アニメづくりを通して一番やりたいこと
──山下監督といえば、近年は数々の話題になったアニメでOP映像を手がけられていました。長編となるとまた違った苦労があったかと思いますがいかがでしょうか?
山下清悟 OPなどの短尺映像はいつでもやる構えなのですが、正直に言うと原作モノの長編はすごく苦手なんです。自分が一番やりたいことはキャラクターと物語をつくることなので、それができない原作モノの長編はお断りするようにしていました。
原作モノだとしても、OPなどの短尺のアニメーションは、あの尺の中でのシナリオを自分で考えるようなものなので、自分のやり方で貢献することができます。アニメづくりに関わる全てのことに興味があるのはもちろんですが、やはり自分にとっての一番はキャラクターと物語をつくることなんです。
劇中の人気プロゲーマーグループ・ブラックオニキス。左から、駒沢雷(CV:内田雄馬さん)、帝アキラ(CV:入野自由さん)、駒沢乃依(CV:松岡禎丞さん)
彩葉の友人たち。左から綾紬芦花(CV:青山吉能さん)、諌山真実(CV:小原好美さん)
──その意識は昔から変わらないものなのでしょうか?
山下清悟 アニメーターになりたての10代の頃は、「とにかく作画がしたい」と思っていました。でも、20代になり演出なども手がけるようになってから、だんだん意識が変わっていきました。今は、ただ自分の考えていることを表現したいというだけでなく、原作モノの場合はファンの方々が期待しているものを、いかに上手く見せられるかを重視しています。
「顔がいい人間の言うことは正しそうに見える」というのは人間の脆弱性の一つですが、無視できない実態です。アニメを通じて伝えたいことがあったとしても、絵がキッチリしていなくては思いを届けることはできません。だから、自分の言葉を信じてもらうために、絵を綺麗にする。撮影もやって色も決めて、作画もやる──僕があらゆるところにこだわるのは、言葉を信じてもらうための手段という考え方です。
はじめての長編アニメ制作になった今回も、とにかく絵を綺麗にすることにこだわっていて、もうかなり丁寧にチェックを入れました。他の作品を見ていても、途中で力尽きたのか絵が崩れてしまうシーンがあることが気になっていたので、そうしたことがないように細部まで力を入れています。絵が好きなのではなく、ノイズなく伝えるためにです。
全編にわたって安定した“絵”は『超かぐや姫!』の特徴の一つ
──全体の構成としては、音楽がテーマの一つとなっている作品にもかかわらず、ライブシーンを最初に配置しないのは気になるポイントでした。冒頭の“引き”として持ってくるという手段もあったのではないかと。
山下清悟 正確には、はじまってから24分後にライブシーンがあるんですが、もちろん最初に持ってくることも考えたんですよ。ただ、ストーリー的にも構成的にもやっぱりできないという結論に至りました。
この作品はかぐやと彩葉の物語なので、まずそこを見せずにヤチヨのライブシーンを持ってきてしまうと別の話になっちゃうんですよね。音楽がテーマの一つになっている作品なのは間違いないですが、感動の最大値は別の部分にある。
すごく難しい判断でしたが、正直ここはどうしようもなかったところでもあります。ですが特に配信作品においては開始から5分以内にライブシーンか、それに相当する見せ場があった方がいいのも間違いないので、そこは明確にこの作品の弱点と言えるかもしれません。
『超かぐや姫!』のライブシーン
──すでにご自身の中でも分析されているんですね。
山下清悟 冒頭のツクヨミや世界観の紹介はまだ興味を持って見てもらえると思いますが、その後の日常パートは劇的に何かが起きるわけでもないので、テンションを持続して見てもらうのが難しい。そこを耐えて見てもらうために、事前の期待や口コミが必要だったんです。
盤外戦術の部分で知名度を上げて、この後にあのキャラクターや曲が出てくるんだって期待を持ってもらった状態で、やっと耐えてもらえるのが24分という時間。この工夫ができなかったら無理な構成ですし、いかに興味を持続してもらうかは原作の無いオリジナルなら絶対に気にしなくてはいけないポイントです。
『超かぐや姫!』に登場する仮想空間「ツクヨミ」
山下清悟 ただ最後まで見てもらえれば、なんでこういうことになっていたかは分かってもらえると思っています……と、論理的に話しているような雰囲気を出していますが、今でも毎日「あと1分削れたんじゃないか?」と考えてしまいます。
本来1クールで描く内容 2時間半はギリギリの尺
──2時間半という全体の尺も初のオリジナル作品としてはかなりチャレンジだったのではないでしょうか?
山下清悟 方々から「とにかく100分以内に」とか「やばいぞ」とか言われましたけど、短くできませんでした。個人的には「そもそもまだ短くないか?」って感覚なんですよね。描きたかった物語の総量に対して尺は足りていないですし、駆け足になってしまっているなと思うところもあります。
そもそも描こうとしていた物語が長すぎたんでしょうね、制作に入る前の段階でそこに気づけなかったのは未熟だったと思います。本来1クールで描くくらいの内容でしたから、4時間になるならまだしもギリギリあり得るサイズ感の2時間半にできたのは、むしろうまく収めることができたと言えるかもしれません(笑)。
1クールを2時間半に凝縮したという『超かぐや姫!』
“見せ場”を凝縮したようなシーンが続く
──エンドロールを見ると原画・第二原画としてものすごく多くの方がクレジットされています。あれだけハイクオリティな作画が最初から最後まで続くので納得できることではありますが、これはやはりアニメづくりとしては珍しいことなのでしょうか?
