設立2年で1.8億円調達──VTuber事務所「ミリプロ」が後発でも成長できた理由

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アシュトン

1.8億円の使い道──新興VTuber事務所 ミリプロのビジネス戦略

──事務所の設立から2年あまり、法人化からわずか1年ほどでの大型増資と、かなり早いスピードで事業規模をスケールされている印象です。このスピード感は当初から計画されていたものなのでしょうか?

島井尚輝 正直、立ち上げ当初からここまで多くの人に知ってもらえるとは思っていませんでした。

ただ、ミリプロの成長ポテンシャルについては、確かな手ごたえを感じていましたし、「VTuber事務所といえば?」という問いに対して、ミリプロという名前が自然に挙がるような存在になりたいという思いは、チーム全員の共通認識でした。

地道な積み上げではありますが、その理想に少し近づけている実感があります。

VTuber事務所ミリプロのロゴ

──多くのVTuber事務所が乱立する時代ですが、ミリプロが他社と比べて特徴的な点はどこだと考えますか?

島井尚輝 “ショート動画を起点に、若年層をターゲットとしていること”がミリプロの特徴であり、他の事務所との大きな違いだと思います。

まずは、短尺のショート動画でタレントを知っていただき、そこから「歌ってみた」や長尺の動画でより深く魅力に触れてもらう。そして、最終的にはグッズやイベントといったリアルな体験へとステップアップしていただく。

従来の“配信を軸に据えたモデル”とは異なり、動画を起点としたファン形成の仕組みを持っている点が、ミリプロ独自の戦略です。

──中でもグッズへの注力について、資金調達の目的としても「若年層に向けた実店舗展開および物販基盤の構築」がありました。在庫リスクを抱えてまで、自社物販を広げたい理由はなんでしょう?

島井尚輝 これは、ミリプロの視聴者層や購買行動の特性と大きく関係しています。ミリプロのファン層は、オンラインでの予約販売よりも“実店舗での販売”の方が購買に繋がりやすいんです。

ミリプロのファン層は若年層が多く、クレジットカードを持っていない方も多いからです。また、グッズ購入を保護者に知られたくないというニーズも少なくない。

実店舗販売であれば、現金で支払えることに加えて、オンラインのように配送先情報を入力する必要もないため、プライバシーの観点からもハードルが下がります。

そうした背景から、受注生産や外部委託による在庫ゼロのモデルではなく、あえてミリプロ側で在庫を抱えたうえで実店舗も含めて商品展開を行うという判断になりました。

ユーザーの“欲しいタイミング”や“購入体験の心地よさ”を重視した結果です。

──もう一つ、資金調達の目的に掲げられていた「新しい価値創造に向けた事業提携の推進」ですが、具体的なIP展開やメディアミックス戦略についても考えられていますか?

島井尚輝 そうですね。今後は映像作品や絵本、ゲームなどを通じてタレント発のIPを多面的に展開していきたいと考えています。

すでに、甘狼このみに関しては書籍の販売実績もありますが、これはあくまで一例で、今後は他のタレントにもそれぞれの個性や強みを活かしたIP展開を進めていく予定です。

『完全セルフVTuberが教える! 一瞬で“かわいい”が作れるイラスト術』書影/画像はAmazonより引用

単なるVTuber活動に収まらず、より広いメディア領域へと展開していくことで、それぞれのタレントの魅力をより多くの人に届けていきたいです。

──今回の資金調達について所属タレントにはどのように伝えましたか?

島井尚輝 まずは率直に、「みんなが頑張ってくれたから、次のステージに進めるよ」と伝えました。

今回の資金調達は、VTuber業界全体で見ても珍しい事例で、それ自体がとても意義のあることだ、とも。

一方で、それによって今後はさらに多くの注目が集まるから、発信の一つひとつについてこれまで以上に慎重になるべきだということもしっかりと共有しました。

チャンスと責任がセットであることを理解してもらいながら、次のステップに進んでいけるよう、チームとして意識を揃えています。

VTuber業界は“再編”のフェーズに──ミリプロが思い描く未来

──現在のVTuber業界を島井さんはどのようにご覧になってるのでしょうか?

島井尚輝 単に「飽和している」というよりも「再編のフェーズ」に入っていると捉えています。

コロナ禍をきっかけに急成長したブームが一段落し、今は本当にいいコンテンツを提供できる一部のVTuberだけがファンに選ばれ、支持され続けていく時期に入ってきたという印象です。

逆に言えば、しっかりと価値のあるコンテンツをつくれるVTuberにとっては、今もまだ十分にチャンスがある。市場全体としては成長に向かっていて、個の実力がより問われる、健全な競争環境になってきたんじゃないかなと思います。

──その中で、ミリプロとしては今後の業界においてどのようなポジションを確立していきたいとお考えでしょうか?

島井尚輝 ミリプロの今後の成長戦略については、大きく3つの柱を掲げています。

1つ目は、「3D化を通じたライブ事業の拡充」。タレントの3Dモデルを活用したライブイベントやリアルタイムパフォーマンスを強化し、ファンとの接点をさらに広げていきます。

2つ目は、「IPビジネスとしての物販・出版の強化」。書籍やグッズという形で、タレント発のコンテンツを継続的に届けていくことで、VTuberという枠を超えたIP展開を推進していきます。

最後に「海外展開」です。すでにグローバルで注目を集めているVTuber市場において、独自の文化や感性を武器に新たなファン層の獲得を目指していきます。

これらを今後3年以内に安定的に軌道に乗せることで、「後発だけれど地に足をつけている」と評価され、ファンの皆さんにも安心して推していただけるプロダクションを目指しています。

──そうした成長戦略の中で、今後のミリプロが求めるタレント像についても教えてください。

島井尚輝 ミリプロが求めているタレントは、“得意なことを突き詰められる人”です。

例えば、歌・イラスト・ゲーム・トークといった分野でただスキルがあるというだけではなく、それを軸に自分なりの表現や世界観を深掘りできることを大切にしています。

また、単にSNS上の流行に乗るだけではなく、自ら"小さな文化"やムーブメントを生み出すような力を持った方にぜひ来ていただきたいと思っています。

──今後求めるスタッフやクリエイターについてはいかがでしょうか?

島井尚輝 「タレントを一緒に成長させたい」と本気で思ってくれる方ですね。

単なる“作業”としてではなく、“一緒に成長していく感覚”や“共に魅力的なコンテンツをつくりあげていく気持ち”をもって向き合ってくださる方と、ぜひご一緒したいです。

タレントもクリエイターも、お互いが刺激し合いながらより高みに進んでいける、そんな関係性を築いていきたいです。

──ありがとうございます。最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

島井尚輝 VTuber業界は、まだまだ“個の可能性”が広がっていく世界です。

私たちは、タレントを信じ、支えてくれる仲間を信じ、そして何よりファンとつくる未来を信じて、これからも走り続けます。

この旅路に、ぜひあなたも加わってください。

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