の年齢分布についてはどのような傾向がありますか?
島井尚輝 一般的なVTuber事務所に比べると、視聴者の年齢層は低い傾向にあります。
実際には親御さんのアカウントから視聴されているケースもあるので、正確な年齢層のデータを取得するのは難しいのですが、コメント欄やSNSの反応を見る限り、若年層からの支持が強いことは間違いありません。
──なぜ、若年層の支持を集めることができたとお考えですか?
島井尚輝 正直なところ、当初から狙っていたわけではなく、結果的にそうなった“棚ぼた”的な部分が大きいと感じています。
というのも、ショート動画を熱心に視聴するのが比較的若い世代だったこと、そして弊社のコンテンツ内容が偶然にもその層に強く刺さるものだったという2点が重なったのだろうと分析しています。
──例えば、お題を選択してイラストを描くといったチャレンジ系コンテンツですよね。イラストレーターの甘狼このみさんをはじめ個性的なメンバーが在籍していますが、ミリプロは「“箱”ではなく“個”の集合」という逆転の発想を取ってきたと今回の発表で言及されていました。具体的に、どのような運営方針を指すのでしょうか?
島井尚輝 VTuber業界におけるグループ運営の戦略には、大きく2つのパターンがあると考えています。
ひとつは、無名のメンバー同士でグループを結成し、協力して認知を高めていく方式。もうひとつは、すでにある程度の知名度を持つ個人が集まりグループを形成する方式です。
どちらにも成功の可能性はありますが、特に女性VTuberグループに関しては、完全に無名の状態からスタートして大きく成功する例は非常に稀だというのが私の見解です。対して、個々がそれぞれの強みや影響力を持ったうえでグループを構成する形は、成功率が高いと分析しています。
VTuber黎明期であれば、「グループで一斉にデビューする」というアプローチも新鮮で強く刺さったかもしれません。でも、すでに無数のVTuberが存在している現在においては、どんなに新しいコンセプトを打ち出しても、視聴者にとっては「見たことがある」印象を与えてしまうリスクが高い。
そのため、ミリプロでは「箱」を軸に一気に認知を広げていく戦略ではなく、まずはタレント一人ひとりの魅力や実力をしっかりとプロデュースし、それぞれが独自の武器で成長していくスタイルを採用しました。
実際、甘狼このみ、音ノ乃のの、あくび・でもんすぺーどといった初期メンバーは、それぞれ異なる方向性と表現手法で活動の幅を広げていきました。そして、音ノ瀬らこ、ゆらぎゆらの加入を機に、ようやく「ミリプロ」という“箱”としてのブランドを視聴者に意識してもらうフェーズに入りました。
まずは「個人で強くなること」、そして「その強さを掛け合わせて箱に昇華していくこと」。この順番が、今の時代における正しい戦略であるという確信をもって進めてきました。

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