山下清悟 なぜあれだけのスタッフがクレジットされているかというと、大量に二原撒き(※)をしているからです。二原撒きは今までのアニメづくりのやり方からするとあまりよくないやり方なのですが、今回はどうしても従来のつくり方では難しいことがわかっていたので、なぜ二原撒きがうまくいかないかを分析し、その問題点をクリアした上で実践することにしました。
※二原撒き:第一原画が描いた動きや線を清書するような作業である第二原画を大量に発注すること。問題点については後述。
そもそもどこにそれだけのスタッフが必要だったかというと、主に中盤のKASSENシーンです。あそこは全部で330カットくらいあるのですが、それを全部描ける数の上手いアニメーターを確保するのは現実的にかなり難しいことでした。
なので、最初から大量に第二原画を入れる二原撒きで対応することになったんです。なぜ第二原画を大量に入れるとうまくいかないのか? それは、二原作業者に一原を描いた人間の意図が伝わりきらず、「上りに対しての本質的な責任を誰も持っていない状態」になってしまいがちだからです。
──その問題点をどのように解決されたのでしょう?
山下清悟 弊社スタジオクロマトが得意としているプリヴィズシステム(※)を活用したんです。これは原画の元になる動きをCGモデルでつくることで、カットごとにキャラや空間がブレることをなくす仕組みなのですが、いわば第一原画に当たる作業をより統一感のあるCGで補ったという形です。
※プリヴィズ:プリヴィジュアライゼーションの略。CGの仮素材を用いて映像を制作して、スタッフ間でイメージや動きなどを共有する。『シン・エヴァンゲリオン劇場版』などでも用いられてた手法。
ただし、うまくいくシステムをつくり上げたみたいに話していますが、結局思い知らされたのは作監、二原、動画をはじめ、素晴らしいアニメーターがいないとダメだということです。プリヴィズである程度はまかなえるとしても、第一原画がいらないということにはなりませんし、上手い人たちの原画を見て「これには敵わない」と痛感することもありました。
やはり手描きアニメである以上、アニメーターの力に頼るしかないですし、監督の無力さを思い知らされる部分もありましたね。
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作品情報
超かぐや姫!
- キャスト
- かぐや:夏吉ゆうこ
- 酒寄彩葉:永瀬アンナ
- 月見ヤチヨ:早見沙織
- 帝アキラ:入野自由
- 駒沢雷:内田雄馬
- 駒沢乃依:松岡禎丞
- 綾紬芦花:青山吉能
- 諌山真実:小原好美
- FUSHI:釘宮理恵
- 忠犬オタ公:ファイルーズあい
- 乙事照琴:花江夏樹
- 監督
- 山下清悟
- 脚本
- 夏生さえり/山下清悟
- ツクヨミキャラクターデザイン
- へちま
- 現実キャラクターデザイン
- 永江彰浩
- ライブ演出
- 中山直哉
- 美術監督
- 宍戸太一
- 色彩設計
- 広瀬いづみ
- ツクヨミコンセプトデザイン
- 東みずたまり/フジモトゴールド(ゴキンジョ)
- 現実コンセプトデザイン
- 刈谷仁美
- CG監督
- 町田政彌(スティミュラスイメージ)
- CG背景
- 草間徹也(キューンプラント)
- 編集
- 木南涼太
- 撮影監督
- 千葉大輔(Folium)
- 音楽
- コーニッシュ
- 音響監督
- 三好慶一郎
- 企画・プロデュース
- 山本幸治
- 製作
- コロリド・ツインエンジンパートナーズ
- アニメーション制作
- スタジオコロリド/スタジオクロマト
- メインテーマ
- 「Ex-Otogibanashi」月見ヤチヨ(cv.早見沙織)
- 劇中歌楽曲提供
- ryo (supercell)/yuigot/Aqu3ra/HoneyWorks/40mP/kz(livetune)
■あらすじ
夢と希望の集まる仮想空間<ツクヨミ>。
少女たちの出会い、そして別れのためのステージが、幕を開ける――
今より少しだけ先の未来。
都内の進学校に通う17歳の女子高生・酒寄彩葉は、バイトと学業の両立に励む超絶多忙な日々を送っていた。
日々の癒やしは、インターネット上の仮想空間<ツクヨミ>の管理人兼大人気ライバー(配信者)・月見ヤチヨの配信を見ること。
自分の分身を作り誰もが自由に創作活動を行う<ツクヨミ>で、彩葉はヤチヨの推し活をしつつ、バトルゲームで細々とお小遣い稼ぎをしていた。
そんなある日の帰り道、彩葉は七色に光り輝くゲーミング電柱を見つける。
中から出てきたのは、なんとも可愛らしい赤ちゃん。
放っておけず連れ帰ると、赤ちゃんはみるみるうちに大きくなり、彩葉と同い年ぐらいの女の子に。
「あなた、もしやかぐや姫なの?」
大きくなったかぐや姫はわがまま放題。
かぐやのお願い(わがまま)で彩葉は、ツクヨミでのライバー活動を手伝うことに。
彩葉がプロデューサーとして音楽を作り、かぐやがライバーとして歌うことで、二人は少しずつ打ち解けていく。
かぐやを月へと連れ戻す不吉な影が、すぐそこまで迫っているとも知らずに――
これは、まだ誰も見たことがない「かぐや姫」の物語。
関連リンク
山下清悟
アニメーター/アニメーション監督
1987年生まれ。アニメーター、監督、撮影。「NARUTO -ナルト- 疾風伝」や「呪術廻戦」のオープニング映像の活躍にて一躍有名となった。演出、作画、3D、撮影など様々なセクションを横断することによる総合的なシーン作りを特徴とし、視聴者の感情に訴えかけるキャラクターとストーリーの見せ方を目指す。2020年公開『ポケットモンスター ソード・シールド』のオリジナルアニメ「薄明の翼」で監督を務める。
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